医学検査
Online ISSN : 2188-5346
Print ISSN : 0915-8669
ISSN-L : 0915-8669
症例報告
電撃性紫斑病の契機となったNeisseria meningitidis敗血症の一例
越崎 祐輔齋藤 峻平菅原 昌章中川 翔希小松 守高村 圭
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2021 年 70 巻 4 号 p. 785-790

詳細
Abstract

電撃性紫斑病の契機となったNeisseria meningitidis敗血症を経験したので報告する。患者は80歳代女性。主訴は発熱,意識障害,高度の炎症反応上昇,右下腿の疼痛を伴う皮下硬結・発赤・紫斑,CTでは左上葉に浸潤影を認めた。下腿軟部組織感染症もしくは肺炎に伴う敗血症とし,Meropenem(MEPM),Vancomycin(VCM)が投与開始となった。来院時の血液培養および喀痰培養よりグラム陰性の双球菌が認められ,分離培養を行ったところチョコレート寒天培地に灰白色コロニーが発育した。グラム染色にてN. meningitidisを疑ったが,当院細菌検査室に髄膜炎菌抗原検査試薬を持ち合わせていなかった。同定検査を実施した結果はN. meningitidisと同定された。右下腿の皮下硬結・発赤・紫斑はN. meningitidis敗血症に伴う電撃性紫斑病と診断された。抗生剤はCeftriaxone(CTRX)へ変更となり,炎症反応の改善が確認された。N. meningitidisは検出頻度が低い細菌ではあるが,病原性の強さや臨床報告の迅速性が求められることを考慮すると,検査体制整備は急務であると考える。

Translated Abstract

We report a case of Neisseria meningitidis sepsis that triggered purpura fulminans. The patient was a woman in her 80s. She was brought to our hospital by ambulance because of fever and disturbance of consciousness. Her laboratory findings showed severe inflammatory changes. On physical examination, subcutaneous induration, redness, and purpura of the right lower leg were detected. Chest CT scan showed an infiltrative shadow in the apex area of the left lung. We diagnosed her as having sepsis associated with a soft tissue infection or pneumonia, and the administration of antibiotics (meropenem (MEPM) and vancomycin (VCM)) was started. Gram-negative diplococci were found in blood and sputum cultures. After isolating the diplococcal cells in chocolate agar, a light-gray colony was detected. N. meningitidis was initially suspected from the Gram staining results, but we did not always have a ready supply of meningococcus antigen reagent, so we were not able to confirm it. The result of Gram staining indicated N. meningitidis. We finally diagnosed her as having purpura fulminans associated with sepsis on the basis of N. meningitidis identification. The antibiotics were changed to ceftriaxone (CTRX), and improvement of the inflammation was confirmed. N. meningitidis is a bacterium that is infrequently detected. However, N. meningitidis is highly pathogenic and needs to be detected rapidly. Thus, an examination system for N. meningitidis should be urgently developed.

I  序文

N. meningitidis(髄膜炎菌)はグラム陰性の双球菌で,健康なヒトの鼻咽頭からも低頻度ながら分離され,保菌者・患者から飛沫感染で伝播する。侵襲性感染症としては,菌血症(敗血症なし),髄膜炎を伴わない敗血症,髄膜炎,髄膜脳炎の4つの病型があり,敗血症を発症すると予後不良と認識されている1)

今回我々は,血液および喀痰から髄膜炎菌を検出し,肺炎に伴う敗血症,菌血症を呈した劇症型髄膜炎菌感染症を経験したので報告する。

II  症例

患者:80歳代,女性。

主訴:発熱,意識障害。

既往歴:認知症,2型糖尿病,高血圧,高脂血症,慢性腎障害,鉄欠乏性貧血。

家族歴:特記事項なし。

渡航歴:なし。

現病歴:20XX年1月14日より体動困難となり,14日夜間帯に意識障害の主訴で当院救命センター搬送となった。搬送時所見は,JCS:II-10,GCS:E3V3M5,BT:35.9℃,BP:66/47 mmHg,HR:64/min,SpO2:90%(室内気)であり,右下腿の疼痛を伴う皮下硬結・発赤・紫斑を認めた(Figure 1)。

