医学検査
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原著
無症候で発見された頸動脈プラーク潰瘍形成と以後の神経学的症状出現との関連
湯浅 麻美西尾 進平田 有紀奈大櫛 祐一郎荒瀬 美晴楠瀬 賢也山田 博胤佐田 政隆
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2022 年 71 巻 3 号 p. 404-411

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Abstract

目的:潰瘍形成を伴うプラークは,要注意プラークとして脳梗塞発症のリスクを有するとされている。また,頸動脈エコー検査時に偶然発見される無症候性の潰瘍形成を伴うプラークは少なくない。本研究の目的は,頸動脈エコー検査において無症候で発見された潰瘍形成を伴うプラークが,同様のリスクを有する潰瘍形成のないプラークと比べ,経過観察中に脳梗塞を疑うような神経学的症状(以下,神経学的症状)出現が多いか否かを検討することである。方法:2014年1月から2018年12月までの間に,初回超音波検査で潰瘍形成を認めた87例を潰瘍形成群,初回検査で潰瘍形成を伴うプラークを指摘されなかった1,526例から,propensity scoreを用いてリスクファクターをマッチさせた87例を抽出し非潰瘍形成群とした。両群の神経学的症状出現の有無について後ろ向きに調査し,比較検討した。成績:検査後の経過観察中に神経学的症状の出現を認めたのは,潰瘍形成群87例中2例(ともに一過性脳虚血発作)であり,非潰瘍形成群では神経学的症状の出現を認めなかった。2群間の神経学的症状出現の有無について統計学的有意差を認めなかった。結論:無症候で発見された潰瘍形成を伴うプラークは,経過観察中の神経学的症状出現と有意な関連を認めなかった。

Translated Abstract

Purpose: Carotid plaque ulceration is considered to be one of the risk factors for cerebral infarction. Carotid plaque ulcerations are detected in many asymptomatic patients in daily medical practice. The purpose of this study is to investigate the relationship between asymptomatic carotid plaque ulceration and the subsequent neurological outcome. Methods: The study population included 87 patients with carotid plaque ulceration at the initial carotid ultrasonography test. These patients were assigned to the ulceration group. This group was matched with 87 patients, drawn from 1,526 eligible patients without carotid plaque ulceration, by the propensity score method in terms of age, gender, mean intima-media thickness, max intima-media thickness, hypertension, diabetes, dyslipidemia, and administration of antiplatelet agents, eicosapentaenoic acid, and statins. These 87 patients were designated as the non-ulceration group. We retrospectively investigated the subsequent development of neurologic symptoms in the two groups. Results: During the follow-up period, only two patients in the ulceration group developed neurologic symptoms caused by transient ischemic attack. On the other hand, in the non-ulceration group, none developed neurologic symptoms. Moreover, no statistically significant differences were found between these groups. Conclusion: Carotid plaque ulceration in asymptomatic patients was not significantly associated with the subsequent development of neurologic symptoms.

I  はじめに

脳梗塞の分類には,1990年に米国国立神経疾患・脳卒中研究所(National Institute of Neurological Disorders and Stroke; NINDS)が発表した分類(NINDS III)1)が広く用いられている。脳梗塞の機序分類には,血栓性,塞栓性,血行力学性が,臨床病型分類にはアテローム血栓性脳梗塞,心原性脳塞栓,ラクナ梗塞,分枝粥腫型梗塞(branch atheromatous disease; BAD)などがある。潰瘍形成を伴う頸動脈プラークは,アテローム硬化性病変からの血管原性塞栓(artery to artery embolism)を引き起こすことにより,脳梗塞を生じやすいとされている2)~5)。機序分類は塞栓性,臨床病型分類はアテローム血栓性脳梗塞に該当し,そのプラークは注意すべきプラーク(要注意プラーク)と呼ばれている6)。日本超音波医学会のガイドライン「超音波による頸動脈病変の標準的評価法2017」6)では,要注意プラークの1つとして潰瘍形成が挙げられており,塞栓症に注意して経時的な観察を行う必要があるとされている。しかし,実際は潰瘍形成を伴うプラークを有する患者において,無症状で経過している例は少なくない。我々は,無症候で発見された潰瘍形成を伴う頸動脈プラークに限り,その経過において脳梗塞を発症する頻度は多くないのではないかと考えた。そこで,同じようなリスクファクターを有する患者を対照群とし,潰瘍形成の有無で経過観察中に神経学的症状出現に差を認めるかどうかを検討することを目的とした。

