Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Effect of Pelvic Girdle Wearing on Pelvic Circumference, Back Pain, and Level of Impairment of Activities of Daily Living during the Early Postpartum Period
Emi MasudaMarie Shimada
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2017 Volume 37 Pages 464-472

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Abstract

目的:分娩後に骨盤周囲にさらしを巻く群(介入群)と巻かない群(対照群)では,産褥早期の骨盤周囲径測定値,腰背部痛の状況と腰背部痛による日常生活上の支障の程度について違いがあるのかを明らかにすることを目的とした.

方法:介入群45名と対照群37名に,妊娠末期,産褥1,4日目に骨盤周囲径測定と質問紙調査を行い統計学的に分析した.

結果:骨盤周囲径測定値は,2群間で差はなく,2群ともに妊娠末期の値より産後の値の方が小さかった.腰背部痛は,2群ともに各時期において6割程度の者が自覚し,痛みの程度に差はなかった.対照群では,産褥1日目に背部痛が発生する者が多かった.2群ともに日常生活上の支障については産褥経過とともに軽減していた.

結論:産褥早期の骨盤周囲径は2群ともに妊娠末期より減少したが,さらしを巻くことにより,さらに骨盤周囲径を減少させる効果は確認されなかった.産褥早期にさらしを巻くことは背部痛の予防に寄与すると推測された.

Ⅰ. 緒言

女性は,妊娠や分娩によって様々なマイナートラブルが出現しやすく,そのマイナートラブルの一つに腰背部痛がある.腰背部痛は,妊婦の約70%に認める最も頻度の多い症状であると言われている(岸田・若槻,2006).妊娠に伴う腰背部痛の原因としては,姿勢の変化,ホルモン分泌による骨盤内関節の弛緩,腹筋や骨盤底筋群の伸張や弛緩,筋力低下等があると言われている.松谷ら(2009)は,妊娠中から分娩後の姿勢アライメントと腰部脊柱起立筋の筋硬度について調査し,妊娠末期には左右腸骨が水平に広がることを明らかにしている.すなわち,骨盤は妊娠により弛緩することが明らかになっている.そのため,妊娠中の腰痛は妊娠の進行とともに強くなりやすいと言われている(春名,2013).

さらに,楠見ら(2007)は,腰背部痛や骨盤周辺の痛みの多くは産褥早期に消失せずに,産後1ヶ月経過しても40%以上の褥婦に痛みが残存したと報告している.このように,分娩後も腰背部痛が続く褥婦は少なくはなく,産褥期の腰背部痛に伴う身体的苦痛は,育児行動や母親役割行動への影響を与えるのではないかと考えた.

妊娠中や産褥期の腰背部痛の対処法の一つに,骨盤ベルトやさらしを使用して骨盤周囲の固定を行うことが,弛緩した骨盤の安定や復古,腰痛の軽減に有用であると言われている.現在,本邦の病院や助産院でマイナートラブルへの対処方法として行われているが,その効果については明らかではない.

このような状況に対して,さらしや骨盤ベルトで骨盤周囲を固定した効果を検討している研究はいくつか行われている.分娩後から産褥早期の褥婦に腰腹部固定帯の効用を検討した研究(服部ら,1999)では,装着群の方が,産褥5日目の骨盤,外陰部不快症状の訴えがコントロール群に比較し有意に低く,産後の疲労自覚症状数は,装着群の方が低値であったと報告されている.また,林ら(2010)は,分娩後における骨盤輪固定の効果について検討している.その結果,産褥早期の全ての褥婦の骨盤周囲径が減少し,腰痛が軽減したと報告している.しかしながら,この研究ではさらしや骨盤ベルトを使用した介入群と対照群との比較調査は行われていない.

産褥期において骨盤周囲径は生理的な産褥復古により減少すると報告されており,産褥期に骨盤周囲をさらしや骨盤ベルトを用いて固定することは,腰背部痛に寄与すると推測されるが,それらについて介入群と対照群の比較によって明らかにした研究報告はされていない現状である.

