2025 年 74 巻 2 号 p. 377-382
長時間ビデオ脳波モニタリング検査(long-term video-EEG monitoring; vEEG)は,脳波と映像を数日間同時記録する検査である。vEEGの有用性を検討するため,vEEGにおけるてんかん発作捕捉について後方視的に検討した。その結果,vEEGを実施した117件中56件(47.9%)で発作が捕捉され,捕捉率は発作頻度が高い症例や抗発作薬服用数が多い症例,知的障害を伴う症例で高かった。発作型は,全般起始発作23.4%,焦点起始発作62.6%,全般起始発作+焦点起始発作4.7%,起始不明発作3.7%,心因性非てんかん発作4.7%,全般起始発作+心因性非てんかん発作0.9%であった。vEEG後,抗発作薬の調整は31件(26.5%)で行われ,うち12例で発作頻度が減少,変化なしが9例,不明が8例,継続調整中が2例であり,増加した症例はなかった。外科的治療は28件(23.9%)行われ,脳梁離断術5例,てんかん焦点切除術12例,迷走神経刺激療法10例,脳深部刺激療法予定1例であった。25件(21.4%)は経過観察,18件(15.4%)は経過不明,15件(12.8%)は定位的頭蓋内脳波による精査が必要と判断された。精査後7例にてんかん焦点切除術が行われ,切除不可能と判断されたのは1例,不明は7例であった。以上,vEEGは治療に難渋する症例の診断と治療に有用性を発揮すると考えられた。
The long-term video-electroencephalogram (vEEG) monitoring test simultaneously records brainwaves and video over several days. To evaluate the usefulness of vEEG, we retrospectively examined the capture of epileptic seizures on vEEG. As a result, seizures were captured in 56 of 117 cases (47.9%) in which vEEG was performed, and the capture rate was higher in cases with a high seizure frequency, cases with a high number of antiseizure medications, and cases with intellectual disability. Seizure types diagnosed after vEEG included generalized onset seizures (23.4%), focal onset seizures (62.6%), generalized onset + focal onset seizures (4.7%), unknown onset seizures (3.7%), psychogenic non-epileptic seizures (4.7%), and generalized onset + psychogenic non-epileptic seizures (0.9%). After vEEG, antiseizure medication was adjusted in 31 cases (26.5%), of which 12 cases showed a decrease in seizure frequency, 9 cases showed no change, 8 cases were unknown, 2 cases were continuing to be adjusted, and no cases showed an increase. Surgical treatment was performed in 28 cases (23.9%), including corpus callosotomy in 5 cases, epilepsy focus resection in 12 cases, vagus nerve stimulation in 10 cases, and deep brain stimulation planned in 1 case. 25 cases (21.4%) were followed-up, 18 cases (15.4%) were unknown, and 15 cases (12.8%) were judged to require further examination by stereotacticelectroencephalography. After detailed examination, epilepsy focus resection was performed in 7 cases, 1 case was judged to be unresectable, and 7 cases were unknown. In conclusion, vEEG is considered to be useful for the diagnosis and treatment of difficult cases.
てんかん発作は「脳における過剰かつ,あるいは同期する異常なニューロンの活動によって一過性に起こる徴候または症状」と定義される。てんかんの診断と治療は,「発作型」を分類することから始まる。発作型はてんかん発作が発生する部位によって「焦点起始発作」,「全般起始発作」,「起始不明発作」に分類される。発作型は患者や目撃者に対する問診や脳波検査を用いて推定されることが多いが,十分な情報を得ることが困難な場合がある。長時間ビデオ脳波モニタリング検査(long-term video-EEG monitoring; vEEG)は数日間にわたり脳波と映像を同時記録する検査である。検査中に発作が捉えられれば発作時の脳波波形を記録することができ,映像により発作症候を確認することができる。本研究では,てんかん発作型診断におけるvEEGの有用性について後方視的に検討した。