II  対象と方法

1. 対象

2014年1月から2018年12月までの間に当院で頸動脈エコー検査を施行した3,067例を対象とした。除外基準は,脳梗塞および脳出血の既往がある患者,頸動脈内膜剥離術や頸動脈ステント留置術施行後の患者,総頸動脈または内頸動脈閉塞を有する患者である。残りの1,526例のうち,初回検査で潰瘍形成を認めた87例を潰瘍形成群とした(Figure 1)。対照群は,初回検査でプラークを認めるが潰瘍形成のない1,439例から,propensity scoreを用いて年齢,性別,平均内中膜厚(mean intima-media thickness; mean IMT),最大内中膜厚(max intima-media thickness; max IMT),高血圧症,糖尿病,脂質異常症および抗血小板薬・イコサペント酸エチル(EPA)製剤・スタチンの内服の有無を潰瘍形成群と一致させ,非潰瘍形成群として87例を抽出した。

Figure 1 対象の内訳

脳梗塞の既往がなく,初回検査で潰瘍形成を指摘された87例を潰瘍形成群,propensity scoreを用いて患者背景を一致させ抽出した87例を非潰瘍形成群とした。

なお,それぞれの診断基準は「収縮期血圧/拡張期血圧 ≥ 140/90 mmHg」を高血圧症,「HbA1c ≥ 6.5%,糖尿病型の血糖値(空腹時血糖値 ≥ 126 mg/dL,75 g経口糖負荷試験2時間血糖値 ≥ 200 mg/dL,随時血糖値 ≥ 200 mg/dLのいずれか)」を糖尿病とし,脂質異常症は「LDLコレステロール ≥ 140 mg/dL,HDLコレステロール < 40 mg/dL,トリグリセライド ≥ 150 mg/dLのいずれか」とした。また,それぞれに対する治療薬を内服している患者も高血圧症,糖尿病,脂質異常症に計数した。

2. 方法

超音波診断装置およびリニア探触子(型番,中心周波数)は,日立製作所製prosound α10(UST-5412, 7.5 MHz)およびHI VISION Preirus(EUP-L73S, 9–4 MHz),GEヘルスケア製LOGIQ7(9L, 9 MHz),キヤノンメディカルシステムズ製Aplio500(PLT-704SBT, 7.5 MHz)のいずれかを用いた。

プラークの観察は,短軸および長軸像で2D画像,カラードプラ画像の両方を用いて行った。潰瘍形成プラークは,潰瘍の大小にかかわらず,プラーク表面に明らかな陥凹を認めるものとした(Figure 2)。なお,潰瘍形成の有無に加えて,潰瘍形成を伴うプラークの大きさ,エコー輝度,部位に関して調査した。

Figure 2 潰瘍形成の定義

対象の選択基準であるプラーク潰瘍形成(→)は,潰瘍の大小にかかわらず,プラーク表面に明らかな陥凹を認めるものとした。BIF:bifurcation

左:右頸動脈洞の潰瘍形成プラークの横断面

右:右頸動脈洞の潰瘍形成プラークの縦断面

Mean IMTは,Bモード総頸動脈長軸像の遠位壁内中膜厚を,頸動脈洞から中枢側へ10 mmの範囲で3点計測し,その平均値を用いた。Max IMTは,対象側の総頸動脈,頸動脈洞,内頸動脈の短軸像で計測したプラークから最大厚を選択した。いずれの項目も,左右でより大きい方の値を選択した。Plaque scoreは,対象側のプラークサイズの総計とした。収縮期最大血流速度(peak systolic velocity; PSV),拡張末期血流速度(end diastolic velocity; EDV)は,総頸動脈長軸像で角度補正60度のドプララインと血流方向が平行となる位置でパルスドプラ法を用いて記録した。拍動係数(pulsatility index; PI)は,PSVとEDVの差を時間平均最大血流速度で除して求めた。抵抗係数(resistance index; RI)は,PSVとEDVの差をPSVで除して求めた。プラークの輝度分類は,日本超音波医学会のガイドライン6)より,プラーク周囲の非病変部の内中膜複合体(対象構造物のIMC)と比べ低輝度領域を含むものを「low echo plaque」,対象構造物のIMCと比べ等輝度からやや高輝度なものは「isoechoic plaque」,対象構造物のIMCと比べ高輝度且つ音響陰影を伴うものを「high echo plaque」とした。狭窄率は「mild」「moderate」「severe」の3段階に分類し,狭窄部のPSV 1.5 m/s以上2.0 m/s未満を軽度狭窄,PSV 2.0 m/s以上3.5 m/s未満を中等度狭窄,PSV 3.5 m/s以上を高度狭窄とした。頸動脈エコー検査は,2年以上の検査経験を有する臨床検査技師6名が担当した(そのうち3名は,血管領域の超音波検査士を取得していた)。