本研究の目的は,分娩後より骨盤周囲径にさらしを巻く介入群と対照群では,妊娠中から産褥早期において骨盤周囲径の変化に差がみられるのか,また,腰背部痛の状況や腰背部痛による日常生活上の支障の状況について違いがあるのかどうかを明らかにすることである.

〔用語の定義〕

・妊産褥婦の腰背部痛

妊娠や分娩による生理的変化によって生じる腰背部痛で,腰部,背部,股関節部,恥骨周辺部,鼠径部,仙腸関節部,殿部といった骨盤周辺の痛みを含むものとした.

・骨盤周囲径

骨盤周囲径とは,一般的には骨盤輪という言葉で表されている.骨盤内面において分界線に沿って輪状をなす骨部分であり,仙骨と左右の寛骨が2つの仙腸関節と恥骨結合で連結されて構成されている部位である.骨盤輪を直接測定することができないため,測定可能な骨盤輪の外側を測ることとし,大転子2横指上から恥骨結合上部の周囲を骨盤周囲径とした.

・産褥早期

本研究では,産褥早期を分娩終了後から産褥4日目までとした.

Ⅱ. 研究方法

1. 研究デザイン

準実験研究

2. 研究対象者の設定

対象者は2014年7月~2014年10月の間に,都内一総合病院で管理されている妊娠36週~妊娠37週の妊婦のうち,下記の条件を満たす者とした.

1)妊娠経過や胎児発育に問題がないと医師が診断している者.

2)既往歴に腰椎椎間板ヘルニア等整形外科的疾患を有しない,妊娠前に腰痛がない者.

3)妊娠中から常に継続してさらしや骨盤ベルトを使用していない者.

4)極度に姿勢が悪く立位姿勢が不安定でない者.

5)経腟分娩し(吸引・鉗子分娩を含む),出血量800 ml未満であり,かつショックインデックス1未満であった者.

6)分娩後,妊娠高血圧症候群等の異常を発症してない者.

対象者は,さらしを使用しない対照群(7月下旬~9月上旬に妊娠36~37週の妊婦健康診査に来院した者)と分娩後から産褥4日目まで骨盤周囲にさらし巻く介入群(9月中旬~10月中旬に妊娠36~37週の妊婦健康診査に来院した者)に振り分けを行った.

本研究のサンプルサイズは,サンプルサイズ算出フリーソフトであるG* powerを使用して算出した.水本・竹内(2010)は,先行研究での効果量が不明な場合,効果量は0.5,検出力を0.8,有意水準を5%として算出するとよいと述べている.本研究では,先行研究で参考とするものが見当たらなかったため,この基準に当てはめて算出すると各群64名が必要であるという結果であった.しかし,調査期間を考慮すると各群64名を確保することは困難であり,対象者数の目標を効果量は0.5,検出力を0.5,有意水準を5%として算出した各群32名とした.そして,対象者が帝王切開術となることや,途中で脱落することを考慮すると,必要な対象者数は介入群40名,対照群40名程度とした.

3. 調査方法

妊娠34週~妊娠36週の妊婦健康診査で,上述の条件に適合する対象者に研究協力を依頼した.研究に同意を得られた者には,妊娠末期(妊娠36週~妊娠37週)の妊婦健康診査時,産褥1,4日目に骨盤周囲径の計測を行った.また,腰背部痛の自覚の状況や産褥早期の日常生活上の支障の状況に関する質問紙への回答を依頼した.質問紙への回答は,時間のある時に自由意志でできるよう,回答後の質問紙は,外来および病棟のスタッフの誰にでも手渡してよいと説明した.

4. データ収集方法

1) 研究依頼から介入の流れ

研究依頼から介入の流れについて図1に示した.

図1

研究依頼から介入の流れ

2) 属性の収集

年齢,身長,体重(非妊婦時体重,最終妊婦健診時体重,産褥4日目),分娩所要時間,分娩時出血量,出生体重,出産歴,創部の状況(会陰切開の有無,会陰裂傷の有無)の項目については,診療録から情報を得た.

