ノンプロフィット・レビュー
Print ISSN : 1346-4116
論文
市民社会組織のブーメラン戦略はいかなる政治的帰結をもたらすのか
―日本におけるヘイトスピーチ解消法の事例分析―
寺下 和宏
著者情報
ジャーナル フリー

2022 年 21 巻 1+2 号 p. 81-93

詳細
抄録

本稿は,ヘイトスピーチ解消法の事例分析から,市民社会組織のブーメラン戦略がいかなる政治的帰結をもたらすのかを明らかにした.これまでの研究では,国内での政治アクセスが難しい市民社会組織は,他国や国際機関を通じて,圧力をかけるブーメラン・パターンによって政治的帰結を生じさせていると論じてきた.他方で,ブーメラン・パターンによる国際的圧力は限定的なものであるという反論もあった.しかし,いずれの議論もモデルの妥当性には疑問符がつき,実証性に乏しい.そこで本稿では,合理的選択論に基づき仮説を構築した上で,日本におけるヘイトスピーチの政治過程を検討した.その結果,イシュー・セイリアンスと,選挙サイクルの組み合わせによって,与党がとりうる行動が変わり,その結果生じる帰結も異なったことで,差別規制には不完全な法律が制定されたことを明らかにした.これにより,市民社会組織のブーメラン戦略によってもたらされた国際的圧力は,国内アクターによって利用される可能性を示した.

著者関連情報
© 2022 Japan NPO Research Association
前の記事 次の記事
feedback
Top