2022 年 71 巻 2 号 p. 222-230
(目的)ABO血液型不適合生体肝移植は,移植前にできるだけ多くの血液型抗A/B-IgGを除去することが重要であると考えられている。しかし,移植前の血液型抗A/B-IgGの抗体価に関係なく,超急性拒絶反応の存在を示唆する稀なケースが存在する。筆者らは,血液型抗A/B-IgGが拒絶反応に関与する免疫学的メカニズムを解明するため,血液型抗A/B-IgG1~4サブクラスの検出法を新たに開発した。(対象および方法)レシピエント20症例の血液型抗A/B-IgGについて,従来法の間接抗グロブリン法による抗体価およびフローサイトメトリー法を用いたtotal IgG,IgG1~4サブクラス,C1q結合抗体を測定した。(成績)本研究の結果から,肝移植前の血液型抗体IgG1~4サブクラスの分布比率は,IgG2(34.2%),IgG1(29.1%),IgG3(20.3%),IgG4(16.5%)の順であった。そして,ABO血液型不適合生体肝移植における強烈な拒絶反応には,特に血液型抗A/B-C1q結合抗体やIgG1またはIgG3の変化が重要と考えられた。(結論)したがって,これらの方法は,ABO血液型不適合生体肝移植での液性拒絶反応を回避するために有用な検出法になる可能性が示唆された。
[Introduction] In ABO-blood-type-incompatible living-donor liver transplantation, it is important to remove as much blood group anti-A/B-IgG antibodies as possible prior to transplantation. However, there are rare cases suggesting the presence of hyperacute rejection, regardless of the titer of the blood group anti-A/B-IgG antibodies before transplantation. We have developed a new detection method for measuring the titers of blood group anti-A/B-IgG1–4 antibody subclasses to elucidate the immunological mechanism of the blood group anti-A/B-IgG antibodies. [Materials and Methods] The titers of the blood group anti-A/B-IgG antibodies of 20 recipients were measured by the conventional indirect antiglobulin method, and the titers of the total IgG, IgG1–4 subclasses, and C1q-binding antibody were determined by flow cytometry. [Results] From the results of this study, percentage distribution of the blood group anti-IgG1–4 antibody subclasses before liver transplantation was in the order of IgG2 (34.2%), IgG1 (29.1%), IgG3 (20.3%), and IgG4 (16.5%). It was considered that changes in the blood group anti-A/B-C1q-binding antibody and IgG1 and IgG3 were particularly important for the strong rejection in ABO-blood-type-incompatible living-donor liver transplantation. [Conclusion] Results of this study suggest that the above-mentioned detection methods may be useful in ABO-blood-type-incompatible living-donor liver transplantation to prevent humoral rejection.
