動物心理学年報
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アリジゴクの食餌における道具使用行動について
田中 俊彦小野 嘉明
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1975 年 25 巻 2 号 p. 103-117

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抄録
アリジゴクの道具使用行動, すなわち食餌捕獲のための砂なげ行動について, クロヤマアリ・アシナガアリ・トビイロケアリの3種のアリを餌として与え, 詳細に観察した。また, その行動を実験的に分析してつぎの結果を得た。
1.食餌行動型の6型, BC, BC, BCTC, BCTC, TC, TCを観察分類することができた。このうちBCとBCを除いた他の4型はいずれも砂なげ行動 (T) を含んでいる。すなわち, これらが道具使用行動である。
2.道具使用行動の生起は, 巣穴の完成と一つの直接的または間接的な連鎖関係をもつ。また, 道具使用行動のサイン刺激は, 巣穴の側壁に加えられる微弱な振動, すなわち一種の機械的刺激である。
さらに, この道具使用行動は3つの因子によって規定される。すなわち, 1) 咬みつき行動の先行の有無, 2) 身体的条件 (成長の結果としての砂なげ可能距離の延長), 3) 餌の位置 (捕獲範囲の内または外) 。
3.アリジゴクの巣穴の直径 (D) と母線の長さ (L) との比 (D/2L=cos α; αは巣穴の直径と母線とのなす角) がB型のアリジゴクの場合は0.654, C型のそれでは0.697のとき3種のアリに対して有効な道具使用となる。
4.アリジゴクの成長にともなって, 道具使用行動による餌動物の捕獲率は高くなる。これは成長するにつれて巣穴の大きさが増す (捕獲範囲の拡大) ことや, アリジゴクの身体的機構の成長 (したがって砂なげ距離の延長) が関係していると考えられる。
5.この道具使用行動は, 餌の捕獲において咬みつき行動につぐ生存価を有する。
6.この行動は一種の本能的道具使用行動であるが, 成長するにつれて, または経験を重ねるにつれてより効果的になる。すなわち, ある種の習得的行動の性質をもっているとも考えられる。この有効な証拠として考えられるのは, 成長するにつれて, 少数回の砂なげ行動と少数回の命中による餌の捕獲率が増大することである。
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© 日本動物心理学会
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