医学検査
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資料
SARS-CoV-2を含む多種ウイルス迅速抗原同定定性検査キットの有用性に関する検討
久末 直子坂本 愛子柳元 伸太郎八尾 厚史
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2022 年 71 巻 4 号 p. 712-718

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Abstract

背景・目的:SARS-CoV-2感染症(COVID-19)は,症状による他のウイルス感染症との鑑別,診断が困難である。そこで,1回の検体採取で実施するSARS-CoV-2を含む多種ウイルス抗原同定定性検査の有用性を検討した。方法:2020年11月から2021年7月までの東京大学保健センター受診者で同意が得られた者を対象とした。1回の採取で得た鼻咽頭拭い液検体を用い,5種ウイルス(SARS-CoV-2,インフルエンザ,RS,アデノ,ヒトメタニューモ)抗原を4つの抗原同定定性キット(イムノエースシリーズ)で判定し,検査後14日間に関する問診票提出を依頼した。結果:111名の対象者のうち,問診票は94名(84.7%)から回収できた。診断結果は,COVID-19が5名(4.5%),他の感冒が83名(74.8%)で,残りは無/非特異的症状者であった。SARS-CoV-2抗原定性陽性は3名で偽陽性はなく,他の抗原陽性者もいなかった。COVID-19患者2名は偽陰性となるが,うち1名は判定14日後にCOVID-19と診断され,定性検査後感染も考えられた。COVID-19患者4名では,同日施行の唾液抗原定量検査にて定性結果との乖離が見られた。結論:本法でのSARS-CoV-2抗原鑑別同定は偽陽性もなく有益性が高いと考えられる。感度不足による偽陰性対策には,採取部位の検討も重要である可能性が窺えた。

Translated Abstract

Background and purpose: SARS-CoV-2 infection (COVID-19) is difficult to diagnose on the basis of symptoms. By using four virus antigen detection kits of ImunoAce Series and nasopharyngeal samples, we investigated the usefulness of a single-sampling-based qualitative detection of multi-virus antigens (SSD-MVA) including SARS-CoV-2 and four other antigens. Methods: From November 1, 2020 to July 31, 2021, patients who visited the Division for Health Service Promotion in the University of Tokyo and gave consent with a fully filled questionnaire were included in this study. Also obtained was another questionnaire regarding the subsequent 14-day observation period. Results: The SSD-MVA was correctly performed in all 111 patients (80 males; mean age, 30.7 ± 10.8 years), and the questionnaire for the observation period was collected from 94 patients (84.7%). Five patients (4.5%; four males; mean age, 42.6 ± 17.5 years) and 83 patients (74.8%) were diagnosed as having COVID-19 and common cold, respectively. The kit for the SARS-CoV-2 antigen showed three positives in three patients with COVID-19, meaning no false positives, and the SSD-MVA did not show any positives for the other four antigens. Two patients (40%) with COVID-19 likely had a false negative result, while one was diagnosed with SARS-CoV-2 infection 14 days after the SSD-MVA. In four patients with COVID-19, the quantitative antigen test using saliva samples performed on the same day showed a discrepancy with a clarity in the positive line of the qualitative detection kit for SARS-CoV-2. Conclusion: The SSD-MVA including the SARS-CoV-2 antigen is beneficial with 60–75% sensitivity and 100% specificity for SARS-CoV-2. The sensitivity could be improved if the qualitative detection kit were available for saliva samples.

I  序文

日本においては2020年1月末より感染拡大したSARS-CoV-2は世界的パンデミックを生じ,半年以上経った時点でも一向に収束のめどはついていなかった1)。一定数(概ね全体の20–30%で若年者に多く)存在するとされる無症状感染者が感染拡大に寄与するとされるが,症状を呈するCoronavirus disease 2019(COVID-19)患者の症状であっても,季節流行のインフルエンザや小児での流行が知られるRSウイルス感染者を含め風邪症状とは区別がつきにくい。このパンデミック下,濃厚接触者を含むすべてのCOVID-19疑いの受診者に対し,SARS-CoV-2感染の有無を評価することは最重要であるのは言うまでもない。一方,他の重要なウイルスの(重複)感染の同時評価を行うことは,診断漏れを逃す上でも,並行する流行感染症への対応が遅れないためにも重要である。

