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技術論文
E型肝炎ウイルスの遺伝子型3および4型株迅速鑑別のためのマルチプレックスreal-time RT-PCR法における検出試薬の比較検討
小林 悠飯田 樹里坂田 秀勝松林 圭二佐藤 進一郎生田 克哉紀野 修一
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2021 年 70 巻 4 号 p. 740-747

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Abstract

E型肝炎ウイルス(HEV)はE型肝炎の原因ウイルスであり,本邦では遺伝子型3型と4型が検出されている。北海道では高病原性である4型が他地域よりも高率に検出されるため,われわれは3型と4型を迅速に鑑別可能なマルチプレックスreal-time RT-PCR法(鑑別PCR)を開発した。今回,遺伝子型およびHEV RNA濃度既知の献血者由来検体を対象に,リアルタイムPCR試薬であるQuantiTect Probe RT-PCR Kit(従来試薬)およびReliance One-step Multiplex RT-qPCR Supermix(BIO-RAD,A試薬)を用いて,鑑別PCRにおいて感度などに変化があるかを検討した。各遺伝子型のリニアダイナミックレンジは,3型に対しては同等で,4型に対してはA試薬が従来試薬よりも線形区間が10倍広範囲であった。PCR効率は,3型で109.9% vs. 108.3%,4型で89.7% vs. 97.1%であり,血漿1,000 μL使用時の検出感度は,3型で20 IU/mL vs. 19 IU/mL,4型で66 IU/mL vs. 16 IU/mLであった(いずれも従来試薬vs. A試薬)。A試薬により4型に対するPCR効率および検出感度は向上し,高病原性である4型の感染者において遺伝子型情報をより早期に提供可能であり,その後の治療に有用と考えられた。

Translated Abstract

Hepatitis E virus (HEV) is the causative pathogen of hepatitis E, and genotypes 3 and 4 strains are detected in Japan. Since highly pathogenic genotype 4 strains are more frequently detected in Hokkaido than in other regions, we developed a multiplex real-time reverse transcription (RT) polymerase chain reaction (PCR) assay to rapidly discriminate between genotypes 3 and 4 (D-PCR). To improve the sensitivity of D-PCR to genotype 4, we compared the performance between QuantiTect Probe RT-PCR Kit (conventional reagent) and Reliance One-Step Multiplex RT-qPCR Supermix (BIO-RAD, A reagent) using HEV RNA-positive samples, the HEV RNA concentrations and genotypes of which were already determined. The linear dynamic range of A reagent for genotype 3 was similar to that of the conventional reagent, whereas that for genotype 4 was 10 times wider than that of the conventional reagent. The PCR efficiencies using the conventional reagent and A reagent were respectively 109.9% vs. 108.3% for genotype 3 and 89.7% vs. 97.1% for genotype 4. The sensitivities of PCR using the conventional reagent and A reagent when using 1,000 μL of plasma were respectively 20 IU/mL vs. 19 IU/mL for genotype 3 and 66 IU/mL vs. 16 IU/mL for genotype 4. As the efficiency and sensitivity of D-PCR have been improved by using A reagent, D-PCR can rapidly determine genotypes at an earlier stage than before, especially for individuals infected with the highly pathogenic genotype 4 strains, and promptly provide genotype information useful for subsequent treatments.

I  はじめに

E型肝炎ウイルス(HEV)はエンベロープをもたない一本鎖RNAウイルスであり,E型肝炎の原因ウイルスとして世界的に広く分布している。これまで先進諸国においては輸入感染症として知られていたが,近年では海外渡航歴のない患者などからもHEVが検出されており,各国で土着株の存在が確認されている1)。ヒトへの感染性を有するHEVの遺伝子型には少なくとも1~4および7型2)があり,本邦では主に3型および4型が検出される3)。これらはブタやイノシシ,シカなどにも感染する人獣共通感染症であるため,HEVに感染した動物の内臓肉などを十分に加熱しないで摂取することにより感染する可能性がある4)。また,4型は3型よりもヒトに対する病原性が高く,北海道では他地域よりも高率に4型が検出されている3),5)。さらに,北海道から本邦初となるHEV輸血感染事例を含む2例が報告されたことから6),7),血液センターでは,2005年1月から北海道の献血者を対象として20本プールHEV核酸増幅検査(NAT)を8),また2014年8月からHEV個別NATを試行的に実施してきた。その後,北海道外でHEV輸血感染例が報告されるようになったため9),2020年8月からB型肝炎ウイルス,C型肝炎ウイルス,ヒト免疫不全ウイルス1型,2型およびHEVを同時検出可能であるNATスクリーニング(Procleix® UltrioPlex E Assay,グリフォルス)を全国的に導入した。

