2022 年 71 巻 3 号 p. 450-456
従来,血中アルドステロン濃度測定は放射免疫測定法(radioimmunoassay; RIA法)が用いられてきたが,RIA法による測定値は液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS/MS法)による測定値との乖離が指摘されている。近年,LC-MS/MS法にトレーサブルなnon-RIA法による測定試薬が開発された。診断基準はRIA法で設定されているため,それぞれの測定法における測定値の互換性の維持,測定値の妥当性評価が重要となっている。今回,化学発光酵素免疫測定法(chemiluminescent enzyme immunoassay; CLEIA)を原理とする「ルミパルスプレスト アルドステロン」の妥当性評価を行った。試料は外注検査分注後の残血漿を使用した。評価項目として併行精度,検査室再現性,希釈直線性試験,検体の保存条件と安定性評価,従来法との相関性,LC-MS/MS法およびRIA法との比較測定を実施した。従来法との相関性は,回帰式:y = 1.46x + 53.63,r = 0.976であった。LC-MS/MS法およびRIA法との比較では,CLEIA法とLC-MS/MS法による測定法間差は認められなかったが,RIA法はCLEIA法およびLC-MS/MS法に比べ高値を示した。以上より,LC-MS/MS法との相関性が良好ある点を含め「ルミパルスプレスト アルドステロン」の試薬性能は良好であると考えられた。
Liquid chromatography-tandem mass spectrometry (LC-MS/MS) is an attractive alternative to the radioimmunoassay (RIA) method; however, discordance between non-RIA and RIA measurement results has been reported. Here, we aimed to evaluate the performance of the chemiluminescence enzyme immunoassay (CLEIA) for aldosterone (FUJIREBIO Inc.) detection. The correlation of the conventional method (x) and CLEIA (y) for aldosterone was y = 1.46x + 53.63, r = 0.976. No significant difference was observed between the CLEIA results and the LC-MS/MS results. However, when the RIA results were compared with the CLEIA and LC-MS/MS results, significantly larger differences were observed. Our results revealed that CLEIA showed a good correlation with LC-MS/MS and thus the basic performance of the “Lumipulse aldosterone” reagent was considered to be sufficient.
高血圧には原因を特定できない本態性高血圧と,ある特定の原因による二次性高血圧とがある。二次性高血圧の原因の中で頻度が高いものとして原発性アルドステロン症(primary aldosteronism; PA)があり,その割合は二次性高血圧の5~10%を占めるといわれている1),2)。PAは副腎の腺腫あるいは過形成によるアルドステロンの過剰産生により,高血圧,レニン分泌抑制,低カリウム血症などを呈する。PAの診断には血漿アルドステロン濃度(plasma aldosterone concentration; PAC),血漿レニン活性(plasma renin activity; PRA)または活性型レニン濃度(active renin concentration; ARC)の測定,PAC/PRA比またはPAC/ARC比(aldosterone-renin ratio; ARR)が用いられる3),4)。
アルドステロンは従来RIA法による測定が実施されていたが,近年RIA法の測定値が基準測定操作法であるID-LC-MS/MS法による測定値と乖離していることが報告された5)。測定法による測定値差を低減するために,アルドステロン測定の標準化検討委員会が設置され,認証標準物質CRM6402が制定され,本標準物質を介することにより基準測定操作法や日常検査法との互換性を確認することが可能となった。また,2021年3月にはRIA試薬であるスパック-Sアルドステロンキット(富士レビオ株式会社)が供給停止となったことから,標準化対応したnon-RIA法およびRIA法間での測定値の互換性の維持,測定値の妥当性評価が重要となっている。
今回,化学発光酵素免疫測定法(chemiluminescent enzyme immunoassay; CLEIA)を原理とする,血清・血漿・尿中アルドステロン測定試薬「ルミパルスプレスト アルドステロン」が発売された。試薬の基礎的性能評価および従来法との相関性について,検討を行ったので報告する。
2019年11月から12月までにPAC測定依頼のあった患者残検体96検体(血漿)を対象とした。本研究は名古屋大学医学部生命倫理委員会の承認を得て施行した(承認番号:2010-1038)。また,LC-MS/MSとの相関性に関しては購入検体(Eurofins Biomnis, Lyon, FranceおよびCerba Research, Ghent, Belgium)である血清・血漿検体30例を使用して評価した。購入検体は入手後,−80℃にて凍結保存した。25℃(常温)にて融解した後,速やかにルミパルスPresto IIにて測定した。
