医学検査
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症例報告
尿沈渣検査において糸球体型赤血球の判定が困難であった4例の急速進行性糸球体腎炎
服部 亮輔原 美津夫安藤 秀実三上 千映里吉 和也荒木 秀夫
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2021 年 70 巻 4 号 p. 810-816

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Abstract

急速進行性糸球体腎炎(rapidly progressive glomerulonephritis; RPGN)は,急性あるいは潜在性に肉眼的血尿,蛋白尿を呈し,急速に腎不全が進行する病態である。尿沈渣検査では,糸球体腎炎などによる糸球体性血尿の場合,糸球体型赤血球や赤血球円柱を含めた各種円柱が認められることが多い。我々は,尿沈渣検査において糸球体型赤血球の判定が困難であった4例のRPGNを経験した。共通した所見として,①赤血球は脱ヘモグロビン状態のものが混在し,全体の出現パターンが多彩性,大小不同に乏しい,②赤血球円柱,顆粒円柱,ろう様円柱を含めた多彩な円柱の出現,③推算糸球体濾過量(eGFR)低値を示すような著しい腎機能低下,④尿定性の蛋白,潜血強陽性が挙げられる。また,2例はUF-1000i(シスメックス社)の赤血球形態情報(RBC-Info.)がMixed?と判定された。これらの結果から病態を推測し,糸球体性血尿を疑うことが可能であった。著しく腎機能が低下した状態では,糸球体性血尿であるにもかかわらず,尿沈渣中の赤血球形態に変化を示さないことがあり,赤血球形態の判定に注意が必要である。また,糸球体性血尿と関連がある赤血球円柱は出現数がわずかな場合があるため,尿沈渣像のパターン(赤血球形態,多彩な円柱出現)と他の検査結果から糸球体性血尿が疑われた場合,赤血球円柱を検出するため詳細に鏡検することも重要である。

Translated Abstract

Rapidly progressive glomerulonephritis (RPGN) is a condition of the kidney characterized by a rapid loss of renal function with acute or subclinical gross hematuria or proteinuria. On urinary sediment examination, glomerular hematuria due to glomerulonephritis and other conditions often shows various types of cast, including glomerular-type red blood cells (RBCs) and RBC cast. We encountered four cases of RPGN with difficulty in the detection of glomerular-type RBCs on urinary sediment examination. Their common findings include: (1) a mixture of RBCs in a dehemoglobin status, with little variety and difference in size in the overall pattern of appearance; (2) the appearance of various types of cast, including RBC cast, granular cast, and wax cast; (3) a marked decline in renal function, as indicated by a low estimated glomerular filtration rate (eGFR); and (4) strong positivity for protein and occult blood in qualitative urinary examination. In two cases, morphological information on RBCs (RBC-Info.) of UF-1000i (Sysmex) was “Mixed?”. On the basis of these results, it was possible to infer the pathogenesis and suspect glomerular hematuria. With severely impaired renal function, the RBC morphology in the urinary sediment may not show any change despite glomerular hematuria, and care should be taken in determining the RBC morphology. In addition, if glomerular hematuria is suspected on the basis of the pattern of the urine sediment image (RBC morphology, appearance of various types of cast) and other test results, it is important to perform a detailed speculum examination considering the possibility of appearance of a few RBC casts associated with glomerular hematuria.

I  はじめに

尿沈渣検査で認められる赤血球は腎・尿路系の出血性病変を示唆する有形成分であり,出血部位の違いにより尿中赤血球形態が異なる。糸球体腎炎などによる糸球体性血尿では糸球体型赤血球が認められることが多く,非糸球体性血尿である下部尿路(腎盂,尿管,膀胱,尿道)からの出血では非糸球体型赤血球が認められる。糸球体型赤血球,非糸球体型赤血球を鑑別して報告することは,出血部位,病態,疾患を推定するうえで重要である。糸球体型赤血球は,不均一で多彩な形態を呈し,大きさは大小不同で脱ヘモグロビンの状態を示し,赤血球円柱をはじめ種々の円柱や蛋白尿を伴う場合が多い1)。しかし,日常尿沈渣検査において,赤血球形態の判定が困難な糸球体由来赤血球が疑われる症例を経験している。

