医学検査
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資料
「将来の臨床検査技師像を見据えたアンケート」調査から考える臨床検査技師教育―現状把握を通して―
山口 孝一長屋 聡美谷口 容關谷 暁子山口 良考片山 博徳長沢 光章森下 英理子
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2022 年 71 巻 4 号 p. 681-689

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Abstract

日本臨床衛生検査技師会は多様化する医療のニーズに応えるべく,「チーム医療推進に向けた事業展開」を提案している。今回,将来の臨床検査技師像を見据えた教育を行うことで臨床検査技師の更なる発展に貢献するため,アンケート調査を行って教育現場が取り組むべき内容について模索した。アンケートは臨床検査技師および医療従事者を対象とし,グーグルフォームを用いた無記名回答形式で行った。1.満足度は,満足と回答した病院検査技師が全体の約1/3であり,不満の理由としては給与への不満や業務量の多さが挙げられた。2.認定資格は約7割の病院検査技師が取得しており,その取得数は病院規模に依存していなかった。3.チーム医療へは各病院が積極的に参画していた。4.Artificial intelligence(AI)導入に関しては半数以上の病院検査技師が関心を持ち,検査システムや細胞形態判別への活用が挙げられた。5.今後取り組みたいこと・取り組むべきこととしては,認定資格の取得や学術活動を強く希望している病院検査技師が多く存在した。本アンケート調査により,病院に勤務する臨床検査技師が感じていることや現状の問題点が整理された。また,将来の臨床検査技師像を見据えた教育機関の役割として,在学中から研究手法を習得させることや,検査データ処理のトレーニングなども必要であると考える。さらに,医療人としての人格形成やマネージメント能力,コミュニケーション能力の育成が重要である。

Translated Abstract

The Japan Society of Clinical Hygiene Technologists proposed “Business Development for Promotion of Team Medicine” to meet the diversifying needs of medical care. This time, we conducted a questionnaire survey to examine how the educational field should be involved in the further development of the future image of medical technologists. We conducted a questionnaire survey using Google Forms with no-name answers and targeted medical technologists and healthcare professionals. 1. Approximately 1/3 of all hospital technologists responded that they were satisfied with their work, and the reasons given by those who were dissatisfied were dissatisfaction with salary and workload. 2. More than half of the hospital technologists were interested in the introduction of artificial intelligence (AI) and its use in test systems and cell morphology identification. 5. The hospital technologists strongly desired to obtain for certifications and academic activities to do in the future. Through this survey, we were able to clarify the current problems that hospital technologists are feeling and facing. In addition, we believe that the roles of educational institutions that are looking toward the future of clinical technologists should include training in research methods and laboratory data processing from the time students are in school. Furthermore, it is important for educational institutions to develop students’ personality, management skills, and communication skills required as medical professionals.

I  目的

我が国では,急激な少子高齢化の進展と団塊世代が後期高齢者に到達する2025年に照準を合わせた社会保障制度改革が進められ1),国内医療を取り巻く環境は大きく変化している。それに伴い,臨床検査業界においても,現在の医療情勢を踏まえた対応が求められている。

日本臨床衛生検査技師会(日臨技)は,多様化するニーズに応えるため,「チーム医療推進に向けた事業展開」として,平成25年度から「検査と健康展」および「検査説明・相談ができる臨床検査技師教育事業」,平成26年度から「検体採取等に関する厚生労働省指定講習会」,平成27年度から「病棟業務実践講習会」,平成28年度からは「認知症疾患への対応力向上講習会」および「在宅医療への臨床検査技師の参画」など,様々な講習会を実施している1)~3)。しかし,この新たな業務内容が医療現場に十分に浸透しているとは未だ言い難く,教育機関においてもこれらの案に関する教育機会が乏しい現状がある。そこで,医療現場の臨床検査技師が直面している問題を把握し,その対策を講じると共に,将来を見据えてどのような臨床検査技師を育成するかについて模索していく必要がある。