年齢・性別・既往歴等の患者背景や神経学的症状出現の有無は,電子カルテシステムに保存された患者情報より収集した。

3. イベント

イベントの有無は,MRI検査による画像診断結果ではなく,電子カルテの記載をもとに,脳梗塞を疑うような神経学的症状の出現をもってイベントありとした。神経学的症状は,片麻痺,片側の感覚障害,意識障害,構音障害,失語などの言語障害,一過性黒内障,半盲とし,めまい感やふらつきは脳梗塞に特異的な所見ではないため,今回の神経学的症状から除外した。潰瘍形成群と非潰瘍形成群の全174例の神経学的症状の有無について,初回検査日から最終診察日までを電子カルテ上の診察記事を参照し,後ろ向きに調査した。

4. 統計学的解析

2群間の患者背景因子の相違から生じる選択バイアスが結果に影響を与える可能性があるため,比較対象群の割付にpropensity scoreを導入し,交絡因子を調整した。

連続変数からなるデータに関して正規分布するものは平均値 ± 標準偏差で,非正規分布するものは中央値(第1四分位点-第3四分位点)で表記した。2群間の比較は,対応のないt検定を用いた。また,イベント発生率は,Kaplan-Meier法を用いてLog-rank検定を行った。p < 0.05で有意差ありとした。統計解析には,SPSS statistical software(version 25.0, SPSS Inc., Chicago, IL, USA),JMP software(version 14.0, SAS Institute Inc., Cary, NC, USA)を用いた。

5. 研究倫理

本研究は臨床の範囲内で行われた研究であり,当施設の倫理委員会で承認を受けている(IRB No. 3825)。また,本研究に際し,筆者には開示すべき利益相反はない。

III  結果

1. 患者背景

平均観察期間は,潰瘍形成群673 ± 649日,非潰瘍形成群921 ± 746日であった。初回検査で頸動脈プラーク潰瘍形成を認めた87例を潰瘍形成群(平均年齢74 ± 8歳,男性65例),対照群としてpropensity scoreにより抽出した87例を非潰瘍形成群(平均年齢75 ± 8歳,男性64例)とした。対象患者の臨床背景をTable 1に示す。両群とも血圧,コレステロール値は比較的コントロールが良好であった。また,両群の頸動脈エコー計測値をTable 2に,潰瘍形成プラークの詳細情報をTable 3に示す。PSV,EDV,PI,RI,plaque scoreに両群間で有意差を認めなかった。超音波検査の経過観察回数をTable 4に示す。経過観察の間隔は潰瘍形成群が286 ± 237日,非潰瘍形成群が306 ± 251日であった。複数回超音波検査を施行した潰瘍形成群の12例のうち,潰瘍の修復を認めたのは2例,潰瘍の新規出現を認めたのは2例,潰瘍の拡大を認めたのは1例であった。潰瘍底部の可動性は認めなかった。

Table 1  患者背景
対象全体
(n = 1,526)
潰瘍形成群
(n = 87)
非潰瘍形成群
(n = 87)
p
年齢,歳 70(61–77) 75(70–81) 74(69–81) 0.70
男性,n(%) 930(61) 65(75) 64(74) 0.81
収縮期血圧,mmHg 130 ± 20 131 ± 21 130 ± 19 0.78
拡張期血圧,mmHg 72 ± 12 73 ± 15 71 ± 13 0.40
HbA1c(NGSP),% 6.2 ± 1.1 6.1 ± 0.7 6.4 ± 1.3 0.16
LDLコレステロール,mg/dL 114 ± 40 101 ± 31 104 ± 29 0.53
mean IMT,mm 0.86(0.74–0.98) 0.93(0.84–1.07) 0.93(0.85–1.06) 0.99
max IMT,mm 2.4 ± 1.1 3.8 ± 1.1 3.8 ± 1.1 0.80
高血圧症,n(%) 1072(70) 73(84) 73(84) 1.00
糖尿病,n(%) 565(37) 25(29) 28(32) 0.62
脂質異常症,n(%) 736(48) 47(54) 49(56) 0.76
抗血小板薬,n(%) 398(26) 36(41) 39(45) 0.52
EPA製剤,n(%) 65(4) 4(5) 5(6) 1.00
スタチン,n(%) 611(40) 38(44) 39(45) 0.83

