2022 年 71 巻 2 号 p. 217-221
腱板断裂(rotator cuff tear; RCT)は,整形外科の領域において高頻度の疾患であり,症状としては強い痛みと機能障害がある。本研究の目的は,超音波検査(ultrasonography; US)を用いた簡易的に評価した腱板脂肪浸潤の程度と断裂サイズの関連性を解析し検討することである。対象は,2018年10月から2019年8月までに関節鏡視下腱板修復術の術前にUSを施行した22症例(男性17人,女性5人,平均年齢64.8 ± 11.5歳)とした。USの評価項目は,脂肪浸潤について棘上筋(supraspinatus; SSP)と棘下筋(infraspinatus; ISP)を軽度,中等度,高度の3 段階に分けて評価した。RCTについては,断裂なし,小断裂(不全断裂を含む),中断裂,大断裂以上に4分類し,脂肪浸潤との関連性について検討した。結果は,RCTのサイズと脂肪浸潤について,SSP,ISPともに有意な関連性を認めた(p < 0.05)。
Rotator cuff tear (RCT) is a frequently encountered orthopedic condition with significant pain and functional impairment. The purpose of this study was to determine relationship between tear size and the score of simplified assessment of fatty infiltration of the rotator cuff by ultrasonography. Twenty-two patients who underwent arthroscopic rotator cuff repair and preoperative ultrasonography from August 2018 to August 2019 (17 males; 5 females; mean age, 64.8 ± 11.5) were included in this study. RCT size was found to correlate significantly with the score of simplified assessment by ultrasonography.
腱板断裂(rotator cuff tear; RCT)は,肩関節痛の原因であり,整形外科の領域において高頻度の疾患である。腱板は関節の安定化機構として重要な役割を果たしており保存的治療が無効な症例には観血的治療が行われ,近年では関節鏡を用いた鏡視下腱板修復術(arthroscopic rotator cuff repair; ARCR)が普及している。
一方,骨や軟骨などの運動器領域の超音波検査(ultrasonography; US)においては,高周波プローブや画像処理能力の飛躍的な向上により詳細な情報を得ることが可能となった。RCTの診断に関してもUSは非常に有用であり,その診断能はMRIと同等である1)~3)。腱板内の脂肪浸潤評価に対しては,一般的にcomputed tomography(CT)やMRIが用いられている。著者らは以前よりUSによる筋内脂肪浸潤の簡便な評価法について検討を行っており,USを用いた簡易的な脂肪浸潤評価法とMRIによる評価について有意な相関関係があることを検証済みである1)。しかしながら,MRIの画像検査による検討では脂肪浸潤の程度とRCTサイズとの関連性についての報告がされているが4)~6),USを用いた報告は渉猟し得た限りない。本研究の目的は,USを用いた簡易的に評価した腱板脂肪浸潤の程度と断裂サイズの関連性を解析し検討することである。
2018年10月から2019年8月までの期間に当院でRCTに対して術前にUSを施行し,ARCRを行った22症例(男性17例,女性5例,平均年齢64.8 ± 11.5歳)を対象とした。なお,本研究は岐阜大学大学院医学系研究科医学部研究倫理審査委員会で審査承認を受けて実施した(承認番号29-316)。
2. 方法USは,GE Healthcare社製LOGIQ E9,探触子は6~15 MHzのリニア型プローブを用いて筋骨格超音波に精通した超音波検査士が測定した。USの評価項目は,棘上筋(supraspinatus; SSP)と棘下筋(infraspinatus; ISP)の脂肪浸潤とSSP,ISPのRCTについてサイズを評価し,関連性について検討した。
1) 腱板脂肪浸潤渡邉ら1)の方法に準じて軽度,中等度,高度の3段階で評価した。SSPは肩関節上方よりアプローチし,肩甲骨Y-viewが描出される部位でSSPの横断像を描出して筋内のエコー輝度を評価した(Figure 1)。ISPは,後方縦断走査で肩甲棘下よりアプローチし,肩峰角と肩甲棘内側端を結ぶ中点の尾方の部位でISPの横断像を描出し筋内のエコー輝度を評価した(Figure 2)。筋内エコー輝度の評価基準は,筋内に高エコーを認めない,または僅かに認めるものを軽度,筋内の50%未満に認めるものを中等度,50%以上に認めるものは高度とした(Figure 3)。
A: Probe position for imaging the supraspinatus muscle.
B: Sonogram of a cross section of the supraspinatus muscle. SSP: supraspinatus.
A: Probe position for imaging the infraspinatus muscle.
B: Sonogram of a cross section of the infraspinatus muscle.
ISP: infraspinatus.
A: mild, B: moderate, C: severe.
