医学検査
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原著
食事による影響が推測された一過性の血中カリウム値上昇についての検討
中川 裕美稲葉 美穂後藤 祐充笹舘 夏来三宅 敏恵小林 敦子鈴木 貴博下澤 達雄
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2021 年 70 巻 4 号 p. 654-660

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Abstract

血中カリウム(potassium; K)値は腎機能などによって変動するが,体内での変動とは別に,検体の溶血や採血時のクレンチングなどの条件によって偽高値を示すことがある。今回,これらに問題はなく一過性に高K血症をきたした症例を経験した。この症例ではカリウムを多く含む食事の影響が推測されたため,その検証を行ったので報告する。同意が得られたボランティア12名を対象に,患者から聞き取りを行った内容と同様の食事を摂取させ,食前,食後1時間,2時間で血清Kと尿K,尿クレアチニン(creatinine; CRE)を測定した。個人別の変動では,12名のうち2名において血清K値が食後1時間で0.7 mmol/L上昇,食後2時間の尿K/CREが60 mmol/g·CRE上昇した。また,血清K値は食前の値に対して食後1時間**,2時間*で有意に上昇し,尿K/CREは2時間**で有意に上昇した(*p < 0.05, **p < 0.01)。12名のうち5名で血清K値が0.3 mmol/L以上上昇しており,この群では食後1時間の尿Kの排泄量が少なく食後2時間で大きく増加していることより,K排泄が遷延していると考えられた。今回の検討で,健常者においても短時間で食後の血清K値の上昇を認めたことから,臨床像と乖離のある高K血症においては採血手技や検体の取り扱いの確認だけでなく,食事内容や食後の時間経過の聞き取りも重要であると考えられた。

Translated Abstract

Blood potassium (K) fluctuations not only depend on renal function, but also on other factors such as hemolysis. The aim of this research is to replicate and detect transient hyperkalemia without any of these problems, but with the suspected effect of a potassium-rich diet, in an actual clinical case that the researchers encountered. Twelve healthy volunteers with informed consent ingested a potassium-rich diet, which is similar to the diet of the patient of interest. Serum K, urinary K and urinary creatinine (CRE) levels before meal intake and 1 and 2 h after the meal intake were measured. In two of the 12 participants, the serum K level increased by 0.7 mmol/L at 1 h after the meal intake, and urinary K/CRE increased by 60 mmol/g·CRE 2 h after the meal intake. In all 12 participants, a significant increase in serum K level was observed 1 h (*p < 0.05) and 2 h (**p < 0.01) after the meal intake, and an increase in urinary K/CRE 2 h* after the meal intake. An increase in serum K level of more than 0.3 mmol/L was seen in seven of the 12 participants. In these participants, a higher urine K/CRE 2 h after the meal intake and a lower urinary K excretion level 1 h after the meal intake were observed, which suggest delayed K excretion. In this study, we observed an increase in serum K level following meal intake in healthy individuals. In hyperkalemic patients with discrepancies in clinical features, it is important to check the contents of their diet and time after consumption before analysis.

I  序

体内の電解質は,細胞の浸透圧の調節や筋肉細胞・神経細胞の働きに関わるなど,身体にとって重要な役割を果たしている。中でも血清Kは心筋の収縮に関わっており,異常低値,高値は不整脈を起こし,さらに心停止に至らしめる危険性はよく知られている1),2)。この血清K値は,腎機能の低下や薬剤・食品の摂取で変動をきたすことがあり,動向には配慮を要する3)。一方,このような体内の動態とは無関係に,Table 1に示すように検体の溶血や採血時・採血後の条件,細胞増多などにより偽高値を示すことがある4)~6)。これらのことから,正確な血清K値の報告には注意を要する。

Table 1  Factor of pseudo-high K
1. Due to the handling of blood collection procedures and specimen
  ① Blood from the arm of the infusion
  ② Clenching and hand grip during blood collection
  ③ The use of long-term (2 minutes or more) tourniquet
  ④ Hemolysis
  ⑤ Contamination of anticoagulant (EDTA-2K) in blood collection tube
  ⑥ Movement of K from blood cells by leaving whole blood after blood collection
2. Depends on the patient’s condition
  ① Cells increase, such as white blood cells and platelet-rich
  ② Weakening of the blood cell membrane