2. 測定機器と試薬 1) 測定機器測定機器は全自動化学発光酵素免疫測定装置ルミパルスPresto II(富士レビオ株式会社,CLEIA法)を使用した。
2) 測定試薬測定試薬は「ルミパルスプレスト アルドステロン」(富士レビオ株式会社,以下:アルドステロンCLEIA法)を使用した。
3) 対照方法対照方法として,アルドステロンは「スパック-Sアルドステロンキット(富士レビオ株式会社,RIA法)とした。また,基準測定操作法として液体クロマトグラフィー質量分析法(株式会社あすか製薬メディカル,LC-MS/MS法)を実施した。
3. 測定原理ルミパルスプレスト アルドステロンは2ステップサンドイッチアッセイに基づき設計されている。一次抗体としてアルドステロンを特異的に認識するモノクローナル抗体を用い,二次抗体としてアルドステロンと一次抗体の免疫複合体を認識するモノクローナル抗体を用いることで,低分子量化合物であるアルドステロンに対するサンドイッチ法の測定を可能としている。
検体(血清または血漿)はサンプリング後,自動的に専用処理液とともに一次抗体結合フェライト粒子を含む一次反応液と混合され,検体中のアルドステロンが一次抗体結合フェライト粒子に捕捉される。磁石を用いたB/F分離が行われた後,ALP標識二次抗体が添加され,フェライト粒子上で一次抗体-アルドステロン-ALP標識二次抗体のサンドイッチ複合体が形成される。磁石によるB/F分離が再度行われた後,化学発光基質(AMPPD)が添加され,酵素反応が行われる。試料に含まれるアルドステロン濃度は形成されたサンドイッチ複合体量を反映する。予め作成された検量線から,検体中のアルドステロン濃度が算出される。
4. 検討方法 1) 併行精度試料にはSero Lumipulse IA Control 2濃度および患者プール血清1濃度を用い,それぞれを10回連続測定して平均値,標準偏差(standard deviation; SD)及び変動係数(coefficient of variation; CV)を算出した。
2) 検査室再現性試料にはSero Lumipulse IA Control 2濃度を用い,それぞれを10日間測定して平均値,SD及びCVを算出した。
3) 希釈直線性試験患者検体2例をルミパルスプレスト検体希釈液にて10段階希釈し,ルミパルスPresto IIで測定した。
4) 検体の保存条件と安定性評価3例の患者検体を用いて,冷蔵(2~8℃)で1週間保管,冷凍(−30~−40℃)で2週間保管した後にアルドステロンを測定し,保管前後での測定値を比較した。凍結融解の影響は,冷蔵・冷凍保管検体と同一検体を−80℃で凍結し,1週間保管したのち,1時間かけて流水で検体を融解し測定に用いた。測定後の検体を再度−80℃にて凍結し,これを5回繰り返した。対照として保管前の測定値を100%とし,各保存条件下による測定値の変動を相対変化率として評価し,±10%以内を影響なしと判断した。
5) 相関性試験アルドステロンの測定依頼があった患者検体96件を対象とし,外注委託用に分注した後,ルミパルスPresto IIで測定を実施した。この結果を用いて,外注委託先(RIA法)に提出し得られた結果との相関性を評価した。相関性はSpearmanの順位相関係数にて評価を行った。
6) LC-MS/MS法およびRIA法との比較ルミパルスプレスト アルドステロン試薬,RIA法および液体クロマトグラフィー-タンデム型質量分析(LC-MS/MS)法にて血清・血漿検体30例を測定し,測定値の妥当性を評価した。またアルドステロン認証基準物質NMIJ CRM 6402-bの3濃度(認証値197,383,760 pg/mL)を測定しLC-MS/MSにて設定された認証値との比較を行った。
5. 解析方法各種解析には定量測定法のバリデーション算出プログラムを用いた(一般社団法人臨床化学会)。有意差検定にはGraphPad Prism 9を用いて算出した。
ルミパルスプレスト アルドステロンのCVは,Sero Lumipulse IA Controlで1.24~1.77%,プール血漿で1.23%であった(Table 1)。
Aldosterone | |||
---|---|---|---|
L | H | Pooled Plasma | |
Mean (pg/mL) | 62.1 | 443.6 | 34.8 |
SD | 1.10 | 5.51 | 0.43 |
CV (%) | 1.77 | 1.24 | 1.23 |
SD; standard deviation, CV; coefficient of variation
ルミパルスプレスト アルドステロンのCVは,Sero Lumipulse IA Controlで2.04~3.29%であった(Table 2)。
Aldosterone | ||
---|---|---|
L | H | |
Mean (pg/mL) | 63.0 | 453.2 |
SD | 2.07 | 9.24 |
CV (%) | 3.29 | 2.04 |
SD; standard deviation, CV; coefficient of variation
ルミパルスプレスト アルドステロンは1,400 pg/mLまで原点を通る良好な直線性が確認できた(R2 = 0.994~0.998)(Figure 1A, B)。
A, B: Dilution linearity of patient’s plasma using Lumipulse aldosterone regents.
アルドステロン測定値は冷蔵・冷凍いずれの条件下においても測定値に影響は認められなかった(Figure 2A, B)。凍結融解においては,相対変化率が相対変化率91.7~106.7%であったがWilcoxon検定において有意差は認められなかった(Figure 2C)。
A: Effect of cryopreservation for one week on aldosterone measurements.
B: Effect of refrigeration for two week on aldosterone measurements.
C: Effect of freezing and thawing on aldosterone measurements.