急速進行性糸球体腎炎(rapidly progressive glomerulonephritis; RPGN)は「急性あるいは潜在性に発症する肉眼的血尿,蛋白尿,貧血,急速に進行する腎不全症候群」と定義され,急速な腎機能の悪化により放置すれば末期腎不全まで進行する疾患である2)。非侵襲性で迅速性がある尿沈渣検査は,糸球体性血尿・非糸球体性血尿の病態を推測することが可能であり,RPGNの診断に当たって重要度は高いといえる。今回,赤血球形態の判定が困難であったが,糸球体由来赤血球が疑われた4症例のRPGNを経験した。これらの検査所見の傾向,特徴について報告する。

II  症例

1. 症例1

86歳,女性。腎生検は施行せず,臨床所見からANCA関連腎炎,RPGNと診断された。血液検査は,尿素窒素37.9 mg/dL(基準値:8.0–20.0 mg/dL),クレアチニン4.40 mg/dL(基準値:男性;0.65–1.07 mg/dL,女性;0.46–0.79 mg/dL),推算糸球体濾過量(eGFR)7.9 mL/min/1.73 m2であった(Table 1)。自己抗体検査は,MPO-ANCA 75.0 U/mL(基準値:3.5 U/mL未満)であった。尿検査では,尿定性は,蛋白(1+),潜血(3+),尿沈渣は,赤血球100個以上/HPF(糸球体型赤血球:20%),尿細管上皮細胞20–29個/HPF,硝子円柱(−),顆粒円柱5–9個/HPF,ろう様円柱(1+),上皮円柱(1+),赤血球円柱(1+),幅広円柱(1+),UF-1000i(シスメックス社)の赤血球形態情報(RBC-Info.)はMixed?であった。赤血球は,脱ヘモグロビン状態のものが混在し,全体的な出現パターンは多彩性,大小不同に乏しく,判定が困難であったが,ドーナツ状不均一赤血球,有棘状不均一赤血球が検出され,糸球体型赤血球20%に判定した(Figure 1)。

Table 1  患者属性と臨床検査結果,下部尿路疾患の有無
症例 1 2 3 4
年齢(歳) 86 80 76 70
性別 女性 男性 男性 男性
血液 BUN(mg/dL) 37.9 33.0 43.6 55.3
クレアチニン(mg/dL) 4.40 4.34 2.92 6.44
eGFR(mL/min/1.73 m2 7.9 11.1 17.3 7.5
PR3-ANCA(U/mL) 1.0未満 21.9 1.0未満 52.1
MPO-ANCA(U/mL) 75.0 125.0 1.0未満 1.0未満
抗GBM抗体(U/mL) 39.1 2.0未満 2.0未満
尿 外観 血尿
 尿定性 pH 5.0 6.5 5.5 5.5
比重 1.009 1.020 1.015 1.012
蛋白 (1+) (3+) (2+) (2+)
ブドウ糖 (−) (−) (2+) (−)
潜血 (3+) (3+) (3+) (3+)
ウロビリノーゲン (±) (1+) (±) (±)
ビリルビン (−) (−) (−) (−)
ケトン体 (−) (−) (−) (−)
白血球 (1+) (−) (1+) (2+)
亜硝酸塩 (−) (−) (−) (−)
 尿沈渣 赤血球 100個以上/HPF 100個以上/HPF 30–49個/HPF 100個以上/HPF
糸球体型赤血球 20%
白血球 5–9個/HPF 1–4個/HPF 5–9個/HPF 30–49個/HPF
扁平上皮細胞 1個以下/HPF 1–4個/HPF 1–4個/HPF 1–4個/HPF
尿細管上皮細胞 20–29個/HPF 1個以下/HPF 1個以下/HPF 1–4個/HPF
硝子円柱 (−) 1–5個/LPF 6–15個/LPF 1–5個/LPF
顆粒円柱 5–9個/HPF 10–19個/WF 10–19個/WF 20–29個/WF
ろう様円柱 (1+) (2+) (1+)
上皮円柱 (1+) (1+) (1+)
赤血球円柱 (1+) (1+) (1+) (1+)
白血球円柱 (1+)
脂肪円柱 (1+)
幅広円柱 (1+)
卵円形脂肪体 (2+)
細胞集塊 (+)
 UF-1000i RBC-Info. Mixed? 判定不能 Mixed? 判定不能
下部尿路疾患の有無 悪性腫瘍 × × × ×
結石 × × × ×
カテーテル挿入 × × × ×
Figure 1 症例1尿沈渣標本(無染色 ×400)

