医学検査
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資料
アブレーション直前に心嚢水の有無を確認することの有用性
小河 純山内 康照木下 朋幸熊谷 正純熊谷 二朗
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2022 年 71 巻 2 号 p. 318-323

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Abstract

【はじめに】不整脈治療としてのカテーテルアブレーション(CA)の合併症の1つに心嚢水貯留がある。外来やCA後に心嚢水の有無を確認することは多くの施設で行われているが,CA直前に確認している施設は多くはない。今回我々は,CA直前に心嚢水の確認を行うことの有用性を検討したので報告する。【対象と方法】対象は2019年4月から9月にCAを施行した連続327例(平均年齢64.0歳,男性230名)。CA直前と直後に経胸壁心エコーにて心嚢水の有無を確認した。術後に心嚢水を認めた48例を,CAの前後で心嚢水の量が変化しなかった群(変化なし群)24例と新規に心嚢水を認めた群(新規貯留群)24例に分類し,血圧低下,ICUへの転棟,心嚢穿刺の有無,入院の延期といったイベントの発生について,Χ2独立性の検定を用いて検討した。【結果】イベントの発生件数(イベント内容の重複あり)は,変化なし群が3例(血圧低下3例,ICU転棟2例,穿刺0例,入院延期0例),新規貯留群が10例(血圧低下5例,ICU転棟8例,穿刺3例,入院延期8例)で,新規貯留群が有意に高値を認めた(p < 0.05)。【考察】心嚢水の貯留に関しては少量でも血圧低下などにつながることがある。しかし,直前に確認をしておかないと,CAによって貯留した心嚢水かはわからない。CA直前に心嚢水の有無を確認しておくことで,術中や術後の血圧低下などの原因が,CAによる心嚢水貯留であるかの鑑別に有用であると考えられる。

Translated Abstract

Background: Pericardial effusion (PE) is one of the most frequent complications of catheter ablation (CA). Furthermore, there are not many institutions that confirm PE immediately before CA. We thus assessed the impact of PE confirmation immediately before CA. Subjects and Methods: We enrolled a total of 327 patients (mean age, 64.0 ± 13.4 years; 70.3% male) who underwent CA between April 2019 and September 2019. We confirmed PE immediately before and after CA by transthoracic echocardiography. There were 48 patients who were found to have PE after CA, and they were divided into two groups: no change in PE before and after CA (no-change group), and PE occurred after CA (PE group). We evaluated the number of cardiac events using the chi-square independence test. Results: There were 24 patients in each group. Three patients experienced cardiac events in the no-change group and 10 in the PE group. In addition, the number of cardiac events was significantly larger in the PE group than in the no-change group (p < 0.05). Conclusions: Cardiac tamponade can be caused by a small amount of PE. However, it is difficult to determine whether the PE was caused by CA. Therefore, we suggested that it is important and useful to check for PE immediately before CA to determine whether PE is caused by CA.

I  はじめに

不整脈治療として経皮的カテーテル心筋焼灼術(radiofrequency catheter ablation; RFCA)は広く行われている。また,高周波によるRFCA以外にも様々なエネルギーを用いたカテーテルアブレーション(catheter ablation; CA)が行われている。CAの合併症の1つに心嚢水貯留による心タンポナーデがある1)。心嚢水貯留は少量であっても血圧低下などにつながることがある2)。そのため,CA前の外来やCA後に心嚢水の有無を確認することは多くの施設で行われているが,CA直前に心臓カテーテル室で心嚢水の確認を行っている施設は多くはない。今回我々は,CA直前に心嚢水の有無を確認することの有用性を検討したので報告する。

II  対象および方法

2019年4月から9月に当院でCAを施行した連続327例を対象とした。

心嚢水の確認はすべて臨床検査技師による経胸壁心エコー(transthoracic echocardiography; TTE)にて行った。CA前の外来検査は,超音波検査室で行った。CA直前のTTEは,心臓カテーテル室に患者が入室してから穿刺部の消毒が開始されるまでの間に行った。CA直後は,手技終了後の穿刺部の止血中,かつ,CA中に確保してある動脈圧ラインが抜去される前のタイミングで施行した。これは,心タンポナーデに対する心嚢穿刺時に,血圧の観察のために動脈圧ラインが必要となることが多いためである。術直前と術直後は,患者の体位は仰臥位で行い,傍胸骨・心尖部・心窩部からそれぞれ観察し,循環器医とTTEを供覧している(Figure 1)。心臓カテーテル室で使用している超音波装置はView Mate ZS3(アボットメディカルジャパン合同会社)。

Figure 1 心臓カテーテル室でのTTEの様子

左:CA直前。右:CA直後。循環器医とTTE画像を供覧し,看護師に心嚢水の有無を伝え,カルテに記載してもらっている。

術後に心嚢水を認めた症例を,CAの前後で心嚢水の量が変化しなかった群(変化なし群)と新規に心嚢水を認めた群(新規貯留群)に分類し,血圧低下,ICUへの転棟,心嚢穿刺の有無,入院の延期といったイベントの発生について,Χ2独立性の検定を用いて検討した。心嚢水貯留の評価3)は,ごく少量の貯留であっても新規に認めた際には,新規貯留とした。血圧低下については,術中・術後に収縮期血圧が70 mmHg以下となり,昇圧剤等の処置を行った症例を血圧低下とした。