*Significant difference is analyzed by Wilcoxon
アルドステロンにおけるRIA法(x)とCLEIA法(y)との相関性は,回帰式:y = 1.46x + 53.63,r = 0.976であった(Figure 3A)。Bland-Altman解析から,RIA法に比してCLEIA法は低値となる傾向が認められた(Figure 3B)。アルドステロン濃度250.0 pg/mL未満の検体81件については,回帰式:y = 0.41x − 8.87,r = 0.745であった(Figure 3C)。
A: Correlation analysis of RIA method (X-axis) and CLEIA method (Y-axis) with patient samples (n = 95).
B: Difference of aldosterone measurements between CLEIA method and RIA method by Bland-Altman analysis.
C: Correlation near the reference range of RIA method (X-axis) and CLEIA method (Y-axis) with patient samples (n = 81) in the range lower than 250 pg/mL.
海外購入検体を用いたRIA法(x)とCLEIA法(y)との相関性は,回帰式:y = 0.85x – 25.74,r = 0.976であり,RIA法に比してCLEIA法は低値となる傾向が認められた(Figure 4A)。
CLEIA method: Lumipulse Aldosterone reagent; RIA method: radioimmunoassay; MC-MS/MS method: Liquid chromatography-tandem mass spectrometry.
LC-MS/MS法(x)とCLEIA法(y)との相関性は,回帰式:y = 1.04x + 0.59,r = 0.967であり,CLEIA法はLC-MS/MS法と同程度であった(Figure 4B)。
RIA法(x)とLC-MS/MS法(y)との相関性は,回帰式:y = 1.21x + 33.64,r = 0.987であり,RIA法に比してLC/MS-MS法は低値となる傾向が認められた(Figure 4C)。
CLEIA法でのアルドステロン認証基準物質NMIJ CRM 6402-b測定値はそれぞれ200.8,396.0,801.3 pg/mLとなり,認証値に対しては102,103,105%であった。
ルミパルスプレスト アルドステロンの基礎的評価として,併行精度,検査室再現性,希釈直線性試験,検体の保存条件と安定性評価,従来法との相関性,LC-MS/MS法およびRIA法との比較測定を実施した。併行精度および検査室再現性の結果として,アルドステロン測定値CVは5%以内であり良好な結果であった。また,検体の保存条件と安定性評価から,アルドステロンは冷蔵・凍結いずれの条件下でも評価期間中の測定値変動は5%以内であり安定して測定できることが確認された。一方で凍結融解を繰り返すことにより検体によっては5%を超える変動も認められたが,その変動率は一定の傾向を示さない10%未満の範囲であり顕著な影響はないと考えられた。
希釈直線性試験の結果,CLEIA法は1,400 pg/mLまで原点を通る良好な直線性が確認できた。試薬の測定範囲の上限は2,000 pg/mLであるが,本検討中の高濃度検体が入手困難であったため,測定範囲上限までの検討は行えていない。
相関性試験の結果,CLEIA法はRIA法に比して低値となった。しかしながら,CLEIA法とLC-MS/MS法の相関性は良好であり,CLEIA法とLC-MS/MS法の測定法間差はほぼ認められなかった。また,CLEIA法はアルドステロン認証基準物質NMIJ CRM 6402-bの測定値が認証値に対して102~105%を示していることから,正確にアルドステロン濃度が測定できていると考えられる。従来用いられてきたRIA法では統一された検量線の校正基準がないこと,測定法が競合法に基づいて設計されていることから精度がサンドイッチアッセイに対して劣ること,抗体の特性による反応特異性の違いなどにより精度に差が生じたと考えた。ルミパルスプレスト アルドステロンは特徴的な抗(抗アルドステロン抗体/アルドステロン免疫複合体)モノクローナル抗体を使用することによりステロイドホルモンであるアルドステロンのサンドイッチアッセイを可能としている。サンドイッチアッセイの適用により,アルドステロン濃度に依存して発光シグナルが増大するため,競合系に対して低濃度域においても高い精度および再現性性能を示していると考えられる。
現在PAの診断においてはRIA法による基準値が用いられているが,RIA法の測定値は基準測定操作法による値との乖離が報告されている。本検証においても,RIA法はLC-MS/MSとの乖離が認められた。ルミパルスプレスト アルドステロンは基準測定操作法であるLC-MS/MSと高い相関性を示し精度高く血中アルドステロン濃度を測定できることが確認された。また,RIA法は放射線同位体を使用するため,使用施設が限定され院内におけるアルドステロン濃度測定は困難であり,外部委託測定が主であるのに対し,本試薬は全自動免疫測定装置(ルミパルスPresto IIまたはルミパルスL2400)を用いることで院内にてアルドステロンを精度高くルーチン測定することが可能となる。高血圧患者のPA診断においてはスクリーニングや機能確認検査など複数回にわたり血中アルドステロン測定を実施する6)。一般検査室におけるアルドステロン測定は患者の通院回数を減らし,より早期の治療開始を可能とすると考えられる。
今般,原発性アルドステロン症ガイドライン2021においてCLEIA法によるスクリーニングの判定基準が設定された7)。CLEIA法によるアルドステロン測定が広く普及されることが期待される。
ルミパルスプレスト アルドステロンの試薬性能は良好であり日常検査に有用であると考えられた。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。