RCTの完全断裂はCofield分類7)において,小断裂,中断裂,大断裂,および広範囲断裂の4段階に分類される。USでは関節窩付近が確認できないため,我々はUS分類として肩関節を軽度進展位(Figure 4)にて外上方走査で上方腱板の長軸像を描出して断裂幅を計測し(Figure 5),断裂なし,断裂長が1 cm未満を小断裂,1~3 cmを中断裂,3 cm以上を大断裂以上(以下大断裂)の4段階に分類した。
Probe position for imaging the rotator cuff (modified Crass position).
GT: greater tuberosity; SSP: supraspinatus tendon; Del: deltoid muscle; arrowheads: edge of the tear of supraspinatus tendon; arrow: sagittal measurement of full-thickness tear distance.
年齢は平均 ± 標準偏差で示し,有意水準は5%未満とした。USによる脂肪浸潤の分類と断裂サイズの関連性についてはSpearmanの順位相関係数分析を行った。なお,解析には統計ソフト,JMP 10(SAS Institute Japan株式会社,東京)を使用した。
腱板脂肪浸潤の簡易評価と断裂サイズの関連性
RCTサイズは,断裂なしが3例(13.6%),小断裂が6例(27.3%),中断裂が7例(31.8%),大断裂が6例(27.3%)であった。
SSPの脂肪浸潤については,軽度が14例(63.6%),中等度が5例(22.7%),高度が3例(13.6%)であり,ISPの脂肪浸潤については,軽度が16例(72.7%),中等度が5例(22.7%),高度が1例(4.5%)であった。上方腱板のRCTサイズとSSP及びISPの関連性をFigure 6に示した。RCTサイズとUS簡易的評価による脂肪浸潤には有意な関連性が認められた(SSP: r = 0.566, p = 0.006, ISP: r = 0.697, p < 0.001)。
A: shows the relationship of tear size and fatty infiltration of the supraspinatus.
B: shows the relationship of tear size and fatty infiltration of the infraspinatus.
MRIによる検討では,RCTサイズと脂肪浸潤の関連性ついての報告がある4)~6)。しかしながら,MRIは日常診療において随時行われないため,USによる簡便な評価法が確立されれば,その有用性が高まる可能性が期待できると考える。本検討の結果,USによる腱板脂肪浸潤の簡易的評価と断裂サイズについて有意な関連性を認めた。
通常の肩関節の診療における腱板脂肪浸潤に関しては,MRIやCTによるGoutallier分類7)による評価が一般的であるが,近年ではUSを用いた脂肪浸潤評価も検討されている。Khouryら8)は,棘上筋の萎縮と脂肪浸潤の評価において,MRIとUSで良好な相関関係を認めたとしている。また,渡邉ら1)の報告においてもUSによる簡易的な腱板脂肪浸潤評価を用いたが,棘上筋・棘下筋ともにMRIと有意な正の相関関係を認めている。腱板脂肪浸潤の進展への関与については,一般的に断裂サイズと期間が知られている。Leeら4)によるMRIの検討においては,断裂サイズの増大に伴って脂肪浸潤は高度となることを示している。堀ら9)は,CTを用いた検討において断裂期間が長くなる程,断裂筋の脂肪浸潤の程度は高くなると報告している。本検討において,詳細な断裂期間を調査することは困難であるが,脂肪浸潤について従来法であるMRIと同様に,USによる簡易評価でもRCTのサイズに比例し脂肪浸潤がより高度になることが示された。CTやMRIでは,被曝,被検者に対する制約,また検査時間などの問題がある。一方,USは低侵襲的に検査を行うことができ,日常の診療において何度でも検査することができる。しかし,USにおけるRCTサイズの判定は,肩峰より中枢にビームが入射できないため,大断裂以上のRCTサイズ変化をとらえることが困難である。本検討において,腱板の脂肪浸潤はUSによる3段階の簡易的な評価によるが,断裂サイズと有意な相関を示したことにより,大断裂以上のRCTにおいて繰り返しUSを実施し,腱板の脂肪浸潤が進行している場合には断裂が拡がっている可能性が示唆される。
本研究の限界として,まず被検者が少ないことが挙げられる。また,本検討は既存データによる後ろ向き検討であるため加齢に伴う腱板断裂のサイズや脂肪浸潤の程度の変化が評価できていない。RCT患者は変性断裂や外傷性断裂である。本研究の対象症例では,詳細な痛み始めた時期や外傷の時期の特定が極めて困難であるため断裂期間を評価することができてない。今後,対象者を増やし,長期間におよぶ前向きな検討が必要であると考える。
本研究は,RCT患者におけるUSによる腱板脂肪浸潤の簡易評価と断裂サイズにおいて有意な関連性を報告した。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。