アンデス・アマゾン研究
Online ISSN : 2434-0634
16世紀ペルーにおけるタキ・オンコイと水銀汚染
10分の1税徴収、先住民のサボタージュ、強制的改宗
真鍋 周三
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2021 年 5 巻 p. 33-54

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抄録

 1560年代ペルーアンデス高地のワマンガ地方においてタキ・オンコイ(Taki Onqoy. ケチュア語で「踊り病」を意味する)と呼ばれる、土着の神々を復活させるための「踊り」を伴う祭祀・儀礼が自然発生的に拡大し、植民地支配体制を揺るがす状況となった。先住民群衆によるこの騒動で日常生活が麻痺した。それは1564年8月もしくは9月ごろから数年間にわたって、クスコ司教区ワマンガ地方南東部のパリナコチャス地区を中心に広がった。およそ8000人の先住民がこれに関与したとして告発され、キリスト教への集団改宗を強いられたといわれている。
 タキ・オンコイを水銀汚染問題と関連付けた最近の研究について述べておく。2015年に日本の真鍋周三が「16世紀ペルーにおけるタキ・オンコイの政治・社会的背景をめぐる試論」、『ラテンアメリカ・カリブ研究』第22号、39-54頁とそのスペイン語版[Manabe 2015]を発表し、水銀汚染問題との関係からタキ・オンコイを捉える視点を提起した。
 2016年にペルーのサンタ・マリア(公衆衛生学者・人類学者)が、「タキ・オンコイ─16世紀ペルーにおける水銀中毒症」なるテーマで、タキ・オンコイと水銀中毒を関連付けた博士論文を著した。また2017年には「16世紀ペルーにおける水銀とタキ・オンコイ」なるテーマで修士論文を執筆した。
 本稿では、タキ・オンコイと、ワンカベリカ水銀鉱山に由来する水銀汚染問題との関係の一端を明らかにするべく、歴史学の立場に立って新たな解釈を試みる。本稿の内容は10分の1税徴収問題がタキ・オンコイの鎮圧とどう関係したのかを検討・考察する。

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© 2021 アンデス・アマゾン学会, 真鍋周三

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