2020 Volume 40 Pages 620-628
目的:健康課題に共に取り組む市民と保健医療専門職(専門職)とのPeople-Centered Care(PCC)パートナーシップ-16尺度を開発し,信頼性と妥当性を検討した.
方法:PCCパートナーシップ尺度原案37項目を用いて市民と専門職を対象に調査し,内容妥当性の検討後,天井効果とI-T相関分析,主成分分析および確認的因子分析により,8因子構造の信頼性と妥当性を分析し,モデルの適合度の確認を行った.
結果:有効回答は329部であり,尺度は16項目に精錬された.PCCの構成要素8つによる分析の結果,8下位尺度では負荷量が.88以上,寄与率は77.0%以上,Cronbach’s αは.70以上が確認された.PCCパートナーシップ尺度得点は「協同効用因子」得点と正の相関が認められた.また8因子16項目の仮説モデルの適合度を確認的因子分析で検討し,整合性を認めた.
結論:PCCパートナーシップ尺度16項目8因子構造を開発し,信頼性と妥当性が確保できた.
Objective: To develop a scale to measure the level of People-Centered Care (PCC) Partnership between community members and healthcare providers and to examine its reliability and validity.
Method: A draft scale (37 items) was distributed to community members and healthcare providers. The first survey assessed the content validity, and second survey assessed reliability, validity, the confirmatory factor analysis, and model suitability of the scale.
Result: The number of valid responses was 329 (237 community members and 92 healthcare providers). Considering ceiling effect and item-total correlation, the draft scale was organized to comprise 16 items. Our principal component analysis for 8 factor measure components showed 0.88 loading with 77% contribution rate (Cronbach’s α > .70). PCC Partnership scale score was positively correlated with a usefulness of cooperation factor called “a scale to measure belief in cooperation”. The fit factor of the 8-factor, 16-item temporary model was examined in the confirmatory factor analysis, which showed acceptable consistency.
Conclusion: We developed PCC Partnership-16 (8-factor with 16-item) and confirmed its reliability and validity.
国際連合(以下:国連)は,2030年までに達成すべき「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)」を17項目定め,特に健康に関する目標3「すべての人々に健康と福祉を」では,人々の健康の確保と福祉の向上を挙げている.また,全ての人々が良質で必要な健康に関わるサービスを,経済的に過度な負担なしに受けることができる「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(Universal health coverage: UHC)」は,SDGs目標3の要となり,世界保健機関(World Health Organization: WHO)はUHCの達成を世界的な優先事項としている(United Nations, 2015;WHO, 2015).WHOは,UHCを達成するために疾病や医療機関を中心としたヘルスシステムの設計から,人々を中心としたPeople-Centered Health Serviceへの移行が重要であるとし,2007年から保健医療サービスの利用者である人々を中心としたケアをめざしたPeople at the Center of Careを掲げた(WHO, 2007).その後,2016年の世界保健総会では“Framework on integrated, people-centered health service”が採択された(WHO, 2015).現在,WHOでは,“What’s People-Centered Care”をテーマに,市民の行動が主体的に転換され,市民が尊重され,治療が一方的に行われることではない権利についての紹介動画を世界に向けてインターネットで発信している(WHO, 2020).