3) 2群に対するプロトコル

(1) 介入群

対象者に研究の同意を得る際に,研究者がさらしの着用方法について説明を行った.分娩終了後の初回歩行前に,研究者または協力者が恥骨結合上縁と大転子2横指上を通過する周囲にさらしを巻いた.分娩終了後もしくは,産褥1日目にさらしを巻く方法についてパンフレットを用いて説明した.さらに,対象者が,さらしを巻く手技と正しい位置に巻くことができているかを確認し,口頭でさらしは強く巻かなくて良いこと,心地が良いと感じる程度の圧で巻くように説明した.さらしは,シャワー浴以外の時間は巻いて過ごしてもらった.また,眠っている時もさらしを巻いてもらい,夜間にさらしを巻いていない者は脱落者とした.分娩終了時から産褥4日目までの期間,研究者または協力者は,対象者の子宮底長観察時に,さらしが正しく装着されているのかの確認を毎日行った.巻いているさらしが緩くなった場合やずれ生じた時は,対象者に巻き直してもらった.加えて,さらしの着用方法について分からないことがあればいつでも質問して良いことを伝えた.

(2) 対照群

産後の腰背部痛への対応として正しい姿勢,産褥体操について説明を行い,従来の対象施設のケアを行った.入院生活中は普段通りの生活を送ってもらった.褥婦がさらしや骨盤ベルトを持参した時や,着用希望がある場合は,産褥4日目の骨盤周囲径測定終了後に着用してもらう旨の了解を得た.途中から自主的に着用した者は脱落者とした.

4) 介入を比較するためのデータ収集

(1) 骨盤周囲径測定

①骨盤周囲径測定の環境 骨盤周囲径測定は立位と臥位で行った.臥位はベッド上にて骨盤高位の姿勢で計測した.

②使用物品 メジャーや枕は全て同じものを用いて計測した.

③測定方法 測定方法は,2群ともに妊娠末期,産褥1,4日目に同じ測定方法で立位と臥位の骨盤周囲径測定を行った.測定開始5~6名までは研究者と協力者が立ち合い測定方法を確認し合った.

(測定姿勢) 妊婦の立位と臥位の姿勢を測定した.本研究での立位の姿勢とは,開眼した状態で前を見て,足を平行にして腰幅程度に開いて立った姿勢とした.また,臥位の姿勢は,高橋ら(2007)の研究を参考に骨盤高位での臥位の姿勢とした.

(測定部位) 本研究では,廣瀬・後藤(2010)の測定部位を参考に,恥骨結合上縁と大転子2横指上を通過する骨盤周囲径を測定した.すなわち,本研究の測定部位はさらしを巻く部位と一致する.なお,産褥1,4日目の骨盤周囲径測定は,午前中に排尿を済ませてあることを確認して実施した.

④骨盤周囲径測定の精度を高めるための配慮 原則として骨盤周囲径測定は研究者が行った.測定部位には皮膚ペンにてマーキングを行い,骨盤周囲径部位にずれが生じることを最小限にした.

(2) 腰背部痛の自覚について

①腰背部痛の有無と部位 腰背部痛の有無と部位については,梶原ら(2011)を参考に質問紙を作成した.腰背部痛の自覚の有無と,腰背部痛の発生部位は質問紙上で図示したものから選択式での回答とした.

②痛みの程度 妊娠末期(妊娠36~妊娠37週頃),産褥1,4日目の腰背部痛の程度を測る尺度として,「0.腰背部痛がない」から「100.非常に(最も)痛い」として,Visual Analogue Scale を用いて測定した.

(3) 日常生活上の支障の状況について

産褥1,4日目の日常生活の支障の状況については,楠見ら(2007)中澤ら(2006)榊原(2006)と日本整形外科学会腰痛疾患治療成績判定基準の日常生活動作の項目を参考に作成した尺度を使用した.データの測定は,「1.大変そう思う」から「5.全くそう思わない」の5段階リッカート尺度を使用した.質問数は12項目で【動静に関して】(8項目),【睡眠に関して】(1項目),【育児に関して】(4項目)であった.また,本尺度のCronbachのα係数は,産褥1,4日目ともに0.93であり,信頼性は確保されていた.

