医学検査
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技術論文
HIT抗体イムノクロマト法試薬の有用性について
神谷 美聡伊藤 英史佐藤 彩大嶋 剛史
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2024 年 73 巻 4 号 p. 684-690

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Abstract

ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)は,ヘパリンの重大な副作用のひとつである。迅速な抗体検査の意義は大きいが外部委託が主流であり,当院ではELISA法を用いて院内で実施してきたが,操作が煩雑で結果報告に時間を要していた。この度,反応時間15分のイムノクロマト法(IC法)検査試薬が開発され,令和5年5月より保険適用となったため,その有用性について検討した。判定一致率は86%と良好な結果であった。乖離症例や経時的評価が可能であった症例を解析し,本検討より考慮される乖離要因は,①測定原理や使用抗原の違いによる特異性の違い,②感度の違いであった。HITを診断する際,免疫学的測定法によるHIT抗体検査が陽性でも,必ずしもHITを発症するとは限らないことを再認識する必要がある。HIT抗体陽性の結果のみからHITを診断するのは過剰診断につながる恐れがある。しかし,欧米でゴールドスタンダードとされる機能的測定法は研究施設以外での実施が難しい。したがって,HITの診断は血清学的所見と臨床的所見を組み合わせて確定させる必要がある。本研究より,多大な時間を要していたHIT抗体検査が,IC法であれば操作性に優れ,15分で判定・報告されるため,HIT症状の改善に合わせて容易に再検査が可能となることが示された。これは,HITの迅速な診断と適切な処置につながることが期待される。

Translated Abstract

Heparin-induced thrombocytopenia (HIT) is a serious adverse reaction associated with heparin use. While rapid antibody testing is crucial, it’s mainly outsourced. In our hospital, we have been performing in-house testing using the ELISA method. However, the procedure has been cumbersome and results took several hours to be reported. Recently, an immunochromatographic (IC) assay with a response time of 15 minutes was developed and became eligible for insurance coverage from May of the 5th year of Reiwa era. Therefore, we conducted an assessment of its utility. The concordance rate was 86%, indicating good results. Analysis of discordant cases and cases allowing longitudinal evaluation revealed factors such as differences in specificity due to variations in measurement principles and antigen usage, as well as differences in sensitivity. Furthermore, a positive result for HIT antibodies through immunological measurements does not necessarily indicate the onset of HIT. Diagnosing HIT based solely on HIT antibody positivity may lead to overdiagnosis. However, the functionally-based measurement methods, considered the gold standard in Europe and the United States, are challenging to implement outside of research facilities. Therefore, diagnosing HIT requires a combination of serological and clinical findings for confirmation. This study demonstrated that HIT antibody testing, which previously required significant time, can now be determined and reported within 15 minutes, facilitating easy retesting in accordance with symptom improvements. This is expected to contribute to the rapid diagnosis and appropriate management of HIT.

I  序文

ヘパリン起因性血小板減少症(heparin induced thrombocytopenia; HIT)は,標準的な抗凝固薬として広く用いられる,ヘパリンの重大な副作用のひとつである1)。ヘパリン-血小板第4因子(PF4)複合体に対する自己抗体(以下,HIT抗体)の出現により,血小板や単球が活性化し,大量のトロンビンが産生される2)。治療目的でヘパリンを投与したにもかかわらず,血小板減少や致死性の血栓塞栓症を合併する恐れがある病態である。

HIT発症頻度が高い診療科では,ヘパリン治療中,HITのスクリーニングとして2~3日ごとに血小板数をモニタリングすることが推奨されている3)。HITの診断は,血小板数の推移や4T’sスコアリング等の臨床的所見と抗体検査等の血清学的所見を総合的に判断する4)。血清学的所見は,免疫学的測定法としてELISA法やCLIA法,ラテックス凝集法があるが,感度は高いものの特異度が低いため確定診断とはならない。そのため,さらにHIT抗体が血小板を活性化することを証明する機能的測定法があるが,本邦では研究施設で実施されているのみである5)。また,ヘパリン投与開始後5~14日がHITの好発時期であるが,HIT抗体キャリアの場合はヘパリン再開後24時間以内に発症する例もあり6),迅速な抗体検査の意義は大きい。しかしながら,検体数や操作の煩雑性から外部委託が主流であり,結果報告に時間を要するという課題があった。当院では2005年よりELISA法を採用し,HIT抗体検査を院内検査として実施してきたが,操作が煩雑であり,結果報告までに数時間を要していた。