我が国でも,医療技術の飛躍的な進歩の反面,生命倫理の問題の顕在化,家族形態の縮小化,脆弱な高齢者の孤立や健康格差,感染症の問題など,深刻な健康問題の危機に直面している.特に,近年,わが国は他国に類を見ない速さで超高齢社会に突入し,少子化による人口減少を伴うため,将来の健康医療人材の不足が懸念されている.そのため,保健医療システムの改革など,従来の医療者主導型から,地域の包括的な支援体制の推進,地域や市民主導の健康生成に向けた考え方が不可欠となっている(厚生労働省,2019;内閣府,2019).SDGs目標3の健康に関する分野の達成に看護が大きな役割を果たすことを国際看護協会(ICN)(国際看護協会,2017)が示している.我が国では看護系大学が健康課題の解決に向け,先駆的に2003年より,医療者主導型ケアから市民・患者主導型ケアに向けた,市民が主体的に自身の健康を創り守る社会を目指したPCCモデルの構築に取り組んできた(聖路加看護大学21世紀COEプログラム,2008).有森ら(2009)は,PCCを目標に活動するメンバー90名へのインタビュー分析から,市民が自分自身で健康を創るために不可欠なパートナーとして看護職を位置づけ,パートナーシップに基づく両者の既存の医療における患者と看護職の関係性を超え,両者が同じ土俵に立つことを前提とするケアモデルであるPCCの方法論を示した.大森ら(2009)の質的記述的研究では,PCCの活動が,個人の健康問題の改善や解決に留まらず,活動グループ,コミュニティの各段階における「資源の獲得」「関係の進展」「能力の開発」「QOLの充足感」,さらに活動を継続的に発展させるケアシステムの拡充まで及ぶことを明らかにした.さらに,Kamei et al.(2017)は,PCCをキーワードに国内外の10年間の44文献をレビューし,PCCの活動として市民と専門職のパートナーシップの重要性と,PCCの取り組みが個人変容のみならず,社会変容も期待できるケアであることを示した.加えて,高橋ら(2017)は,PCCの活動団体の責任者に活動の実践例に関する情報収集を行い,PCCの活動成果と進展の鍵に,共に活動するメンバーとなる市民と専門職との8つのパートナーシップにおける構成要素(①互いを理解する,②互いを信頼する,③互いを尊敬する,④互いの持ち味を生かす,⑤互いの役割を担う,⑥共に課題を乗り越える,⑦意思決定を共有する,⑧共に学ぶ)があることを明らかにした.以上のことから,健康課題に対する市民の主体的な行動を意味するPCCには,市民と専門職とのパートナーシップが重要な鍵となることが示唆された.
今後,世界規模で急速に進む高齢社会の問題だけでなく,未知なる感染症の流行,さらに生命倫理の問題などの多岐にわたる健康課題に対峙するには,市民が命を守る行動を自ら選び,市民が主体となって専門職と共に取り組んでいくことが不可欠である.そのため,PCC活動の更なる発展を目指す目的から,PCCの促進の鍵となる市民と専門職とのパートナーシップの度合いを可視化できる尺度の必要性が高いと考えた.しかし,現在,健康課題の改善に向け,PCCに携わる市民と専門職の双方のパートナーシップを評価できる尺度は存在しない.
そこで,本研究の目的は,共に活動する市民と専門職との双方のPCCパートナーシップの度合いを多角的な側面から測定でき実用性と簡便性を備えたPCCパートナーシップ尺度を作成し,その信頼性と妥当性を検討することとした.
本研究で尺度を開発することにより,健康課題の改善に向けて同じ目標を持ちPCCに取り組む市民と専門職のパートナーシップが可視化され,双方のパートナーシップの向上に向けた示唆が得られる.また,PCCの実現に向け,新たに取り組みを始める,または,継続している活動団体の活動評価の指標にもなりうると考える.
1)People-Centered Care:PCCと略し,市民主導の健康生成をめざした市民と専門職との取り組みを示す.
2)PCCパートナーシップ:市民主導の健康生成をめざして共に取り組む市民と専門職との協同の認識を示す.
3)メンバー:保健医療福祉の専門職と市民が協同して運営している市民のための健康支援活動団体の活動メンバーであり,市民と専門職の双方を示す.
4)活動団体:同じ目的を持ち集まった健康支援活動グループを示す.
量的横断的記述研究であり,尺度開発の方法(鎌原ら,1998;柳井ら,2011;奥ら,2010)に基づき,アイテムプールの作成とそれらを用いた無記名の自己記入式質問紙調査を実施した.