糸球体型赤血球:20%

2. 症例2

80歳,男性。ANCA関連腎炎,RPGNと診断され,腎組織像は半月体形成性糸球体腎炎であった。血液検査は,尿素窒素33.0 mg/dL,クレアチニン4.34 mg/dL,eGFR 11.1 mL/min/1.73 m2であった。自己抗体検査は,PR3-ANCA 21.9 U/mL(基準値:3.5 U/mL未満),MPO-ANCA 125.0 U/mL,抗GBM抗体39.1 U/mL(基準値:3 U/mL未満)であった。尿検査では,尿定性は,蛋白(3+),潜血(3+),尿沈渣は,赤血球100個以上/HPF(糸球体型赤血球:−),尿細管上皮細胞1個以下/HPF,硝子円柱1–5個/LPF,顆粒円柱10–19個/WF,ろう様円柱(2+),赤血球円柱(1+),脂肪円柱(1+),卵円形脂肪体(2+),UF-1000iのRBC-Info.は判定不能であった。赤血球は,脱ヘモグロビン状態のものが混在し,全体の出現パターンは多彩性,大小不同に乏しく,個々の形態は糸球体型赤血球に該当しなかった。そのため,糸球体型赤血球が陽性であると判定することができなかった。

3. 症例3

76歳,男性。RPGNと診断され,腎組織像は膜性増殖性糸球体腎炎が疑われた。4カ月前に,ステロイドパルス,経口副腎皮質ステロイドによる治療が行われていた。血液検査は,尿素窒素43.6 mg/dL,クレアチニン2.92 mg/dL,eGFR 17.3 mL/min/1.73 m2であった。尿検査では,尿定性は,蛋白(2+),潜血(3+),尿沈渣は,赤血球30–49個/HPF(糸球体型赤血球:−),尿細管上皮細胞1個以下/HPF,硝子円柱6–15個/LPF,顆粒円柱10–19個/WF,ろう様円柱(1+),上皮円柱(1+),赤血球円柱(1+),白血球円柱(1+),UF-1000iのRBC-Info.はMixed?であった。赤血球は,脱ヘモグロビン状態のものが混在し,全体的な出現パターンは多彩性,大小不同に乏しかった。個々の赤血球形態を観察すると,コブ・ドーナツ状不均一赤血球,有棘状不均一赤血球が疑われる赤血球をわずかに認めたが,形態的に糸球体型赤血球に該当しなかった。そのため,糸球体型赤血球が陽性であると判定することができなかった(Figure 2)。

Figure 2 症例3尿沈渣標本(無染色 ×400)

糸球体型赤血球:−

4. 症例4

70歳,男性。腎生検は施行せず,臨床所見からANCA関連腎炎,RPGNと診断された。血液検査は,尿素窒素55.3 mg/dL,クレアチニン6.44 mg/dL,eGFR 7.5 mL/min/1.73 m2であった。自己抗体検査は,PR3-ANCA 52.1 U/mLであった。尿検査では,尿定性は,蛋白(2+),潜血(3+),尿沈渣は,赤血球100個以上/HPF(糸球体型赤血球:−),尿細管上皮細胞1–4個以下/HPF,硝子円柱1–5個/LPF,顆粒円柱20–29個/WF,上皮円柱(1+),赤血球円柱(1+),細胞集塊(+),UF-1000iのRBC-Info.は判定不能であった。

赤血球は,脱ヘモグロビン状態のものが混在し,全体的な出現パターンは多彩性,大小不同に乏しかった。個々の赤血球形態を観察すると,ドーナツ状不均一赤血球が疑われる赤血球をわずかに認めたが,形態的に糸球体型赤血球に該当しなかった。そのため,糸球体型赤血球が陽性であると判定することができなかった(Figure 3)。

Figure 3 症例4尿沈渣標本(Sternheimer染色 ×400)

糸球体型赤血球:−

III  考察

本4症例のRPGNのうち,3例がANCA関連腎炎と診断された。ANCA関連腎炎の内訳は,86歳女性がMPO-ANCAのみ陽性,70歳男性がPR3-ANCAのみ陽性,80歳男性がANCA,抗GBM共陽性であった。急速進行性腎炎症候群の診療指針第2版2)では,RPGN症例にてMPO-ANCA,PR3-ANCA,抗GBM抗体の3つの血清マーカーすべてを検査した症例1,772例の項目別の例数が示されている。①MPO-ANCAのみ陽性:705例(39.8%),平均年齢64.4歳,男性42.6%,②PR3-ANCAのみ陽性:34例(1.9%),平均年齢53.6歳,男性70.6%,③MPO-ANCA,PR3-ANCA共陽性:37例(2.1%),平均年齢61.5歳,男性54.1%,④ANCA・抗GBM抗体共陽性:48例(2.7%),平均年齢65.3歳,男性29.2%と記載されている。今回の症例は違う傾向を示したが,PR3-ANCA単独陽性例は有意に若年,男性に多く,抗GBM抗体同時陽性例は女性に多く,血清マーカーのタイプは性差,年齢差があると記載されている。