Figure 1 Subcutaneous induration, redness, purpura on the right lower leg

臨床経過:入院時の血液検査にて,白血球16,200/μL,血小板12.1万/μL,PT-INR 1.23,D-D 5.9 μg/mL,T-Bil 2.2 mg/dL,Cre 2.90 mg/dL,CRP 37.5 mg/dL,PCT 71.58 ng/mLと高度の炎症反応上昇とDIC(播種性血管内凝固症候群)所見を認めた(Table 1)。また,胸部CTでは左上葉(S1およびS2)に浸潤影を認めた。救命センターでの上記検査より,下腿軟部組織感染症もしくは肺炎に伴う敗血症の診断とし,血液培養,尿培養,喀痰培養検体を採取後にMeropenem(MEPM),Vancomycin(VCM)が投与され,入院となった。第2病日に右下腿軟部組織感染症の評価目的に試験切開が行われ,蜂窩織炎や壊死性筋膜炎は否定された。第3病日になり全身状態はやや改善したものの,肺炎に伴う敗血症にしては重症感が強く,髄膜炎鑑別目的で髄液検査を実施したが,身体所見や髄液検査結果から,髄膜炎は否定された(Table 2)。しかし同日,血液培養2セットからグラム陰性の双球菌が検出され,N. meningitidisの可能性が示唆され,同菌による激症型髄膜炎菌感染症が考えられた。第5病日に血液培養ならびに喀痰培養より発育してきた細菌の同定検査にてN. meningitidisと確定し,報告した。この報告により,肺炎を契機とする髄膜炎を伴わないN. meningitidis敗血症・菌血症の診断と判断された。右下腿の皮下硬結・発赤・紫斑はN. meningitidis敗血症に伴う電撃性紫斑病と診断された。薬剤感受性結果を加味し,Ceftriaxone(CTRX)4 g/dayへde-escalationとなった。

Table 1  Clinical test results at the time of admission
血液・凝固検査 生化学検査
WBC 16,200/μL TP 5.7 g/dL
 Neut 85.8% ALB 2.8 g/dL
 Lymph 8.3% T-Bil 2.2 mg/dL
 Mono 4.8% D-Bil 1.0 mg/dL
 Baso 0.5% AST 26 U/L
 Eosino 0.6% ALT 11 U/L
RBC 3.2 × 106/μL LD 247 U/L
Hgb 10.6 g/dL ALP 203 U/L
Ht 32.1% γGT 24 U/L
PLT 121 × 103/μL BUN 51.7 mg/dL
PT 69% Cre 2.90 mg/dL
PT-INR 1.23 eGFR 12.50
APTT 48.2秒 UA 9.2 mg/dL
Fib 891 mg/dL Na 138 mEq/L
DD 5.9 μg/mL K 4.1 mEq/L
Cl 99 mEq/L
CRP 37.50 mg/dL
PCT 71.58 ng/mL
Ferritin 432.3 ng/mL
Table 2  Cerebrospinal fluid test results
髄液検査
外観 無色透明
140 mmH2O
Kernig sign なし
細胞数 3/μL
単核球 1/μL
多核球 2/μL
赤血球数 0
蛋白 69 mg/dL
83 mg/dL
Cl 120 mEq/L
IgG 2.1 mg/dL

侵襲性髄膜炎菌感染症(5類感染症)として保健所へ届け出が行われ,後日精査のために菌株を国立感染症研究所へ送付した。

感染対策:濃厚接触者である同居家族ならび処置に関わった職員にCiprofloxacin(CPFX)の予防投与が行われた。

第5病日より炎症反応の改善が徐々に確認され,第21病日に転院となった。

III  微生物学的検査

1. 血液培養検査

搬送時血液培養2 set(BACTEC 23F好気用レズンボトルP,BACTEC22F嫌気用レズンボトルP:日本BD)が提出され,自動血液培養装置BACTEC FX(日本BD)で測定した。培養開始3日目に血液培養2 set共に好気ボトルが陽性となり,グラム染色(neo-B&Mワコー:和光純薬工業株式会社)を実施したところ,グラム陰性双球菌が確認された(Figure 2)。しかしながら一部染色ムラも認められ,グラム陽性球菌の可能性も否定できない旨を同時に臨床医へ伝えた。分離培養としてトリプチケースソイ5%ヒツジ血液寒天培地(日本BD),チョコレートII寒天培地(日本BD)を35℃,5% CO2培養を行い,24時間後に灰白色のコロニーが検出された(Figure 3)。