HEV NAT陽性献血者に対しては,医療機関への受診勧奨および献血制限に係る通知文を発送している。また,他地域に比べ4型の検出頻度が高い北海道では,HEV NAT陽性検体についてin-house real-time RT-PCR(定量PCR)10)によるHEV RNA定量,enzyme-linked immunosorbent assayによる抗体検査および分子系統樹解析による遺伝子型決定を行っており,通知文に検査結果を追加記載している。しかし,遺伝子型決定までに数日を要していたため,迅速に遺伝子型の情報を提供するのが困難であった。そこで,われわれは3型および4型を迅速に鑑別する検査法としてマルチプレックスreal-time RT-PCR法(鑑別PCR)を開発した10)。これを定量PCRと同時に実施することにより検査時間を約4.5時間と大幅に短縮できたため,その後の治療方針検討等に有用な遺伝子型情報を迅速に提供可能となった。また最近,マルチプレックスreal-time RT-PCRに適した試薬がいくつか市販されているため,今回,病原性の高い4型に対する検出感度の向上を目的として,鑑別PCRに用いる試薬について候補品を選択し,それらについて性能比較を行ったので報告する。

II  方法

1. 対象

既報9)のHEV NATスクリーニング陽性かつ定量PCRによりHEV RNA陽性であった北海道の献血者由来血漿検体106件を使用した。なお本研究は,日本赤十字社血液事業研究倫理審査委員会による承認(倫理審査番号:2019-032)を受け実施した。

2. リアルタイムPCR試薬

鑑別PCRに用いるリアルタイムPCR試薬には,QuantiTect Probe RT-PCR Kit(QIAGEN,以下従来試薬),Reliance One-Step Multiplex RT-qPCR Supermix(BIO-RAD,以下A試薬)およびQuantiFast Multiplex RT-PCR Kit(QIAGEN,以下B試薬),TaqPath 1-step Multiplex Master Mix(Thermo Fisher Scientific,以下C試薬)を使用した。

3. 鑑別PCR

鑑別PCRには,既報11)のプライマーおよびプローブを使用した。MinElute Virus Spin Kit(QIAGEN)を用いて検体200 μLから溶出量40 μLで核酸を溶出後,そのうち10 μLをPCR鋳型として使用し,反応液量は従来試薬およびB試薬で25 μL,A試薬およびC試薬で20 μLとした。各試薬におけるプライマー・プローブの終濃度は既報10)に従い,7500リアルタイムPCRシステム(Thermo Fisher Scientific)を用いて,50℃/30分,95℃/15分の後,94℃/15秒,60℃/1分を50サイクル実施し,各遺伝子型の特異蛍光を検出した。なお,threshold line(閾値)は,増幅曲線の指数関数的増幅領域と交差する位置に設定し,baselineはstart:3,end:15とした。

4. リニアダイナミックレンジ

3型の検体には国内標準品の原料血漿(JRC-HE3)11)を,また4型の検体には遺伝子型既知である北海道の献血者由来HEV RNA高濃度血漿を選択し,5%(w/v)ウシ血清アルブミン含生理食塩水(5% BSA-Sal)を用いて各々10倍連続段階希釈した(3型:101.7~106.7 IU/mL,4型:102.0~107.0 IU/mL)。各希釈検体200 μLから核酸を抽出し,鑑別PCRを実施した。その後,横軸にHEV RNA濃度,縦軸に増幅曲線が閾値と交差するサイクル数(Ct)をそれぞれプロットし,対数近似による検量線を作成した。得られた検量線から決定係数(R2)を算出し,リニアダイナミックレンジを評価した。

5. PCR効率

上述した各遺伝子型の連続希釈検体について鑑別PCRを実施した後,検量線を作成した(N = 8)。その後,得られた検量線の傾き(slope)からPCR効率の平均値(mean; M),標準誤差(standard error; SE)および変動係数(coefficient of variation; CV)を算出した。なお,リアルタイムPCRにおいて,1サイクルで鋳型が完全に2倍に増幅される場合,slopeは−3.332,PCR効率は100%となる。また,一般的にslopeは−3.100~−3.600,PCR効率は90%~110%が適正であるとされているため,これらを評価基準とした。