今回,臨床検査技師が抱えている問題と将来の臨床検査技師像を把握し,教育現場が取り組むべき内容を模索することを目的として,アンケート調査を行った。

II  方法

アンケートは,グーグルフォームを用いて無記名回答とし,2週間の期限で実施した。アンケート内容をTable 1に示す。自由回答を中心にアンケートを作成し,類似した意見は任意でカテゴリー分けを行った。対象は,本アンケートの主旨について賛同が得られた臨床検査技師および医療従事者とした。回答を得た128名の参加者情報をFigure 1Aに示す。

Table 1  質問事項
質問内容 自由記載
基本情報 年代
職業
病院検査技師の施設規模
アンケート内容 仕事の満足度 不満の人はその理由
専門資格を持っているか 持っている人はその資格の種類
チーム医療に参加しているか 参加している人は具体的な活動内容
AIに関心があるか 具体的な関心事項
今後取り組みたいこと,取り組むべきことがあるか 具体的に取り組みたいこと
将来に求める臨床検査技師像 具体的に求めること
Figure 1 参加者情報(n = 128)

A)回答者数および職業内訳を示す。総回答数は128名であった。そのうち,病院に勤務する臨床検査技師の回答数が最も多かった(103名)。

B)病院に勤務する臨床検査技師の施設規模別の回答数と年代を棒グラフで示す。100~499床の施設が49施設と最も多く,ついで500床以上が48施設であった。

今回の検討では,病院に勤務する臨床検査技師(病院検査技師,103名)を中心にアンケートの解析を行い,将来の臨床検査技師像の意見については,教育機関の臨床検査技師(12名),臨床医師(7名),これからの臨床検査を担う大学院生(4名),大学生(2名)からの意見をまとめた。病院検査技師の施設規模と年代別人数は,100~499床(49名),500床以上(48名),20床未満(4名),20~99床(2名)であった(Figure 1B)。

本研究は金沢大学倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号1015-1)。

III  結果

1. 業務の満足度(病院検査技師)(Figure 2
Figure 2 病院検査技師の業務の満足度

A)業務の満足度の設問では,「満足」が33名(32%)であり,業務に満足感を得ている病院検査技師は約三分の一であった。

B)Figure 2Aで「不満足」と回答した病院検査技師へ理由を設問したところ,「給与が安い」の他,「業務量が多い」,「サービス残業が多い」が上位を占めていた。円グラフは,「不満足」と回答した年代の割合を示す。

業務に対する満足度の設問に対して,「満足」が33名(32%),「不満足」が16名(16%),「どちらでもない」が54名(52%)であり,現状の業務に満足している病院検査技師は全体の約1/3であった(Figure 2A)。また,「不満足」と回答した病院検査技師の半数以上が20代と30代の若い世代であり,理由として「給与が安い」が最も多く,その他に「業務量が多い」,「サービス残業が多い」が上位を占めた(Figure 2B)。

2. 認定資格数(病院検査技師)(Figure 3
Figure 3 病院検査技師の認定資格数(病院検査技師)

A)保有している認定資格についての設問では,資格を持っていると回答した病院検査技師が76名(74%)と8割近くが資格を有していた。

B)認定資格を有している病院検査技師の年代は30代が最も多く,次いで40代,50代であった。20代が少ない理由としては,まだ認定資格の受験資格が得られてないためと考えられる。

C)認定資格保有者と施設規模の関連について,個人が保有している認定資格数別に棒グラフで表した。

認定資格の有無と認定資格の種類についての設問に対して,「何らかの認定資格を持っている」が76名(74%)であった(Figure 3A)。認定資格を有している76名を年代別にみると,20代11%(8人/76人),30代39%(30人/76人),40代26%(20人/76人),50代24%(18人/76人)であり,30代の病院検査技師が最も多い結果であった(Figure 3B)。一方,認定資格を「持っていない,取得予定なし」は,12%であった。さらに,施設の規模で個人が保有する認定資格数を比較すると,100~499床および500床以上の施設で大きな差は認めなかった(Figure 3C)。

3. チーム医療への参画(病院検査技師)(Figure 4
Figure 4 病院検査技師のチーム医療への参画について(病院検査技師)