NGSP: National Glycohemoglobin Standardization Program, EPA: eicosapentaenoic acid, IMT: intima-media thickness

p値は潰瘍形成群 vs. 非潰瘍形成群

Table 2  頸動脈エコー計測値
潰瘍形成群
(n = 87)
非潰瘍形成群
(n = 87)
p
PSV,cm/s 75 ± 22 75 ± 17 0.88
EDV,cm/s 16 ± 6 16 ± 5 0.58
PI 1.70(1.47–2.01) 1.80(1.55–2.12) 0.12
RI 0.77 ± 0.07 0.79 ± 0.06 0.25
plaque score 16.8(13.7–22.1) 14.9(10.9–20.6) 0.11
mild stenosis,n(%) 11(13) 9(10)
moderate stenosis,n(%) 8(9) 3(3)
severe stenosis,n(%) 0(0) 2(2)

PSV: peak systolic velocity, EDV: end diastolic velocity, PI: pulsatility index, RI: resistance index

Table 3  潰瘍形成プラーク
潰瘍形成プラーク 潰瘍形成群
(n = 87)
プラークサイズ,mm 3.5 ± 1.1
潰瘍サイズ,mm 1.8(1.5–2.4)
low echo plaque,n(%) 26(30)
isoechoic plaque,n(%) 82(94)
high echo plaque,n(%) 60(69)
mixed plaque,n(%) 67(77)
発生部位 CCA,n(%) 6(8)
BIF,n(%) 60(69)
ICA,n(%) 24(28)

CCA: common carotid artery, BIF: bifurcation, ICA: internal carotid artery

Table 4  超音波検査による経過観察回数
検査回数 潰瘍形成群
(例)
非潰瘍形成群
(例)
1回 75 70
2回 5 7
3回 1 5
4回 2 2
5回 3 1
6回 1 1
7回 0 1

潰瘍形成群,非潰瘍形成群それぞれにおける患者一人ごとの総検査回数を示した。

2. イベント

初回検査後の経過観察中に神経学的症状を認めた患者は,潰瘍形成群で2例であり,非潰瘍形成群では認めなかった。Kaplan-Meier法を用いたLog-rank検定の結果,潰瘍形成群と非潰瘍形成群で神経学的症状の出現に有意差を認めなかった(p = 0.059)(Figure 3)。

Figure 3 潰瘍形成群および非潰瘍形成群のKaplan-Meier曲線

Log-rank検定の結果,p = 0.059であり,潰瘍形成群と非潰瘍形成群で神経学的症状出現の有無に有意差を認めなかった。

神経学的症状の出現を認めた2例の詳細を示す。

1例目は,両足の脱力を主訴に受診した。左下肢は挙上維持可能であったが,右下肢に比べ低位であった。ペースメーカーが留置されており頭部CT検査を施行し,右の前頭葉や頭頂葉皮質下および右小脳半球に低濃度域を認めた。2年前の脳MRI検査でも大脳半球は右側脳室前角と後角付近の異常信号および右小脳半球に低信号を認めており,陳旧性の変化と考えられ,今回の症状との関連は低いと判断された。閉塞性動脈硬化症に対して抗血小板薬内服中であり,追加治療は行われなかった。

2例目は,左眼の一過性の視野障害を主訴に受診した。頭部MRI検査で左後大脳動脈の閉塞を認めたが,左後頭葉に梗塞巣は指摘されず,一過性脳虚血発作と診断された。抗血小板薬を追加し経過観察の方針となった。

いずれも,頸動脈エコー検査で左側頸動脈洞のプラークに潰瘍形成を認めていた(Figure 4)。症例1は2.2 mm大の等輝度均質型のプラークであり,症例2は2.9 mm大の高輝度不均質型のプラークであった。

