抄録
ラット (観察者) は, ある食物を摂取してきた他個体 (提示者) と接触すると, その食物を選好するようになる。本研究では, 提示者と観察者の社会的関係の違いが, 伝達された食物に対する観察者の選好に影響を与えるかどうかを調べた。観察者を, 新奇な匂いのする異なった食物を摂取した2匹の提示者に接触させ, その後選択場面において, これら2つの食物に対する観察者の選好を測定した。観察者は, 既知の提示者が伝えた食物よりも未知の提示者が伝えた食物を選好し, また優位な提示者が伝えた食物よりも劣位な提示者が伝えた食物を選好した。この違いは, 観察者-提示者間の身体的な接触時間が異なるために生じたものではなかった。今回見られた選好は, ともにラットにとって適応的なものであると思われる。未知の提示者が伝えた食物を選好することは摂取する食物の幅を拡げ, 劣位な提示者が伝えた食物を選好することは食物獲得に要するコストを下げることにつながると考えられる。