今回,腎機能の低下が認められない患者において採血手技に問題なく,一過性に高K血症をきたした症例を経験した。この症例では食事による影響が推測されたため,その検証を行ったので報告する。

なお本研究は,倉敷中央病院リバーサイド倫理委員会の承認(R2-1)を得て実施した。

II  対象症例の概要

70歳代男性。現病歴は高血圧,高脂血症で,アムロジピン5 mg/日,ロスバスタチン2.5 mg/日を服用中である。

血清K値が6.0 mmol/Lで,臨床像との乖離があることから主治医より再採血の指示があり,約2時間後に再採血を行うと4.8 mmol/Lであった。

血清K値が6.0 mmol/L,4.8 mmol/L時の血清色調はFigure 1に示すように両者とも肉眼的溶血は認められなかった。

Figure 1 Serum Color

Serum color at the time of the first (K level 6.0 mmol/L) and re-collection of blood (K level 4.8 mmol/L). No apparent hemolysis was observed in both samples.

臨床検査結果をTable 2に示す。溶血を示唆するASTやLD,Feなどの検査結果に影響は認められなかった7)。またALPやFeなどの結果から採血管のEDTA-2Kの混入は考えられなかった。

Table 2  Laboratory finding
Clinical test items Data Reference interval
TP 7.7 g/dL (6.6–8.1)
ALB 4.8 g/dL (4.1–5.1)
A/G 1.7 (1.32–2.23)
TB 0.6 mg/dL (0.4–1.5)
AST 24 U/L (13–30)
ALT 30 U/L (10–42)
LD 195 U/L (124–222)
ALP 319 U/L (106–322)
γGT 20 U/L (13–64)
ChE 409 U/L (240–486)
Fe 97 μg/dL (40–188)
UN 20 mg/dL (8.0–20.0)
CRE 1.02 mg/dL (0.65–1.07)
eGFR 55.9 mL/min/1.73 m2
Na 144 mmol/L (138–145)
K 6.0 mmol/L (3.6–4.8)
Cl 105 mmol/L (101–108)
Ca 9.3 mg/dL (8.8–10.1)
Glucose 110 mg/dL (70–109)
HbA1c 6.2% (4.6–6.2)
U-K/CRE 87 mmol/g·CRE
U-Na/K 0.42
FEK 14.9%
WBC 6.33 × 103/μL (3.3–8.3)
RBC 4.35 × 106/μL (4.35–5.55)
Hb 14.9 g/dL (13.7–16.8)
Ht 45.4% (40.7–50.1)
PLT 201 × 103/μL (160–360)
MCV 104.4 fL (88–104)
MCH 34.3 pg (27.5–33.2)
MCHC 32.8 g/dL (31.7–35.3)

腎機能に関する検査結果は血清CRE 1.02 mg/dL,eGFR 55.9 mL/min/1.73 m2,尿K/CRE 87 mmol/g·CRE,尿Na/K 0.42,K部分排泄率(FEK)14.9%で特に問題はなかった。細胞数は白血球6.33 × 103/μL,血小板201 × 103/μLと増多は認められなかった。症例の高K血症は腎機能低下や細胞増多による影響は考えられなかった8)

採血時の状況を採血者に確認したところ,クレンチングや強いハンドグリップは行っていなかった。そして太い正中皮静脈からの採血をしており,駆血から採血まで時間を要しておらず,問題なく採血を終了したということであった。また採血は検査室の採血室で行っており,点滴の影響や全血での長時間放置は全く考えられない状況であった。

血清K値の測定は,自動分析装置LABOSPECT 008α(株式会社 日立ハイテク)を用い,イオン選択電極法で行った。対象症例の6.0 mmol/Lと4.8 mmol/Lの2検体の同時再現性はCV 0.5%で,内部精度管理では日差再現性はCV 0.4%,当日のコントロールは目標値 ± 0.02 mmol/L以内であり,外部精度管理とも問題はなかった。また確認のため外部委託で,JCA-BM 8040型自動分析装置(日本電子株式会社)のイオン選択電極法で測定を行ったが,2装置間での血清K値の結果に乖離は認められなかった。