Figure 2 Gram stained smear (×1,000)

a: Day 3 of culture Gram stain when blood culture is positive

b: Gram stain of sputum during transportation

Figure 3 Findings of colonies grown in 5% CO2 culture for 24 hours

a: Trypticase soy 5% sheep blood agar

b: Chocolate II agar

2. 喀痰培養検査

血液培養と同様に搬送時に提出された喀痰(Miller & Jones分類:P1)のグラム染色(neo-B&Mワコー:和光純薬工業株式会社)を行ったところ,多数の白血球(Geckler分類:G4),常在菌と考えられるグラム陽性球菌およびグラム陰性球菌の貪食像が確認された(Figure 2)。分離培養にはチョコレートII寒天培地(日本BD),コロンビアCNA5%ヒツジ血液寒天培地(日本BD)を35℃,5% CO2培養,マッコンキーII寒天培地(日本BD)は35℃好気培養を行った。24時間後に常在菌の他に血液培養で認められた灰白色のコロニーも検出されたが,常在菌と重複して発育を認めたため,トリプチケースソイ5%ヒツジ血液寒天培地(日本BD)に純培養を行った。

3. 同定検査

血液培養分離コロニーおよび喀痰培養で認められた灰白色コロニーについて,性状はオキシダーゼ試験陽性,カタラーゼ試験陽性であり,VITEK2XLブルー(ビオメリュー)NH同定カードにて同定検査を実施し,結果としてN. meningitidis(同定確率99%)と同定された。しかしながら,当院でN. meningitidis の分離経験がなかったために異なる同定キットを用いて再確認検査を行った。同日にBD BBL CRYSTAL N/H同定検査試薬(日本BD)にて同定検査を実施し,グルコースおよびマルトース陽性であり,同様にN. meningitidisと同定された。

4. 薬剤感受性試験

薬剤感受性試験に関しては血液培養分離株,喀痰培養分離株共に,ドライプレート栄研DP44(栄研化学),ストレプト・ヘモサプリメント(栄研化学)を用いてMICを測定した。判定基準はCLSI M100-S20を用いて判定した。判定薬剤はPenicillin G(PCG),Ampicillin(ABPC),Ceftriaxone(CTRX),Meropenem(MEPM),Minocycline(MINO),Azithromycin(AZM)を測定し,血液培養分離株,喀痰培養分離株共に全て感性であった。MICおよび判定結果をTable 3に示した。また,検体提出から薬剤感受性試験結果までの行程を図表化したものをTable 4に示した。

Table 3  Drug susceptibility test for Neisseria meningitidis
抗菌薬 MIC値(μg/mL) 判定
PCG ≤ 0.12 S
ABPC ≤ 0.06 S
CTRX ≤ 0.06 S
MEPM ≤ 0.06 S
MINO 0.25 S
AZM 0.25 S
Table 4 Bacterial culture test time series

5. 遺伝子解析

国立感染症研究所へ解析を依頼した。結果として,血清群:Y,遺伝子型MLST:1655(ST-23 complex)となった。

IV  考察

N. meningitidisは莢膜多糖体の糖鎖により13血清群に分類がなされ,血清群A,B,C,X,Y,Wが侵襲性疾患を引き起こすと言われている2)。髄膜炎菌はエンドトキシンや他の細胞壁外膜成分を含んだ小さな嚢胞を菌体外に大量に放出するblebbingが劇症化との関連性があると注目されている3)。劇症型の場合,突然の頭痛,高熱,意識障害を呈し,敗血性ショック,DICを発症し,続発した両側副腎出血を伴う特徴的な皮疹などを特徴としたWaterhouse-Friderichsen症候群を呈することがある。

本症候群は一般に80%以上がN. meningitidis感染を伴い4),極めて予後不良であり,致死率は55~60%5),発症後平均20.7時間で死亡に至る6)

今回我々が経験した症例は,高度の炎症反応上昇,血圧低下を認めた敗血症であり,右下腿が全体的に浮腫状で紫斑が多数認められていた。蜂窩織炎としては非典型例であり,壊死性筋膜炎の疑いとして試験切開が行われた。皮膚切開所見から軟部組織感染症は否定された。そして,敗血症ショックに伴うDICにより,二次的に右下腿に皮下硬結・発赤・紫斑が生じている可能性が高いと判断された。入院時の画像所見から肺炎の可能性は残されていたが,重症感が強く,臨床側も肺炎に伴う敗血症の診断で良いのか,判断に困る状況であった。