5. 分析方法

対象の背景と群間の比較については,記述統計を算出し独立したサンプルのt検定とχ2検定を行った.2群における腰背部痛の自覚について(痛みの部位,痛みの程度),骨盤周囲径測定値の比較,日常生活上の支障の状況の比較については,独立したサンプルのt検定とχ2検定を行った.群内における各時期の腰背部痛の自覚と骨盤周囲径測定値の比較は,χ2検定,CochranのQ検定,一般線形モデルの反復測定を行い,その後の多重比較としてBonferroni法を用いた.データの分析には,統計解析ソフトSPSS Statistics version 22.0を使用し,すべての有意水準は5%未満で両側検定とした.

6. 倫理的配慮

研究の協力依頼をする際,本研究への協力は自由意志によって行うものであり,協力を拒否した場合や途中で辞退した場合でも診療や看護を受ける上での不利益が生じないこと,研究で得られたデータは,研究の目的以外には使用せず,匿名性の保証,保管と破棄方法,結果成果の公表方法について等を口頭と文書で説明し研究協力の同意を得た.なお,本研究は上智大学研究倫理委員会による承認(承認番号:2014-5)および対象施設の倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:14-A-9).

Ⅲ. 結果

1. 対象の研究参加状況

研究協力依頼をした対象者総数は126名であり,このうち協力が得られたのは122名であった.この対象者を,研究期間前半と後半の時期別で割り付けを行い,介入群56名,対照群66名となった.介入群のうち,分娩時出血量800 ml以上は6名,帝王切開術は1名,さらし着用非続行者は4名であった.対照群では,分娩時出血量が800 ml以上は9名,妊娠高血圧症候群等,分娩後に異常をきたした者は3名,帝王切開術となった者は4名,さらしや骨盤ベルト等使用した者は13名であった.最終的に分析対象者となったのは,介入群45名,対照群37名であった.

2. 対象者の背景

対象者の背景について,介入群,対照群で比較したところ,2群間に有意差は認められなかった(表1).

表1 対象者の背景
介入群n = 45 対照群n = 37 t χ2 P
平均 SD 平均 SD
年齢(歳) 31.2 4.3 30.3 4.6 –.96 .34
身長(cm) 159.6 5.8 159.3 4.2 –.29 .34
体重(kg)
 非妊婦時 52.3 6.5 51.7 6.1 –.46 .64
 最終妊婦健診時 61.7 7.1 60.5 5.6 –.82 .41
 産褥4日目 58.0 6.8 56.8 5.7 –.68 .49
分娩所要時間 546.3分 398.0 515.8分 337.0 –.36 .71
分娩時出血量(g) 382.4 177.6 400.1 123.2 .51 .61
出生体重(g) 2984.4 337.0 3078.1 381.0 1.18 .24
n % n %
出産歴
 初産婦 24 53.3 26 70.2 1.78 .81
 経産婦 21 46.6 11 29.7
会陰切開
 有 19 51.3 19 51.3
会陰裂傷 2.54 .28
 有 24 63.3 14 37.8
 無  2 4.4  4 10.8

年齢,身長,体重,分娩所要時間,分娩時出血量,出生体重:独立したサンプルのt検定

出産歴,創部の状況:χ2検定

3. 骨盤周囲径測定

1) 妊娠末期,産褥1,4日目の骨盤周囲径測定値

妊娠末期,産褥1,4日目の骨盤周囲径の測定を立位と臥位で行った.その結果,2群の各時期の立位と臥位の骨盤周囲径測定値に差はなかった.

