医学検査
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経皮的カテーテル心筋焼灼術周術期における下肢静脈超音波検査の有用性
小島 光司井上 美奈左右田 昌彦奥村 諭髙田 康信
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2024 年 73 巻 2 号 p. 294-300

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Abstract

深部静脈血栓症(DVT)を含む静脈血栓症は外科的手術後や出産後に多く発症するため周術期管理が重要視されているが,経皮的カテーテル心筋焼灼術(CA)の周術期に関連した報告は少ない。CA施行後におけるDVT発生率および発生因子について超音波検査を用いた調査・解析を行い,CA周術期における下肢静脈超音波検査(下肢静脈US)の有用性について検討したので報告する。当院にて非心房細動に対するCAを施行し,術後翌日に下肢静脈USを施行した連続195例のうち,経口抗凝固薬を投与されていない104例を対象とした。下肢静脈USにてDVTの有無および部位を調査し,患者背景や術前血液検査値,CA手技について統計学的解析を行った。104例中8例(7.7%)にDVTを認めた。発生部位は右大腿静脈2例,左右ヒラメ静脈1例,左ヒラメ静脈4例,右ヒラメ静脈1例であった。6例が末梢型DVT,2例が中枢型DVTであった。中枢型DVTは全例が右大腿静脈血栓であり,穿刺部と同部位であった。DVT発生群は非発生群と比較し,70歳以上の症例が多く,DVTの既往を有する症例が多く,D-dimerが高値であり,術後臥床時間が長かった(p < 0.05)。CA周術期におけるDVT発生には年齢,DVTの既往,術前D-dimer値,術後臥床時間が関与しており,早期診断にはCA後の下肢静脈USが有用と考える。

Translated Abstract

Venous thromboembolism, including deep vein thrombosis (DVT), often develops after surgery and childbirth, and thus, perioperative management is important. However, there are few reports related to the perioperative period of percutaneous catheter ablation (CA). We investigated and analyzed the incidence of and factors for DVT after CA by ultrasonography and determined the usefulness of lower extremity venous ultrasonography (LEUS) after CA. Of 195 consecutive patients who underwent CA for non-atrial fibrillation and LEUS on the day after surgery, 104 patients who did not receive oral anticoagulants were included in this study. We investigated the presence and location of DVT by LEUS and statistically analyzed the patient background characteristics, preoperative blood test values, and CA procedure. Eight of the 104 patients (7.7%) had DVT. The sites of DVT were the right femoral vein (FV) in two patients, the left and right soleus veins (SVs) in one patient, the left SV in four patients, and the right SV in one patient. Distal DVT was found in six patients, and proximal DVT in two patients. All proximal DVTs were on the right FV, which occurred at the same site as the puncture site. Compared with the non-DVT group, the DVT group had more patients aged 70 years or over and more patients with a history of DVT, higher D-dimer levels, and longer postoperative bed rest (p < 0.05). The occurrence of DVT in the perioperative period of CA is related to age, history of DVT, D-dimer level, and postoperative bed rest duration. LEUS is useful for the early diagnosis of DVT after CA.

I  序文

深部静脈血栓症(deep vein thrombosis; DVT)とは血管内皮障害,血液の凝固能亢進,静脈での血流停滞によって深部静脈に血栓を生じる疾患である。DVTは血栓伸展および静脈還流障害,炎症反応に伴う臨床症状や血栓の遊離に伴う肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism; PTE)発症の危険性を有しており,早期診断による治療介入の有用性は高い。また,静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism; VTE)と総称されるDVTおよびPTEは外科的手術後や出産後に多く発症するため周術期管理が重要視されている1),2)。経大腿動脈アプローチによる心臓カテーテル検査・治療においては周術期に関連したDVTはまれであり,発生率は低いとされる3),4)。一方,経皮的カテーテル心筋焼灼術(catheter ablation; CA)では,心臓カテーテル検査・治療と比較して手術時間の長時間化や大腿動脈穿刺に加えて大腿静脈への複数のカテーテルの挿入などDVT発症リスクが高いことが予測される。また,CAの周術期に関連したVTEの報告は少なく,CA周術期とVTEの関連性については明らかになっていない。

今回,CA施行後におけるDVT発生率および発生因子について超音波検査を用いた調査・解析を行い,CA周術期における下肢静脈超音波検査(lower extremity vein ultrasonography;下肢静脈US)の有用性について検討したので報告する。

