医学検査
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原著
低栄養患者におけるバイオマーカーを用いた予後予測の可視化
柴田 竜也匂坂 博美白川 るみ薗田 明広島田 俊夫
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2025 年 74 巻 3 号 p. 488-495

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Abstract

適切な栄養管理を実施するためには,複数の栄養指標や臨床指標をもとにした包括的な判断が必要である。本研究では低栄養患者の適切な栄養管理を目的とし,NST介入時における血液バイオマーカーを予後予測因子として,有用性を後方視的に評価した。当院でNST介入を受けた欠損値のない患者のうち,年齢と性別を傾向スコアマッチングにて調整した176例を対象とした。目的変数を主治医が評価した退院時転帰(良好群,不良群),説明変数をNST回診前の血液バイオマーカー測定値(ALB, ChE, CRP, Hb, RBP, TC, Tf, TLC, TTR, WBC)とし多変量ロジスティック回帰分析を行った。Hb,RBP,TLC,WBCに有意差を認め,この4項目を追加する前と後でモデル間の比較を行い,IDI分析は[0.076 (95%CI: 0.036–0.116), p < 0.001]と極めて良好な結果であった。決定木分析ではTLCが低栄養患者の予後に関わる重要な因子であった。免疫能及び半減期の短い栄養アセスメントタンパクを併用することで,低栄養患者の予測精度が向上した。詳細な栄養評価に関する患者情報を用いたIDI分析および決定木分析により,視覚的な予後予測への応用が大いに期待できる。NST回診前のTLC,RBP,Hb,WBCが退院時の予後に影響を与える重要な予後予測因子であることが判明した。

Translated Abstract

Appropriate nutritional management requires comprehensive decisions based on multiple nutritional and clinical indicators. In this study, we retrospectively evaluated the usefulness of blood biomarkers as prognostic factors in NST rounds to lead to appropriate nutritional management of undernourished patients. We targeted 176 patients who received NST rounds at our hospital, adjusted for age and gender by propensity score matching. The dependent variable was the outcome at discharge as assessed by the attending physician (favorable group, unfavorable group), and the explanatory variables were blood biomarkers (ALB, ChE, CRP, Hb, RBP, TC, Tf, TLC, TTR, WBC) tested before NST rounds and statistically analyzed. Multivariate logistic regression analysis showed significant differences in Hb, RBP, TLC, WBC, and AUC ranged from [0.650 (95%CI: 0.570–0.731)] to [0.722 (95%CI: 0.647–0.797)] in comparison between before (basal model) and after (enhanced model) adding the four items mentioned above. The IDI value was [0.076 (95%CI: 0.036–0.116), p < 0.001]. In the decision tree analysis, TLC was an important factor in the prognosis of undernourished patients. Combining the tests of immunocompetence and nutritional assessment protein with short half-lives improves prediction accuracy in undernourished patients. We expect future visual prognosis prediction by IDI and decision tree analysis using patient information on detailed nutritional assessment. We found that measured TLC, RBP, Hb, and WBC values before NST rounds were important prognostic factors.

I  はじめに

栄養サポートチーム(Nutrition Support Team; NST)は1970年米国のシカゴで誕生し,1980年代にかけて全米に広がり,さらに欧州諸国へと急速に普及した1)。本邦では2001年にNSTプロジェクトが開設され,活動が全国に拡がった。当院は2004年にNSTを開始し,医師,看護師,管理栄養士,薬剤師,臨床検査技師など多職種によってチームを構成し,全診療科の患者を対象に活動するpotluck party method(持ち寄りパーティー方式/兼業兼務システム;PPM)を採用している。栄養管理はすべての疾患を治療する上で共通する基本的医療の一つであることは認識されており,低栄養は臨床アウトカムの悪化と密接に関連しているため,医療機関における低栄養対策は重要な課題である。

