動物心理学年報
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シロネズミの弁別回避学習に及ぼす先行報酬訓練の効果
津田 彰
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1979 年 29 巻 1 号 p. 21-33

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抄録

回避学習の2過程説は, 最初に電撃等の有害刺激 (US) と対になった条件刺激 (CS) に対して恐怖の条件づけが起こり, 続いてその恐怖の低減によって回避反応が維持されることを主張した (8, 15) 。しかし, 回避行動に関する最近の学説は, 上述の学習法則がネズミのmanipulanda反応によるSidman型回避学習には当てはまらず, 普遍的過程を表わすものではないことを明らかにした (9) 。
1953年にSIDMAN (18) は, いわゆるSidman型スケジュール下でのネズミのバー押し回避学習を報告したが, それ以来, Sidman型の回避学習に関する研究は数多く発表されてきた。一方, この手続では回避学習がかなり困難なことを強調する報告も少なくなく, 学習理論家達の論議を喚起した。manipulanda反応によるSidman型信号性回避学習は, CSとUSとの数多くの対提示にもかかわらず, 逃避反応から回避反応への移行が数多くの試行を重ねても認められない。その原因をBOLLES (1) は種一特異的防衛反応仮説に求め, SELIGMAN (17) は準備性の概念で説明を試みた。
バー押し等のSidman型回避学習のむずかしさを説明するこのような理論的アプローチとは別に, ネズミによるSidman型のmanipulanda回避反応の習得をいかに改善させるかといった実際面での実験研究も試みられてきた。例えば, 習得訓練の際に電撃強度を弱くする (10), 反応に対して外部フィードバック刺激を提示する (3), バーの位置を高くする (5), 反応-電撃間隔を長くする (6), あるいは電撃提示中と直後の反応を無効とする (14) といった実験変数を操作する試みが為されてきた。
一般にバー押しを用いた信号性回避訓練下での習得が悪いのは, CS提示中の “蹲り” 反応やバーのホールディング反応が有効なバー押し反応の遂行と競合するためであるという考え方がある (2) 。GIULIAN & SCHMALTZ (7) は, 初めに餌粒でバー押し反応を強化することにより, 後続のバー押し信号性回避の増加に成功した。同じくKULKARNI andJOB (11) も, 最初に水舐めのためのバー押し訓練を施されたネズミの方が, 対照ネズミより早くバー押し回避反応の高い水準に達したことを報告している。
本実験はこれらの研究を背景に, ネズミによるSidman型回避反応の習得を促進する手法の吟味を目的として行なわれた。具体的には, 餌粒でフラッパ押し反応を予め強化しておくことが, 後続のフラッパ押しによる電撃回避を促進させるかどうかを検討した。
自由反応続行事態における回避学習の研究はSIDMAN (18) によって初めて報告された。しかし, Sidman型バー押し回避学習はその習得がかなり困難なので (4), その後いろいろの実験変数を使ってネズミのバー押し回避の学習を容易にする試みがなされてきた (6, 12, 14) 。
回避学習を困難にさせる要因の1つに, CS期中の蹲り反応がバー押しのような回避反応と競合することが挙げられている (1) 。そこで当実験では, 回避場面での蹲りを減少させて回避反応の遂行を促進させるために, フラッパ押しを道具的反応に選んでこれを予め報酬訓練で強化し, そうすることが後続のフラッパ押し信号性回避条件づけを促進するかどうかについて調べた。
Sidman型フラッパ押し回避訓練に先立って, 5日間のフラッパ押し報酬訓練を経験した実験群 (N=16) は, 未訓練の対照群 (N=8) に比べ, 数が有意に多くかつ高い電撃回避率と無刺激期の反応を記録した。実験群のフラッパ押し反応のセッション当たりの総数は6日間にわたる回避訓練中殆んど一定であったが, 反応の種分けで言えば, 無差別反応優位型から次第に回避反応優位型に移行していった。一方, 対照群についても電撃回避率の増加は認められたが, 実験群に比べて有意に少なかった。
当実験の結果は, 先行フラッパ押し報酬訓練が後続のフラッパ押し回避学習を促進させたことを示している。

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