II  対象と方法

2017年10月から2022年3月に当院にて非心房細動に対するCAを施行し,術後翌日に下肢静脈USを施行した連続195例のうち,周術期において経口抗凝固薬を投与されていない104例を対象とした。対象とした104例全例は周術期に弾性ストッキングを着用し,術後に圧迫帯を用いた穿刺部位の圧迫を行った。

下肢静脈USには汎用超音波画像診断装置Aplio a550(キヤノンメディカルシステム社製)を用い,プローブはリニア式電子スキャンプローブPLT-704SBTを使用した。下肢静脈血栓の検索は静脈圧迫法(compression ultrasonography)を用いて,観察部位を大腿から下腿静脈までとする全下肢静脈超音波検査(whole leg ultrasonography)にて行った1),5)。静脈の閉塞・狭窄および拡大に加え,血栓内部の性状が低~中エコー輝度である症例をCA術後DVT発症例と判定した1)。静脈および血栓内部の性状の判定は日本超音波医学会認定超音波検査士を有する臨床検査技師にて行った。

血液検査は,CA前日に採取された検体を用いて各生化学検査および全血球計算,凝固・線溶検査項目を測定した。生化学検査の測定には臨床化学自動分析装置TBA-FX8(キヤノンメディカルシステムズ株式会社製),全血球計算の測定には多項目自動血球分析装置XN-9100(シスメックス株式会社製),凝固・線溶検査の測定には,血液凝固自動分析装置CP3000(積水メディカル株式会社製)を用いた。凝固・線溶検査の試薬はコアグピアPT-LiquidおよびコアグピアAPTT-N,ナノピアDダイマー,ナノピアSF(積水メディカル株式会社製)を用いた。

下肢静脈USの結果からCA術後DVT発症例と判定した症例をDVT発生群,上記以外をDVT非発生群とし,DVT発生の有無に関する統計解析を行った。

統計解析には,EZR(Ver. 1.55)6)を用いた。統計解析は性別,年齢,身長,体重,BMI,心拍数,収縮期および拡張期血圧,基礎疾患および既往歴(DVT,高血圧,高脂血症,糖尿病,喫煙歴,悪性腫瘍,脳卒中),不整脈,経大腿静脈穿刺シース本数,手術時間,術後臥床時間,術前血液検査値(CRP, TP, Alb, AST, ALT, Cre, T-Col, TG, LDL-C, HDL-C, BNP, WBC, RBC, Hb, Ht, PLT, PT-INR, APTT, D-dimer, SF)について行った。

連続変数である身長,体重,BMI,心拍数,収縮期および拡張期血圧,経大腿静脈穿刺シース本数および総フレンチスケール数,手術時間,術後臥床時間,術前血液検査値におけるDVT発生の有無に対する2群間比較にはMann-Whitney U検定を用いた。名義変数である年齢(70歳以上),性別,基礎疾患および既往歴(DVT,高血圧,高脂血症,糖尿病,喫煙歴,悪性腫瘍,心不全,脳卒中),CA治療不整脈におけるDVT発生の有無に対する2群間比較にはフィッシャーの正確確率検定を用いた。また,p < 0.05の場合を統計学的に有意と定義した。

なお,本研究は当院の治験・臨床研究審査委員会の承認を得て行った〔臨床研究2022-020(0486)〕。

III  結果

対象とした104例の平均年齢は57.8 ± 15.8歳,男性46例(57.0 ± 16.1歳),女性58例(66.6 ± 7.9歳)であった。対象例の基礎疾患は,DVT 3例,高血圧31例,高脂血症20例,糖尿病3例,悪性腫瘍1例,心不全2例,脳卒中3例であり,8例に喫煙歴を認めた。また,CAの治療対象となった不整脈は房室結節リエントリー頻拍(atrioventricular nodal reentrant tachycardia; AVNRT)43例,Wolff-Parkinson-White(WPW)症候群16例,心室性期外収縮(premature ventricular contraction; PVC)24例,心房粗動(atrial flutter; AFL)6例,心房頻拍(atrial tachycardia; AT)10例,その他(others)1例であり,Electrophysiology Study(EPS)は4例であった。