これらの結果から当検査室の測定値に問題はなかったと思われる。

一方で再採血の際に,患者から「テレビでみた高血圧によい食品を朝食でたくさん食べてきた。」との情報を聞き取ることができた。なお初回採血時は朝食後約1時間後であった。

III  目的

カリウムを多く含む食品の摂取による血清K値の変動について検討する。

IV  方法

実験手順

本研究に同意が得られた健常なボランティア12名(年齢:23歳~58歳,eGFR:76.1~119.9 mL/min/1.73 m2)に,患者聞き取り情報と同様のカリウムを多く含むFigure 2の食品を摂取させ,食前,食後1時間,2時間で血清K,血清CRE,尿K,尿CREを測定した。尿K値は尿CRE値で補正を行った。その実験手順をFigure 3に示す。なお負荷したFigure 2の食品のカリウム含有量は約2,000 mgであった。この含有量は,野菜ジュースはメーカー提示によるもの,その他の食品は日本食品成分表2015年度版を参考にした9)

Figure 2 Potassium-rich diet and potassium content

The similar menu as obtained from the patient of interest through interview. The total potassium content is about 2,000 mg. The potassium content of vegetable juice is as stated by the manufacturer. Other foods are from “STANDARD TABLES OF FOOD COMPOSITION IN JAPAN”.9)

Figure 3 Experimental protocol

Blood and urine collection before, 1 h, and 2 h after intaking potassium-rich diet.

1)食前,食後1時間,2時間で個人別の血清K値・尿K/CRE値の変動を調査した。また,食前,食後の血清K値・尿K/CRE値をそれぞれ対応のあるt検定にて有意差を求めた。

2)食後1時間で血清K値の上昇が0.3 mmol/L以上であった群と0.3 mmol/L未満であった群を,変動の大きい群と小さい群として2群に分け,血清K値・尿K/CRE値の変化の比較を行った。

V  結果

1. 個人別の変動と有意差

Figure 4に12名それぞれの血清と尿のK/CRE値の変動と有意差を示す。被験者EとLは一番変化が大きく,血清K値が食後1時間で0.7 mmol/L上昇し,2時間後に低下,尿K/CRE値は食後1時間から2時間で60 mmol/g·CRE上昇していた。一方被検者Dの血清K値は全く変動がなく,尿K/CRE値はわずかな上昇であった。

Figure 4 The fluctuation and significant differences in serum K and urine K/CRE levels before and after intakes of potassium-rich diet

Subjects E and L showed the largest changes. Their serum K levels increased by 0.7 mmol/L 1 h after the diet and then returned to the values near their baseline after 2 h, and urine K/CRE levels increased by 60 mmol/g·CRE between 1 and 2 h after the diet. In subject D, a clear change of serum K was not seen.

Serum K level increased significantly at 1 h * and 2 h ** after the diet. Urine K/CRE levels were significantly elevated 2 h * after the diet (*p < 0.05, **p < 0.01 by paired t-test).

血清K値は食前の値に対して,食後1時間**,2時間*で有意に上昇し,尿K/CRE値は食前の値に対して2時間**で有意に上昇していた(*p < 0.05,**p < 0.01)。

2. 血清K値変動の大きさによる尿K/CRE値の変動の比較

変動の大きい群(食後1時間での血清K値の上昇が0.3 mmol/L以上)は12名中5名で,変動の小さい群(食後1時間での血清K値の上昇が0.3 mmol/L未満)は7名であった。それぞれの群での血清K値と尿K/CRE値のΔ(食後1時間-食前),Δ(食後2時間-1時間)をFigure 5に示す。

Figure 5 Comparison of urine K/CRE level according to the magnitude of changes in serum K level

The group, in which the serum K level increased by 0.3 mmol/L or more, increased the urinary K/CRE level only 2 h after the diet.