2) 妊娠末期から産褥1,4日目の骨盤周囲径測定値の比較

妊娠末期から産褥1,4日目の3定点にて得られた骨盤周囲径測定値を,群別にて比較した.その結果,骨盤周囲径測定値に差はみられず,産褥日数が経つごとに減少した(表2).

表2 2群の骨盤周囲径測定値の比較 介入群:n = 45 対照群:n = 37
①妊娠末期 ②産褥1日目 ③産褥4日目 F P その他の検定結果
介入群 立位(cm) 90.5(5.1) 88.3(4.6) 88.5(5.0) 18.97 0.00 ①–③
臥位(cm) 92.3(4.7) 91.7(4.8) 91.1(4.9)  9.58 0.00 ①–② ①–③
対照群 立位(cm) 90.5(4.1) 88.1(4.1) 88.0(4.0) 29.66 0.00 ①–② ①–③
臥位(cm) 92.1(4.1) 91.1(4.4) 90.9(4.1) 11.60 0.00 ①–② ①–③

一般線形モデルの反復測定,多重比較の調整はBonferroni

注1)その後の検定結果ではp < .05であったものを記載した.

4. 腰背部痛の自覚について

1) 腰背部痛の有無

腰背部痛があると答えた者は,妊娠末期は,介入群28名(62.1%),対照群23名(62.1%)であった.産褥1日目は,介入群26名(57.7%),対照群25名(67.5%)であった.産褥4日目は,介入群25名(55.5%),対照群23名(62.1%)であった.各時期ともに痛みの自覚がある者に有意差はなく,6割程度の者が腰背部に痛みを自覚していた.

2) 痛みの部位

妊娠末期,産褥1,4日目の2群の各時期において,股関節部,恥骨周辺部,鼠径部,腰椎部,仙腸関節部,背部,殿部のうち,どの部位に痛みが生じるのかを比較した.妊娠末期の痛みの自覚は,2群ともにすべての部位に有意差はなかった.

産褥1,4日目の痛みの各部位のうち,対照群の産褥1日目に背部の痛みを自覚する者(P = .04)に有意差がみられた(表3).

表3 妊娠末期,産褥1,4日目の痛みの部位と発生率の比較
痛みの部位 ①妊娠末期 ②産褥1日目 ③産褥4日目 F P その他の検定結果
平均 SD 平均 SD 平均 SD
股関節部 介入群 0.07 0.25 0.04 0.21 0.09 0.29 0.67 0.50
対照群 0.14 0.35 0.03 0.16 0.11 0.32
恥骨周囲部 介入群 0.20 0.41 0.11 0.32 0.04 0.21 0.33 0.66
対照群 0.16 0.37 0.03 0.16 0.03 0.16
鼠径部 介入群 0.16 0.37 0.02 0.15 0.02 0.15 0.37 0.63
対照群 0.22 0.42 0.03 0.16 0.03 0.16
腰椎部 介入群 0.38 0.49 0.38 0.49 0.38 0.49 0.57 0.57
対照群 0.41 0.50 0.30 0.46 0.43 0.50
仙腸関節部 介入群 0.04 0.21 0.16 0.37 0.16 0.37 1.28 0.28
対照群 0.00 0.00 0.22 0.42 0.08 0.28
背部 介入群 0.02 0.15 0.02 0.15 0.07 0.25 3.26 0.04* ②–①
対照群 0.08 0.28 0.30 0.46 0.24 0.44 ①–②
殿部 介入群 0.13 0.34 0.04 0.21 0.07 0.25 0.10 0.86
対照群 0.14 0.35 0.08 0.28 0.08 0.28

一般線形モデルの反復測定,多重比較の調整はBonferroni

注1)各部位の痛みの有無については,0.=なし 1.=あり として点数化した.

注2)その後の検定結果ではp < .05であったものを記載した.

3) 痛みの程度

妊娠末期,産褥1,4日目の痛みの程度については,VASを用いた調査の結果では,妊娠末期,産褥1,4日目の痛みの程度に差はなかった.