A)病院検査技師においては,半数以上がチーム医療に参画していた。

B)チーム医療の内訳は,NST ,糖尿病教室,ICTが10施設以上実施しており,次いで検査説明が7施設で行われていた。

NST;栄養サポートチーム ICT;感染制御チーム

チーム医療への参画についての設問に対して,「参加している」と回答した病院検査技師は59名(57%)であった(Figure 4A)。また,回答者の施設において,どのようなチーム医療に参加しているかの設問では,参加しているチーム医療は重複例もあるが,NST(栄養サポートチーム),糖尿病教室,ICT(感染制御チーム)がそれぞれ10施設以上実施しており,ついで検査説明7施設と続き,ハートチーム,医療安全,輸血医療(再生医療を含む),血管外科,乳腺キャンサーボードへの参加であった(Figure 4B)。

4. Artificial intelligence(AI)に対する関心について(病院検査技師)(Figure 5
Figure 5 病院検査技師のAI(人口知能)に対する関心について

A)今後,臨床検査業界にAIが導入されることに対しての関心の有無を設問した。約半数の病院検査技師が関心があると回答した。

B)AIに関心があると回答した病院検査技師に対して,どのような場面でAIが活用されると考えるか設問した。検査システムでの応用との回答が最も多く,次いで生理検査の画像診断システムや細胞形態診断システムなど,診断ツールとしてのAI応用との回答が得られた。

ここ数年来,AI(人工知能)が臨床検査分野に応用される時代が来ると言われている。AIに対する関心についての設問では,「関心がある」は53名(51%)であった(Figure 5A)。また,臨床検査領域のどの業務にAIが導入されると思うかの設問に対して,「検査結果の自動報告」や「精度管理の判定」など,検査システム関連の応用についての回答が多く,次いで「生理検査の画像診断システム」や「細胞診,血液細胞形態の形態判断システム」,「インシデント等の危機管理」であった(Figure 5B)。

5. 今後取り組むべき,取り組みたいこと(病院検査技師)(Figure 6
Figure 6 病院検査技師の今後取り組むべきこと,取り組みたいこと(病院検査技師)

A)臨床検査技師がやること,やるべきことの有無を設問したところ,「ある」と回答した病院検査技師が8割存在した。

B)Figure 6Aで「ある」と回答した病院検査技師に対して内容を設問したところ,認定資格取得が最も多かった。また,学会発表や論文投稿などの学術活動を望む意見が多く,その多くは30代の病院検査技師が占めていた。

C)理想とする将来の臨床検査技師像の設問に対する回答を示す。「医療現場で必要とされる臨床検査技師」や「専門性取得」,「医師へ助言ができる臨床検査技師」,「マルチな知識を有する臨床検査技師」など,臨床検査の知識を検査室の外へ発揮できる臨床検査技師を理想とする回答が多くみられた。

I&A:輸血機能評価認定 CRC:治験コーディネーター

今後取り組みたいこと,あるいは取り組むべきことがあるかの設問に対して,「ある」が82名(80%)であった(Figure 6A)。また,その82名のうち,「認定資格を取得したい」が39名で最も多く,その他,「学会発表」が19名,「論文投稿」が7名と,学術活動を望む臨床検査技師が多く,年代別では30代が半数以上を占めた(Figure 6B)。さらに,将来の検査技師像について自由回答で設問を行った結果,「医療現場で必要とされる臨床検査技師」との回答が多かった。その他,「認定資格を含めた専門性の取得」や「医師へ助言ができる臨床検査技師」,「一つの部門の知識にとらわれないマルチな知識を有する臨床検査技師」,「検査室の外で活躍できるための業務の拡大」等の意見があった(Figure 6C)。