微生物学的検査では,血液培養からグラム陰性双球菌,喀痰よりグラム陽性球菌およびグラム陰性球菌の貪食像が確認された。患者背景を考慮し,N. meningitidisの可能性も考えられたが,当院細菌検査室にてN. meningitidisの検出経験がないために確証が得られず,Staphylococcus属やStreptococcus pneumoniaeの染色ムラによる陰性化も考慮して欲しい旨を伝えつつ,電子カルテに染色写真を掲載し臨床への中間報告を行った。翌日の発育コロニーはStaphylococcus属やStreptococcus pneumoniaeを疑うものではなく,Neisseria属を疑うコロニーと判断可能であり,加えてコロニーのグラム染色結果はグラム陰性球菌と確認し,第4病日にて再度臨床側へ報告を行い,臨床側も髄膜炎菌感染症および電撃性紫斑病を強く疑う形となり,第5病日に最終報告を行い,診断に至った。

細菌性敗血症と電撃性紫斑病の合併例は,N. meningitidisに限定して生ずるものではなく,現在では重症感染症一般に起こりうるものと認識されている。Streptococcus pneumoniaeStreptococcus pyogenes,水痘・帯状疱疹ウイルス感染での合併例の報告が多いと言われ,横手ら7)は電撃性紫斑病の細菌性敗血症の原因菌の報告例は本邦ではStreptococcus pneumoniaeが最も多く,米国ではN. meningitidisが多いとの報告をしている。その理由としては,保菌率が異なることが寄与しているとのことであった。

当院細菌検査室は,血液培養陽性時には必ず臨床医への報告を原則としており,アドバイスサービスの一環として口頭ではあるものの,Staphylococcus属やStreptococcus属,Enterococcus属の鑑別見解,腸内細菌とPseudomonas aeruginosaなどの非発酵菌との鑑別見解程度のアドバイスおよびグラム染色写真を電子カルテに掲載している。本症例ではグラム陰性双球菌が認められ,N. meningitidis以外にも鑑別対象としてAcinetobacter spp,染色ムラも考慮してグラム陽性球菌が挙げられる。患者背景を考慮するとN. meningitidisが疑われたが,当院細菌検査室に髄膜炎菌抗原検査試薬を持ち合わせていなかったことを強く反省する結果となった。1日でも早く原因菌を同定するためには,血液培養陽性時に上清を用いて抗原検査を行うことなどの検査の迅速性に対する創意工夫が求められる。また,染色ムラを疑う場合の対応として,劉の方法などの鑑別手段もあったため,併せて試薬の必要性を痛感した。N. meningitidisは検出頻度が低い細菌ではあるが,病原性の強さや臨床報告の迅速性が求められることを考慮すると,検査体制整備は急務であると考える。

侵襲性髄膜炎菌感染症は2013年4月から2017年10月で160例が報告されているが1)希少感染症となりつつあり,疫学調査の観点からも保健所への届け出および国立感染症研究所への遺伝子解析が必要であると判断した。遺伝子解析結果は,ここ数年の国内での侵襲性髄膜炎菌感染症の起炎菌として最もよく分離される株の血清型Y群,遺伝子型1655(ST-23 complex)であり,2009年から検出され始めた比較的新しい遺伝子型と国立感染症研究所より情報提供を頂いた。

感染対策面では感染経路は,渡航歴もなく,ほぼ自宅かデイサービスで生活していたため,他者からの感染の可能性は低く,自身の咽頭に保菌していたN. meningitidisが肺炎を起こしたものと考えられた。Infection Control Teamとして同居家族ならびに濃厚接触者4名に予防投与を開始し,迅速な対応を施すことができた。しかし,一部の職員は吸引時にゴーグルを着用していなかったなど,髄膜炎菌感染症に対しての職員の理解度,個人防護具の着用については日頃の啓発活動の面で課題がみつかった。

今回,N. meningitidisの分離を経験したが,保菌例も認められる中,電撃性紫斑病を伴うN. meningitidis敗血症を経験した。細菌検査室として,定型的な臨床医への報告ではなく,臨床医が求める付加価値のある中間報告の重要性,なにより髄膜炎菌抗原検査の必要性を認識した。この経験を活かし,臨床と細菌検査室の距離感をより近づけていきたい。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

本症例報告にあたり,国立感染症研究所細菌第一部 高橋英之先生に深謝いたします。

文献
 
© 2021 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
feedback
Top