5. 日常生活上の支障の状況について

介入群の産褥1,4日目の日常生活上の支障の状況についての比較では,「座ったままの姿勢で過ごすとつらくなる」の項目は有意差がみられ(P = .00),産褥1,4日目も座ったままの姿勢で過ごすのはつらいという結果であった.「靴下や下着,履物の脱ぎ履きがしづらい」(P = .02)の項目は有意差がみられた(表4).

表4 介入群の産褥1日目と産褥4日目の日常生活上の支障の状況比較
項目 産褥1日目 産褥4日目 t P
平均値 SD 平均値 SD
①同じ姿勢で眠っているとつらくなる 3.18 1.32 3.18 1.21 0.00 1.00
②寝返りをうつとつらい 2.84 1.35 2.62 1.28 1.04 .30
③立ったままの姿勢で過ごすとつらくなる 2.98 1.36 2.78 1.18 1.20 .24
④座ったままの姿勢で過ごすとつらくなる 2.93 1.21 3.53 1.10 –4.08 .00*
⑤寝ている姿勢から起き上がるとき簡単に起き上がれない 2.82 1.45 2.69 1.31 0.78 .44
⑥立った姿勢から横になるとき時間がかかりつらい 2.38 1.21 2.22 1.15 0.93 .36
⑦歩いていると腰痛が気になる 2.31 1.24 2.18 1.23 0.85 .40
⑧靴下や下着,履物の脱ぎ履きがしづらい 2.69 1.36 2.27 1.21 2.45 .02*
⑨腰痛が気になりよく眠れない 1.96 0.98 1.84 1.07 0.74 .46
⑩赤ちゃんを抱き上げる姿勢がつらい 1.87 0.81 2.16 1.26 –1.80 .08
⑪赤ちゃんを抱いたまま椅子から立ち上がる時がつらい 2.69 1.31 2.96 1.48 –1.74 .09
⑫赤ちゃんのおむつ交換をする姿勢がつらい 2.31 1.22 2.51 1.34 –1.22 .23

対応のあるサンプルのt検定 *p < .05

注1)各群に示す平均得点は質問に対し,そう思う程度が高くなるほど得点が高くなるよう配点(1~5点)した結果である.

対照群では,介入群と同様に,「座ったままの姿勢で過ごすとつらくなる」の項目は有意差がみられ(P = .05),産褥1,4日目も座ったままの姿勢で過ごすのはつらいという結果であった.「寝ている姿勢から起き上がるとき簡単に起き上がれない」(P = .01),「立った姿勢から横になるとき時間がかかりつらい」(P = .00),「赤ちゃんを抱きあげる姿勢がつらい」(P = .03),「赤ちゃんのおむつ交換をする姿勢がつらい」(P = .01)の項目にも有意差がみられた(表5).

表5 対照群の産褥1日目と産褥4日目の日常生活上の支障の状況比較
項目 産褥1日目 産褥4日目 t P
平均値 SD 平均値 SD
①同じ姿勢で眠っているとつらくなる 3.16 1.14 3.03 1.07 0.82 .42
②寝返りをうつとつらい 3.03 1.30 2.87 1.25 0.92 .36
③立ったままの姿勢で過ごすとつらくなる 2.81 1.29 2.73 1.02 0.35 .73
④座ったままの姿勢で過ごすとつらくなる 3.05 1.41 3.49 1.24 –2.02 .05*
⑤寝ている姿勢から起き上がるとき簡単に起き上がれない 3.30 1.39 2.78 1.29 2.99 .01*
⑥立った姿勢から横になるとき時間がかかりつらい 2.95 1.43 2.46 1.17 3.53 .00*
⑦歩いていると腰痛が気になる 2.30 1.22 2.19 1.08 0.52 .61
⑧靴下や下着,履物の脱ぎ履きがしづらい 2.89 1.35 2.62 1.32 1.62 .12
⑨腰痛が気になりよく眠れない 2.03 0.96 1.78 0.82 1.78 .08
⑩赤ちゃんを抱き上げる姿勢がつらい 2.14 1.23 1.76 0.83 2.22 .03*
⑪赤ちゃんを抱いたまま椅子から立ち上がる時がつらい 2.60 1.46 2.46 1.37 0.66 .52
⑫赤ちゃんのおむつ交換をする姿勢がつらい 2.54 1.41 2.14 1.23 2.85 .01*

対応のあるサンプルのt検定 *p < .05

注1)各群に示す平均得点は質問に対し,そう思う程度が高くなるほど得点が高くなるよう配点(1~5点)した結果である.