104例中8例(7.7%)にDVTを認め,いずれも無症候性であった。発生部位は右大腿静脈2例,左右ヒラメ静脈1例,左ヒラメ静脈4例,右ヒラメ静脈1例であった。6例が末梢型DVT,2例が中枢型DVTであった。中枢型DVTは全例が右大腿静脈血栓であり,穿刺部と同部位であった。穿刺部位に血腫を認めなかった(Table 1)。CA術後に認めたDVTの多くは血栓充満像を呈しており,血栓のエコー性状は均一または一部不均一,無または低~中エコー輝度であった(Figure 1)。CA術後DVT発症例と判定した例に対しては,抗凝固薬による薬物治療を開始した。

Table 1 Summary of DVT cases

性別 年齢 術後DVT部位 不整脈 DVT既往歴 経大腿静脈穿刺シース
総フレンチスケール数(Fr)
術後安静時間
(h)
D-dimer
(μg/mL)
57 右大腿静脈(穿刺部) WPW なし 24.0 19.8 0.5
71 右大腿静脈(穿刺部) AVNRT あり 24.0 21.3 0.9
66 左右ヒラメ静脈 AVNRT なし 24.0 20.2 1.0
76 左ヒラメ静脈 AVNRT なし 24.0 18.4 0.7
74 左ヒラメ静脈 AVNRT あり 24.0 20.9 1.4
64 左ヒラメ静脈 PVC なし 21.0 18.1 0.6
54 左ヒラメ静脈 PVC なし 15.5 20.8 0.6
71 右ヒラメ静脈 WPW なし 24.0 21.0 0.7
Figure 1  A case of postoperative DVT formation

A new DVT was found in the femoral vein the day after catheter ablation. The femoral vein was almost completely filled with thrombus. The thrombus echogenicity were anechoic to hypoechoic, with some parts being hyperechoic.

性別,年齢,身長,体重,BMI,心拍数,収縮期および拡張期血圧,基礎疾患および既往歴(DVT,高血圧,高脂血症,糖尿病,喫煙歴,悪性腫瘍,心不全,脳卒中),CA治療不整脈の患者背景についてDVT発生の有無について2群間比較を行った(Table 2)。DVT発生群は非発生群と比較し70歳以上の症例が多く,有意な差を認めた(62.5%(5例)vs 26.0%(25例),p < 0.05)。また,既往歴にDVTを有する症例が多く,有意な差を認めた(25.0%(2例)vs 1.0%(1例),p < 0.05)。その他の指標については有意な差を認めなかった。