低栄養はこれまで様々な方法で評価されてきたが,2018年に世界的診断基準の提供を目的としてGlobal Leadership Initiative on Malnutrition(GLIM基準)が報告された2)。GLIM基準は,体重減少,低BMI,筋肉量減少,食物摂取不足,炎症・疾病負荷の5つの指標を使い,栄養不良を診断することで,世界中で標準化された評価を可能にしている。NSTでは低栄養と評価された患者に対して,適切な栄養管理を実施するために,複数の栄養指標や臨床指標に基づく包括的な判断による介入が必要である。この際,臨床検査技師は検査データを適切に吟味した上で判断し,先導者として患者の病態を解析する役割を担っている。

今回,低栄養患者の適切な栄養管理につなげることを目的とし,NST介入時の血液学的検査および生化学的検査の測定項目における予後予測因子としての有用性を後方視的に評価した。

II  対象および方法

1. 対象

2016年1月から2020年3月までに当院でNST介入を受けた患者のうち,診療録および回診記録から患者情報および検査結果を調査できなかった患者を除外した上,年齢および性別の偏りを調整するため傾向スコアマッチングを用いて選定した176例を対象とした。

2. NST介入基準

当院NST介入基準をTable 1に示す。介入依頼内容は必要エネルギーの評価,食事内容の工夫,栄養補助食品の紹介,摂取エネルギーの算定,輸液量および種類の検討など多岐にわたる。当院における栄養管理は,入院時に看護師が栄養スクリーニングを実施し,スクリーニングをもとに管理栄養士が栄養管理計画書を作成,栄養状態に応じて1~2週間毎に再評価している。この過程で介入基準に該当する場合は主治医に介入を提言し,依頼された症例についてNST介入している。

Table 1 Criteria for NST interventions at our hospital

Group A
1. BMI < 16 kg/m2
2. ALB ≤ 3.0 g/dL
3. Hb ≤ 8.0 g/dL
4. Weight loss ≥ 10% (2 months)
5. TLC ≤ 1,000/μL
Group B
1. Patient with pressure ulcers
2. Patient with swallowing difficulties
※Cases with pressure ulcers are independently extracted and considered as targets.
Evaluation
1. Meeting three or more criteria in Group A
2. Meeting one or more criteria in Group B and two more criteria in Group B

3. 方法

主治医が評価した退院時転帰に基づき,NST介入前における血液学的,生化学的検査項目の予測精度を後方視的に解析した。NST回診前に測定したalbumin(ALB),cholinesterase(ChE),C-reactive protein(CRP),hemoglobin(Hb),retinol-binding protein(RBP),total cholesterol(TC),transferrin(Tf),total lymphocyte count(TLC),transthyretin(TTR),white blood cell(WBC)の検査10項目を説明変数として解析に組み込んだ。

4. 統計学的解析

1) 多変量ロジスティック回帰分析

目的変数を主治医が評価した退院時転帰に基づいて良好群(治癒,軽快,寛解),および不良群(不変,増悪,死亡)とし,説明変数を前述の介入前検査10項目とした上で,多変量ロジスティック回帰分析により有意な予後予測因子を抽出した。説明変数の項目選定にあたっては多重共線性に配慮し,相関係数0.8以上の項目は重複選択を避けた。

2) ROC曲線解析およびintegrated discrimination improvement(IDI)分析

多変量ロジスティック回帰分析で有意差を認めた項目についてROC曲線を作成し,モデル全体のarea under the curve(AUC)を算出した。AUCは退院時転帰の識別能力を評価する指標である。多変量ロジスティック回帰分析で有意差を認めた項目を含まないモデルを基本モデルとし,有意差を認めた項目を追加したモデルを拡張モデルとしてROC曲線解析によりAUCを求めて比較した。さらに,AUCによるモデル識別能力を補完する目的でIDI3)を用いて評価した。IDIは再分類の改善度を示し,AUCだけでは捉えきれない識別能力の変化を評価できる統計手法として高い評価を得ている。

3) 決定木分析

前述の多変量ロジスティック回帰分析により抽出された有意な変数を用いて決定木分析を実施し,算出されたG-squared係数(G2係数)に基づいて最適な分岐を繰り返し選択し,有意な変数間の相互関係を可視化した。

