医学検査
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医療統計学
第13章 時系列解析
古賀 秀信
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2025 年 74 巻 J-STAGE-1 号 p. 84-94

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抄録

本稿は,臨床研究における時系列解析の重要性とその手法について述べる。臨床検査データは,複数回にわたり測定されることが一般的であり,時系列の特性を無視して単純な比較を行うことは,誤った結論を導く可能性が高い。このようなデータは,患者ごとに階層的な構造を持つため,通常の統計解析ではデータの変動を過小評価する可能性がある。この問題に対処するためには,マルチレベル分析を適用し,階層構造を考慮することが重要である。また,ある時点を境に治療手順やルールが変更された場合,その後のアウトカムの変化を解析するためには,分割時系列解析(ITSA)を用いることが有効である。特に,検査値などの連続変数においては,治療閾値を基準にアウトカムの変化を解析する回帰不連続デザインが適している。一方,周期性やノイズを含む時系列データの解析には,移動平均法,自己相関分析,ARIMAモデル(自己回帰和移動平均モデル)などの手法が用いられる。これらの手法は,データの時間的変動を考慮し,短期的な変動や長期的なトレンド,周期性などを明らかにすることができる。特にARIMAモデルは,自己回帰成分と移動平均成分を組み合わせることで,時系列データのトレンドや季節性を効率的に捉えることが可能であり,予測や変動の分析に適している。時系列解析の本質は,データの時間的構造を適切に評価し,時間軸に沿った変化を考慮して解析を行うことで,予測精度を向上させる点にある。本稿では,これらの解析手法が臨床研究における結果の信頼性向上や,データ解析の精度を高める上で不可欠であることを実際の事例に適用した例を挙げながら解説する。

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