医学検査
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資料
鳥取県内の一般診療所における生理機能検査を担当する臨床検査技師の実態調査
大栗 聖由上原 一剛池亀 彰茂小河 佳織樋本 尚志前垣 義弘吉岡 伸一
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2022 年 71 巻 2 号 p. 342-348

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Abstract

本研究では,鳥取県の一般診療所における生理機能検査を担当する臨床検査技師(以下,検査技師)の実態調査と将来の検査技師雇用についてアンケート調査を行い,一般診療所における検査技師の現状を明らかにすることを目的とした。アンケート調査票を鳥取県に所属する421施設の一般診療所に送付した。アンケート内容は雇用状況,生理機能検査の担当職種,実施項目,実施項目ごとの月平均検査件数,将来検査技師の雇用予定について質問した。返信があった115施設中,生理機能検査実施施設は102施設存在した。そのうち,8施設(7.8%)で検査技師が生理機能検査を担当していた。検査技師雇用施設での超音波検査における月平均検査数は,検査技師雇用のない施設と比較し有意に多かった(p < 0.001)。また,超音波や脳波,そして筋電図検査件数が多いほど,検査技師が雇用されている傾向であった。調査項目と技師の雇用状況を視覚的に解析できるコレスポンデンス解析を行い,検査技師雇用を検討している施設では,PSG検査件数が多い傾向であった。一般診療所での生理機能検査を生業とする検査技師の必要性が高まれば,医療の質や量について地域格差が示されている今日,生理機能検査の質と量を担保することに貢献できるのではないかと考えられた。

Translated Abstract

Clinical laboratory technicians (CLTs) perform laboratory tests in hospitals and clinics. To date, no study has examined the status of CLTs engaged in clinics in Tottori Prefecture. In this study, we aimed to investigate the status of CLTs who were engaged in conducting physiological tests in the clinics in Tottori Prefecture and examined the potential employment of the CLTs at these clinics. A survey was conducted by sending questionnaires to 421 clinics with questions regarding the employment status of the CLTs, type of staff engaged in physiological testing, physiological test equipment, average number of physiological tests per type conducted every month, and the possibility of future employment of CLTs at these clinics. A total of 115 general medical offices participated. Physiological tests were conducted in 102 clinics. Of these, eight clinics (7.8%) employed CLTs. The number of physiological tests conducted was significantly higher in clinics that employed CLTs than in those that did not. Moreover, the number of electroencephalography tests conducted was significantly higher in clinics that employed more than two CLTs than in those that employed only one. Correspondence analysis revealed that more ultrasonography, electroencephalography, and electromyography tests were performed in clinics where a CLT was employed than in clinics that did not. Additionally, the employment of CLTs was under consideration by the employers in clinics where a CLT conducted polysomnography. Our results suggest that new CLTs should be employed in clinics where a large number of physiological tests are conducted.

厚生労働省がまとめている令和2年版厚生労働白書によると,全国での免許登録者数による臨床検査技師(以下,検査技師)数は66,866人とされている1),2)。検査技師の勤務先としては,大学病院や総合病院,一般診療所,検査センターなど幅広く存在する。一般社団法人日本臨床衛生検査技師会は,平成30年度に検査技師の会員施設による実態調査をアンケート形式で行い,中央検査部や健診・検診センターに所属する多くの会員が回答していたが,一般診療所における雇用人数の全数は確認できなかった3)。そのため,一般診療所で働く検査技師の実態調査は困難であった。

全国における一般診療所の数は,昭和5年に厚生労働省が初めて全国調査を行い35,772施設存在したが,平成30年では102,105施設と約3倍に増加していた1)。鳥取県では,そのうち一般診療所が421施設存在し,内科系診療所が281施設,外科系診療所が119施設と日本医師会から報告されている4)。一般診療所で働く医療従事者は医師または看護師がほとんどであるが,その中に検査技師も存在する。しかし,どの程度の人数が鳥取県の一般診療所で勤務しているか調査した報告書は認められない。また,検査技師は微生物検査,血清検査,血液検査,化学検査,病理検査,生理検査などの検査業務や在宅医療,検査説明,検体採取など幅広い業務に従事することができる5)~8)。生理機能検査業務の中には多岐にわたる業務が含まれているが,一般診療所で検査技師が生理機能検査業務にどの程度関わっているかという報告は認められない。