肝移植は,1963年に世界で初めてStarzlらによって施行され,欧米では脳死肝移植が中心である1)。しかし,本邦においては脳死移植が極端に少ないため,1989年2)より開始された生体ドナーからの部分肝移植が全体の約90%を占めている3)。そして,生体肝移植のドナーは,近親者に限られるため,臓器提供するドナーと臓器提供を受けるレシピエント間において血液型の組み合わせが異なるABO血液型不適合での生体移植となるケースも少なくない。
ABO血液型不適合生体肝移植では,ミスマッチとなる血液型抗A/B-IgG(血液型抗体)が,移植した臓器の機能低下の原因となる抗体関連型拒絶反応(antibody-mediated rejection; ABMR)を引き起こす危険因子になることもある。
この血液型抗体は,自然免疫抗体であるため完全に除去することは難しいが,臓器移植においてはその抗体除去がそれほど重要でないことは疫学的研究から明らかになってきている4)。しかし,どの程度まで血液型抗体を除去することが臓器生着の成功につながるのかについては未だ科学的な根拠はなく,経験に基づく血液型抗体除去率で施行されているのが現状である。
近年では,この血液型抗体によるABMRを抑制する目的として血漿交換療法(plasma exchange; PE)や二重濾過血漿交換療法(double filtration plasmapheresis; DFPP)など抗体除去を行うと共にキメラ型抗CD20モノクローナル抗体Rituximab(Rituxan; Genentech, Inc, South San Francisco, CA, and IDEC Pharmaceuticals, San Diego, CA)を使用することで移植後の血液型抗体価のリバウンドを抑制し,ABMRを回避するのに有効であったとの報告がなされている5)。
ABMRの抑制・回避には多くの方法が試みられているが,症例によっては,血液型抗体価の顕著な上昇を認めずABMRを引き起こす症例や一定量の血液型抗体価が維持されているにも関わらず移植臓器障害が生じない症例(臨床的免疫寛容)もあり,未だ免疫学的なメカニズムはすべて解明されていないのが現状である。
本研究では,血液型抗体に関して現行法の間接抗グロブリン法(indirect anti-globulin test; IAT)による単なるIgGの総量だけではなく,筆者らが以前報告したフローサイトメトリー法を用いた血液型抗体Total IgG6),補体結合能を有するヒト補体C1q結合性IgG抗体7)に加え,新たに考案した補体活性化能が異なるIgGサブクラス(IgG1, IgG2, IgG3, IgG4)について測定し,臨床症例においてそれぞれの反応性の違いを解析すると共にABMRとの関連性を解明する目的で臨床的検討を行った。
東京女子医科大学消化器外科において2012年12月から2021年3月までの期間にABO血液型不適合生体肝移植を施行した20症例のレシピエントを対象とした。その内訳は,O型レシピエント8例(移植時の年齢:平均値 ± 標準偏差47 ± 11歳,男性4名/女性4名),A型レシピエント8例(52 ± 7.2歳,男性3名/女性5名),B型レシピエント4例(55 ± 9.2歳,男性2名/女性2名)である。
対象症例の検体使用に関しては,観察研究とし,すべて個人同意を得た患者情報を匿名化して管理を行い,東京女子医科大学の倫理審査委員会承認(承認番号:2020-0076)のもとに実施した。
2. 方法被検血清を使用して血液型抗体についてIAT,フローサイトメトリー法を用いた血液型抗体Total IgG,血液型抗体IgGサブクラス(IgG1, IgG2, IgG3, IgG4),ヒト補体C1q結合性IgG:C1q(IgG)について測定した。いずれの検体もDithiothreitol(DTT; FUJIFILM Wako Pure Chemical Corporation Inc, Osaka, Japan)処理した。
1) 血液型抗体Total IgG測定法について被検血清とAB型ヒト血清(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO, United States)をDTT試薬で37℃,30分間静置反応させた。
DTT処理した被検血清とAB型ヒト血清をA1赤血球またはB赤血球浮遊液(DiaMed AG, Switzerland)に加え,室温30分間静置反応させた。
被検血清またはAB型ヒト血清と反応させた赤血球を3回洗浄し,Dako REAL Antibody Diluent(Dako, Denmark, A/S)で希釈したfluorescein-isothiocyanate (FITC)-conjugated anti-human IgG(Jackson Immunoresearch Laboratories, West Grove, Penn, United States)を加え,4℃にて遮光20分間静置反応させた。