冬季になれば,特にインフルエンザをはじめとする冬季流行性のウイルス感染症との鑑別が極めて重要となる。また,SARS-CoV-2アルファ株のパンデミック下では,SARS-CoV-2感染は小児では比較的少ないとされたが,小児感染も重要であるデルタ株においてはRSウイルスといった小児流行性ウイルスに関する検査体制も今後重要になると考えられた。そこで,当保健センターは株式会社タウンズが開発したウイルス抗原同定定性キット:イムノエースシリーズを複合的に用いて,1回の鼻咽頭拭い液採取でSARS-CoV-2を含む5種類のウイルス抗原同定を行い,COVID-19診断時におけるその有用性を検討した。

II  対象および方法

1. 対象

2020年11月から2021年7月に保健センター受診者のうち,本研究に同意が得られ,検査当日の問診票記入を行った者とした。なお,本研究は東京大学本部ライフサイエンス研究倫理支援室倫理委員会の承認を得て施行した(承認番号:20-184)。

2. 使用試薬および検査方法

以下に示すウイルス抗原同定定性検査キットを用い,1回サンプリングでSARS-CoV-2を含む多種ウイルス抗原同定法を使い多種のウイルス抗原同定定性検査(single sampling based detection of multi-virus antigens; SSD-MVA)を行った。

ウイルス抗原同定定性検査キットとして,株式会社タウンズ(Tauns)のイムノエースシリーズ(https://www.tauns.co.jp/product/)からイムノエース® SARS-CoV-2,イムノエース® Flu/RSV,イムノエース® アデノ,イムノエース® hMPVを使用し,それぞれにおいてSARS-CoV-2,インフルエンザウイルス/RSウイルス,アデノウイルス,ヒトメタニューモウイルスの5種のウイルス抗原同定を行った。本検査キットは,広く迅速抗原定性検査キットで使用されているイムノクロマトグラフ法を測定原理としている。

一部の患者において臨床的に必要に応じてRT-PCR(real-time reverse transcriptase-polymerase chain reaction)検査が実施されたが,他施設で行われたものであり,方法の詳細は不明である。ただし,実施施設は検査結果の有効性が認められた医療機関,検査会社,検査施設である。

3. 測定方法

1) ウイルス抗原同定定性検査の実際

医師が専用スワブを用いて鼻咽頭拭い液を5秒ほどかけて1回採取し,イムノエースシリーズに添付されている専用の抽出液1つを用いて抗原蛋白を抽出後,付属のフィルター付きノズルを抽出液の容器に装着し,3滴ずつ各キットのプレート(計4プレート)に滴下し,各検査キット指定の判定時間(イムノエース® SARS-CoV-2のみ15分後,その他は5分後)に目視で陽性ラインの判定を行った。

2) 問診票の記入

参加者には受診当日と,受診後14日間の臨床症状に関する問診票の記入を依頼した。

検査当日の問診票では,個人識別情報(名前,電話番号,性別,生年月日,国籍)ならびに診療情報として,本日の体温,当日の解熱剤の服用の有無,現在の臨床症状,COVID-19の罹患歴,SARS-CoV-2抗体検査の実施有(日付)・無および結果,SARS-CoV-2同定RT-PCR検査の実施有(日付)・無および結果,来院時より過去14日間の海外渡航歴に関する記入を行った。

検査日より14日間に関する問診では,14日以降の体温と検査日に見られた臨床症状の経過もしくは新規発症した症状ならびに経過中におけるCOVID-19罹患歴についての調査(他施設でのRT-PCR検査や抗原検査に関する情報を含む)を行い,問診においてSARS-CoV-2感染が疑われなかった症例は「臨床的に陰性」として扱うこととした。また,本研究では次項の抗原定量検査およびRT-PCR検査も踏まえ,医師による臨床的総合判断をゴールドスタンダードとして,受診後(SARS-CoV-2の最大潜伏期間とされる)14日間の臨床経過を示した問診を使用して感染の有無を判断した。

3) 抗原定量検査およびRT-PCR検査施行について

診療上,必要に応じて,同時(同日)に採取した唾液または鼻咽頭拭い液で抗原定量検査[全自動化学発光酵素免疫測定システム ルミパルスG1200,ルミパルスSARS-CoV-2 Ag免疫反応カートリッジ(富士レビオ株式会社)]を保健センター内で,RT-PCRをセンター外の医療機関,検査会社,検査施設で実施した。