Ⅳ. 考察

1. 骨盤周囲径について

本研究では,2群における妊娠末期,産褥1,4日目の骨盤周囲径測定値に有意な差はなかった.2群ともに分娩が終了すると骨盤周囲径は有意に減少した.このことから,妊娠により拡大した骨盤は分娩終了後,非妊時の状況に回復していくと推測される.松谷ら(2009)は,妊婦の骨盤周囲径値について妊娠末期から産後にかけて測定値が有意に減少したと述べており,本研究も同様の結果であった.また,骨盤周囲径にさらしを巻くことにより,骨盤周囲径をさらに減少させるという効果は確認されなかった.

2. 腰背部痛の自覚について

1) 腰背部痛の有無と程度

妊娠末期,産褥1,4日目の腰背部痛の有無については,2群の各時期において6割程度の妊婦や褥婦に痛みが持続していた.また,妊娠末期,産褥1,4日目の痛みの程度は,2群ともに差はなく妊娠末期から産褥4日目にかけての有腰痛率は変わらないことが明らかとなった.中澤ら(2006)の調査では,妊娠末期,産褥7日目,産褥1ヶ月のどの時期においても高い腰痛発症率を示し,分娩後にも減少に転じないと述べられている.このことは,本研究の結果と一致していた.

2) 痛みの部位での比較

(1) 2群の痛みの部位に差がないもの

股関節部の痛みは,2群ともに産褥1日目は減少するが,産褥4日目になると再び増加していた.恥骨周囲部,鼠径部,殿部の痛みは,2群ともに分娩が終了すると減少していた.恥骨周辺部と鼠径部の痛みは,村井ら(2005)の調査において,分娩が終了するとほぼ消失していく傾向であり,本研究と同様の結果であった.楠見ら(2007)の調査では,産褥1日目の殿部と尾骨の痛みが増加していたと報告しているが,本研究では,殿部の痛みは分娩が終了すると減少していく傾向であった.腰椎部の痛みは,2群ともに妊娠末期,産褥1,4日目の各時期において痛みが持続していた.中澤ら(2006)の調査では,産褥7日目の腰痛は55.4%であり,本研究は,中澤ら(2006)の研究と同様の結果であった.このことから,産褥早期は時間が経過しても腰椎部の痛みは改善せずに持続していることが明らかとなった.仙腸関節部の痛みは,2群に差が見られず,妊娠末期より産褥早期に痛みがある者が多い傾向がみられた.松谷ら(2009)の調査によると,妊娠末期に仙腸関節部の痛みは増加し,産後1週間には痛みは減少して改善傾向にあったと報告している.Kapandji(2007/2008)は,解剖学的に第3腰椎は腰椎の中で最も可動性があり,第4,5腰椎は靭帯により仙骨と寛骨に強く連結されているため,仙骨の角度による影響を受けると述べている.福岡(2013)は,子宮拡大に伴う腹部筋力低下によって腹部の安定機構破綻状態にあるとき,第3,4腰椎部へせん断力が加わりやすいことが考えられ,骨盤ベルトを使用する際には,せん断力が加わりやすいことも考慮していく必要があると述べている.浅見(2008)は,腰痛に対する装具を使用する際には,腰椎の6つの自由度を考慮し,腰痛の病態に応じた運動制御を行う必要がある.そのうえで,装具の硬度や長さ,デザインを決定していくことが重要であり,装具の適合や装着状況についての評価も不可欠であると述べている.