静置反応させた赤血球を洗浄し,BD FACSCant II(Becton Dicknson and Company, San Jose, CA, USA)にて赤血球数10,000個を取り込んで解析した。
Total IgG判定は,Geometric mean(幾何平均)を用いて蛍光強度比(fluorescence intensity ratio; MFI-ratio)を算出し > 2.0を陽性とした。
2) 血液型抗体IgGサブクラス(IgG1, IgG2, IgG3, IgG4)測定法について被検血清とAB型ヒト血清をDTT試薬で37℃,30分間静置反応させた。
DTT処理した被検血清とAB型ヒト血清を赤血球浮遊液に加え,室温30分間静置反応させた。
被検血清またはAB型ヒト血清と反応させた赤血球を3回洗浄し,Dako REAL Antibody Diluentで希釈したFITC-anti-Human(IgG1: Code No. BS-AF006, IgG2: BS-AF007, IgG3: BS-AF008, IgG4: BS-AF009, The Binding Site, Birmingham, U.K.)をそれぞれ加え,4℃にて遮光20分間静置反応させた。
静置反応させた赤血球を洗浄し,BD FACSCant IIにて赤血球数10,000個を取り込んで解析した。
IgGサブクラス判定は,Geometric meanを用いてMFI-ratioを算出し> 2.0を陽性とした。
3) 血液型抗体C1q(IgG)抗体測定法について被検血清とAB型ヒト血清をDTT試薬で37℃,30分間静置反応させた。
DTT処理した被検血清とAB型ヒト血清を赤血球浮遊液に加え,室温30分間静置反応させた。
被検血清またはAB型ヒト血清と反応させた赤血球を3回洗浄し,Complement component C1q from human serum(Sigma-Aldrich, St. Louis, Mo, United States)を加え,室温20分間静置反応させた。
Dako REAL Antibody Diluentでanti-Human-C1q-FITC(Abcam, Cambridge, MA, USA)を加え,4℃にて遮光20分間静置反応させた。
静置反応させた赤血球を洗浄し,BD FACSCant IIにて赤血球数10,000個を取り込んで解析した。
C1q(IgG)判定は,Geometric meanを用いてMFI-ratioを算出し > 2.0を陽性とした。
二変量の相関関係は,累乗近似曲線を使用した。また,有意差検定は,JMP Pro16を使用しWilcoxon rank sum testで有意確率p < 0.05を有意差有りと定義した。
血液型抗体Total IgG,IgG1~4およびC1q(IgG)の陰性コントロール(NC)と被検血清のヒストグラムをFigure 1に示す。
AB型ヒト血清をNCとしてそれぞれのヒストグラムからGeometric meanの蛍光強度を算出した結果,それぞれの日差再現性について平均値(average)± 標準偏差(standard deviation; SD)においてTotal IgG(44 ± 6.5, n = 10),IgG1(32 ± 2.6, n = 10),IgG2(32 ± 1.4, n = 10),IgG3(34 ± 5.8, n = 10),IgG4(30 ± 1.7, n = 10),C1q(IgG)(27 ± 1.3, n = 10)であり,それぞれほぼ同等の蛍光強度で感度調整を行った。
2. 20症例の肝移植前における血液型別による血液型抗A/B-IgGについて1)血液型別による抗A/B-IgG測定結果をTable 1に示す。
症例No. | 抗B-IgG抗体(Ratio) | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
Total IgG | IgG1 | IgG2 | IgG3 | IgG4 | C1q(IgG) | IAT | |
9 | 328 | 136 | 94 | 1.6 | 2.2 | 6 | ×16 |
10 | 110 | 1.7 | 53 | 1.0 | 1.1 | 1.1 | ×2 |
11 | 6 | 1.3 | 2.2 | 1.1 | 1.1 | 1.1 | < ×2 |
12 | 49 | 4.7 | 5 | 1.2 | 1.0 | 1.1 | ×2 |
13 | 11 | 1.1 | 2.2 | 1.0 | 1.0 | 1.0 | < ×2 |
14 | 14 | 1.5 | 2.1 | 1.4 | 1.0 | 1.0 | < ×2 |
15 | 21 | 2.9 | 9 | 1.0 | 1.1 | 1.1 | ×16 |
16 | 42 | 22 | 1.0 | 1.0 | 1.0 | 1.1 | < ×2 |
