スウェーデンの作家セルマ・ラーゲルレーヴは、日本において、「キリスト教作家」および「平和主義作家」として受容された。一方、日本の受容を媒介したと考えられるドイツにおいては、ナチ政権下で人気を博した。本稿では、反戦とナチズムという、一見対照的な作用をもたらした両国の受容が同じ根を持っていたという仮説を立て、ラーゲルレーヴ受容に大きな功績を果たした香川鉄蔵とイシガオサムがいずれも無教会とかかわりを持っていたことに着目する。まず、近代日本におけるキリスト教の流れを内村を中心に概観し、内村の「デンマルク国の話」とその受容、内村とドイツの接点であったヴィルヘルム・グンデルトの経歴、内村の北欧に関する記述を通じて、内村の北欧受容のあり方を検討する。次に、香川鉄蔵、イシガオサムのラーゲルレーヴ受容を通じて、日本における「血と土」思想の定着のあり方を考察する。