医学検査
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技術論文
尿培養検体輸送用容器UriSwabの保存安定性に関する基礎的検討
西川 佳佑楠木 まり大沼 健一郎石田 奈美小林 沙織西田 全子今西 孝充三枝 淳
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2021 年 70 巻 4 号 p. 713-717

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Abstract

尿培養検体輸送用容器であるUriSwab(コパンジャパン株式会社)の回収条件及び保存安定性に関する基礎的検討を行った。回収条件はEscherichia coli ATCC 25922株を104 CFU/mLを含有した擬似尿を使用し,遠心条件を1,000 rpmで3秒,30秒,60秒・振とう回数を1回,3回,5回とし,それぞれの条件においてスポンジより回収した尿中の生菌数を計測し,最適な回収条件を評価した。保存安定性は,E. coli ATCC 25922,Enterococcus faecalis ATCC 29212,Neisseria gonorrhoeae ATCC 49226を4℃,25℃でそれぞれ保存し,滅菌スピッツでの保存後の生菌数と比較した。回収条件はいずれの条件においても生菌数に大きな差異は認められず,生菌数のばらつきが最小であった遠心時間60秒を最適条件と設定した。保存安定性は,滅菌スピッツと比較しE. coli ATCC 25922株,E. faecalis ATCC 29212株では菌量増加を有意に抑制し(p < 0.01),N. gonorrhoeae ATCC 49226株では死滅を有意に抑制した(p < 0.01)。以上より,UriSwabは滅菌スピッツと比較し,菌量増加や死滅のリスクが少なく,尿培養検体輸送用容器として有用である可能性が示唆された。

Translated Abstract

UriSwab is a collection device for urine cultures, which contains boric acid as a preservative agent, making it possible to preserve urine samples until processing in the laboratory. UriSwab is easy to use and, more importantly, lessens the risk for excessive growth or loss of pathogens. However, in Japan, no studies have been conducted on its use and sample stability during storage. We determined the collection condition of urine absorbed on the UriSwab sponge applicator and tested the viability of pathogens in the urine using Escherichia coli, Enterococcus faecalis, and Neisseria gonorrhoeae ATCC strain. No significant changes in the collection condition were observed. Therefore, we determined 60 s as the optimal collection condition due to the minimum standard deviation. Compared with a sterile tube, UriSwab significantly suppressed the overgrowths of E. coli and E. faecalis during storage at 25°C (p < 0.01) and prevented the decimation of N. gonorrhoeae during storage at 4°C (p < 0.01). Findings of our study suggest that UriSwab is a more reliable sample receptacle than sterile tubes.

I  序文

Urinary Tract Infections(UTIs)は,最もよく遭遇する感染症の一つである。UTIs診断としては,新鮮尿の培養検査で病原体を検出することが必要であり,近年の尿培養に関するガイドラインでは,検体採取より室温保存で2時間以内,もしくは,冷蔵保存で24時間以内に検査を実施することが推奨されており,保存剤が含有された容器の使用も代替法として推奨されている1)。検体の冷蔵保存は病原体の過増殖を抑制することが示されているが,あらゆる要因により検査室到着まで冷蔵で保存されない場合が多い2)。不適切な条件で放置された検体による尿培養検査は,誤った診断や治療に繋がる恐れがあり,近年提唱されている“Diagnostic Stewardship”の観点からも好ましくない。

UriSwab(コパンジャパン株式会社)は,ホウ酸とギ酸が含有されたスポンジ部に尿を吸収させ,検体を保存する尿培養検体輸送用容器である。簡便に使用でき,尿中微生物の採取時点からの菌量増加(以下,菌量増加)や死滅のリスクが少ないとされているが,本邦においてUriSwabの操作性や性能について評価した報告はない。

そこで今回我々は,UriSwabの尿回収条件及び細菌の保存安定性に関する検討を行ったので報告する。

II  材料と方法

1. 回収条件の検討

1) 対象試料

凍結乾燥尿(栄研化学)を滅菌精製水10 mLで溶解し,Escherichia coli ATCC 25922株を104 CFU/mLになるように添加し,これを擬似尿とした。

2) 測定機器

遠心には,テーブルトップ遠心機4000(久保田商事株式会社)を使用した。

3) 方法

1)で作製した擬似尿をUriSwabのスポンジに吸収させ,各条件でそれぞれ尿を回収した(Figure 1)。尿のスポンジからの回収条件は,遠心(1,000 rpm)の場合,3秒,30秒,60秒とし,振とうの場合,1回,3回,5回の計6種類とした。なお,振とうは容器上部を持ち,上から下へ瞬間的に振り下ろした。

Figure 1 Procedure of simulated urine specimens stored in UriSwab

1. Absorb simulated urine into the sponge. 2. Transport to laboratory. 3. Collect the urine by centrifugation or shaking. 4. Inoculate extracted urine specimens.

