抄録
フィンランドの健康保険制度は公的医療モデルと産業保健モデルを併用する二重の医療制度の発展が特徴となっている。導入もヨーロッパの中でもっとも遅く、その背景には工業化の遅れのほか、農民同盟と社会民主党の利害の対立が見られた。健康保険は賃金労働者のみを対象とするか、全国民を対象とするか、任意とするか強制加入とするかが大きな争点となり、全国民を対象とする制度で決着をみた。ここには国民年金機構Kelaや人民民主同盟の関与の影響も大きく見られた。医療設備の不足や低水準の保障という課題は、産業保健制度の発展を後押しし折衷的な制度が定着することになる。一方、農民政党の関与は強い平等性の実現に貢献する。本稿では、健康保険導入を主に政党政治の駆け引き、農民同盟とKelaの経路依存から考察する。