2022 年 71 巻 2 号 p. 313-317
今日,磁気共鳴断層画像診断装置の発達により磁気共鳴胆管膵管撮像(magnetic resonance cholangiopancreatography; MRCP)は胆管膵管像を高分解能で描出することが可能になり,更に低侵襲であることからその臨床的意義は非常に大きなものとなった。MRCPの原理はT2強調画像により,T2値が長い水を対象として撮像を行うhydrographyを基本とした方法である。つまり,膵管や胆管が描出されるためにはT2値が長い物質が存在している必要があるため,日内変動による膵液量の多寡により膵管の描出度合いが異なることが考えられる。膵液の日内変動に関しては若杉らにより1987年に食事を摂取しない際も膵液量の分泌リズムが存在することが報告されているため,今回は膵液の日内変動によるMRCPへの影響に関して検討を行った。具体的には,若杉らの報告に基づき,膵液が比較的分泌される朝6時から8時の間,最も分泌が亢進する12時から14時の間,そして最も分泌量が低下する18時から22時の3つの時間帯の間で健常人ボランティアに協力を得てMRCP撮像を行い,膵管の視覚的評価及び,信号値の測定にて評価を行った。その結果,若杉らにより報告されたヒト純粋膵液分泌のサーカディアンリズムに関する報告と,MRCP撮像における膵管の描出能の変化に関連性は見られなかった。
With the advancement of magnetic resonance imaging (MRI), magnetic resonance cholangiopancreatography (MRCP) can now be used to obtain high-resolution images of the pancreatic and biliary ducts. MRCP, which is an imaging method based on hydrographs, is less invasive and has gained clinical significance. It uses heavily T2-weighted MRI pulse sequences that show high-intensity signals in fluids within the biliary and pancreatic ducts. Therefore, its capability to extract images of the pancreatic duct is affected by the quantity of fluids within the pancreatic duct, which may vary depending on the circadian rhythm. The circadian rhythm of human exocrine pancreatic secretion was observed even without food intake (Wakasugi et al., 1987). We investigated the effect of the circadian rhythm of the pancreatic secretion on the image extraction capability of MRCP. On the basis of a report, we took MRCP images of the pancreatic duct of healthy volunteers three times a day: once between 6:00 and 8:00 (medium pancreatic secretion), once between 12:00 and 14:00 (peak secretion), and once between 18:00 and 22:00 (minimum secretion). We evaluated the MRCP images visually and in terms of the signal intensity. From the results of this study, however, we were not able to establish an association between the image extraction capability of MRCP and the circadian rhythms in human exocrine pancreatic secretion as pointed by Wakasugi et al.
磁気共鳴胆管膵管撮像(magnetic resonance cholangiopancreatography; MRCP)の原理は長いエコー時間(echo time; TE)を用いることで,膵液や胆汁を特異的に描出する撮像法である1),2)。1回の息止めで撮像が可能であること,そして侵襲性が低いことから昨今,MRCPの需要は高まってきており多くの人間ドック受診者が検査を希望するようになってきている。
このような背景の中で,臨床検査技師がより品質の高い撮像を行う技術や知識を得ることは,病変の早期発見に繋がるのと同時に,医療の発展に欠くことができないものである。
現在では医療機器の目覚しい進歩により,オペレーターの手技に依存することなく,ある一定の品質を保った撮像を行うことができるようになってきた。しかし,日常のルーチン検査において,稀に膵管の描出が不良となるケースに遭遇することがある。その要因は,被験者の体格や膵管の解剖学的な走行性,膵液分泌の増減など様々なものがあると考えられるが,その要因の1つである膵液分泌に関して,1995年にThaelaら3)により豚の膵外分泌能,及び膵内分泌能に日内変動が存在することが報告された。また,1987年に若杉ら4)により,ヒト純粋膵液分泌のサーカディアンリズムに関する報告がなされた。若杉らの報告によると,膵頭十二指腸切除術を施行した患者に対して膵外瘻を造設し,純粋膵液を6時より18時までの昼間は2時間毎に,18時より6時までの夜間は4時間毎に氷冷した試験管に膵液を採取し液量の測定を行ったところ,膵液の分泌は絶食時,及び摂食時にも分泌リズムが見られ絶食時の頂値は12時~14時に,摂食による分泌亢進は6時~10時に見られた。若杉らの報告をFigure 1に示す。