6. 病院検査技師以外の職種から見た将来の検査技師像(Table 2
Table 2  病院検査技師以外の職種から見た将来の検査技師像
A.医師から見た将来の臨床検査技師像
・在宅医療への参加(検査,物品管理など)
・他職種との連携をとれる技師
・異常値があればすぐに知らせてもらえると,忙しい外来中でも対応が遅れることなく診療ができるのでありがたい。
・自分の専門の検査に関して,エキスパートとなれる技師
・臨床医の要望にできる限り応えていただける技師
・骨髄像がカウントできる(所見をよめる)技師
B.大学生・大学院生から見た将来の臨床検査技師像
・高度化する検査機器やAIから得られる多様な情報を分析し,検査結果に付加価値を与えられる臨床検査技師
・表舞台でも活躍する臨床検査技師
・病気の原因などを考察できる臨床検査技師
・検査業務+​αで何かできる人材
・患者さんに寄り添える臨床検査技師
・臨床検査技師の地位向上
C.教育機関に勤める臨床検査技師から見た将来の臨床検査技師像
・医師と対等に話し,検査部から新しい提案ができる技師
・医師や他のコメディカルともっとコミュニケーションをとり,オープンな検査室にしたい
・論文発表は1題以上を行い,医師にしっかりと検査結果を伝えられる検査技師
・検査のプロとして,検査データから病態を的確に判断し,適切な追加検査等を医師に伝えられる。
・多職種連携をしっかりとり,在宅も含めたチーム医療を担う一員となる。
・自分たちのフィールドである臨床検査学に関する研究を積極的に行い,臨床検査学の発展に寄与する。
・社会情勢の変化に応じて自らの役割を変容させれられる臨床検査技師
・臨床検査医学を基礎とし臨床現場で働くことができる臨床検査技師
・オールラウンダーは当然であり,そこから専門分野を伸ばす。
・大学はまだまだ専門バカが多い
・チームとして必ず必要とされる立場
・患者に寄り添う
・チーム医療に参加してカンファレンスなどで,意見できる検査技師
・医者や看護師と話ができる技師

病院検査技師以外の職種25名を対象とし,将来の臨床検査技師像に対する意見をまとめた。医師の意見は,「在宅医療への参画」や「他職種との連携を望む」,「専門性を発揮して欲しい」であった。大学生や大学院生からの回答では,「検査結果に付加価値を与える臨床検査技師」や「表舞台で活躍できる臨床検査技師」,「臨床検査技師の地位向上」などの回答があった。また,教育機関に勤める臨床検査技師の意見は病院検査技師とほぼ同様であり,「個々の臨床検査技師が専門性を高めながら,検査室の外に目を向けた業務を望む」であった。

IV  考察

医療を取り巻く様々な問題の中で,特に2025年問題への対応は喫緊の課題である。臨床検査の領域においても,医師や看護師からのタスクシフトに対応すべく,検体採取や検査説明,病棟業務実習など,日臨技の主催で様々な取り組みが行われている1),2)。また,今後AIが臨床検査分野に導入されることが予想される中で,これから臨床検査技師が進むべき道を模索することは非常に重要である4)

今回,臨床検査技師養成校における卒前教育において取り組むべき内容を模索する目的で,「将来の臨床検査技師像を見据えたアンケート調査」を行った。アンケートは主に病院検査技師を対象として,臨床検査技師が直面している問題についてなどの現状把握を行った。

現在の業務に満足している病院検査技師は32%と約1/3であり,不満足が16%であった。不満足の理由としてサービス残業や業務量が多く,それに見合った給与でないことに対する不満が多数を占めた。給与に関しては施設の特色や規模にもよるが,令和2年の賃金構造基本統計調査では,平均年齢が41.2歳で1年間の平均給与約500万円であった5)。今回のアンケートで不満を示した病院検査技師の半数以上が30代未満であり,実際の給与はさらに低いものと予想され,不満につながったと考える。さらに,「どちらでもない」の回答が52%であったが,見方を変えるとFigure 6Cの「理想とする将来の臨床検査技師像」に示されている,“医療現場で必要とされる”や“医師への助言ができる”などを実現することで満足度が向上する可能性があると考えられる。本アンケート調査を踏まえ,教育機関においても,医療現場における臨床検査技師の必要性や臨床検査を通した医師とのコミュニケーション方法などを指導に取り入れることにより,将来満足度を高く持って業務を行える臨床検査技師を育成できる可能性がある。