血清K値の変動が小さい群では,尿K/CRE値の変動が小さいのに対し,変動が大きい群では2時間後の尿K/CRE値が大きく上昇し,血清K値の低下が認められた。

VI  考察

厚生労働省の平成28年国民健康・栄養調査10)によると日本人の成人1日あたりのカリウム摂取量は,男性1,893~2,505 mg,女性1,685~2,294 mgと報告されており,本研究ではおおよそ1日量のカリウムを1回の食事に負荷したことになる。

ヒトには,食事に含まれるカリウム摂取による高K血症の発症を避けるために,門脈内インスリン上昇による肝臓でのKの細胞内移行の増加や,アルドステロン分泌増加による尿中へのK排泄の増加などさまざまなメカニズムが存在すると言われている11)‍~13)

Raberinkら14)は,20日間健常者に1食につき75 mmolのKClを負荷し,血漿と尿のK,ナトリウム(Sodium; Na),血漿アルドステロン,レニン活性の連続的な変化を調査している。その中で「高カリウム食負荷後すぐKの排泄が増加し,血漿Kと血漿アルドステロン値は48時間で最大になる。」と報告している。

今回の我々の研究では,カリウムを多く含む食品の摂取によって,食後1時間で血清K値の上昇,2時間で尿K/CRE値の上昇を認め,両者の推移に1時間の差が認められた。特に食後の血清K値の上昇が大きい群では食後1時間よりも2時間で尿へのK排泄量が多くなっており,K排泄が遷延していると考えられた。対象症例では,血清K値に1.2 mmol/Lの差があったものの,検証では最大0.7 mmol/L程度の差であった。これは被験者のeGFRは76.1~119.9 mL/min/1.73 m2あったのに対し,対象症例のeGFRが55.9 mL/min/1.73 m2とやや低下していることによる可能性が考えられた15)。また血清K値が上昇しなかった人が存在しており,尿への排泄が増加していないことから,細胞内へのK取り込みの違いなどのK排泄以外の要因が関与しているのではないかと考えられた。

一方,以前より食事によって血清K値は減少すると言われている。市原・河口ら16)によると,糖質を多く含む食事(山かけうどん)を摂取した後での血清K値が1時間で0.3 mmol/L減少すると報告されている。これは血糖上昇に応じてインスリンが分泌されて細胞内へKが移行するためと考えられる。

このように血清K値の変動は食事内容によって多様性が認められる。食事摂取後の血清K値が上昇する時間,上昇幅とも個人差が大きかったが,このようなさまざまな要因が絡み合っているのではないかと考えられた。

今回はインスリンやアルドステロンなどの液性因子の測定を行っておらず,Kの排泄が遷延する原因やその個人差の原因は本研究では明らかにすることができなかった。

しかし食後血清K値が上昇した群では尿への排泄とともに血清K値が低下しており,食事による明確な血清K値上昇が認められ,その時間はかなり短時間であることが示唆された。

これらのことから,臨床像と乖離する高K血症において採血手技の確認だけでなく,食事内容や食後の時間経過の聞き取りも重要であると思われた。

特に地域密着型の病院では食事から採血までの時間が30分以内と短時間であることもよく見受けられ,患者によっては血清K値が大きく変動している時間に採血することも考えられる。

また,今回の症例と同じ時期に一過性の高K血症の患者を数名経験しており,管理栄養士から栄養調査において「アボカドをたくさん摂取している人が多かった。テレビ番組で特集をしていたらしい。」との情報が得ている。特にマスメディアで高カリウム食が取り上げられた後には注意が必要と考える。

VII  結語

カリウムを多く含む食品の摂取による一過性の高K血症の検証を行った。カリウムの負荷により食後の血清K値の上昇が認められたが,Kの排泄時間には個人差があり,同じ食事を摂取しても変動は一律ではない。臨床像と合わない高K血症において,採血手技など偽高値となる要因の確認だけでなく,食事内容や食後の経過時間の確認も重要となる。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

本研究をまとめるにあたりご指導をいただきました済生会横浜市東部病院 臨床検査科 菊池春人先生に深謝いたします。

文献
 
© 2021 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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