4) 解析に使用したソフト

EZR:R Commander version 2.9-1(自治医科大学さいたま医療センター),JMP version 11.2.1(SAS Institute)を使用した4)。統計学的にはp < 0.05を有意差ありと判断した。

III  結果

1. 患者背景

患者背景をTable 2に示す。本研究は当院にてNST介入した患者の介入前データが対象であり,男性378名,女性253名,合計631名,平均年齢は男性73.2歳(17–100歳),女性75.2歳(22–99歳)であった。診療録および回診記録より患者情報および検査結果が調査できなかった患者を除外した上,交絡因子の影響を排除するため年齢と性別を傾向スコアマッチングにて調整した176例を解析に用いた。

Table 2 Patient background profile after matching propensity score using age and sex

Favorable Group (n = 88) Unfavorable Group (n = 88)
Sex m/f 57/31 57/31
Age mean 77.5 77.6
Mean SD Median IQR Mean SD Median IQR
ALB (g/dL) 2.3 0.5 2.3 (2.0–2.6) 2.2 0.6 2.2 (1.7–2.7)
ChE (U/L) 128.5 54.5 126.0 (90.3–153.3) 111.7 53.4 102.0 (73.0–150.3)
CRP (mg/dL) 4.5 4.7 3.0 (1.0–6.7) 7.3 6.6 5.4 (2.3–10.0)
Hb (g/dL) 10.1 2.0 9.9 (8.7–11.6) 9.5 2.2 9.2 (7.8–10.8)
TC (mg/dL) 138.5 35.7 133.0 (115.8–166.3) 131.6 41.5 128.5 (103.3–159.3)
Tf (mg/dL) 143.4 51.8 137.0 (105.0–167.3) 129.3 49.5 120.0 (94.8–153.3)
TLC (/μL) 1,062.4 456.0 984.0 (717.5–1,260.5) 838.9 465.1 698.5 (537.0–1,011.3)
TTR (mg/dL) 11.8 6.7 10.8 (6.5–15.0) 9.0 5.8 7.6 (4.9–11.3)
RBP (mg/dL) 2.3 1.3 1.9 (1.1–3.0) 1.8 1.2 1.4 (0.9–2.3)
WBC (102/μL) 74.0 31.6 69.0 (54.8–83.5) 80.1 51.9 66.0 (50.0–90.0)

2. 統計学的解析

1) 多変量ロジスティック回帰分析

多変量ロジスティック回帰分析の結果をTable 3に示す。Hb[OR = 0.838 (95%CI: 0.712–0.985), p = 0.032],RBP[OR = 0.737 (95%CI: 0.573–0.947), p = 0.017],TLC[OR = 0.999 (95%CI: 0.998–0.999), p < 0.001],WBC[OR = 1.010 (95%CI: 1.000–1.020), p = 0.016]の説明変数4項目に有意差を認めた。

Table 3 Prognosis prediction power by each explanatory parameter to distinguish favorable from unfavorable

Logistic regression analysis ROC curve analysis
Odds ratio (95%CI) p value AUC (95%CI) Sensitivity Specificity Cut-off value
Hb (g/dL) 0.838 (0.712–0.985) 0.032 0.597 (0.513–0.681) 0.814 0.588 9.400
TLC (/μL) 0.999 (0.998–0.999) < 0.001 0.673 (0.593–0.753) 0.839 0.466 670.000
RBP (mg/dL) 0.737 (0.573–0.947) 0.017 0.618 (0.536–0.701) 0.625 0.568 1.600
WBC (102/μL) 1.010 (1.000–1.020) 0.016 0.509 (0.422–0.595) 0.773 0.330 53.000