III  結果

CA直後もしくは術中に心嚢水を認めたのは48例で,変化なし群は24例,新規貯留群は24例であった。2群間の患者背景に有意差は認めなかった(Table 1)。

Table 1 患者背景
変化なし群
n = 24
新規貯留群
n = 24
p value
年齢(歳)64.9 ± 15.164.5 ± 12.60.94
男性17150.54
身長(cm)166.0165.50.94
体重(kg)64.761.60.44
BMI23.422.40.36
不整脈の種類
 AF19190.73
 AT330.67
 AVNRT100.76
 PVC020.24
 VT100.5
CA方法(重複あり)
 RF14130.77
 CB1090.77
 LB140.17
外来検査から
CAまでの日数(日)
80.3 ± 86.055.7 ± 40.90.65

AF:心房細動,AT:心房頻拍,AVNRT:房室結節リエントリー性頻拍,PVC:心室性期外収縮,VT:心室頻拍,CA:カテーテルアブレーション,RF:高周波アブレーション,CB:経皮的カテーテル心筋冷凍焼灼術(クライオバルーンアブレーション),LB:HeartLight内視鏡アブレーションシステム(レーザーバルーンアブレーション)。

イベントの発生は,変化なし群で3例(13%),新規貯留群で10例(42%)であり,新規貯留群が有意に高値を認めた(p = 0.02)(Table 2)。

Table 2 心嚢水の有無によるイベントの発生件数
変化なし群
n = 24
新規貯留群
n = 24
p value
イベント件数3100.02
血圧低下*35
ICU転棟*28
心嚢穿刺*03
入院延長*08

*重複あり

IV  考察

心嚢水は急激に貯留すると,少量であっても心タンポナーデをきたしショック状態に陥ることがある。CAの合併症の判断において,新規の心嚢水貯留の判断をするためには,CA前の適切な心嚢水評価が必要である。CA直後に心嚢水を認めても,CA直前と量の変化がなければ,それに対して特別な処置を行うことは少ない(Figure 2)。

Figure 2 CAの前後で心嚢水の量に変化を認めなかった症例

患者は70代男性。発作性心房細動のアブレーションによる治療目的に当院に紹介された。術直後のTTEで右室自由壁前方に中等量の心嚢水を認めたが(右),術直前のTTE(左)での確認時と変わらなかった。そのため,心嚢水に対しては処置をせず,術後の容体も安定していたため予定通りの退院となった。この症例は,CA前後で心嚢水の量に変化を認めなかったため問題とならなかったが,術後のみの確認では,心嚢水貯留と判断されていたかもしれない。

CA前の外来でもTTEを行っているが,外来検査からCAまで日数が開いてしまうことがある。今回対象とした327例では,外来検査からCA当日まで平均102日(中央値59日)間隔が開いていた。CA直前に心嚢水を認めた25例中14例は,外来検査で心嚢水の指摘がなく,外来検査からCAまでの期間に心嚢水が貯留したと考えられる(Figure 3)。CA直前の確認がなければ,CAによる心嚢水貯留と判断されていたと考えられる。この14例についてはほとんどが頻脈であった。持続性心房細動や心房頻拍の患者が多く,それ以外の不整脈患者でも洞性頻脈であった。Royら4)の過去の文献をまとめた報告によると,心タンポナーデの症例では頻脈の頻度が多いとしており,頻脈による心嚢水貯留が疑われた。また,頻脈誘発性心筋症による心機能低下が疑われる3症例は,いずれも心拡大を認めた。心拡大も心タンポナーデの症例では頻度が多いとしている4)。ただし,CA直前のTTEでは心嚢水評価に注視しているが,外来検査では描出できなかった可能性も否定できなかった。

Figure 3 外来検査からCAまでの期間に心嚢水を認めた症例

患者は10代男性。房室結節リエントリー性頻拍の治療目的に紹介された。術直前に,傍胸骨短軸断面において左室の後方に少量の心嚢水を認めた(右・矢印)。術直後の心嚢水貯留は,CA直前と変化を認めなかった。しかし,1か月前の外来検査でのTTEでは心嚢水を認めなかったため(左),外来検査からCAまでの期間に貯留した心嚢水と考えられた。術直前に確認せず,術直後のみの確認ではCAによる心嚢水貯留と判断されていたと考えられる。

提示した2症例のように,CA直前に心嚢水の有無を確認しておくことで,術後に心嚢水を認めた際に,CAによって貯留したかの判別をすることが可能である。術中や術後の容体変化等の原因が,CAによる心嚢水貯留であるかの鑑別に有用であると考えられる。