2023年1月1日~2024年4月30日の間に順天堂大学医学部附属順天堂医院において長時間ビデオ脳波モニタリング検査(vEEG)を実施した114症例を対象とした。
2. 方法 1) vEEGの記録vEEGは,順天堂医院集中治療室(ICU)病棟において,2泊3日もしくは3泊4日で実施した。電極は国際10-20法1)に従って装着し,加えて前側頭葉電極のT1,T2を装着した(Figure 1)。脳波計はNeurofax EEG-1200(日本光電社)で記録した。脳波計にデジタルビデオソフトウェアQP-110AK(日本光電社)をインストールし,ビデオカメラをカメラキャプチャーユニットと接続することにより脳波波形と映像の同時記録を行った。検査前日もしくは当日から,抗発作薬の一部もしくは全剤を服用中止とした。
a:脳波電極装着時は研磨剤,電極固定用のガーゼやテーピングを使用した。b:電極装着後,さらにテーピングで固定した。c:脳波計とデジタルビデオを接続し,脳波波形と映像の同時記録を行った。
対象症例の年齢,性別,検査前の発作頻度,抗発作薬服用剤数,知的障害の有無,vEEG中のてんかん発作捕捉,vEEGにより診断された発作型,vEEG後の治療(外科的治療を含む),抗発作薬変更後の発作頻度の変化についての情報を収集した。
年齢の解析にはMann-Whitney U検定を用い,性別,検査前の発作頻度,抗発作薬服用剤数,知的障害の有無の解析にはFisherの直接確率検定を用いた。P < 0.05を有意水準とした。
対象期間中のvEEG検査件数は117件,症例数は114例であった。対象期間内に2回検査を受けた症例は3例(男性1例,女性2例)であった。117件の検査のうち発作が捉えられたのは56件(47.9%)だった。Table 1にvEEGによるてんかん発作捕捉群と非捕捉群の患者背景を示した。両群間で性別および年齢に有意差は認めなかった。検査前の発作頻度はvEEG中のてんかん発作捕捉の有無に関連していた。また,抗発作薬服用剤数もvEEG中のてんかん発作捕捉に関連していることがわかった。知的障害合併症例は17例であった。Table 2は知的障害の有無によるvEEG中のてんかん発作捕捉率,検査前の発作頻度の比較である。Table 2に示す通り,知的障害を有する症例では,vEEG中のてんかん発作捕捉が有意に高率であった(p = 0.038)。一方,知的障害の有無と検査前の発作頻度には関連が見られなかった。
vEEGによる発作捕捉件数 | 有56件(47.9%) | 無61件(52.1%) | ||
性別 | 男性 | 31(55.4%) | 29(47.5%) | p = 0.255 |
女性 | 25(44.6%) | 32(52.5%) | ||
年齢 | 0~72歳 中央値:25.5歳 |
0~68歳 中央値:26歳 |
p = 0.708 | |
検査前の発作頻度(n = 117) | p < 0.001 | |||
日単位 | 17(30.4%) | 3(4.9%) | ||
週単位 | 9(16.1%) | 6(9.8%) | ||
月単位 | 19(33.9%) | 15(24.6%) | ||
< 月単位 | 8(14.3%) | 31(50.8%) | ||
不明 | 3(5.4%) | 6(9.8%) | ||
検査前の抗発作薬服用剤数(n = 117) | p < 0.001 | |||
0剤 | 2(3.6%) | 9(14.8%) | ||
1剤 | 8(14.3%) | 28(45.9%) | ||
2剤 | 15(26.8%) | 14(23.0%) | ||
3剤 | 17(30.4%) | 6(9.8%) | ||
4剤 | 8(14.3%) | 2(3.3%) | ||
5剤以上 | 6(10.7%) | 1(1.6%) | ||
不明 | 0 | 1(1.6%) | ||
中央値 | 3 | 1 |
知的障害あり(17件) | 知的障害なし(100件) | |||
---|---|---|---|---|
発作捕捉 | 有り | 12件 | 44件 | p = 0.038 |
無し | 5件 | 56件 | ||
発作捕捉率 | 70.6% | 44.0% | ||
検査前の発作頻度(n = 117) | p = 0.148 | |||
日単位 | 3(17.6%) | 36(33.3%) | ||
週単位 | 6(35.5%) | 14(17.1%) | ||
月単位 | 6(35.5%) | 28(28.0%) | ||
< 月単位 | 2(11.8%) | 13(13.0%) | ||
不明 | 0(0.0%) | 9(9.0%) |
vEEGによりてんかんもしくは心因性非てんかん発作(psychogenic non-epileptic seizure; PNES)と診断されたのは107件であり,10件はてんかんの精査のためにvEEGが施行されたが,てんかん性異常波や発作は捉えられずてんかんの診断とはならなかった。発作型は,全般起始発作が25件(23.4%),焦点起始発作が67件(62.6%),全般起始発作+焦点起始発作が5件(4.7%),起始不明発作が4件(3.7%),PNESが5件(4.7%),全般起始発作+PNESが1件(0.9%)であった(Table 3)。2回にわたってvEEG検査を受けた3症例に関しては,いずれも1回目の検査では発作が捕捉されなかったが,2回目で発作が捕捉された。発作型は焦点起始発作2例,全般起始発作+焦点起始発作が1例であった。
全般起始発作 | 焦点起始発作 | 全般起始発作+焦点起始発作 | 焦点起始不明 | PNES | 全般起始発作+PNES | |