III  結果

1. 対象者のプロフィール

対象者の総人数は111名(男性80名,女性31名),平均年齢30.7 ± 10.8歳,平均体温36.8 ± 0.7℃,発熱者(37.5℃以上または平熱より1.1℃以上)21名(18.9%)であった(Table 1A)。来所時に示した症状は,咳28名,全身倦怠34名,頭痛33名,喉痛・咽頭痛39名,鼻汁17名,下痢11名,呼吸苦・呼吸困難3名,味覚障害3名,嗅覚障害2名,その他18名であり(Table 1B),下痢を含む一般的感冒症状(咳,全身倦怠感,頭痛,喉痛・咽頭痛)を示したのは83名(74.8%)であった。

Table 1  研究対象者
A) 対象者のプロフィール
総人数 M/F 平均年齢 平均体温 発熱者
(37.5℃以上または
平熱より1.1℃以上)
111名80/3130.7 ± 10.8歳36.8 ± 0.7℃21名(18.9%)
B) 対象者の症状
全身倦怠 頭痛 喉痛・
咽頭痛
鼻汁 下痢 呼吸苦・
呼吸困難
味覚障害 嗅覚障害 その他
28名34名33名39名17名11名3名3名2名18名

2. ウイルス抗原同定定性検査の結果

5種のSSD-MVA検査結果は,111名中3名がSARS-CoV-2陽性となったが,その他のウイルス抗原同定検査では陽性結果は得られなかった(Table 2)。対象者のうち,同日の追加RT-PCR/抗原定量検査陽性(4名)や受診後14日間の経過中にCOVID-19と診断された(1名)のは計5名で,うち3名が抗原定性キットで陽性と判定されていた患者であった(Table 3A)。残りの2名のCOVID-19罹患患者のうち1名は同日の唾液抗原定量検査および唾液RT-PCR追加検査の両検査にて陽性となった患者であり(Table 4症例4),もう1名は受診後14日間の観察期間問診票を回収した結果,14日目に他院でのRT-PCR陽性からCOVID-19罹患と判定されたことが分かった。本症例については,抗原同定定性検査施行後以降での感染の可能性も否定できないことから,イムノエース® SARS-CoV-2の感度は60–75%(3/5–3/4)と算出された。一方,経過中COVID-19と臨床的に診断されなかった106名に関しては,本法での陽性判定はなく,偽陽性0%,特異度100%と考えられる(Table 3A)。

Table 2  抗原定性検査陽性者数
SARS-CoV-2 インフルエンザ RS アデノ ヒトメタニューモ
3名 0名 0名 0名 0名
Table 3  COVID-19患者の測定結果
A)抗原定性検査結果
最終診断名(人数) 抗原定性 陽性 抗原定性 陰性
COVID-19 5名3名2名
その他 106名0名106名
B) 平均体温と症状数
平均体温 症状数
COVID-1937.1℃(36.7~38.0℃)2.2個
その他36.8℃(35.1~38.0℃)1.7個
Table 4 COVID-19と診断された患者の検体を3法で比較

また,臨床症状に関して,COVID-19と診断された患者は,それ以外の患者と比較し,平均体温,症状数ともに目立った差は見られなかった(Table 3B)。

対象者111名のうち49名の患者に対して,診療上の必要性から,唾液サンプルを用いて抗原定量検査もしくは/およびRT-PCRを施行した。その結果,COVID-19と診断された5名のうち4名においては,抗原同定定性検査(イムノエース® SARS-CoV-2)と抗原定量検査(唾液)がほぼ同時に施行されている(Table 4)。唾液抗原定量検査では,3名が陽性,1名が判定保留域と判定された。ここで,唾液抗原定量値と鼻咽頭抗原定性検査(イムノエース® SARS-CoV-2)の陽性ラインの発色には症例1,2で見られるように定量検査の測定値と定性検査のラインの濃淡が逆転しているような乖離が見られた。そして,定量検査において境界値(0.67–3.99 pg/mL)であった症例3では,イムノエース® SARS-CoV-2陽性と判定されている。逆に,症例4ではイムノエース® SARS-CoV-2で陰性判定であったが唾液定量検査では陽性判定が得られた。