若杉らが報告した膵液分泌の推移を示したグラフ。
※矢印で示した時間帯に撮像を行った。
本検討では,膵液分泌の増減が膵管の描出能にどのような影響を及ぼすかを検討する。なお,本研究は医療法人鉄蕉会亀田総合病院臨床研究審査委員会の承認(No. 19-179)を得て行った。
使用機器は磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging; MRI)システムVantage Titan 1.5T(キャノンメディカルシステムズ社)を用いた。コイルにはAtlas SPEEDER Body及びAtlas SPEEDER Spine(キャノンメディカルシステムズ社)を用いた。
健常者ボランティア1名に対して撮像の同意を得て本検討を行った。検査実施6時間前絶食,更に検査実施2時間前から絶飲食としてMRCPを行う。シーケンスは2D FASE法にてsingle shotでの撮像を行った。繰り返し時間(ripetition time; TR)3,159 ms,撮像視野(field of view; FOV)25 × 25 cm,スライス厚70 mm,マトリックス数256 × 304,バンド幅(band width; BW)244 Hz,エコー時間(echo time; TE)765 ms,エコー間隔(echo train space; ETS)8.5 msの条件下で冠状断にて撮像を行った。撮像を行う時間に関しては若杉らのヒト純粋膵液分泌のサーカディアンリズムの変動に関する報告を参考にして,膵液の分泌が2時間あたり9 mL分泌されている6時~8時の時間帯,そして2時間あたり13 mL分泌されている12時~14時の時間帯,更に4時間あたり5 mL分泌されている18時~22時の時間帯に各3回ずつ合計9回の撮像を行った。その際に各回に息止めの不良による画像の劣化を考慮して数枚撮像し,その中から視覚的に最も鮮明に膵管が描出された画像を選び出した。
撮像した画像に対して視覚的評価及び,膵管の平均信号値にて評価を行った。まず,視覚的評価に関しては膵管を便宜上3つの区域(Figure 2)に等分し,膵頭部(pancreas head; Ph),膵体部(pancreas body; Pb),膵尾部(pancreas tail; Pt)として視覚的評価を行った。1区域が描出されていれば1点とし,3点を満点として評価を行った。信号値の評価として膵管に6.0 × 1.0 cmのROIを置き(Figure 3)平均信号値の測定を行い時間帯毎の平均信号値に有意差が見られるかを検討した。なお,統計解析には,JMP® 15.2(SAS Institute Inc., Cary, NC, USA)を使用し,反復測定二元配置分散分析による検定を行った。
膵管の描出能を視覚的評価するために膵管を3区域に分割した画像。
膵管の描出能を平均信号値として評価するために膵管にROIを置いた画像。
Figure 4に時間毎に撮像を行ったMRCP画像とその点数評価を示す。またFigure 5に画像の信号値を示す。各時間帯に撮像を行った画像を視覚的に評価すると,最も低い点数は膵液の分泌が頂値である12時~14時の時間帯,次いで点数が高かったのは分泌が比較的亢進する6時~8時,最も高い点数は,分泌が最も低値となる18時~22時であった。
視覚的評価を行った結果を示した画像。
上段6時~8時,中段12時~14時,下段18時~22時。
各時間帯に測定した膵管の平均信号値を示した画像。
更に得られた平均信号値から,反復測定二元配置分散分析にて,有意差の有無を検定したところF(2, 6) = 0.222,p = .807より,撮像を行った各時間帯における有意差は認められなかった。以上のことから,膵サーカディアンリズムとMRCPの描出能に関連性は認められなかった。
1987年に若杉らの報告により膵液の分泌にはサーカディアンリズムが存在することが明らかにされ,2006年には小島ら5)により内視鏡的逆行性胆管膵管造影(endoscopic retrograde cholangio pancreatography; ERCP)施行例におけるMRCPとERCPの適応に関しての報告がなされ,分枝型膵管内乳頭粘液性腫瘍に関しては,嚢胞の全体像をより正確に把握する上で,MRCPが有用であるとの報告がなされた。また,1998年には白須ら6)により3DMRCPとERCPの有用性の比較検討がされた。その中でERCPは造影剤が注入できない部位の描出は難しいが,3DMRCPでは膵管との連続性がなくても,嚢胞の描出が可能であり,その有用性が報告されている。
これらの報告を端緒として,日常ルーチン検査における膵管描出不良例となる原因の探索をするために,MRCPにおける膵液分泌の増減が画質へ及ぼす影響に関しての検討を行った。その結果,膵液分泌の増減による画質への有意差は乏しいと考えられる。
本検討の結果から次の2点のことが考えられる。まず1つは,膵液分泌のサーカディアンリズムは存在するものの,24時間を通してその分泌量には大きな差がないため,MRCPにおける膵管描出能にも有意差を認めない傾向であったと考えられる。
もう一点は,MRCP撮像のための撮像パラメーターが適切な値に設定されていなかったために,膵サーカディアンリズムを反映したMRCP画像を,描出することが出来なかった可能性がある。MRCP撮像のパラメーター設定に関しては2001年に高原7)により次のような報告がなされている。充分に太い胆管や膵管に関してはT2値が充分に長いが,分枝膵管のようなピクセルサイズと同じ大きさのものに関しては,必ずしもピクセル全体を膵液が満たさないために,見かけ上のT2値が短くなる。従って過剰に長いTE値は,細い管腔構造の描出には不利になり,太い部分のみが描出されることになる。つまり,描出対象物により撮像パラメーターを最適な設定にする必要がある。そのため,今回の検討を進めていく前に,まず適切なパラメーターの設定を十分に考慮し,視覚的評価及び信号値の評価を行う必要があったと考えられる。
なお,今回の検討では研究対象者が一名のため,これらの結果は一個人の結果として評価せざる得ないことが本検討の研究限界である。
本検討においては,膵サーカディアンリズムとMRCPの描出能における関連性は見られなかった。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。