CAによる心嚢水貯留を,①ドレナージや手術が必要な危機的心嚢水(critical pericardial effusion; critical PE),②保存的治療で危機的ではない心嚢水(noncritical PE)と分類している報告がある5)。本研究でのcritical PEは,心嚢穿刺を行った3例(0.9%)であり,過去の報告(0.83~1.31%)5)~7)と同様の結果であった。この3例は,カテーテルによる機械的な損傷によるものと考えられた。しかし,noncritical PEは1.1%という報告に対し,21例(6.4%)とやや高値であった。既報では,心嚢水貯留の程度が記載されておらず,当院ではFigure 3のように少量やごく少量の心嚢水であっても心嚢水貯留と判別しており,そのためnoncritical PEが高値であったと考えられる。この21例中20例は,ごく少量もしくは少量の貯留量であったため,頻回の通電・冷凍による炎症性の貯留であったと考えられる。1例が術後に中等量の心嚢水を認め,血圧低下をきたしたが,心嚢水のさらなる増量を認めなかったため心嚢穿刺は行われず,ICUでの厳重な管理となった。

今回,変化なし群で3例のイベントが発生したが,3例ともに術後に血圧が低下した。新規貯留群のほとんどの血圧低下症例も術後の血圧低下であった。手技終了時のシース抜去時や抜去後の圧迫止血などによる痛みによって迷走神経反射を起こし,血圧低下・徐脈・冷汗などの症状が現れることがある。また,迷走神経反射以外にも薬剤性の血圧低下が発生することがある。CAの手技終了時に使用しているプロタミンは,薬剤性の血圧低下を認める症例がある。プロタミンは,ヘパリンの過量投与時の中和のために用いられる薬剤である。CAの手技中はヘパリンを投与するが,ヘパリンが過剰であった場合,手技終了時の穿刺部の止血に時間がかかり,患者への負担の増加や穿刺部血種形成の原因となる。そのため,しばしばプロタミンを手技終了時に投与することがある。しかし,プロタミンはその副作用でショックや血圧低下,徐脈等に陥ることがある。プロタミンの副作用は,①プロタミンの急速投与により一過性の低血圧を生じる急速投与型,②発赤などの皮膚症状,浮腫,気管支収縮,極度の血管抵抗の低下などを主症状とするアナフィラキシー様反応型,③右心系の拡張,肺高血圧,左心系圧の低下,極度の低血圧を主症状とするcatastrophic pulmonary vasoconstriction型の3つに分類されている8),9)。今回は,迷走神経反射か薬剤性によるものかの判別は困難ではあるが,いずれも重症化せず,一過性の血圧低下であった。また,麻酔導入後から血圧低下を認めた1例は,麻酔による影響と考えられた。

CA直前のTTEは,術中や術後の患者の体位と同じであるため,心臓が良好に描出できる超音波窓を事前に把握でき,急変時に心臓の描出に要する時間を短縮することができる。心タンポナーデは数分で致死的になりえる緊急性の高い疾患であるため,このわずかな時間の短縮も,ときには重要となることがある。施設によっては,心臓カテーテル室に心腔内超音波装置は設置していても,TTEが行える装置が設置されていないこともある。しかし,CAの術中や術後に心タンポナーデが起こり,心嚢穿刺が必要と判断された際は,経皮的心嚢穿刺が施行されるが,一般的にはTTEガイド下で剣状突起や傍胸骨,心尖部から穿刺をする。心タンポナーデの治療として,エコーガイド心嚢穿刺がガイドラインではクラスIにクラス分類されており,非エコーガイド心嚢穿刺はクラスIIbとされている10)。非エコーガイドでの心嚢穿刺では,致死的合併症が20%前後生じるのに対し,エコーガイド心嚢穿刺では1.4%まで低下させることができる11)。そのため,心臓カテーテル室内にTTEが行える装置を常備しておくことは重要であると考えられる。当院では心腔内超音波とTTEの両方行える超音波装置を設置している。

当院のように,CA直前に心嚢水の有無を確認することが困難な施設もあると考えられ,その理由としていくつか推察される。1つ目は,上述したように心臓カテーテル室にTTEを行える装置が常備されていない。2つ目は,当院のように臨床検査技師が心臓カテーテル室に配属されていないため,医師以外にTTEを行える人材がおらず,医師が行う時間がないことが考えられる。3つ目に,CA開始後すぐに心腔内超音波を用いて確認するため,直前にTTEでの確認が必要と考えていないことが挙げられる。しかし,心腔内超音波を心腔内に挿入する時点で心臓内に異物を挿入しており,この手技によって心嚢水が出現することも否定できない。そのため,当院のように臨床検査技師がCAに携わるという,全国的にも少ない特色を活かして,CA直前にTTEによる心嚢水の確認を行うことは重要であると考える。上記のような理由で,直前でのTTEの評価が困難である際は,CA施行前日に,CA施行時と同じ仰臥位での確認が必要と考える。

V  結語

CAによって心嚢水が貯留すると,血圧低下や心嚢穿刺などといったイベントの発生が有意に多くなる。CAによる心嚢水貯留であるかの鑑別には,CA直前の確認が有用である。CA直前に確認できない症例では,術中と同じ体位である仰臥位で事前に確認しておくことが重要である。

本論文は,当院の医療倫理委員会の承認を得ている(承認番号2021-3)。

なお,本論文の要旨は第84回日本循環器学会学術集会(web開催)にて発表した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2022 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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