2) ROC曲線解析およびIDI分析

ROC曲線により算出したAUCは,TLC[0.673 (95%CI: 0.593–0.753)],RBP[0.618 (95%CI: 0.536–0.701)],Hb[0.597 (95%CI: 0.513–0.681)],WBC[0.509 (95%CI: 0.422–0.595)]の順であった(Table 3)。予測因子の効果を明確に評価するため,介入時検査10項目のうち有意差を認めたTLC,RBP,Hb,WBCについて,4項目を含まない基本モデルと4項目を追加した拡張モデルをAUCおよびIDIで比較した。Figure 1で示すように,4項目の追加によりAUCは[0.650 (95%CI: 0.570–0.731)]から[0.722 (95%CI: 0.647–0.797)]に増加した。またFigure 2にはIDIの結果を示す。図の破線と実線の距離は,良好群と不良群における基本モデルと拡張モデルにおける分離状況を示す。両者の幅が広いほど,拡張項目モデルの識別能力が向上したことを意味している。IDIが0.01を超える場合,識別能力の有意な向上とみなされ,さらにIDIが0.02を超える場合はより強い証拠として評価される。IDI値は[0.076 (95%CI: 0.036–0.116), p < 0.001]であり,Hb,RBP,TLC,WBCを追加した拡張モデルは基本モデルに比べて識別能力が有意に向上した。

Figure 1  The impact of predictive power in the basal and enhanced models, adding the four specific parameters by AUC
Figure 2  The impact of prognosis prediction using the advanced model IDI

3) 決定木分析

決定木分析の結果をFigure 3に示す。本法は目的変数に影響の強い因子を自動的に選択する。退院時転帰に基づいたTLCのG2係数は18.226であり,このモデルにおける分岐に最も大きな影響を与える因子であった。

Figure 3  Visualization map of prognosis prediction by decision tree analysis

初回分岐ではTLCが672/μLによって2群に分岐した。TLC ≥ 672/μL群の60.8%(73/120)は予後良好群であり,さらにALB ≥ 2.1 g/dLかつWBC < 14,300/μLであれば75.4%(52/69)が予後良好群,またALB < 2.1 g/dLでもHb ≥ 9.6 g/dLであれば76.9%(10/13)が予後良好群であった。一方,TLC < 672/μL群の73.2%(41/56)は予後不良群であり,さらにRBP < 1.1 mg/dLで100.0%(13/13)が予後不良群,またRBP ≥ 1.1 mg/dLでもCRP ≥ 4.85 mg/dLであれば,85.0%(17/20)が予後不良群であった。Hb,RBP,TLC,WBCは3つの方法で違いはあるものの,共通して有意な因子であった。またALBおよびCRPも予後関連因子として有意な因子であった。

IV  考察

低栄養状態(protein-energy malnutrition; PEM)は治療効果の低下や合併症リスクに重大な影響を与えるため,是正することは極めて重要である。本研究において,低栄養状態が予後に与える影響を検討した結果,NST回診前のTLC,RBP,Hb,WBCが退院時転帰に影響力のある予後予測因子であることが明らかになった。

栄養状態の変化によって生体の免疫能は大きな影響を受け,特にTLCとWBCは免疫能を評価する簡便な指標である。例えば,TLCが1,200/μL未満になると,T細胞の減少とそれに伴う細胞性免疫の低下が生じる。更に長期にわたる低栄養が続くとB細胞の減少も始まり,免疫グロブリンの産出能および液性免疫能の低下を引き起こす5)。小野寺らの研究6)によれば,末期癌患者に対する積極的な栄養管理にもかかわらず,予測推定栄養指数(prognostic nutritional index; PNI)が40以下でTLCが1,000/μL以下の場合,数か月以内に死亡する確率が高いと報告されている。本研究の決定木分析では,TLCが予後予測に最も影響を与える因子として選択され,TLCが672/μL未満の場合,73.2%が予後不良群であることが示された。この結果から,TLCが臨床的に低栄養患者の予後に関わる重要な因子であることが裏付けられた。反面,TLCやALBが比較的良好なグループにおいては,WBCが14,300/μLを超えなければ75%が予後良好であった。しかし,ALBが低いグループであってもHbが比較的良好であれば同様に予後は良好であることが示された。WBCは,特に感染症や炎症において顕著に増加する。生体の防御反応として,細菌,ウイルス,真菌などの感染症に加え,肺炎,敗血症,尿路感染症,カテーテル感染などでも増加する。また,白血球(特に好中球)の増加はHbの減少にも関連する。細菌感染症などの炎症によりサイトカインが好中球の増加を促進する。その中でもインターロイキン6(IL-6)は肝臓におけるヘプシジンの発現を増加させ,これが造血系での鉄利用障害を引き起こし,結果としてHbの合成が滞る7)。造血幹細胞の異常,エリスロポエチンの分泌不全,低栄養(鉄,ビタミンB12,葉酸の欠乏),破壊の亢進(溶血)など,NST介入時におけるWBC高値やHb低値をはじめ,非代償性PEMの存在は予後不良のサインを示唆した。