6. 精度

北海道献血者由来のHEV RNA陽性検体(3型1件,4型1件)を,5% BSA-Salを用いて100 IU/mLに希釈した後,各検体について鑑別PCRにより8回連続測定し,Ctの平均値,標準偏差(standard deviation; SD)および変動係数を算出した。

7. 特異性

2019年9月から2020年8月までの北海道の献血者由来HEV RNA陽性検体100件について,既報6),7),12)に基づきHEV RNAの定量,鑑別PCRおよびopen reading frame(ORF)1/326 ntとORF 2/412 nt領域における1st RT-PCR,2nd PCRを実施した。なお,増幅産物が得られない場合は,使用検体量を1,000 μLまで増やし複数回実施した。その後,ABI PRISM 3130xl(Thermo Fisher Scientific)を使用してdirect sequencingにより塩基配列を決定し,ソフトウェアMEGA613)を用いて,neighbor-joining methodによる分子系統樹を作成し,遺伝子型を決定した。その後,鑑別PCRと分子系統樹解析で遺伝子型判定結果を比較した。さらに,既報10)において従来試薬を用いて解析した過去1年分(120件)の結果と比較した。なお,HEV RNA濃度が50 IU/mL以下または検体200 μL使用時に検出できなかった検体については,検体1,000 μLを使用した。

8. 検出感度

検出感度(95%検出限界)の評価には,HEV陽性検体4件(3型2件および4型2件)を対象とした。詳細は,3型はサブジェノタイプ3aおよび3bから,4型はクラスターの異なる4c-K(Kitami/Abashiri株)14)および4c-S(Sapporo/New Sapporo株)15)から各1件を選択した。各検体を,5% BSA-Salを用いてHEV RNA濃度が200,100,50,25,12.5,6.25,3.125 IU/mLとなるように2倍連続段階希釈した。その後,各希釈検体200 μLから上述の方法で核酸を溶出後,溶出液10 μLを鋳型として鑑別PCRを実施した(N = 24)。

9. 統計処理

統計ソフトにはGraphPad Prism9を用いた。試薬間におけるslopeおよびPCR効率の比較にはMann-Whitney U-testを用い,危険率(p)5%未満を有意差ありと判定した。また,プロビット分析により検体200 μL使用時の検出感度を算出し,併せて1,000 μL使用時について推定した。

III  結果

1. リニアダイナミックレンジ

従来試薬および候補品の試薬を用いて,各遺伝子型の連続希釈検体について鑑別PCRを実施し,得られた検量線をFigure 1に示す。リニアダイナミックレンジは,A試薬において3型で101.7~106.7 IU/mL,4型で102.0~107.0 IU/mLと最も広範囲であった。また,決定係数はA試薬において3型および4型ともにR2 = 0.999であり,直線性が最も良好であった。この結果より候補品からA試薬を選択し,以降の評価項目について従来試薬と比較した。

Figure 1 鑑別PCRにおける各リアルタイムPCR試薬の検量線

3型および4型の10倍連続希釈検体について,各リアルタイムPCR試薬を用いて鑑別PCRを実施後,対数近似による検量線を作成した。Ct:サイクル数,R2:決定係数

2. PCR効率

各遺伝子型の連続希釈検体について鑑別PCRを実施後(N = 8),得られた検量線から算出されたslopeとPCR効率の平均値,標準誤差および変動係数をTable 1に示す。従来試薬とA試薬のPCR効率は,3型では同等であったが,4型では従来試薬89.7%に対し,A試薬で97.1%と良好であった(p < 0.05)。

Table 1  従来試薬およびA試薬における各遺伝子型のPCR効率
3型 4型
従来試薬 A試薬 従来試薬 A試薬
slope PCR効率(%) slope PCR効率(%) slope PCR効率(%) slope PCR効率(%)
M −3.112 109.9 −3.145NS 108.3NS −3.607 89.7 −3.399* 97.1*
SE 0.045 0.024 0.045 0.022 0.063 0.021 0.040 0.016
CV(%) −3.82 5.88 −4.01 5.78 −4.90 6.55 −3.32 2.41