この度,反応時間15分のイムノクロマト法検査試薬が開発され,令和5年5月より保険適用となったため,その有用性について検討した結果をここに報告する。

II  対象と方法

本研究は,刈谷豊田総合病院倫理委員会の承認(第612号)を得て実施した。

1. 対象

当院にて2020年8月~2023年3月にHIT抗体検査の依頼があった35例の患者血清を対象とした。

2. 方法

測定試薬はイムファストチェックHIT-IgG(PHC株式会社,東京,日本)(以下,IC法)を用いた。本試薬は,免疫クロマトグラフィーを原理とするHIT抗体検出試薬である。希釈した検体をテストプレートに100 μL滴下後,15分間所定の温度(15~37℃)で放置すると,検体は塗布された金コロイド標識抗ヒトIgGモノクローナル抗体を溶解し,毛細管現象によりメンブレン上を移動する。判定ラインの位置で固相化されたrPF4-ヘパリン複合体と結合し,HIT-IgG抗体が感度以上なら発色によりラインが認められる。コントロールラインを確認後,判定ラインの有無を確認し,赤紫色のラインがあれば陽性と判定する7)。判定ラインが確認された場合,その濃淡により独自の基準で分類した(Figure 1)。

Figure 1  判定ラインの分類例

コントロール(C)より薄い判定ラインが確認できるものを(1+),コントロールと同程度の赤色の判定ラインが確認できるものを(2+),コントロールより濃い紫色の判定ラインが確認できるものを(3+)と分類した。

対照試薬は,PF4IgG(株式会社イムコア,東京,日本)(以下,ELISA法)を用いた。サンドイッチELISAを原理とするHIT抗体検出試薬で,抗原として硫酸ポリビニル(PVS)を使用している。PF4:PVS複合体をコーティングしたマイクロプレートに希釈した検体および陰性・陽性コントロールを50 μL添加し,ウェルをプレートシーラーで封をして37℃で40~45分間ドライインキュベーションを行う。4回洗浄後,酵素標識抗体を各ウェルに50 μL添加し,ウェルをプレートシーラーで封をして37℃で40~45分間ドライインキュベーションを行う。4回洗浄後,希釈したp-ニトロフェニルフォスフェート(PNPP)基質を各ウェルに100 μL添加し,遮光して室温(22~25℃)で30分間インキュベートを行う。その後,100 μLの反応停止液を各ウェルに添加し,405または410 nm,参照波長490 nmで各ウェルの吸光度(O.D.値)を測定する。カットオフはO.D. 0.40である8)。臨床的にHITの疑いが強いとされるO.D. 1.00以上9)を強陽性とし,O.D. 0.40~0.99を弱陽性,O.D. 0.40未満を陰性として評価した10)

検討内容は,①2法の定性結果の比較,②乖離した症例の臨床的背景の解析,③経時的評価が可能であった症例の解析,④IC法の判定ラインの濃淡と,ELISA法のO.D.および4T’sスコアの相関確認を実施した。

臨床的診断の指標として,ガイドラインで推奨されているWarkentin提唱の4T’sスコアを用いた。急性の血小板減少,血小板減少の時期,血栓症や続発症,他の血小板減少の原因の4項目からスコアリングを行う11)Table 1)。

Table 1 4T’sスコア

HITの得点(最高8点)
2 1 0
①血小板減少 50%以上
(低値:2万/μL以上)
30~50%の低下
(低値:1~1.9万/μL)
30%未満の低下
(低値:1万/μL以下)
②血小板減少の発生時期 5~10日
 
1日以下(30日以内のヘパリンの使用の有無)
11日以後の血小板減少もしくは減少時期不明
1日以内(31~100日間のヘパリン使用歴)
4日以内の血小板減少
(ヘパリン投与歴がない)
③血栓症 明らかな血栓の新生
皮下注部位の皮膚壊死
静注による急性全身反応(アナフィラキシー様反応)
血栓の進行か再発あり紅斑様の皮膚症状血栓症の疑いが濃厚(証明はない) なし
④血小板減少の他の原因 明らかにない 可能性がある 他に明らかになる

①+②+③+④=4T’sスコア(点)

Warkentin TE: Heparin induced thrombocytopenia: Diagnosis and management. Circulation, 2004; 110: 454–458.11)より引用改変

III  結果

①IC法とELISA法の定性結果の比較をTable 2に示す。2法の定性結果判定一致率は86%であった(35例中30例)。定性結果が一致した30例の内訳は陽性10例,陰性20例であった。