IV  考察

症状によるSARS-CoV-2感染者の同定が困難な中,簡便に使用可能なSARS-CoV-2抗原迅速同定定性検査キットは極めて重要な役割を果たすと考えられる。その際,症状で区別がつかないインフルエンザやRSウイルスといった大きな流行が危惧されるウイルスとの鑑別を行うことは,治療薬の存在するインフルエンザウイルスにおいては特に重要と考えられる。そこで,今回東京大学保健センターにおいて,来院患者を対象に,大学保健業務における迅速ウイルス抗原同定キットイムノエースシリーズを用いたSSD-MVAの有用性に関して検討し有益なデータを取得するに至った。

1. 対象者について

今回の対象者はCOVID-19感染が疑わしくなくても検査を希望し,同意すれば研究に参加できたため,感冒症状自体は74.8%の患者に認めたが,陽性率は一般的な発熱外来よりも低かったと考える。大学の構成員のみが受診できる保健センターのため,概ね18歳~60歳代が受診しており,今回の対象者の平均年齢30.7 ± 10.8歳というのはCOVID-19無症状患者が比較的多いとされていた年齢層に該当する。しかしながら,今回の対象者の受診時の体温は36.8 ± 0.7℃とやや高めであり感冒症状がある患者が74.8%を占めていた。このことから,非特異的な感冒所見では効果的にCOVID-19患者を絞ることは難しいことが分かった。

2. 5種ウイルスに対するSSD-MVA法について

Tauns社は,今回使用した4種類のウイルス抗原検査キット(イムノエース® SARS-CoV-2,イムノエース® Flu/RSV,イムノエース® アデノ,イムノエース® hMPV)を個別に作成・販売するに至っていたが,すべてのキットで使用している抽出液は同一であり,サンプリング部位も同一であった。抽出液の総量から4つまでのキットへのloadingが理論的に可能であり,それを基に今回の5種ウイルスの鑑別法(SSD-MVA)を施行した。全111回の手技において,1回のサンプリングにより調整した抽出液により,4プレートへの滴下は十分に行われ,本キットを用いた5種ウイルスSSD-MVAが技術的に可能であることが明らかになった。

3. 5種ウイルスSSD-MVA法の結果とその解釈

111名の対象のうち3名がSARS-CoV-2抗原陽性を示し,他のウイルス抗原の陽性者はいなかった。この3名を含め,イムノエース® SARS-CoV-2陰性患者2名の計5名が同日もしくは後日他院での抗原定量検査やRT-PCR検査を用いてCOVID-19と診断されている。ただし,イムノエースで陰性と判定されたこの2名のうち1名は来院後14日目でRT-PCR陽性となっており,受診日に感染していたか,その後感染したのかは検討の余地が残る。仮に後の感染だったとすると,今回の感度は75%(3/4)となるため,感度60–75%(偽陰性率 25–40%)と考えられる。この感度に関しては,検査時のCOVID-19罹患患者数が4–5名と少なかったため正確な数字とは言い難く,偽陰性率に関しても,同様な考察が成り立ち,十分な検討を行うためにはより多くのCOVID-19罹患患者に対する検討が必要と考えられた。しかしながら,WHOが許容している迅速抗原定性検査の感度(80%以上)や既に報告されている70~90%台2),3)と同等な感度を有している可能性は十分期待できる。

受診後14日間の観察期間問診票を回収できたのは94名(84.7%)であった。また,本人からの報告および保健所等から濃厚接触者の問い合わせ等がなかったことを考慮した場合,回答が得られなかった対象者はCOVID-19に罹患しなかったと推定でき,その仮定のもとで特異度を算出した。やはり100例ほどの症例数では十分とは言えないものの,特異度100%(偽陽性率0%)に関しては,臨床的に不一致は無いと考えられる。以前から指摘され問題視された抗原定性検査キットでの偽陽性は今回認められず,この点においてはイムノエース® SARS-CoV-2は他の同様なキットと同等以上の有用性があると思われた。また,他の4種のウイルス抗原に関しても陽性所見は見られず,少なくとも偽陽性に関しては皆無であったと考えられる。この4種のウイルス抗原同定も同様なシステムを用いた同社製キットである点を考慮した場合,一般に言われている偽陽性を生じる可能性はこのイムノエースシリーズでは低いと考えられる。