何らかの認定資格を有している病院検査技師は74%を占め,多くの病院検査技師が専門的なスキルの向上を意識していることが示唆された。また,認定資格数は施設規模に依存しない結果であった。一方,認定資格を「持っていない,取得予定なし」が12%認めた。この要因のひとつとして,認定資格はその取得や維持に費用(専門学会費,認定料,更新料など)がかかることが挙げられる。20~30代といった若い世代では満足のいく給与が得られていない中で,資格取得のための出費は経済的負担が大きい可能性がある。更に,認定資格を有している臨床検査技師への加給制度が認められている施設は未だ多くないと考えられる。将来,資格に付随した加給制度や資格に応じて保険点数の加点等が行われるようになれば,認定資格の取得者が増加する可能性があると考えられる。

また,教育機関の観点からすると,実際に認定資格を取得し活躍している病院検査技師を教育機関に招待し,業務内容や臨床現場の魅力,学術活動など生の声を学生に届けることによって,将来のビジョンを描かせることも重要である。学生の時から医療現場で活躍する臨床検査技師を知ることにより,自覚と誇りを持って検査業務を遂行できるような臨床検査技師を育成する教育も必要であると考える。

チーム医療への参画は,日臨技が掲げる,「これからの臨床検査技師の進むべき道」として示されている。今回の調査においても57%の病院検査技師がチーム医療への参画を行っていた。NSTや糖尿病教室,ICTなどの認定資格を活かしたチーム医療への参画は,臨床検査技師の認知度を高める活動であり,参加する病院検査技師のモチベーションを保つ活動であるとも言える。一方,チーム医療に「参加していない」の回答も43%と非常に多い結果であった。考えられる原因としては,検査室の人員不足や業務過多,あるいは組織としてチーム医療へ参画するつもりがない検査室も存在するかもしれない。近年,多職種連携の教育を行っている臨床検査技師養成校が増えてきている。今後,卒業していく学生が,在学中に得た知識を臨床の現場で発揮することにより,チーム医療の中で活躍する機会が多くなることを期待している。また,日臨技が中心となりタスクシフトを推進する動きが始まっている。今後,チーム医療への参画が臨床検査業務の満足度向上や,やりがいにつながる重要なポイントになると考える。

AIの臨床検査領域への導入に関しては,英国オックスフォード大学のマイケル・オズボーンらが推計した結果,技術革新と共に自動化が進むことによる労働力代替えの可能性および将来的にAIに代替されうる職業として臨床検査技師を挙げているなど,厳しい現実も存在する6)。その中で,AI技術と共存しながら臨床検査技師はこれからどのような役割を果たしていけるのか,更なる活躍の場はどこなのかを考える重要な局面にきている。アンケート調査においても半数以上の臨床検査技師はAIに関心を持ち,検査結果の承認や再検指示,精度管理といった検査システム系の領域でAIを活用できるのではないかとの意見が多く挙げられていた。また,生理検査における画像診断,細胞診や血液細胞形態判別での活用にも関心が寄せられた。一方,約半数の病院検査技師は「どちらでもない・関心がない」との回答であった。現在のところ,病院検査室においてすぐに臨床検査の業務がAIにとって代わることはないと思われるが,いずれAIの時代がくることを念頭においておくことは非常に重要なことと考える。教育機関においても,臨床検査においてAIができること,その上で臨床検査技師がどのようにAIを活用するかが重要であることを伝え,さらにはAIを構築する臨床検査技師教育が必要となると思われる。