Table 2 IC法とELISA法の相関性

ELISA法
陽性 陰性
IC法 陽性 10 2 12
陰性 3 20 23
13 22 35

陰性一致率90.9%(20例/22例)

陽性一致率76.9%(10例/13例)

全体一致率85.7%(30例/35例)

②判定が乖離した5例の結果詳細をTable 3に示す。これらの症例の臨床的背景について解析を行った。

Table 3 判定乖離症例の結果詳細および4T’sスコア

No. 年齢 性別 ELISA法 IC法 4T’sスコア
判定 O.D. 判定 判定ライン
2 24 F + 0.461 4
22 79 F + 0.819 4
27 87 F + 0.589 4
12 39 M 0.110 + 1+ 4
30 79 M 0.128 + 1+ 2

1)症例1(No. 2)

患者:20歳代,女性。

経過:高エネルギー外傷で入院,DVT予防で未分画ヘパリンの点滴投与が開始された。尿路感染から菌血症を発症して抗菌薬で治療中,ヘパリン投与前343 × 103/μLであった血小板数が136 × 103/μLまで減少したため,HIT抗体検査を施行した。ELISA法のO.D.が0.792と弱陽性であったため,抗凝固薬は中止となった。2週間後,菌血症が改善し,血小板数もヘパリン投与前まで回復したためHIT抗体再検査を施行。ELISA法はO.D.が0.461と弱陽性,IC法は陰性であった。

2)症例2(No. 22)

患者:70歳代,女性。

経過:心筋梗塞,脳梗塞で入院初日よりヘパリンによる抗凝固療法が開始された。入院時166 × 103/μLであった血小板数が13 × 103/μLまで減少,翌日も23 × 103/μLであったためHIT抗体検査を施行した。ELISA法のO.D.が0.819と弱陽性であったため,抗凝固薬をアルガトロバンに変更したが,その後も血小板数は回復しなかった。なお,IC法は陰性であった。

3)症例3(No. 27)

患者:80歳代,女性。

経過:高度脱水で入院,脳梗塞既往で抗凝固薬を内服していたが,経口摂取困難であるため入院時よりヘパリンの点滴投与が開始された。入院時210 × 103/μLであった血小板数が59 × 103/μLまで減少したためHITが疑われ,HIT抗体検査を施行した。ELISA法のO.D.が0.589と弱陽性であったため,抗凝固薬は中止となった。ヘパリン中止後6日目の血小板数は141 × 103/μLで,その後転院となった。なお,IC法は陰性であった。

4)症例4(No. 12)

患者:30歳代,男性。

経過:COVID-19肺炎で入院,Dダイマー3.6 μg/mLと高値であったためDVT予防で未分画ヘパリンの点滴投与が開始された。痰培養からMSSAが検出され,抗菌薬で治療中,ヘパリン投与前128 × 103/μLであった血小板数が69 × 103/μLまで減少した。ヘパリン投与10日目であることからHITも鑑別疾患に挙がり,HIT抗体検査を施行した。ELISA法のO.D.が0.110と陰性であったため,ヘパリン投与は継続された。その後,静脈血栓が認められたが,血小板数はヘパリン投与前まで回復した。なお,IC法は陽性(1+)であった。

5)症例5(No. 30)

患者:70歳代,男性。

経過:RPGN(急速進行性糸球体腎炎)にて,低分子ヘパリンを使用し血液透析導入となった。免疫抑制剤,抗生剤の内服,週3回の血液透析で治療が継続される中,血小板数が67 × 103/μLに減少した。HITが鑑別疾患に挙がり,HIT抗体検査を施行した。ELISA法のO.D.が0.128と陰性であったため,治療方針の変更はないまま血小板数は自然回復した。なお,IC法は陽性(1+)であった。

③経時的評価が可能であった一例について解析を行った。

1)症例6(No. 34)(Figure 2

Figure 2  症例6 O.D.値の推移

縦軸にELISA法のO.D.値,横軸に病日とIC法の判定結果を示す。

患者:50歳代,男性。

経過:急性大動脈解離に対する上行置換術でヘパリンを2回使用,その後血小板数の回復を認めずHIT抗体検査を施行した。

7病日:ELISA法陰性(O.D. 0.118),IC法陰性。

11病日:両ひらめ筋に深部静脈血栓が認められたため,未分画ヘパリン投与開始。

24病日:ELISA法陽性(O.D. 0.957),IC法陽性(1+),抗凝固薬をアルガトロバンに変更。

38病日:ELISA法陽性(O.D. 0.750),IC法陰性。

52病日:ELISA法陽性(O.D. 0.458),IC法陰性。

④IC法の判定ラインとELISA法のO.D.および4T’sスコアの比較をTable 4に示す。判定ライン1+のO.D.は0.110~2.076,4T’sスコアは2~5点であった。判定ライン2+のO.D.は0.764~2.199,4T’sスコアは4~6点であった。判定ライン3+のO.D.は1.413~2.710,4T’sスコアは2例ともに5点であった。