NS:not significant,*:p < 0.05(従来試薬 vs. A試薬),M:平均値,SE:標準誤差,CV:変動係数

3. 精度

3型および4型の希釈検体について8回連続測定した結果をTable 2に示す。従来試薬およびA試薬において,3型および4型ともにCV 3%未満と良好な結果であった。

Table 2  従来試薬およびA試薬における精度
3型 4型
従来試薬 A試薬 従来試薬 A試薬
M(Ct) 39.19 37.45 38.21 35.82
SD(Ct) 1.08 0.80 0.71 1.07
CV(%) 2.77 2.14 1.85 2.98

Ct:サイクル数,M:平均値,SD:標準偏差,CV:変動係数

4. 特異性

従来試薬とA試薬を用いて,HEV NAT陽性検体について鑑別PCRを実施した結果をTable 3に示す。両試薬ともに,分子系統樹解析および鑑別PCRどちらも解析可能であった検体において,遺伝子型判定結果は一致した。なお,鑑別PCRで解析できなかった検体(従来試薬14件,A試薬8件)については,HEV RNA濃度が従来試薬で平均7.5 IU/mL(1.1~31.6 IU/mL),A試薬で平均2.8 IU/mL(< 1~11.3 IU/mL)の低濃度検体であった。

Table 3  従来試薬とA試薬を用いた鑑別PCRおよび分子系統樹解析によるHEV陽性検体の遺伝子型鑑別結果
鑑別PCR 分子系統樹解析
3型 4型 解析不可
従来
試薬*
3型 100 0 0 100
4型 0 6 0 6
鑑別不可 13 1 0 14
113 7 0 120
A
試薬
3型 78 0 0 78
4型 0 14 0 14
鑑別不可 6 0 2 8
84 14 2 100

*:既報11)において解析した過去1年間分の結果を示した。

5. 検出感度

従来試薬およびA試薬における検体200 μL使用時の平均検出感度をTable 4に示す。従来試薬における平均検出感度は,検体1,000 μL使用時に3型で20 IU/mL,4型で66 IU/mLであり,A試薬では3型で19 IU/mL,4型で16 IU/mLと各々推定された。

Table 4  従来試薬およびA試薬における各HEV遺伝型パネルの検出感度
使用試薬 従来試薬 A試薬
遺伝子型 3型 4型 3型 4型
サブジェノタイプ 3a 3b 4c-K 4c-S 3a 3b 4c-K 4c-S
200 μL使用時の検出感度(IU/mL) 78 117 139 521 85 99 73 81
1,000 μL使用時の検出感度(IU/mL,理論値) 16 24 28 105 17 20 15 17
20* 66* 19* 16*

*:各遺伝子型の平均値,4c-K:Kitami/Abashiri株,4c-S:Sapporo/ New Sapporo株

IV  考察

Real-time PCRにおけるアッセイパフォーマンスの評価項目として,リニアダイナミックレンジ,特異性,精度,PCR効率および検出感度があり,そのうちダイナミックレンジの線形区間は105以上であることが理想とされている16),17)。また,決定係数は≥ 0.990であることが望ましく,1.000に近いほど信頼性の高い検量線であるとされている18)。本検討において候補として選択した試薬のうち,A試薬のダイナミックレンジおよび決定係数が最も良好であったため,従来試薬と他の項目について比較を行った。従来試薬とA試薬を用いた鑑別PCRにおいて,分子系統樹解析の結果と遺伝子型判定の乖離は認められなかったことから,A試薬は従来試薬と同等の特異性を有すると考えられた。なお,鑑別PCRでのみ鑑別不可であった検体(従来試薬14件,A試薬8件)については,HEV RNA濃度が31.6 IU/mL以下であり,大部分が本法の検出感度以下であった。希釈検体について8回連続測定した結果,精度は両試薬ともにCV 3%以下と良好な結果であった。また,PCR効率を比較したところ,3型では有意な差は認められなかったが,A試薬を用いることにより4型に対するPCR効率に有意な改善が認められた。鑑別PCRは,北海道の献血者から分離される頻度が高いサブジェノタイプ(頻度の高い順に3b,3a,4c)の検出に特化して開発したため,これらの検体を用いて各遺伝子型の平均検出感度を比較した結果,3型は同程度であったが,4型はA試薬のほうが従来試薬と比べ約4倍高かった。以上のことから,本検討における評価項目について,A試薬は従来試薬よりも4型のPCR効率および検出感度が優れていた。