本4症例の検査所見は,尿素窒素の平均値が42.45 mg/dL(33.0–55.3 mg/dL),クレアチニンの平均値が4.53 mg/dL(2.92–6.44 mg/dL)と高値傾向であり,eGFRの平均値が10.95 mL/min/1.73 m2(7.5–17.3 mL/min/1.73 m2)で低値傾向であり,著しく腎機能が低下した症例であった。

尿検査においても,尿定性で1例が蛋白(1+),潜血(3+)であり,残りの3例は蛋白と潜血がともに(2+)以上であり,強陽性の傾向であった。蛋白尿は末期腎不全のリスクであり,蛋白尿単独よりも顕微鏡的血尿を伴う蛋白尿でより高い3)。糸球体疾患の病態を把握する際は,蛋白,潜血両方の結果の組み合わせを解釈することが重要である。

尿沈渣での赤血球数は,1例が30–49個/HPF,残りの3例が100個以上/HPFで,赤血球が多数出現した症例であった。赤血球形態は,1例が糸球体型赤血球20%に判定され,残りの3例は判定が困難であったために糸球体型赤血球を報告することができなかった。赤血球形態の特徴は,全体的な出現パターンは多彩性,大小不同に乏しく,脱ヘモグロビン状態の赤血球が混在している点が共通していた。非糸球体型赤血球はヘモグロビン色素に富み,糸球体型赤血球は脱ヘモグロビン色素の状態を示すことが多く1),赤血球形態の鑑別では,ヘモグロビン色素の状態を観察することは重要である。しかし,低浸透圧尿などの場合,非糸球体型赤血球でも脱ヘモグロビン状態を示すことがあり,この所見だけでは鑑別することができない。今回の症例で認められた脱ヘモグロビン状態の赤血球は糸球体型赤血球に判定することが困難であったが,ヘモグロビン色素に富んだ赤血球と混在していることで糸球体性血尿を疑う一つの要素になった。症例3,症例4は糸球体型赤血球には判定することができなかったがドーナツ状不均一赤血球,コブ・ドーナツ状不均一赤血球,有棘状不均一赤血球が疑われるものをわずかに認めた。糸球体型赤血球に判定することができなかった要因として,①全体の出現パターンが多彩性,大小不同に乏しい,②個々の形態は不均一状の構造が乏しく典型的な不均一赤血球の形に該当しない,③JCCLS尿沈渣検査法指針提案GP1-P4では,×400(対物レンズ40×)1視野に認められる赤血球の中で,糸球体型赤血球と判定できる赤血球が5~9個以上認められた場合から判定すると記載がある4)。ドーナツ状不均一赤血球,コブ・ドーナツ状不均一赤血球,有棘状不均一赤血球が疑われるものをわずかに認めたが,5個未満であったことが挙げられる。

尿沈渣で,糸球体性血尿による赤血球が糸球体型赤血球を呈するには,いくつかの条件が必要であると考えられている5)。その条件は,①損傷糸球体基底膜通過の際の「機械的ダメージ」,②ネフロン通過時の「浸透圧などによる急激な環境変化」,③両者混合であり,その条件に合致しない場合,変形が弱くなり,判定に苦慮することがある。堀田ら5)は,尿細管が強く障害されたネフロンの機能低下状態(腎不全)では糸球体からの出血があるにもかかわらず,腎機能は廃絶しているため尿細管での浸透圧変化が起こらず,赤血球形態に変化を示さないことがあると報告している。

また,医学検査尿沈渣特集号「第二部 尿沈渣検査」1)では,すべての血尿について赤血球形態を分類できるとは限らないことを認識する必要があると記載がある。糸球体型赤血球が出現するRPGNの症例も認められるが,著しく腎機能が低下した今回のようなRPGNの症例が,赤血球形態判定が困難で分類できない事例に該当すると考えられた。