Table 4 ELISA法とIC法の結果詳細および4T’sスコア

No. ELISA法 IC法 4T’sスコア
判定 O.D. 判定 判定ライン
1 0.104 5
2 + 0.461 4
3 0.083 3
4 0.149 2
5 0.097 0
6 + 1.079 + 1+ 5
7 0.124 2
8 0.159 1
9 0.142 4
10 0.197 5
11 0.398 3
12 0.110 + 1+ 4
13 + 2.710 + 3+ 5
14 0.073 3
15 0.090 4
16 0.093 4
17 + 2.076 + 1+ 4
18 0.100 0
19 0.132 6
20 0.227 2
21 0.208 5
22 + 0.819 4
23 + 1.413 + 3+ 5
24 + 1.677 + 2+ 6
25 0.266 5
26 0.310 2
27 + 0.589 4
28 0.179 0
29 0.136 0
30 0.128 + 1+ 2
31 + 0.764 + 2+ 4
32 + 0.834 + 2+ 5
33 + 2.199 + 2+ 5
34 + 0.957 + 1+ 5
35 + 1.578 + 1+ 4

IV  考察

本検討では,IC法とELISA法試薬の判定結果を比較したところ,86%と良好な判定一致率が得られた。IC法試薬はヘパリンとPF4の複合体を抗原としているのに対し,ELISA法試薬はヘパリンの代替として硫酸ポリビニル(PVS)とPF4の複合体を固相化抗原としている。また,IC法は血清中のIgG抗体が金コロイドに固相された抗ヒトIgG抗体に補足され,rPF4-ヘパリン複合体と結合することで発色した判定ラインによりHIT抗体を検出する。対して,ELISA法は固相化されたPF4:PVS複合体に結合したIgG抗体を酵素標識された抗ヒトIgGで検出する方法であり,測定原理が大きく異なる。そのため両試薬の測定原理,異なる抗原性に由来する感度,特異度に違いがあり,一部乖離症例があり得ることを念頭に置く必要がある。

今回の検討では5症例に乖離がみられたため,これについて考察する。

症例1,2,3は,IC法陰性,ELISA法のO.D.が0.461~0.819と弱陽性で判定が乖離した症例であった。症例1は,血小板減少時に細菌感染も起こしており診断に苦慮したが,主治医はHITの可能性を考慮して抗凝固療法を中止した。HITであればIC法の感度不足の可能性が考えられるが,逆にHITではなくELISA法の偽陽性の可能性も否定できない。一方,症例2,3は経過からもHITは否定的であり,ELISA法の偽陽性であった可能性が高い。

症例4,5は,IC法陽性,ELISA法陰性で判定が乖離した症例であった。症例4は,4T’sスコア4点でHITの可能性も示唆されたが,DICスコア6点であり,その後感染コントロールと共に血小板数は自然回復したため,臨床的にHITは発症していないと診断された。症例5は薬剤性による血小板減少が疑われたが,血液透析患者でありHIT鑑別のためHIT抗体検査を施行した。治療内容の変更はないまま血小板数は自然回復し,血栓新生も認められず,4T’sスコア2点であり,HITは発症していないと考えられる。どちらの症例もHITが否定的であることから,IC法の偽陽性であると考えられる。症例4はCOVID-19肺炎症例であり,COVID-19とHITの関連性についての報告は散見され,COVID-19症例でHIT抗体陽性がしばしば認められるが,偽陽性が多いという報告もあり12),本症例はPF4がヘパリンを介さずHIT抗体ができた可能性も考えられる。症例5は自己免疫疾患であり,APSやSLE等の自己免疫疾患ではHIT抗体の偽陽性が出やすいとの報告もあることから13),本症例も同様の機序での偽陽性の可能性も考えられる。さらに本試薬では,血清中の総IgGが金コロイドで標識されている抗ヒトIgGに補足され,つづいてメンブレン上のrPF4-ヘパリン複合体と検体中のHIT-IgGが反応することで発色する。したがって,感度以下のHIT-IgG抗体では,その他のIgG抗体と競合して判定ラインが出現しないと考えられる。しかし,本症例はIgG 559 mg/dLと低値であったため通常ほど競合せず,感度以下のHIT-IgG抗体でもわずかな発色を認めた可能性も考慮される。