従来試薬からA試薬に変更したことで,3型と4型では検出感度およびPCR効率の向上に差が認められた。鑑別PCRでは,3型はORF2/3,4型はORF1を検出領域としているため,それぞれRNAの二次構造が異なる可能性がある。一般的に,高いGC含量や複雑な二次構造を形成するRNAテンプレートは,逆転写反応でのcDNA合成を阻害するため,検出感度が低下する原因となる19)。また,試薬中に含まれる逆転写酵素は種類により機能活性や性質等が異なるため,同じRNAテンプレートにおいても反応性に差が生じる場合がある。添付文書によると,従来試薬とA試薬では,試薬中に含まれる逆転写酵素の種類に相違がみられた。また,逆転写反応の推奨時間は従来試薬では50℃/30分であったが,A試薬では50℃/10分と従来法に比べ3倍短かった。これらの要因から,両試薬で4型検出領域のRNAテンプレートに対する逆転写の反応性が異なったことにより,3型と4型とで検出感度の向上に差が生じた可能性が推察された。一方,PCR効率に影響を及ぼす要因には,DNAポリメラーゼ,プライマー間の相互作用およびバッファー組成などがある。DNAポリメラーゼおよびプライマー・プローブはリアルタイムPCRの反応性に大きく影響する因子である17)。またマルチプレックスPCRは,シングルプレックスPCRと比較して使用するプライマー・プローブが多いため,それぞれが干渉するリスクが高い。そのため,一般的にマルチプレックスPCR試薬はプライマー・プローブ間の相互作用を低減させる仕様になっている。加えて,バッファー組成によってアニーリング温度が変化する場合がある。本研究で,使用する試薬の種類により鑑別PCRにおける反応性が大きく変化したが(Figure 1),試薬によってDNAポリメラーゼの種類やその数,反応安定化剤およびイオン組成などがそれぞれ異なっていた。これらのことから,A試薬を用いたことで4型のPCR効率が向上した要因として,1)DNAポリメラーゼが鑑別PCRの反応条件により適していたこと,2)プライマー・プローブの鋳型に対する反応特異性が向上したこと,3)鑑別PCRにおいてA試薬使用時のアニーリング温度が適していたことなどが考えられた。

試薬以外にも,リアルタイムPCR装置およびPCR条件の変更も反応性に影響することが報告されている20),21)。他のリアルタイムPCR装置(2機種)を用いて鑑別PCRを実施したところ,装置により検出結果に差が生じることが確認された(データ未掲載)。PCR効率や特異性は正確な温度制御に依存するため,温度サイクル制御機構や温度変化速度の違いによって反応性に差異がみられた可能性がある。リアルタイムPCRでは測定結果に影響を及ぼす要因が非常に多いため,各施設の実施環境に応じて使用する試薬や機器,PCRサイクルなどの至適条件を検討することは極めて重要である。

2020年8月からHEV NATが全国導入され,輸血用血液の安全性が高まったが,北海道のHEV陽性献血者の約1割から4型が検出されている8)。一方で,北海道外のイノシシやシカからも4型が分離されており,その摂食による感染例も報告されている22)。2011年10月にE型肝炎の診断用に抗HEV-IgA抗体検出用診断薬が保険収載されて以来,患者届出数は年々増加し,ここ数年は全国で400人/年を超えた23)。しかし,HEV-IgA抗体が検出される時期は限られるため,HEV感染の確認には,HEV RNA検査および抗体検査を併用することが望ましいと報告されている24)。本検討後,従来試薬からA試薬へ変更し,4型に対する検出感度が向上したことで,高病原性である4型の感染者において,HEV感染後のより早い段階で遺伝子型の鑑別が可能となった。さらに,鑑別PCRはHEV RNA定量と同時に実施可能であるため,献血者の健康管理の一助となるだけでなく,E型肝炎患者の診断や治療方針の決定および経過観察等にも有用である。

V  結語

鑑別PCRにおいて,従来試薬からA試薬に変更したことで,高病原性である4型の検出感度が向上した。HEV RNA定量と同時に実施できる本法は,献血者の健康管理の一助となるだけでなく,E型肝炎患者の診断および治療方針の決定等にも有用と考えられる。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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