症例No. | 抗B-IgG抗体(Ratio) | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
Total IgG | IgG1 | IgG2 | IgG3 | IgG4 | C1q(IgG) | IAT | |
1 | 1,979 | 147 | 1,778 | 83 | 20 | 403 | ×128 |
2 | 1,445 | 34 | 909 | 37 | 25 | 173 | ×128 |
3 | 141 | 21 | 51 | 2.3 | 1.9 | 4.4 | ×32 |
4 | 285 | 41 | 131 | 15 | 2.1 | 8.4 | ×8 |
5 | 144 | 44 | 44 | 2.8 | 2.1 | 6.2 | ×8 |
6 | 133 | 14 | 61 | 2.9 | 1.4 | 6.5 | ×16 |
7 | 318 | 6 | 112 | 4 | 1.0 | 8.0 | ×8 |
8 | 252 | 152 | 43 | 1.3 | 1.3 | 15.5 | ×32 |
症例No. | 抗A-IgG抗体(Ratio) | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
Total IgG | IgG1 | IgG2 | IgG3 | IgG4 | C1q(IgG) | IAT | |
17 | 43 | 6 | 20 | 1.3 | 1.4 | 1.5 | ×2 |
18 | 282 | 73 | 13 | 320 | 1.6 | 54 | ×8 |
19 | 67 | 2.0 | 30 | 2.0 | 1.1 | 1.2 | ×4 |
20 | 29 | 2.2 | 12 | 1.1 | 1.1 | 1.1 | ×64 |
症例No. | 抗A-IgG抗体(Ratio) | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
Total IgG | IgG1 | IgG2 | IgG3 | IgG4 | C1q(IgG) | IAT | |
1 | 1,120 | 72 | 1,106 | 21 | 14 | 140 | ×128 |
2 | 1,837 | 132 | 641 | 53 | 20 | 36 | ×64 |
3 | 1,434 | 62 | 699 | 11 | 3 | 61 | ×64 |
4 | 893 | 198 | 448 | 10 | 4 | 50 | ×16 |
5 | 365 | 44 | 292 | 13 | 5 | 218 | ×64 |
6 | 703 | 34 | 526 | 24 | 17 | 35 | ×32 |
7 | 419 | 16 | 503 | 16 | 5 | 26 | ×64 |
8 | 963 | 318 | 1,113 | 13 | 8 | 30 | ×512 |
MFI-ratio > 2.0を陽性
レシピエントの血液型により,産生された血液型抗体のサブクラスおよびMFI-ratioの違いを比較検討した結果,A型における抗BとO型における抗Bでは,MFI-ratioの平均からTotal IgG(p = 0.005),IgG1(p = 0.024),IgG2(p = 0.010),IgG3(p = 0.002),IgG4(p = 0.022),C1q(IgG)(p = 0.001),IAT抗体価(p = 0.011)で統計学的有意差を認めた。また,B型における抗AとO型における抗Aでも,Total IgG(p = 0.009),IgG1(p = 0.075),IgG2(p = 0.009),IgG3(p = 0.202),IgG4(p = 0.008),C1q(IgG)(p = 0.076),IAT抗体価(p = 0.043)で統計学的有意差を認めた。
2)各サブクラスの分布比率をFigure 2に示す。
分布比率は,IgG1単独が4%(n = 1),IgG2単独が18%(n = 5),IgG1 + IgG2が18%(n = 5),IgG1 + IgG2 + IgG3が14%(n = 4),IgG1 + IgG2 + IgG3 + IgG4が43%(n = 12),IgG1 + IgG2 + IgG4が4%(n = 1)であった。
IgG1~4の陽性抗体数は79であり,各サブクラスの分布比率はIgG1:29.1%・IgG2:34.2%・IgG3:20.3%・IgG4:16.5%であり,そのうちIgG1単独:1例,IgG2単独:5例,IgG1 + 2:5例,IgG1 + 2 + 3:4例,IgG1 + 2 + 3 + 4:12例,IgG1 + 2 + 4:1例であった。
3)血液型抗体Total IgGとサブクラスの総和との相関関係の結果をFigure 3に示す。
血液型抗体Total IgGとIgGサブクラス1~4の総和との相関係数はr = 0.978で強い正の相関関係を示した。