他の尿沈渣成分は,尿細管上皮細胞,顆粒円柱はすべての症例で認められた。硝子円柱は3例で認められた。症例1は硝子円柱(−),顆粒円柱5–9/HPFであり,高度に腎機能が障害されていたことが推測された。米山ら6)は,硝子円柱系と顆粒円柱系(顆粒円柱,ろう様円柱)の出現数のバランスが重要であり,硝子円柱系と比べて,顆粒円柱系が優位に出現するに伴って血清クレアチニンは明らかに異常高値を示し,顆粒円柱系の出現はより高度な腎障害を示すことを報告している。また,腎機能低下と関連があるろう様円柱は,3例で認められた。上皮円柱は3例,白血球円柱は1例,脂肪円柱は1例,幅広円柱は1例で認められた。赤血球円柱は4例すべてで認められた。すべての症例において,様々な円柱が認められ,多彩な尿沈渣像を示した。赤血球円柱はネフロンにおける出血を意味し,糸球体疾患を示唆する成分である。赤血球円柱の出現数は本4症例すべてにおいて,1~数個/WFであり,わずかに出現している程度であった。今回の症例では,赤血球形態の判定が困難であったが,脱ヘモグロビン状態の赤血球が混在,多彩性,大小不同に乏しい特徴,顆粒円柱,ろう様円柱を含めた多彩な円柱の出現,eGFR低値を示すような著しい腎機能低下と,尿定性の蛋白,潜血強陽性,UF-1000iのRBC-info.の結果から病態を推測し,糸球体性血尿を疑うことが可能であった。そのため,詳細に赤血球円柱を探し,すべての症例で認められた。赤血球円柱の出現数はわずかな場合があるため,スライドガラスを追加して,2,3枚鏡検することで赤血球円柱の検出感度を上げることも時に必要である。

UF-1000iのRBC-Info.は,2例がMixed?と判定された。全自動尿中有形成分分析装置UF-1000iはフローサイトメトリー法を原理としており,赤血球の大きさの指標,多彩性の指標のパラメーターの組み合わせにより,3つの赤血球形態情報(RBC-Info.)が表示される。Isomorphic?は非糸球体由来の血尿と推定されるもの,Dysmorphic?は糸球体由来の血尿と推定されるもの,Mixed?はどちらとも推測されないものとして表示される7)。影山ら8)は,RBC-Info.のDysmorphic?が糸球体型赤血球を示し,Isomorphic?は非糸球体型赤血球を示すという情報の信頼性は高いが,Mixed?の解釈に関して不明な点が多いと報告した。また,糸球体型赤血球・大部分がDysmorphic?,糸球体型赤血球・中等度がMixed?になると仮定した場合,感度はそれぞれ59.1%,81.8%で概ね一致していたと報告した。今回の症例では,2例がMixed?に判定され,そのうち1例が糸球体型赤血球20%,1例が糸球体型赤血球(−)であった。赤血球形態の判定が困難ではあったが,RBC-Info.の結果も参考にすることで糸球体性血尿を推測することが可能であった。RBC-Info.は,尿沈渣検査で赤血球形態を判定する際の有用な参考所見であると考えられる。

本4症例の非糸球体性血尿の原因になる疾患(悪性腫瘍,結石症,カテーテル挿入など)の有無は,カルテに記載されていなかった。しかし,糸球体疾患が強く疑われる場合でも,糸球体以外の尿路系疾患が存在する可能性を否定することはできない9)。下部尿路の出血(非糸球体性血尿)の可能性を念頭に入れながら,尿沈渣を鏡検する必要がある。

IV  結語

尿沈渣検査では,赤血球形態の判定が困難な場合があり,すべての血尿について分類できるとは限らない。その事例の一つとして,腎機能が廃絶した状態のRPGNが挙げられる。今回のRPGNの症例では,赤血球形態の判定が困難でも,脱ヘモグロビン状態の赤血球が混在,多彩性,大小不同に乏しい特徴,赤血球円柱,顆粒円柱,ろう様円柱を含めた多彩な円柱の出現,eGFR低値を示すような著しい腎機能低下と,尿定性の蛋白,潜血強陽性,UF-1000iのRBC-Info.から病態を推測し,糸球体性血尿を疑うことが可能であった。糸球体性血尿と関連がある赤血球円柱は出現数がわずかな場合があるため,今回の症例のような尿沈渣像のパターンと他の検査結果から糸球体性血尿を疑い,赤血球円柱を検出するため,詳細に鏡検することも重要である。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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