Table 2 Two-group comparison in DVT incidence

Variables All patients DVT
(n = 8)
Non-DVT
(n = 96)
p value method
Mean SD Mean SD Mean SD
性別(女性) (%) 58 50.0 (4) 56.3 (54) 0.73 ※2
年齢(70歳 ≤) (%) 30 62.5 (5) 26.0 (25) < 0.05 ※2
身長 (cm) 161.6 10.1 161.1 8.9 161.6 10.2 0.83 ※1
体重 (kg) 61.0 13.7 61.0 10.5 61.0 14.0 0.89 ※1
BMI 23.2 3.9 23.3 1.7 23.2 4.0 0.70 ※1
心拍数 (bpm) 68.2 11.0 71.9 12.0 67.9 10.9 0.19 ※1
収縮期血圧 (mmHg) 132.5 20.2 135.8 24.4 132.2 20.0 0.59 ※1
拡張期血圧 (mmHg) 80.1 14.1 76.5 11.9 80.4 14.3 0.48 ※1
基礎疾患および既往歴 DVT (%) 3 25.0 (2) 1.0 (1) < 0.05 ※1
高血圧 (%) 31 12.5 (1) 31.3 (30) 0.43 ※2
高脂血症 (%) 20 0.0 (0) 20.8 (20) 0.35 ※2
糖尿病 (%) 3 0.0 (0) 3.1 (3) 1.00 ※2
喫煙歴 (%) 8 0.0 (0) 8.3 (8) 1.00 ※2
悪性腫瘍 (%) 1 1.0 (1) 0.0 (0) 0.08 ※2
心不全 (%) 2 0.0 (0) 2.1 (2) 1.00 ※2
脳卒中 (%) 3 0.0 (0) 3.1 (3) 1.00 ※2
不整脈 AVNRT (%) 43 50.0 (4) 40.6 (39) 0.96 ※2
WPW (%) 16 25.0 (2) 14.6 (14) ※2
PVC (%) 24 25.0 (2) 22.9 (22) ※2
AFL (%) 6 0.0 (0) 6.3 (6) ※2
AT (%) 10 0.0 (0) 10.4 (10) ※2
EPS (%) 4 0.0 (0) 4.2 (4) ※2
other (%) 1 0.0 (0) 1.0 (1) ※2
経大腿静脈穿刺シース本数 (本) 3.4 0.9 3.6 0.7 3.4 0.9 0.57 ※1
経大腿静脈穿刺シース総フレンチスケール数 (Fr) 21.8 4.4 22.6 3.0 21.7 4.5 0.89 ※1
手術時間 (min) 142.3 60.3 137.8 26.7 142.7 62.4 0.94 ※1
術後臥床時間 (h) 18.0 2.7 20.1 1.2 17.8 2.7 < 0.05 ※1
血液検査 CRP (mg/dL) 0.1 0.2 0.0 0.0 0.1 0.2 0.12 ※1
TP (g/dL) 7.1 0.4 7.2 0.3 7.1 0.4 0.53 ※1
Alb (g/dL) 4.3 0.3 4.4 0.2 4.3 0.3 0.35 ※1
AST (IU/L) 23.1 8.5 20.8 3.8 23.3 8.1 0.39 ※1
ALT (IU/L) 21.7 14.3 17.0 5.1 22.1 14.7 0.57 ※1
Cre (mg/dL) 1.0 1.6 0.9 0.2 1.0 1.7 0.06 ※1
T-Col (mg/dL) 201.2 38.8 214.5 14.6 200.1 40.0 0.18 ※1
TG (mg/dL) 163.1 164.8 107.6 26.0 167.8 170.6 0.44 ※1
LDL-C (mg/dL) 117.6 30.0 133.1 19.8 116.3 30.4 0.09 ※1
HDL-C (mg/dL) 64.8 17.9 65.9 8.7 64.7 18.5 0.71 ※1
BNP (pg/mL) 41.9 93.9 25.5 13.3 43.3 97.6 0.55 ※1
WBC (103 μL) 5.8 1.4 5.4 1.0 5.9 1.5 0.41 ※1
RBC (106 μL/L) 4.5 0.5 4.5 0.4 4.5 0.5 0.91 ※1
Hb (g/dL) 13.8 1.5 13.7 1.2 13.9 1.5 0.60 ※1
Ht (%) 41.4 3.9 40.9 3.3 41.5 4.0 0.71 ※1
PLT (103/μL) 232 53 199 28 234 54 0.06 ※1
PT-INR 1.0 0.1 0.9 0.1 1.0 0.1 0.08 ※1
APTT (sec) 30.3 4.6 28.3 3.0 30.0 4.7 0.12 ※1
D-dimer (μg/mL) 0.6 0.2 0.8 0.3 0.6 0.2 < 0.05 ※1
SF (μg/mL) 3.1 3.6 3.2 1.1 3.1 3.8 0.10 ※1

※1:MannWhitney U検定 ※2:フィッシャーの正確確率検定

経大腿静脈穿刺シース本数および総フレンチスケール数,手術時間,術後臥床時間のCA手技についてDVT発生の有無について2群間比較を行った(Table 2)。DVT発生群は非発生群と比較し術後臥床時間が長く,有意な差を認めた(20.1 ± 1.2時間vs 17.8 ± 2.7時間,p < 0.05)。その他の指標については有意な差を認めなかった。

術前血液検査値についてDVT発生の有無について2群間比較を行った(Table 2)。DVT発生群は非発生群と比較しD-dimerが高値であり,有意な差を認めた(0.8 ± 0.3 μg/mL vs 0.6 ± 0.2 μg/mL, p < 0.05)。また,D-dimerが1.0 μg/mLを超える症例はDVT発生群では1例(12.5%),非発生群では4例(4.2%)認めた。その他の指標については有意な差を認めなかった。

IV  考察

Bursteinら7)の報告ではCA周術期におけるDVT発生率は,心房細動(atrial fibrillation; AF)症例においては0.0~0.4%,非AF症例においては0.0~62.5%であった。なかでも非AF症例のうち抗凝固薬の未投与群では,無症候性DVT発生率は11.0~62.5%とされており,本研究のDVT発生率(7.7%)は既報と同程度の結果であった。このことより,他の侵襲的治療周術期と同様に本邦においてもCA周術期においてDVTが発生しうると考える。