3. 肝移植後にABMRを発症した2症例について1)症例1(症例NO.6)の治療経過および血液型抗A/B-IgG解析結果をFigure 4に示す。
上段がトランスアミナーゼ,下段が血液型抗B-IgG抗体推移を示す。
B型ドナーからO型レシピエントへの血液型抗B不適合で移植前Rituximabを500 mg投与した症例である。
移植後早期にトランスアミナーゼの上昇を認め抗BのIAT抗体価が16倍でありながら肝組織生検においてC4d陽性のABMRを認めた症例であった。
ABMR発症時の血液型抗B-IgGのMFI-ratioは,Total IgGが253,IgG1が28,IgG2が205,IgG3が1.2,IgG4が1.3,C1q(IgG)が6.2であり,免疫グロブリン療法(intravenous immunoglobulin; IVIG),mPSLおよびPEなど治療介入することで徐々に回復した症例であった。
2)症例2(症例No. 7)の治療経過および血液型抗A/B-IgG解析結果をFigure 5に示す。
上段がトランスアミナーゼ,下段が血液型抗B-IgG抗体推移を示す。
B型ドナーからO型レシピエントへの血液型抗B不適合で移植前Rituximab 500 mgを投与した症例である。
移植後早期にトランスアミナーゼの上昇を認め1回目の肝組織生検では,急性細胞性拒絶(acute cellular rejection; ACR)の診断であったが,2回目では抗BのIAT抗体価が128倍まで上昇し肝組織生検においてC4d陽性のABMRを認めた症例であった。
ABMR発症時の血液型抗B-IgGのMFI-ratioは,Total IgGが4,739,IgG1が25,IgG2が2,093,IgG3が26,IgG4が13,C1q(IgG)が113であり,IVIG,Rituximab,mPSLおよびPEなど治療介入することで徐々に低下したが50 POD(postoperative day)付近で再上昇を認めた症例であった。
肝臓は極めて多様な機能を有する体内最大の臓器であり,末期肝不全に陥った時の根治的な治療法は唯一肝移植のみである。
ABO血液型不適合生体肝移植におけるABMRは,レシピエント血液中の血液型抗体が移植臓器の血管内皮細胞表面に発現しているABO血液型抗原と反応することで血栓を形成し,循環障害を生じて移植臓器の機能低下または臓器廃絶に陥る拒絶反応である。
移植後早期に急激な血液型抗体価のリバウンドが生じれば,PEを行うと共にIVIGやmPSLおよびRituximabなど免疫抑制療法も併用してABMRを回避する。
当院の肝移植では,抗体除去療法を施行するか否かの指標には,現在もIAT抗体価を重要視している。しかし,移植後に一定量の血液型抗体価が維持されているにも関わらずトランスアミナーゼは安定し臨床的免疫寛容が成立している症例もあり,未だ科学的な根拠が見出されていない現状である。
ABMRを引き起こす血液型抗体のヒトIgGは,heavy chain定常領域にあるポリペプチド鎖の抗原性の相違により4つのサブクラスに分類され,さらに構造および生物学的特性が異なっていることが報告されている8)。
本研究では,このヒト血清中の血液型抗体IgG1~4サブクラスについて検出法を新たに考案し,臨床症例におけるそれぞれの反応性の違いを解析することでABMRとの関連性を解明できる可能性を検討した。
今回開発した血液型抗体IgGサブクラス1~4の測定法は,AB型ヒト血清をNCとして各IgGサブクラスの蛍光強度についてそれぞれの日差再現性から変動係数(coefficient of variation; CV)を解析した結果,Total IgGが14.8%,IgG3が17.1%と高めであったが,IgG1,IgG2,IgG4,C1q(IgG)はすべて10%以内で安定しほぼ同等の感度になるように調整することが可能であった。
次に,20症例の移植前における未治療時の血液型抗体IgG1~4サブクラスの分布比率について解析した結果,IgG2(34.2%),IgG1(29.1%),IgG3(20.3%),IgG4(16.5%)の順であったが,血液型抗体のIgG1~4サブクラスに関する先行文献が散見されず,この解析結果の分布比率に関する詳細については検証できなかった。
Schurら9)は,ヒト正常血清中のIgG1~4サブクラスの分布比率について血清中のIgG1(60~70%),IgG2(15~20%),IgG3(4~8%),IgG4(2~6%)であると報告しているが,本研究での血液型抗体IgG1~4サブクラスでは,特にIgG2を多く保有する比率が高く,末梢血清中のIgGとは必ずしも一致しないことが確認された。また,IgG1~4サブクラスをすべて保有している症例が本研究において43%と比率が高く,IgG3やIgG4を単独で保有している症例はなかった。