4. SARS-CoV-2抗原同定検査におけるサンプリング部位の影響

今回鼻咽頭拭い液による抗原定性キットの陽性ラインの発色は,必ずしも唾液による抗原定量検査の測定値と一致せず,むしろ乖離が見られたと判断できる(Table 4)。一般に迅速抗原同定定性検査キットのウイルス量に対する感度は,RT-PCRや抗原定量検査に比べて低いとされる。したがって,よりウイルスが多く存在する部位からのサンプリングを行うことが重要となる。今回使用したイムノエース® SARS-CoV-2は鼻咽頭拭い液サンプルのみに対応しており,唾液サンプルには対応していない。一方,抗原定量検査は,両者ともに測定が可能であるが,今回は唾液サンプルを用いて定量を行っている。今回,同一患者からほぼ同時に両抗原同定検査を施行しその結果を比較検討したところ,イムノエース® SARS-CoV-2の発色の程度と唾液抗原量の結果に相関がみられないばかりか,感度が高いとされる抗原定量検査で境界域の結果を示した症例3において,感度が低いとされるイムノエース® SARS-CoV-2では陽性結果が得られるという逆転現象までも認められた。SARS-CoV-2に対するRT-PCR検査では,唾液と鼻咽頭サンプルでの結果が異なることがあることはよく知られている4)。すなわち,ウイルス排泄量が唾液と鼻咽頭で,症例ごとに様々であるということである。もちろん,サンプリング前の口腔や鼻咽頭の処理(例えばポビドンヨードによるうがいなど)による影響も考慮しなければならないが,今回そのような影響はなく,我々の結果からも症例ごとに唾液と鼻咽頭ではウイルス量が異なるという既存の報告4)を示唆する結果と考えられる。したがって,RT-PCRほどの感度を到底望めない迅速抗原同定定性検査を使用する場合,唾液・鼻咽頭の両サンプルを使用できるキットを使い1症例当たりその2か所からのサンプルを用いたダブルチェックを行うことが感度を上げることにつながると考えられる。また抗原定量検査に用いられる抗体と本キットに用いられる抗体のエピトープの違いによる結果への関与も否定はできない。しかし,本研究施行時までの変異株(デルタ株)までの変異株に対しても十分定量性を担保できる抗原定量検査であり,ウイルスを検出するとされている定性キットであることを考慮すると,1,700 pg/mL程の高値患者の定性検査キットのラインが薄く,2 mg/mL程度の低値患者を陽性にしている理由を考えると,エピトープの違いだけでの説明では難しいのではないかと考えられる。最後に,抗原抗体反応を用いる免疫学的検査においては抗原または抗体のどちらかが過剰で反応の抑制が生じるプロゾーン現象を考慮する必要がある5)~7)。例えば,Table 4症例2において仮に鼻咽頭でも唾液中と同等のウイルス量が存在していたとすると,抗原量が多すぎてライン発色が抑制されていた可能性がある。添付文書に記載の通り,今回採取した鼻咽頭拭い液を生理食塩水で希釈し再検査することで上記の原因を解明できた可能性があったが,検査自体で検体を使い切ってしまったためそこまでの解析はできなかった。

5. 研究の限界について

本研究は対象者が111人と少数の上に,今回定性的に検討した5種のウイルス抗原について陽性を示したのは,1種のみでしかも5名と少人数であった。そのため,1人の陽性や陰性は計算に大きな影響を与えた。残りの4種のウイルスの陽性患者もいるような群であれば実臨床における有用性を更に示すことができたと考えられる。また,ウイルス保持者(感染者)を100%同定することはRT-PCRであっても検査の限界があり,真のウイルス保持者数を用いて感度と特異度の数値を出すことができないという点は,この類の研究では共通の限界である。

V  結語

今回検討したイムノエース® SARS-CoV-2の感度60–75%,特異度100%は,症例数が少ないものの迅速抗原同定定性検査としては良好な結果と考えられる。偽陽性は皆無であるものの,感度の限界からの偽陰性には注意が必要であった。しかしながら,他のウイルス感染の同時流行時には1回のサンプリングで5種のウイルス抗原の鑑別が行えることが確認できたことは有益性が高いと考えられる。今後,イムノエース® SARS-CoV-2の感度を上げることに加えて唾液での検査施行が加われば,偽陰性も減少しその有用性がさらに高まるものと考えられた。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

本研究においてご協力頂きました保健センタースタッフの皆様に深謝致します。

文献
 
© 2022 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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