---|---|---|---|---|---|---|
検査件数 (n = 107) |
25(23.4%) | 67(62.6%) | 5(4.7%) | 4(3.7%) | 5(4.7%) | 1(0.9%) |
vEEGが行われた全件数である117件のうち,vEEG実施後に抗発作薬が調整されたのは,31件(26.5%),外科的治療が行われたのは28件(23.9%),定位的頭蓋内脳波(stereotacticelectroencephalography; SEEG)による精査が必要と判断されたのは15件(12.8%),経過観察25件(21.4%),経過不明が18件(15.4%)であった。
抗発作薬の調整後に発作頻度が減少した症例は,12例(38.7%),変化なしが9例(29.0%),不明が8例(25.8%),継続調整中が2例(6.5%)であり,発作頻度が増加した症例は無かった。また,外科的治療が行われた28件の内訳は脳梁離断術が5例,てんかん焦点切除術が12例,迷走神経刺激療法(vagus nerve stimulation; VNS)10例,脳深部刺激療法(deep brain stimulation; DBS)予定1例であった。SEEGによる精査が実施された15件については,SEEG後7例にてんかん焦点切除術が行われ,切除不可能と判断された症例は1例,不明7例であった。
長時間ビデオ脳波モニタリング検査(vEEG)の主目的は「いつもの発作(habitual seizure)」を記録することである2)。通常の脳波検査では2.5~7%でてんかん発作が記録されるが3),一部の発作は覚醒レベルの低下や入眠期に関連して生じるため,限られた記録時間では発作捕捉に限界がある。一方,vEEG中のてんかん発作捕捉率については53~84%と報告されている4)~6)。
本検討では,まずvEEGによるてんかん発作捕捉率を評価したが,結果は47.9%となり,既報の捕捉率をやや下回った。その要因として,対象症例の背景の相違があることが推定された。すなわち,vEEGによるてんかん発作捕捉率が59%であったRiquetらの検討5)においては,対象とした患者のうち日単位で発作が起きる患者は約46%であったが,我々の検討では日単位で発作を認めた症例は約17%にとどまっていた。一方,検査前に日単位で発作が認められた症例におけるvEEG中の発作捕捉率については,我々の結果(約85%)とRiquetらの報告5)(約80%)の間に大きな差は認められなかった。これらの結果は,vEEG中の発作捕捉率が,検査前の発作頻度と関連することを示唆するものである。
次に,本検討では,検査前の抗発作薬服用剤数が多いほどvEEGによるてんかん発作捕捉率が高まることが示され,Robinsonらの報告6)と一致する結果となった。抗発作薬単剤でのコントロールが難しい症例は多剤併用療法の適応となるが,vEEG中には原則として休薬が行われることから,コントロール困難な症例でより発作が起こりやすい状況が生じたと考えられた。
知的障害とてんかんの関連性については,知的障害症例の約4分の1がてんかんを合併するとされ,知的障害の程度が重いほど有病率が高まるとの報告がある7)。本検討においては,知的障害の合併と検査前の発作頻度には有意な関連性を認めなかったが,vEEGによるてんかん発作捕捉率は知的障害症例で有意に高率であることが示された。
PNESは突発的に生じるてんかん発作に似た精神身体症状で,身体的・生理学的発生機序を持たない。このため,vEEGによって発作時のビデオ脳波を記録し,発作直前,発作中,発作直後の脳波記録にてんかん異常波がないことを確認することによって診断できる8)。Kumar-Pelayoらの報告9)によるとvEEGによりPNESと診断された症例は11%であり,Bahetiら10)はPNESもしくはPNES+てんかんと診断された症例は20.2%であったと報告している。一方,本検討ではPNESもしくはPNES+てんかんと診断された症例は6例(6.1%)であり,既報値よりも低値であった。その理由としては,当院では外科的治療の適応を判定する目的でvEEGを実施する場合が多く,すでに日常脳波検査においててんかん異常波が指摘された症例がvEEG実施対象として多く選択されたためと考えられる。
vEEG後の治療の変更について,Ghougassianら11)はvEEGが行われた症例のうち73%の症例で治療方法が変更され,そのうち抗発作薬の調整が最も多かったと報告している。我々の検討では,vEEGが行われた全検査件数に対して,抗発作薬が変更されたのは26.5%であり,外科的治療が行われたのは23.9%であった。さらにSEEGによる精査例を合わせると約57%の症例でvEEG後に治療法が変更されている。vEEG後に抗発作薬の調整が多く実施された点については,Ghougassianらの報告と一致する結果となった。
また,複数回にわたってvEEGを実施することの有用性については,Robinsonら6)は1回目のvEEGで発作が捕捉できなかった症例に対して繰り返しvEEGを行うことで42%の症例で発作が捕捉できたと報告した。本検討でも,3症例において2回のvEEGを行い,いずれも1回目のvEEGでは捕捉できなかった発作を2回目のvEEGで捕捉しており,複数回のvEEGの有用性を示唆するものと考えられた。
vEEGによるてんかん発作捕捉率は約48%であった。vEEG中のてんかん発作捕捉は,検査前の発作頻度や抗発作薬服用剤数,知的障害の有無に関連していた。またvEEGによる発作型診断は,その後の治療に有用な情報を提供することが示された。
本研究は,順天堂大学倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号E24-0084-H01)。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。