ここでIC法とELISA法の感度の違いを検討するため,経時的評価が可能であった症例6について考察する。本症例は,ヘパリン使用前後でHIT抗体が陽転化したことから,HITが疑われた症例である。抗凝固薬を変更後,経時的にELISA法のO.D.が低下する一方,IC法は早い段階で陰転化した。本症例から,ELISA法弱陽性のように抗体価が低い場合では,感度の違いによる方法間差が生じることが示唆された。

本検討より考慮される乖離要因は,①測定原理や使用抗原の違いによる特異性の違い,②感度の違いである。特異性は,COVID-19のような感染症や自己免疫疾患ではHIT抗体様の抗体ができ,偽陽性になる可能性がある。感度は,ELISA法の弱陽性のように抗体価が低い場合にはIC法の偽陰性も考えられる。また,ELISA法は標準物質がなく,O.D.だけで判定するためカットオフ値が反応条件により変動する可能性もあり,注意が必要である。

ここで,免疫学的測定法によるHIT抗体検査が陽性でも,必ずしもHITを発症するとは限らないことを再認識する必要がある。この関係は一般的に氷山に例えられ,HIT抗体陽性のみからHITを診断するのは過剰診断につながる恐れがある14)。しかし,欧米でゴールドスタンダードとされる機能的測定法は研究施設以外での実施が難しい。したがって,HITの診断は血清学的所見と臨床的所見を組み合わせて確定させる必要がある。

はじめに迅速なHIT抗体検査の意義は大きいと述べたが,検体数の少なさや操作の煩雑性からCLIA法やラテックス凝集法,ELISA法を院内実施するのはハードルが高いため,外部委託が主流となる。しかし,ここには結果報告に時間を要するという課題があった。IC法であれば操作性に優れ,判定時間も15分であるため臨床的有用性は高いと考える。

最後に,血清学的所見の判断材料として,IC法の判定ラインの濃淡について検証した。ELISA法のO.D.の上昇に伴いIC法の発色も増加したが,明らかな相関性は認められず,先に示した抗原性の影響と考えらえる。4T’sスコアと比較しても明らかな相関は認められなかった。しかし,症例4,5のようにHITを発症していないと思われる症例の判定ライン1+に対し,2+以上の判定ラインが認められた症例はすべて4T’sスコアが中~高スコア(4~6点)で,HITと診断された症例であった。スコアが4点以上の場合はHIT の可能性が高いとされており2),定性結果の報告に加えて判定ラインの濃淡をコメントとして併記することも検討していきたい。

V  結語

血栓塞栓症の有効的な治療薬であるヘパリン使用によりHITを発症した場合,ヘパリンによる抗凝固療法を継続すると逆に血栓塞栓の増悪を引き起こしかねないため,HIT鑑別の重要性は高い。しかし,使用抗原や感度設定,方法特性により判定結果の乖離や偽陽性・偽陰性を完全になくすことは難しい。繰り返しになるが,HITの確定診断は,抗体検査等の血清学的所見とあわせて4T’sスコアリングや血小板数の推移等の臨床的所見を総合的に判断する必要がある。

HIT抗体検査が陰性となりヘパリンの使用を継続された場合でも,血栓形成や血小板減少といった症状が繰り返されるのであれば,4T’sスコアリングを含めた臨床的再評価とIC法による再検査に加え,別法での検査を提案することも我々臨床検査技師の選択肢の一つである。HIT抗体検査が陽性となった場合も,HIT抗体は100日程度で消失するため15),心臓血管疾患や透析患者などは治療前に再検査を施行し,陰性化を確認することでヘパリンの再使用が可能となる。

本研究により,従来,多大な時間を要していたHIT抗体検査が15分で判定・報告され,HIT症状の改善に合わせて容易に再検査が可能となることが示された。これは,HITの迅速な診断と適切な処置につながることが期待される。また,臨床検査技師の労力や検査所要時間を大幅に軽減するという付加価値が得られるため,今後,別のアプローチによる臨床貢献の拡充が可能になると考える。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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