Lefaucheurら10)は,既存抗体である抗HLA-IgGについて同様の検討を行っていた。
その中で抗HLA-IgG1~4サブクラスでは,IgG3やIgG4を単独で保有している症例を認め,かつIgG1を単独で保有している比率が高い傾向にあり血液型抗体とは分布比率に相違を認める報告がなされていた。
これらの報告からヒトIgG1~4サブクラスは,正常血清と血液型抗体,抗HLA抗体ではIgG1~4サブクラスの分布比率の相違が推測された。
また,20症例の肝移植前における血液型抗体について血液型別にそれぞれ解析した結果,抗Bを保有するレシピエントA型とO型では,すべての検出法において有意差をもってO型の蛍光強度が高く,それぞれの抗体保有率も高い傾向が認められた。
しかし,抗Aを保有するレシピエントB型とO型ではIgG1・IgG3・C1q(IgG)について有意差を認めず,それ以外においてはすべて有意差をもってO型の蛍光強度が高い傾向を示した。この解析結果は,抗Aの抗体を保有するB型が4症例と少なかったことが有意差検定に影響を及ぼした可能性,もしくは補体活性化能の違いからIgG3・IgG1・IgG2の順であることを考慮すると共通する補体が関与している可能性が示唆された。
さらに,20症例の肝移植前における血液型抗体Total IgGとの相関関係について解析した結果,IAT抗体価とは正の相関関係(r = 0.748)を示し,IgG1~4サブクラスの蛍光強度の総和とは,強い正の相関係数(r = 0.978)を示した。そして,IgG1~4サブクラスのそれぞれにおいても正の相関関係(IgG1: r = 0.838, IgG2: r = 0.930, IgG3: r = 0.774, IgG4: r = 0.801, IgG4: r = 0.886)を示したことから,筆者らはそれぞれのサブクラスの蛍光強度比がそれぞれの抗体量またはサブクラスの割合として評価することが可能ではないかと推察した。また,C1q(IgG)とも正の相関関係(r = 0.886)を示した(data not shown)。
筆者らは,以前腎移植症例においてIAT抗体価に関係なくC1q(IgG)が低い症例では,移植後の腎機能は良好であり,C1q(IgG)が高い症例では,移植後の腎機能不良または腎機能喪失症例を認めたと報告している11)が,腎移植の解析から仮説としてABMRが強烈に生じる拒絶反応とゆっくり進行する拒絶反応には,補体系を活性化する補体依存性細胞傷害活性(complement-dependent cytotoxicity; CDC)と補体系を介さない抗体依存性細胞傷害活性(antibody dependent cellular cytotoxicity; ADCC)の2つのメカニズムと,この2つがミックスされたタイプの拒絶反応によって細胞障害の程度が制御されているのではないかと推察している。実際,肝移植後にABMRを発症した2症例について解析した結果,明らかにIAT抗体価の推移と血液型抗A/B-IgG蛍光強度の推移に相違を認めていたことから,拒絶反応には血液型抗A/B-IgGの蛍光強度の変動が強く関連していることが示唆された。また,2症例の解析結果からTotal IgGやIgG2は拒絶反応を示す直接的なマーカーには成り難い可能性が示唆された。そして,拒絶反応と強い関連性を示すマーカーはC1q(IgG)であり,C1q(IgG)の蛍光強度を低下させることが拒絶反応を回避する有効な手段であると思われた。また,IAT抗体価とTotal IgGが必ずしも一致しない要因は,C1q(IgG)抗体の有無にあり,特にC1q(IgG)の蛍光強度によってはTotal IgGの蛍光強度を増強させる可能性が考えられた。そして,IgG1やIgG3が高い蛍光強度を示す場合には症例2のような強烈な拒絶反応を引き起こす可能性が本研究の解析結果から推測された。
Khovanovaら12)は,抗HLA-IgGサブクラスに関してIgG1およびIgG4が拒絶反応と強く関連し,IgG3はあとから出現してくるためモニタリングによる変化に対して早期に治療介入することで拒絶反応を軽減させる可能性があると報告している。
本研究において新たに考案した補体活性化能が異なるIgGサブクラス検出法は,現行法のIAT抗体価と比べるとフローサイトメトリー法を用いた蛍光色素法であるため検出感度が高く鋭敏に反応する。そして,それぞれの蛍光強度から拒絶反応を引き起こす危険性の高いC1q(IgG)やIgG1またはIgG3などを注視することで拒絶反応を回避できる可能性が考えられた。
今後,臨床症例を重ねて検討を進めていく必要性はあるが,血液型抗A/B-IgGを詳細に検出し解析することは,早期の拒絶反応を回避しABO血液型不適合生体肝移植の長期生着率の向上に繋がる可能性が示唆された。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。