そこで本研究では,鳥取県内の一般診療所で働く検査技師の実態調査を行い,一般診療所で生理機能検査を担当する検査技師の現状を明らかにすることを目的とした。さらに,どのような生理機能検査項目が多いと検査技師を雇用するのかについても調査した。

I  方法

1. 調査対象

本研究では,令和元年9月9日に鳥取県医師会に登録されている一般診療所を調査対象とした。対象施設の選定として,まず鳥取県医師会に一般診療所を調査対象とした生理機能検査の実態に関するアンケート調査に対しての協力が可能か依頼文書を送付した。その後,鳥取県医師会から調査協力について承諾を得たのちに,一般診療所として登録されている421施設にアンケートを送付した。最終的に,一般診療所の責任者である医師に郵送によるアンケート調査票(無記名式)へ回答してもらい,令和元年10月から12月に対象診療所から返信があった回答情報を用いて検討を行った。

2. 倫理的配慮

本研究は,鳥取大学医学部倫理審査委員会の承認を経て実施された(整理番号:19A031)。

3. アンケート調査内容

アンケート調査の生理機能検査アンケート項目は心電図検査,呼吸機能検査,超音波検査,脳波検査,終夜睡眠ポリグラフ検査(polysomnography; PSG),筋電図検査とした。本研究におけるアンケート内容として,診療所の標榜科,診療所における雇用人数,検査技師の経験年数,生理機能検査それぞれの項目に関する月平均検査数,検査技師の雇用予定について回答を求めた。標榜科が多数認められた場合はすべての標榜科を結果に反映させた(Figure 1)。

Figure 1 The questionnaire used in this study

4. 解析方法

統計解析にはIBM SPSS statistics version 27(IBM,東京,日本)を使用した。それぞれの項目に応じて集計を行い,施設数と月平均検査数に関しては検査技師雇用予定の有無により影響が認められるか比較検討を行った。比較検討には,2群間の場合はWelchのt検定,3群間の場合はANOVA検定を行った後,後検定としてTukey検定を行った。また,生理機能検査のどの検査項目が検査技師の雇用予定に関与しているか調べるために,コレスポンデンス解析を行い,生理機能検査各項目の月平均検査数と検査技師の雇用状況における関係性をグラフ化した。

II  成績・結果

1. アンケート集計結果

本調査では,421施設中115施設の一般診療所から回答を得た(回収率27.3%)。鳥取県における検査技師を雇用していた標榜科数をTable 1に示す。検査技師の雇用施設数は115施設中11施設存在した。内科と標榜した一般診療所が最も多く,全体の17.8%を占めており,次いで小児科(10.7%),消化器内科(10.7%)であった。アンケートの返信があった施設の中でも麻酔科,外科,産婦人科,耳鼻科にて臨床検査技師を雇用している施設は認められなかった。

Table 1 Distribution of participating clinical laboratory technician per department
Clinical departmentn*
General internal medicine5
Pediatrics3
Gastroenterology3
Urology3
Orthopedic surgery2
Cardiology2
Respiratory medicine2
Neurology2
Pcychosomatic medicine1
Gastrointestinal surgery1
Neurosurgery1
Ophthalmology1
Dermatology1
Metabolism and endocrinology1
Anesthesiology0
General surgery0
Obstetrics and gynecology0
Otorhinolaryngology0

*Number of general medical offices.