また栄養アセスメントタンパクはALBと違い,血中半減期が短く鋭敏に栄養状態を反映するrapid turnover protein(RTP)であり,急性期の栄養管理において栄養状態の変化を早い段階で把握し,栄養療法の効果を早期に判定できることが報告されている8)。本研究では,RTPの一つであるRBPが影響のある予後予測因子として明らかになった。RBPは肝細胞で合成・分泌され,肝星細胞(Kupffer細胞)から放出されるレチノール(ビタミンA)と結合し,TTRと複合体を形成する。RBPは腎糸球体を通過できないが,末梢組織でレチノールを放出するとTTRから解離し,腎糸球体で濾過され近位尿細管で再吸収され異化される9)。特に感染症および炎症時には,異化が亢進し血中濃度が減少することも広く知られている。今回,RBPが予後予測因子として挙がったことは,NST介入時のアミノ酸合成やエネルギー合成の低下,すなわちタンパク質不足を反映した結果であったと考える。しかし,栄養アセスメントの代名詞ともいえるALBが予後予測因子として挙がらなかった点,またRBPとともにNSTで注視されるTTR,Tfも予後予測に関連しなかった点は注目に値する。ALBは古くから栄養アセスメントの指標として使用されてきたが,体内プールが大きく半減期が約20日と長いため,肝疾患が血清アルブミン値に大きな影響を与えることがよく知られている。しかし,ESPEN consensus statementでは,内臓タンパクの低下の主な原因は炎症反応であり,内臓タンパクの値は栄養不良のスクリーニングや診断に使用すべきではないと提言している10)。さらにALBの半減期を考慮すると,NST介入時の状況を正確に反映する指標は半減期が極めて短いRBPに利があるのではと考える。

以上,従来の予後予測手法であるロジスティック回帰分析に加え,可視化に優れた決定木分析を加え予後予測を試みた。決定木分析は,その透明性の高さから関連因子の情報やデータの可視化を通じて最適な選択を行うことが可能であり,NST回診における血液バイオマーカーの有効性を実感しやすい可視化ツールである。本研究により,低栄養患者の予後予測因子の関連性を視覚的に表現することで,結果の理解を深め,印象に残る成果を得ることができた。

今回,当院における約4年間のNST回診の実績をもとに,退院時の栄養評価に基づいて特定された予後予測因子について考察した。NST回診で収集されたデータは,患者が基礎疾患に伴って二次性疾患を併発しているケースがほとんどである。さらに,重篤な低栄養を伴うケースも珍しくなく,データの解釈をいっそう複雑にしている。NST回診は施設によって様々な形態で実施されており,NST回診のアウトカムに強く影響する因子は多岐にわたると考える。今回,特定された予後予測因子の妥当性を精査するため,ROC曲線解析を補完すべく識別能力に優れたIDI分析を使用して解析モデルの識別能力を評価した。一般的にROC曲線解析におけるAUCは,疾患の診断における血液バイオマーカーの識別能力を評価するために用いられる。しかし,NST対象患者の栄養評価は特定の疾患に限定されない不特定な評価対象であるため,検査項目のAUCは相対的に小さく,識別能力の評価は容易ではない。そこで,10年ほど前からモデルの性能向上を評価する指標として高く評価されているIDIを使用してROC曲線解析を補完した。今回,TLC,RBP,Hb,WBCの4項目を追加する前(基本モデル)のAUCと,追加後(拡張モデル)のAUCを比較することにより識別能力を評価した。一方IDIの値は,基本モデルと拡張モデルの関係性に基づいて計算されるため,基本モデルを基準として評価した。前述の4項目を投入したことでAUCおよびIDI共にモデルの識別能力は向上したが,IDIによる評価では極めて高い識別能力が示された。TLC,RBP,Hb,WBCは低栄養患者おける有用な予後予測因子であることがIDIによってより明確になった。