本研究においてDVT発生群(8例)のうち6例が末梢型DVT,2例が中枢型DVTであった。CA周術期のDVT発生部位の多くがPTE発症リスクの低い末梢型であった。Bursteinら7)の報告において,非AF症例に対するCA周術期における症候性DVT発症率は0~2.38%,PTE発症率は0.06~1.67%と低頻度であった。CA周術期における症候性VTEの発生頻度は低頻度であることが予測される。一方,本研究では重症PTEの原因となりうる中枢型DVTを認めた。また,末梢型DVTであっても中枢進展した場合では塞栓化の危険性を有する8),9)。CA周術期のDVTは注意すべきCA合併症とも考える。また,空気塞栓や無症候性脳梗塞,心タンポナーデなど他のCA合併症と比較すると1),DVTは決して低頻度の合併症と言えないと考える。CA周術期のDVT発生を評価する意義は高く,CA周術期における下肢静脈US施行の有用性は高いと考える。

DVTは,「血管内皮障害」,「血液の凝固能亢進」,「静脈の血流停滞」の3つの成因(Virchowの3徴)により発生し,発生に関する危険因子は加齢やVTEの既往,長期臥床などがある1)。本研究においてDVT発生群は非発生群と比較し,DVT既往歴を有する症例が多く,D-dimerが高値であり,術後臥床時間が長時間であった。これらの結果より,CA周術期におけるDVT発生には上記における3つの成因すべてが関与していると考える。血管内皮障害は,手術時における剥離や静脈内へのカテーテル留置,外傷などの直接的な障害や血管炎や抗リン脂質抗体症候群などにもみられ,DVTの既往によっても生じるとされる1)。本研究においてはDVT既往歴を有する患者においてCA周術期のDVT発生率が高く,DVT既往による血管内皮障害や静脈弁破壊に伴う血流停滞がDVT発生に関与していると考える。また,中枢型DVTは全例が右大腿静脈血栓であり,穿刺部である右大腿静脈におけるDVT発生は静脈穿刺およびカテーテル留置による血管内皮障害を示唆していると考える。DVTを含むVTEの既往は,「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン」1)においても一般外科手術患者におけるVTEの発症リスクレベルの評価にて最高リスクとされ,VTE予防策を講じることが推奨されている。CA周術期においてもDVTの既往を有する症例では積極的なVTE予防策を講ずる必要があると考える。

血液の凝固能亢進は,アンチトロンビン欠乏症やプロテインC欠乏症などの先天性因子の他,悪性腫瘍や妊娠,感染症,脱水などの後天性因子によっても生じるとされる1)。本研究においてはD-dimerが高値の患者においてCA周術期のDVT発生率が高いことが示された。術前D-dimerが高値の症例ではDVT発生を考慮し,下肢USなどを用いて血栓の有無を確認する必要があると考える。一方,D-dimer高値により血液の凝固能亢進状態が推測されるも因子の特定には至らなかった。

静脈での血流停滞は,長期臥床や妊娠,心肺疾患,加齢などによって生じるとされる1)。本研究においては高齢者(70歳以上)や術後臥床時間が長時間である患者においてCA周術期のDVT発生率が高かった。加齢やCA術後における過度の安静や長期臥床状態,圧迫帯による穿刺部位の圧迫が血流停滞を引き起こした結果,血栓を生じたと考える。周術期におけるVTE発症予防には早期離床および積極的な運動が有用とされており10),11),可能な限り術後臥床時間を短くすることが望ましい。高齢者に対するCA施行や術後臥床時間が長時間化した場合にはDVT発生を考慮し,下肢USなどを用いて血栓の有無を確認する必要があると考える。

CA周術期においても一般外科手術患者と同様に静脈血栓の発生を視野に入れた検査・経過観察が重要である。年齢やDVT既往歴の有無,術前D-dimer値,術後臥床時間を考慮してDVTを含むVTEの発症を視野に入れ,CA術後に下肢静脈USを用いて積極的に血栓の有無を確認することは有用であると考える。

V  結語

経皮的カテーテル心筋焼灼術周術期におけるDVT発生には年齢,DVTの既往,術前D-dimer値,術後臥床時間が関与しており,早期診断には経皮的カテーテル心筋焼灼術後の下肢静脈超音波検査が有用と考える。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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