今後取り組むべき,取り組みたいことがあるかの設問では,80%の病院検査技師が「ある」と回答した。その半数は認定資格の取得であり,専門性を高める必要性を感じていることがうかがえた。次いで,「学会発表」,「論文投稿」の回答が多く,年代別では,ともに30代以下の病院検査技師が半数以上を占めていた。しかし,「研究をしたいけれど研究のやり方が分からない」,「学会発表をしたいけれど抄録の書き方が分からない」,「論文を書きたいけれどどうしたらよいだろう」などの悩みが多くあった。これらは,自施設に学術活動を指導できる人材が少ないことや,いないことを示唆している。臨床現場での研究を通して学ぶことは非常に多く,研究を精力的に行っている施設や,大学などの研究機関と共同研究が行える環境作りが必要であると考える。また,将来の臨床検査技師像についての自由回答では,臨床検査技師の立場が医療現場において中核的な存在になるために専門性を磨き,医師やその他のコメディカルへ助言できるマルチな知識を有する臨床検査技師が理想像であった。まさに日臨技が以前より提案している将来の臨床検査技師像そのものであり,本来はもっと多くの臨床検査技師が積極的に日臨技の活動に参加するべきであると考える。また,医師が考える将来の臨床検査技師像の意見も同様で(Table 2A),本アンケートにより,これから臨床検査技師が進むべき道の一部を明らかにすることができたと考える。今回のアンケート調査では大学生や大学院生の意見も聞くことができ,「検査技師の地位向上」や「表舞台で活躍できる臨床検査技師」等の回答があった。この結果は,裏を返せば臨床検査技師はまだ地位が低く,表舞台に立っていないと大学生・大学院生が感じていることでもある。これから社会に出ていく学生が臨床検査技師として誇りを持って働くためには,まさしく今,医療現場や教育現場で活躍している臨床検査技師が主導で臨床検査業界を改革する必要がある。また,これらの意見は以前から言われてきたことでもあり7),本格的に取り組む時期がきたと考える。教育機関に勤務する臨床検査技師の意見においても病院検査技師と同様の意見が多かったが,これは今回回答した教員の多くが病院検査技師出身の臨床検査技師であったことが要因であると考える。

以上を踏まえ,将来の臨床検査技師像を見据えた臨床検査技師に対して教育機関が実践すべきことを考察する。教育機関において,臨床検査の原理原則を確実に習得させることは当然だが,特に大学では卒業研究を実施する機関が多く,研究テーマの選定や研究の立案・計画・実行の一連の過程,その過程における実験手技や解析方法の習得に対して,今以上に時間をかけた手厚いフォローと教育が重要であると考える8),9)。また,多職種連携の教育もより充実させる必要がある。多職種連携では医師,看護師,その他のコメディカルの方々と協力しながら患者ケアを行っていかなければならない。臨床検査技師の役割を存分に発揮するためにも,教育機関において医療人としての人格形成やマネージメント能力,コミュニケーションの能力の育成が重要と考えられる。今回のアンケートで「チーム医療に参加していない」の回答が病院検査技師の43%にもおよんでいたことは少し残念である。しかし,臨床検査技師養成校を卒業した学生が,チーム医療で活躍できる教育や指導をすることが将来の臨床検査技師を盛り上げる方策と考え,さらには臨床検査業務の満足度の向上にも寄与すると思われる。臨床検査室のAI構築を見据えたデータサイエンスを行うための情報収集や統計手法などを教育に取り入れ,検査システムの構築や画像診断,細胞形態判別ができる臨床検査技師,強いては臨床検査科学者の育成が必要であると考える10)

以上,アンケート調査から考える教育機関の関わりを述べた。本アンケートは約7万人いる臨床検査技師のほんの一部の意見であり,すべての臨床検査技師の意見を反映しているものではない。しかし,現状の問題点や,教育機関においてやるべき課題の一部を見出すことができた。教育機関においても,将来の臨床検査技師の発展や満足度の高い臨床検査業務を行える人材育成のために積極的に寄与していきたいと考える。

V  結語

教育機関における将来の臨床検査技師像を見据えた取り組みとして,研究手法の教育や,医療人としての人格形成やコミュニケーション能力育成,多職種連携講座の充実,AI導入を見据えたデータマイニングのトレーニングを実施する必要性が考えられた。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

本研究を実施するにあたり,貴重なご意見をいただきました臨床検査技師,医師,大学生,大学院生の方々に深く感謝いたします。ご協力ありがとうございました。

文献
 
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