我々は約20年にわたる当院のNST回診の一区切りとして,低栄養患者における血液バイオマーカーの有用性を評価した。令和6年度の診療報酬改定によって,低栄養の診断および栄養治療における標準化された世界基準であるGLIM基準が保険収載されることとなり,当院でも本格的な取り組みを進めている。このような背景のもと,回診のスタイル変更に役立てることを目的として本研究を実施した。我々が扱う臨床データ,特にNST回診で直面するデータは複合的な疾患に低栄養状態が加わるため,解釈は容易ではない。また主治医が参画できないケースも多く,NST担当医のもとで患者の状態を把握しなければならないことも的確な患者把握を難しくする一因である。このような状況下で,各NST専門スタッフがチームとして参画し,専門性を生かして情報を共有することが重要である。特に,臨床検査技師は検査データに対する適切な情報を提供する使命を担っている。検査データを適切に解釈するためには,臨床検査技師でなければ知り得ない患者データの生理的変動幅,採血時の体位によるデータ変動,不適切な採血手技や搬送条件,検体放置による誤結果の発生,検体測定における不確かさなど,多岐にわたる要因を考慮してデータを評価する必要がある。これが臨床検査技師の重要な役割である。また,検査に関連する情報の提供やチーム教育においても,その存在は不可欠である。この経験と知識が今後のNST回診の質向上とさらなる発展に寄与するとともに,自施設においてもこの成果を基に,NSTにおける取り組みをさらに推進していきたいと考える。

本研究は後ろ向き研究であり,年齢および性別の偏りを調整するために傾向スコアマッチングを行った結果,解析対象の患者数は176例に減少した。また,BMIをはじめ詳細な栄養評価に関する患者情報を収集できなかったことは課題として残った。今後は,こうした振り返りを踏まえ事前に研究計画を立案し,NST回診に関連した精度の高い研究が実施できるよう,体制の構築を進めていきたいと考えている。

V  結語

本研究は低栄養状態が細胞性免疫に重大な影響を与え,治療効果の低下や合併症リスクを回避することの重要性を再確認する機会となった。NST回診前のTLC,RBP,Hb,WBCが退院時の予後に影響を与える重要な予後予測因子であることを明らかにし,低栄養患者の予後に与える影響を視覚的に示すことができた。特に,TLCとWBCが免疫能を評価する簡便な指標として有効であった。また,NST介入時の栄養管理の指標として,半減期が短いRBPが有効であることが確認された。しかし,従来から短期的な栄養指標とされているTTR,Tfが予後予測として有意に関連しなかった点は一考の余地があり,各施設のNST回診の背景の違いも考慮して大規模な共同研究ができる体制確立が必要である。当院におけるNST回診の実績を基にした本研究は,NST回診の質の向上と低栄養患者の予後改善に寄与するものであり,この経験と知識を基に自施設においてもNST回診の更なる質の向上を目指し取り組んでいきたいと考える。

本研究のプロトコールは静岡県立総合病院臨床研究倫理委員会で審査され承認を受けた(承認番号:SGHIRB#2024054)。また本論文の要旨は第74回日本医学検査学会(2025年5月,大阪)で報告した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

 謝辞

本研究におけるデータ抽出にご協力いただいた当院診療情報管理室の長橋悦子氏,植田弘紀氏に厚く御礼申し上げます。

文献
 
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