このことから,姿勢アライメントの維持のために骨盤周囲にさらしを巻くと,第3から第4腰椎部に関して姿勢アライメントは維持されるが,せん断力が加わるような姿勢アライメントが維持されると増悪する可能性がある.介入群に対して,適度な強さでさらしを巻くことができているのか確認を行っていたが,適切な強さとはどの程度なのか,さらに考慮していかなければならないと考える.

(2) 2群の痛みの部位に差がみられたもの

背部の痛みは,対照群の方が産褥1日目に痛みを自覚している者が有意に多かった(P = .04).福岡(2013)は,分娩後は乳房の膨大により不良姿勢を取りやすくなると述べている.授乳における長時間一定の姿勢を保持すると,背部痛が生じるのではないかと推測される.介入群の背部にほとんど痛みを生じなかったのは,さらしにより姿勢アライメントが整えられたためと考える.

3. 日常生活上の支障の状況について

産褥1,4日目の日常生活上の支障の状況について2群を比較し調査を行った.その結果,2群ともに「座ったままの姿勢でいるとつらくなる」の項目については,産褥1日目よりも4日目の方がつらいという結果が示された.前述したように,授乳により長時間着座していることは不良姿勢を招き,姿勢アライメントが崩れる可能性があり,つらいという結果となったのではないかと考える.

介入群で,産褥1,4日目を比較すると「靴下や下着,履物の脱ぎ履きがしづらい」の1項目について有意差がみられ,楽になるという傾向であった.介入群は,仙腸関節部の痛みが持続したために,移動する姿勢や姿勢を変える動作については,楽になるという感覚が少なかったということが推測される.

対照群で,産褥1,4日目を比較すると「寝ている姿勢から起き上がるとき簡単に起き上がれない」,「立った姿勢から横になるとき時間がかかりつらい」,「赤ちゃんを抱きあげる姿勢がつらい」,「赤ちゃんのおむつを交換する姿勢がつらい」の4項目について有意差がみられ,楽になる傾向であった.

4. 看護への適用

本研究の結果,2群ともに分娩が終了すると妊娠末期より産褥1,4日目の骨盤周囲径は減少した.しかしながら,さらしを巻くことにより腰背部痛の軽減を図ることや,骨盤周囲径をさらに減少させ復古を促進する効果は確認されなかった.一方,さらしを巻くことにより背部に痛みを生じる者が少なかったことから,姿勢アライメントを保持することができると考え,安心感や快適さを得られる者についてはさらしを巻く援助を行ってよいと考える.しかし,さらしを巻く強さについては仙腸関節部の可動制限が生ずる可能性もあるため,十分に考慮していく必要がある.

5. 本研究の限界と今後の課題

本研究の限界として,対象施設は一施設のみであったこと,また,対象者数は目標の検出力0.5として算出した各群32名以上を確保した対象者数で調査を終了する形となった.今回の調査では,対象者の日常生活上の活動量の統一を図るために入院中の産褥早期のみを調査期間とした.今後は,対象施設と対象者数を増やすことや長期的な調査を行うことが課題である.

Ⅴ. 結論

妊娠末期から産褥早期における骨盤周囲径測定値の変化の実態と,2群の腰背部痛の自覚と日常生活上の支障の状況の違いについて調査を行い,以下の結果を得た.

1.骨盤周囲径測定値は,2群間での差はなく2群ともに,妊娠末期の値よりも産後の値の方が小さかった.

2.2群ともに,各時期において6割程度の者が腰背部痛を自覚していたが,痛みの程度には差がなかった.対照群では,産褥1日目に背部痛を生ずる者が多かった.

3.2群ともに,日常生活上の支障については産褥経過とともに軽減していた.

謝辞:本研究にご協力を頂いた褥婦の皆様,施設の皆様に心より感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:EMは研究の着想およびデザイン,データ収集と分析,分析解釈,原稿作成までの研究プロセス全体に貢献;MSは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.著者らは最終原稿を読み,承認した.

文献
 
© 2017 Japan Academy of Nursing Science
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