Figure 4 神経学的症状の出現を認めた2例の,頸動脈エコー検査によるプラーク潰瘍形成(→)像

ともに一過性脳虚血発作と診断された。BIF:bifurcation

a.症例1 80代男性:左頸動脈洞の潰瘍形成プラークの横断面

b.症例2 70代男性:左頸動脈洞の潰瘍形成プラークの横断面

IV  考察

本研究では,潰瘍形成群と非潰瘍形成群の2群間で,観察期間中に神経学的症状出現の有無について,有意差を認めなかった。無症候で偶発的に発見された潰瘍形成を伴うプラークにおいては,厳密なリスク管理がなされていれば,以後2~3年の間に有症候性に移行する可能性は低いと推察される。このことは,ガイドラインで潰瘍形成プラークが要注意プラークとされていることと相反する結果となったが,本研究では,脳梗塞発症後の症例を対象外としていることがその一因と思われる。また,artery to artery embolismは,プラークが破綻し,潰瘍を形成した際に脳梗塞を発症する症例が少なくないのではないかと考えられる。プラークの破綻時に症候性の脳梗塞とはならず,潰瘍のみ残存しているような症例では,潰瘍自体が以後の脳梗塞のリスクとなる可能性は低いのかもしれない。

潰瘍とはプラーク内で出血した血腫や脂質が破綻してできた陥凹であり,潰瘍内は血栓ができやすいとされている7),8)。かつて不安定プラークと呼ばれていた破綻しやすいプラークは,脂質コアが大きく,線維性被膜が薄く,マクロファージ,リンパ球などの炎症細胞浸潤が目立ち,血管新生に富むといわれている9)~12)。本研究で神経学的症状を認めた2例の潰瘍形成プラークは等輝度均質型と高輝度不均質型であった。神経学的症状を認めなかった例でもこれらのプラークを認めており,本研究における神経学的症状出現の有無は潰瘍形成プラークの性状には規定されていなかった。

HandaらはOSACA Studyでの追跡調査で,頸動脈高度狭窄病変では9倍,潰瘍病変では4倍,脳梗塞の再発率が高いと報告している13),14)。またSitzerら15)は,頸動脈プラークの潰瘍および血栓形成は頭蓋内血管における微小血栓の頻度と相関しており,頸動脈プラークの破綻が脳卒中の重要な因子であると報告している。頸動脈プラークの不安定化を引き起こす因子を検討するため,これまでに数多くの研究が行われているが,これらのデータを統合し解析したmeta-analysisによると,症候性患者群で頸動脈プラークの破綻または潰瘍形成が有意に多く認められた16)。ただし,血栓形成は症候性患者群でやや多い傾向を認めたが有意差はなかった。なお,粥腫の破綻は常に神経学的症候を引き起こすわけではなく,無症候で終わることが多いことは,これまでの研究でも言及されており17),潰瘍形成プラークが神経学的症候を引き起こすリスクとなるか否かは議論の分かれるところである。

日本超音波医学会のガイドラインにおいて,潰瘍形成を伴うプラークは要注意プラークと定義されているが,本研究では,無症候で発見された潰瘍形成を伴うプラークを有する患者において,潰瘍形成を有さない患者と,検査後2~3年の経過観察中に神経学的症状の出現頻度に統計学的有意差を認めなかった。今後,無症候で発見された潰瘍形成を伴うプラークを有する患者に限っては,最適な内科的治療を行うことで,有症候性の脳梗塞発症を抑制できる可能性が高いと考える。

本研究にはいくつかの制限があった。対象の全例においてMRI検査が施行できておらず,無症候性の脳梗塞の有無については検討できていない。潰瘍形成を認めても,無症候性の場合,いつ潰瘍が形成されたのかが不明であり,急性期の脳梗塞に対する治療適応とはならない。したがって,臨床上はMRI検査が必ずしも施行されておらず,観察研究としての限界である。また,本研究では脳梗塞を疑うような神経学的症状の出現をもってイベントありとしたが,無症候性脳梗塞も症候性脳梗塞のリスクとなり,今後の追跡調査が必要である。なお,本研究は電子カルテ上の診察記事からデータ収集を行った後ろ向き研究であり,統一された経過観察法がないため神経学的症状の検出に偏りをもたらした可能性がある。さらに,propensity scoreで患者背景因子が調整されていても,調整されていない交絡因子が存在する可能性も否定はできない。今後は本研究結果をさらに検討するために,より長い経過観察期間を有する無作為化前向き比較試験が必要と考える。

V  結語

脳梗塞の既往がなく無症候で発見された潰瘍形成を伴うプラークを有する患者において,経過観察中における神経学的症状の出現は,潰瘍形成を有さない患者と比較して統計学的有意差を認めなかった。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2022 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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