4) 評価

回収した尿中の生菌数をミスラ(Miles and Misra)法に準じて計測した。各条件3回ずつ実施し,生菌数の平均値及び標準偏差(SD)をそれぞれの条件で算出し比較した。

2. 保存安定性の検討

凍結乾燥尿を滅菌精製水10 mLで溶解し,E. coli ATCC 25922株,Enterococcus faecalis ATCC 29212株,Neisseria gonorrhoeae ATCC 49226株をそれぞれ,104,104,107 CFU/mLになるように添加し,擬似尿とした。

各擬似尿をスポンジに吸収させ,4℃及び25℃で48時間保存した。24時間毎にUriSwabを1.で求めた最適条件(1,000 rpm・60秒遠心)で尿をスポンジより回収した。回収した尿中生菌数をミスラ法に準じて計測した。また,対照法として滅菌スピッツ(栄研化学)を用い,同一条件で保存し生菌数を計測した(n = 6)。

3. 統計解析

GraphPad Prism(version 7)を用い,UriSwabと滅菌スピッツの菌量比較にはMann-Whitney U検定を,同一容器での各保存時間の菌量比較にはKruskal-Wallis検定を行い,p < 0.05を有意水準とした。

III  結果

1. 回収条件の検討

各回収条件における生菌数をTable 1に示す。得られた尿量は振とう回数1回では他の条件と比較し少なかったが,各条件で得られた尿中の菌量に大きな差異は認められなかった。しかし,遠心時間3秒及び振とう回数1回は他の条件と比較すると,標準偏差が大きかった。一方,遠心時間60秒は標準偏差が最小であった。

Table 1  Viable bacteria count (E. coli) in urine collected from sponge under each collection condition
Assay 1 Assay 2 Assay 3 average SD
Centrifuge (seconds) 3 0.6 2.6 1.9 1.7 8.3
30 1.2 1.5 1.9 1.5 2.9
60 1.7 1.7 2.1 1.8 1.9
Shake (times) 1 1.0 3.0 2.0 2.0 8.2
3 2.3 1.7 2.4 2.1 3.1
5 1.0 1.1 2.3 1.5 5.9

unit: ×104 CFU/mL

SD: standard deviation

2. 保存安定性の検討

結果をFigure 2に示す。

Figure 2 Comparison of viable bacteria counts of urine samples stored in UriSwab and sterile tube

Significant difference represented by : p < 0.05, ※※: p < 0.01, ※※※: p < 0.001.

E. coli ATCC 25922株の生菌数は,4℃・24時間保存では滅菌スピッツとUriSwabの間に差異は見られず,開始時の菌量と比較しても増減は見られなかった。4℃・48時間保存では,保存開始時からの菌量は有意に減少したが,UriSwabは滅菌スピッツと比較し死滅を抑制した(p < 0.01)。25℃・24時間保存で,滅菌スピッツの菌量は104 CFU/mLから108 CFU/mL以上と有意に菌量の増加が見られたのに対し,UriSwab中の菌量は25℃・24時間,48時間保存のいずれも104 CFU/mLと,保存開始時点の菌量を維持していた(p < 0.01)。

E. faecalis ATCC 29212株の菌量は4℃保存では両者の間に差異は見られなかった。25℃・24時間保存では,滅菌スピッツの菌量は104 CFU/mLから108 CFU/mLへ有意に増加したが,UriSwabでは,104 CFU/mLと維持され,25℃・48時間保存では105 CFU/mLと,滅菌スピッツよりも菌量増加を抑制した(p < 0.01)。

107 CFU/mLで保存を開始したN. gonorrhoeae ATCC 49226株 は,4℃・24時間保存では両者の菌量に差異は見られなかったが,4℃・48時間保存では,UriSwab 106 CFU/mL,滅菌スピッツ104 CFU/mLと,共に保存開始時からの菌量は有意に減少したが,UriSwabは滅菌スピッツよりも死滅を抑制した(p < 0.01)。