一般診療所における医師は1–2人が109施設,3–4人が5施設,9人が1施設であり,一施設平均1.3人(standard deviation(SD)=1人)であった。看護師は1–10人が100施設,11–20人が2施設,21–50人が2施設,回答なしが11施設あり,平均4.0人(SD = 5.2人)であった。検査技師を雇用していたのは11施設(9.5%)で,雇用人数は1人が9施設(82.0%),2人が1施設(9.0%),3人が1施設(9.0%)平均0.1人(SD = 0.4人)であった。調査時における検査技師経験年数は平均値23年(SD = 12年)であり,経験年数が浅い人で8年,経験年数が長い人で50年であった。

2. 一般診療所の生理機能検査における検査技師業務の実態

生理機能検査を一般診療所で担当している職種のアンケート結果をFigure 2に示す。生理機能検査を実施している施設数は115施設中102施設(88.6%)であった。生理機能検査を医師と看護師が担当する施設は59施設(57.8%),医師のみが19施設(18.6%),看護師のみが15施設(14.7%),検査技師のみが4施設(3.9%),医師,看護師,検査技師が担当する施設は4施設(3.9%),その他が1施設(1.0%)であった。その他と回答した施設では,臨床放射線技師が超音波検査を担当していた。検査技師を雇用していた11施設中,8施設で生理機能検査を担当し,残りの3施設では生理検査業務を担当していなかった。生理検査業務を担当していなかった3施設は,採血や検体検査を担当していると回答されていた。また,11施設中9施設では検査技師1人で業務を実施しており,残り2施設では複数人で生理検査業務を実施していた。

Figure 2 Distribution of the medical staff who conducted the physiological tests

次に,検査技師を雇用している11施設と雇用していない104施設で月平均検査数を比較した。検査技師雇用施設での超音波検査における月平均検査数(平均値 ± 標準偏差)は112 ± 174件であり,雇用していない施設25 ± 40件と比較し有意に多かった(p < 0.001)。その他の検査項目では有意な検査件数の差は認められなかった。また,検査技師が1人で生理機能検査業務を実施する施設と複数人で業務を実施する施設における月平均検査件数を比較したところ,検査技師が複数人で業務を実施する施設では1人で検査する施設と比較し,脳波検査が有意に多く心電図や呼吸機能,筋電図検査件数が多い傾向となった(Table 2)。

Table 2 Correlation between the number of physiological tests and clinical laboratory technicians per clinic
Number of clinical laboratory techniciansp
One person*More than two people*
Electrocardiography21900.055
Spirometry3130.062
Electroencephalography3300.011
Electromyography3400.073
Ultrasonography126630.680
Polysomnography1010.477

*Mean monthly number of tests.

検査技師の雇用状況により,月平均検査件数がどのようになるか調べたところ,検査技師を雇用している施設では,雇用していない施設と比較し超音波検査件数が有意に多い結果となった(Table 3)。その他の検査項目では有意な検査件数の変化は認められなかった。

Table 3 Correlation between the number of average physiological tests and employment situations of clinical laboratory technicians at medical offices
Employment situation of clinical laboratory techniciansp
Employed*Not employed*Under concideration*
Electrocardiography342039n.s.
Spirometry536n.s.
Electroencephalography1033n.s.
Electromyography1505n.s.
Ultrasonography1122542Employed vs Not employed < 0.001
Polysomnography5210n.s.

*Mean monthly number of tests, Not significant.

最後に,どの検査項目が検査技師の雇用状況に関連しているかコレスポンデンス解析を行った結果,検査技師を雇用している施設において超音波検査や筋電図検査,そして脳波検査のように技術習得に時間を要する検査項目が雇用に影響を与えていた(Figure 3)。さらに,雇用検討の際には心電図,肺機能,PSG検査が影響を与えている因子であった。

Figure 3 Relationship between the number of average monthly philological tests and employment status of clinical laboratory technicians

This figure shows the relationship between the number of types of physiological tests and clinical laboratory technicians employed in the clinic. On the graph, where the type of physiological test items overlap, or their values are near a corresponding employment situation value, that position is considered an influential employment situation. Clinical laboratory technicians who could conduct ultrasonography, electroencephalography, and electromyography tests were more likely to be considered for employment.

