動物心理学年報
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隔離飼育ニホンザルの常同行動に及ぼす集団形成の効果
山口 勝機
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1978 年 27 巻 2 号 p. 95-103

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抄録

生後まもない子ザルを母ザルから隔離し単独で飼育すると種々の行動異常, 例えば社会性の欠如 (5, 6, 7), 環境接触の激減 (8), 多様な常同行動 (stereotyped behavior) の発現などが観察されることは, これまでの多くの隔離実験で示されている。とりわけ隔離ザルの自閉的傾向を特徴づける行動として常同行動があげられるが, 常同行動に関して従来おこなわれている多くの実験的研究は授乳方法 (2) とか飼育ケージとの関係 (1, 4, 9), あるいはフラストレーションなどと常同行動の発現頻度がどのような関係にあるか (3) といったような, いわば個体のおかれた物理的環境を一時的に操作することに力点が置かれ, 常同行動そのものの変容性を調べることは少なかった。行動が環境との相互作用により変化するのは当然であるが, 前述のように個体的側面だけに限定された方法では常同行動の特性を明らかにすることには, おのずから限界があると考えられる。更に, 母ザルからの隔離時期の異なる隔離個体にみられる行動様式の比較はもちろんのこと, 複数の隔離個体の集団形成を行ない, それぞれの社会的関係の成立過程, 社会的行動の変化, 常同行動の発現様式の相違およびその変容性の相違の比較, 臨界期の究明など, 隔離個体の示す行動を総合的にみていこうとするような研究は現在の霊長類研究では数少ない。本実験では, このような方法により隔離個体の行動を明確にするため, 母ザルからの隔離時期の異なる2群すなわち早期隔離群と後期隔離群をそれぞれ生後1年目に集団形成し, 隔離時期と常同行動の発現様式との関係をみると同時に, 社会化の過程において常同行動がいかなる変容を示すかを検討した。
母ザルからの隔離時期の異なる2群, すなわち早期隔離群と後期隔離群をそれぞれ生後1年目に集団形成し, 短期観察および長期観察において隔離個体に特有な常同行動の発現様式が隔離時期といかなる相関を示し, かつ長期間の集団生活により, いかなる変容を示してくるかについて検討した。主要な結果は次の通りであった。
(1) 母ザルからの隔離時期が比較的早い場合には, 自己指向性の常同行動が, 隔離時期の遅い場合には活動性の高い位置移動性の常同行動が発現してきた。
(2) 長期間の集団生活により, 位置移動性の常同行動は速やかな減少を示したが, 自己指向性の常同行動はすぐには減少せず, 質的相違に起因すると考えられる。
(3) 常同行動は本来, 不可逆性の性質をもつ行動であると思われるが, 特に自己指向性の常同行動にその傾向が強いように思われる。
(4) 常同行動の発現様式の相違に関しては, 母-子関係における幼体の性差ならびに心理的, 生物学的発達段階の各相で隔離の影響が異なるためであると考えられる。

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© 日本動物心理学会
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