IV  考察

ホウ酸を保存剤として含有する尿検体輸送用容器に関する報告は多く見られ,その性能は冷蔵で保存する場合と同等とされている2)~4)。しかしUriSwabに関連する報告は少なく4),5),本邦においては現在のところ確認されていない。その為,我々はUriSwabに関する検討を行った。

UriSwabの回収条件は,添付文書では遠心(1,000 rpm)3~60秒,振とう1~5回と,明確には定められていないが,今回の検討で,記載範囲内では菌量に大きな差異を認めないことが確認された。中でも,遠心時間60秒の標準偏差が最小であり,これが最適条件であると考えられた。振とうの強度は実施時により異なり,回収できる尿量に影響を与える可能性が高く,遠心は一定の強度でスポンジから尿を回収できる為,遠心時間に比例し菌量のばらつきを最小化するものと考えられた。

保存安定性は,滅菌スピッツと比較し菌量増加や死滅のリスクが少ないことが確認された。スポンジに含有されているホウ酸はそれ自身が静菌作用を有しており6),7),様々な尿検体容器で保存剤として使用されているが,中でもUriSwabはホウ酸を含有したスポンジに尿を吸収させることで,検体に作用する保護剤の濃度差を生じにくく,より効率よく微生物に作用すると考えられる5)。今回の検討ではE. coliと比較し,E. faecalisにおいて25℃の保存条件では菌量が増加しやすい傾向が見られた。勝川ら8)は,ホウ酸の各微生物に対するMICを測定し,Staphylococcus aureus以外のグラム陽性菌では陰性菌と比較してMICが高い傾向を確認している。その為,UriSwab中のホウ酸のE. faecalisへの静菌作用がE. coliと比較すると弱く,菌量増加が起こりやすい可能性が考えられた。一方,死滅を抑制した要因として,ホウ酸の静菌作用と4℃保存による自己融解の抑制が相乗効果を示したと考えられた。特にN. gonorrhoeaeのような死滅しやすい微生物では有意に死滅を抑制し,スポンジ内で常にホウ酸と接触していることが重要であると考えられた。また,UriSwabは滅菌スピッツと比較しコンタミネーションの割合が少ないことが報告されており5),再分離にかかる検体処理時間の短縮やコスト削減,不適切な抗菌薬投与の防止に繋がることが期待でき,UriSwabで尿検体を保存,輸送する意義は大きいと考えられる。

N. gonorrhoeaeの保存及び輸送の至適温度に関しては,これまでに多くの議論がなされてきた。室温保存と比較して冷蔵保存では死滅のリスクが少ないという報告が多く見られ9)~12),今回の我々の検討結果とも一致する。一方で,至適保存温度は使用する容器により異なるとする報告も見られ13),Clinical Laboratory Standards Institute(CLSI)でもN. gonorrhoeaeに対する保存温度として冷蔵は強く推奨はされておらず,保存,輸送温度については,今後も更なる検討が求められる。

今回の検討では,UriSwabは保存条件により,滅菌スピッツと比較しE. coliE. faecalisでは菌量増加を,N. gonorrhoeaeでは死滅を有意に抑制した結果となった。しかし,3菌種各1株の標準菌株しか用いておらず,模擬検体として凍結乾燥尿を使用しており,限定的な結果である。また,糖や蛋白の陽性尿あるいはアルカリ尿などの臨床検体では検討していないといった課題があり,UriSwabの有用性をさらに評価するために,今後より多くの菌種と菌株を用い,尿中物質の影響についても検討することが必要であると考えられた。しかしながら,本検討で使用したE. coliE. faecalisあるいはN. gonorrhoeaeは尿路感染症の起因菌として分離される頻度が高い細菌であり,これらの菌種で保存安定性に優れている点が確認できた意義は大きいと考えられる。

Ⅴ  結語

UriSwab(1,000 rpm・60秒遠心)は滅菌スピッツと比較し,保存中の菌量変動のリスクが少なく,尿培養検体の輸送用容器として有用である可能性が示唆された。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

本論文作成に際し,御指導いただきました,神戸大学医学部附属病院感染制御部 宮良高維先生,神戸大学医学部附属病院感染症内科 大路剛先生に深謝致します。

文献
 
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