III  考察

本研究により,一般診療所における検査技師の雇用状況を調査し,生理機能検査項目の中でも特に超音波検査件数が多い施設では複数の検査技師が雇用されている傾向であった。また,心電図,肺機能,PSG検査の月平均検査件数が多いほど,鳥取県における一般診療所での検査技師雇用の可能性が高くなることが明らかになった。

一般診療所を開業する場合,開業する医師は医療法により定められた規定に則って開業準備や従業員の確保を行う9)。外来患者の必要人数で勘案すると,医師の場合は患者40人に対し1人,薬剤師の場合は取扱処方箋75枚に1人,看護師および准看護士は30人に1人,栄養士は病床数100人以上で1人と細かく定義されている10)。一方,検査技師は診療放射線技師や事務員などその他従業員としてまとめられ適当数と表記されており,特に人数は規定されていない。昭和45年の技師定数化に関する基礎資料によると,運営方法により技師の人数は変更されるため,検査技師の定数化は困難であろうと報告されていた11)。本研究においても,超音波検査が日常診療によく用いられている消化器内科や小児科では検査技師の雇用を認めたが,麻酔科や外科において雇用は認められなかった。これらのことから,現在においても検査技師の人員配置基準は定められていないため,一般診療所における検査技師の雇用が他の職種と比較し少ないのではないかと考えられた。

検査技師の運用を初めて明文化した法律は,昭和45年に公布された「臨床検査技師,衛生検査技師等に関する法律」である12)。この法律により検査技師は保健婦助産婦看護婦法(昭和23年法律203号)の規定にかかわらず,診療の補助として採血や生理機能検査(心電図検査,心音図検査,脳波検査,筋電図検査,基礎代謝検査,呼吸機能検査,脈波検査,超音波検査の8項目)を行える者と位置づけされた13)。また,時代の流れとともに生理機能検査の業務も拡大され,今では18項目が省令委任されている。

本研究において,生理機能検査の月平均検査件数が多いほど検査技師を雇用しており,特に超音波検査や心電図検査,肺機能検査,PSG検査が多ければ一般診療所における検査技師の雇用を望める結果となった。 超音波検査は,簡便であり心臓や腹部といった臓器のリアルタイムな情報を取得することが可能なため,その需要性は高いと考えられる。また,PSG検査の適応は主として閉塞性睡眠時無呼吸症候群であり,推定患者数は300万人ともいわれている14)。しかし,第一選択治療である持続的陽圧呼吸法が施行されている患者数は30万人程度であり,検査件数の需要と供給が釣り合っていない状態である15)。これらのことから,生理機能検査件数が多い場合に検査を担当する検査技師の需要性が高まるのではないかと考えられた。しかし,心電図検査や呼吸機能検査は簡易化が進んでいること,また心電図においては看護師でも対応可能であるため,必ずしも検査技師を雇用する因子としては影響が弱いのではないかと考えられた。

本研究の限界点として,大きく3点考えられた。1点目は,鳥取県における一般診療所を対象とした研究であり,研究に協力いただいた標榜科により生理機能検査項目は変動するため,集計結果にバイアスが生じている可能性は十分考えられた。本研究では内科系の一般診療所が多かったため,心電図検査や超音波検査件数が多い結果となった。2点目は,検査技師の検査項目の中でも特定の生理機能検査に着目したため,アンケート回収率に影響を与えたことが考えられた。今回,検査技師が雇用されている耳鼻咽喉科からの回答がなかったが,聴力検査等の項目も加えておけば,より多くの施設から回答が得られた可能性がある。従って,血液検査や生化学検査などの検体検査項目や採血業務のような項目を調査に加えると,一般診療所で働く検査技師の実態像をより明らかにすることができるのではないかと考えられた16),17)

3点目は,技師の経験年数について一般診療所での経験年数か臨床検査技師としての経験年数か詳しく調べていなかったため,本検討では雇用年数が不明であった。今後,同様の調査を行う場合,技師の経験年数と雇用年数を分けて詳しく調査する必要があると考えられた。

IV  結語

鳥取県の一般診療所で生理機能検査担当として検査技師を雇用する施設は,全体数の1割程度であった。しかし,診療科で必要とされている生理機能検査件数が多い施設ほど,検査技師の必要性が高くなると考えられた。一般診療所での検査技師の必要性が高まれば,医療の質や量について地域格差が示されている今日,生理機能検査の質と量を担保することに貢献できるのではないかと考えられた。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2022 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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