2. PCCパートナーシップ尺度原案の作成市民主導の健康生成をめざした市民と専門職との取り組みにおける「People-Centered Careパートナーシップ」尺度原案は,関係基盤を示す要素である【互いを理解する】【互いを信頼する】【互いを尊敬する】の3因子,活動姿勢を示す要素である【互いの持ち味を生かす】【互いに役割を担う】【課題を共に乗り越える】【意思決定を共有する】【共に学ぶ】の5因子,合計8因子を基盤とした(高橋ら,2017).尺度のアイテムには,高橋らの調査(高橋ら,2017)で収集された具体的な経験データ271項目を用いた.9名の研究者により,【互いを理解する】5項目,【互いを信頼する】4項目,【互いを尊敬する】4項目,【互いの持ち味を生かす】4項目,【互いに役割を担う】4項目,【課題を共に乗り越える】5項目,【意思決定を共有する】7項目,【共に学ぶ】4項目の8下位概念から構成される37項目の調査項目を抽出し,PCCの活動団体のメンバーである専門職1名と市民2名からの意見を交えて双方が回答可能な項目に表現を精選した.次に,表面妥当性を検討するために,PCCの活動団体の別のメンバーである専門職3名と市民3名にプレテストを行い,回答のしづらさ,表現のわかりにくさの意見を求め,同じ質問票で双方が回答できる表現の確認を行った.9名の研究者により内容妥当性を討議し,コンセンサスを得た.以上により37項目5段階評価のPCCパートナーシップ尺度原案を作成した.
3. 調査方法 1) 研究対象者選出基準はPCCに関する専門性を持つ研究者9名が,健康課題の改善に向けて保健医療福祉の専門職と市民が協同して活動をしていると認めた31活動団体であった.研究者らが機縁法で選定し対象候補活動団体とした.対象は,関東甲信越地方で活動する健康支援活動団体で,責任者から活動メンバーへの質問票配布の研究協力が得られた活動メンバー(市民と専門職)655人とした.依頼活動団体は,開催期間,開催頻度,活動人数は各々異なる.
2) 調査内容 (1) 対象属性性別,年齢,活動責任者の有無,専門職者の有無,活動年数,活動内容,活動回数,ボランティアとしての活動参加の有無などの項目.
(2) PCCパートナーシップ尺度原案PCCパートナーシップ尺度37項目の原案を用いた.尺度原案は,8下位概念37項目から構成され,「全く思わない:1点」から「そう思う:5点」の5段階リッカートスケールで回答を求めた.得点範囲は37点から185点を設定した.総得点,下位尺度得点ともに単純加算して得点が高いほどPCC活動グループにおける市民と専門職のメンバー間のパートナーシップの認識が高いことを示す.つまり,市民と専門職が共に活動する健康支援事業の活動メンバーが互いに協同し合い取り組んでいる状態を示す尺度である.
(3) 協同作業認識尺度の下位尺度である協同効用因子基準関連妥当性の検討のため,長濱ら(2009)の協同作業認識尺度を用いた.3因子構造18項目であるうちの下位尺度で,9項目5件法である.この下位尺度は,他者と協同して課題を達成する,グループ全体の利益を求めて活動する,といった仲間と共に作業する有効性を測定しており,回答数が9項目と対象者に負担が少ないため,今回の調査に最適であると判断した.妥当性は確認的因子分析で確認されている.この下位尺度のCronbach’s αは.83であり,信頼性は確認されている.得点範囲は9点から45点であり,得点が高いほど仲間と共に作業する認識が高いことを示す(長濱ら,2009).PCCにおけるパートナーシップは,市民と専門職とが共に健康課題に取り組む協同体制である.そのため,本研究で開発した尺度と測ろうとする概念に類似性があり,基準関連妥当性の検証に適切と考えた.
4. データ収集方法研究者が対象候補活動団体となる責任者に研究趣旨を文書と口頭で説明し,研究同意が得られた活動団体の責任者に,協力可能なメンバーの調査票数を予め確認し,調査票を郵送または手渡し,活動メンバーへの調査票の配布を依頼した.回収方法は,研究者宛への個別郵送法,または留め置き法で行った.調査期間は2017年12月~2018年4月であった.
5. 分析方法分析には統計ソフトSPSS 23.0 J for WindowsとAMOS ver. 23を使用し,次の分析を行った.項目分析は,各変数の基本統計量を算出し,天井効果・床効果の分析,I–T相関分析を行った.構成概念妥当性の検討は,主成分分析を用いて,原案作成時に抽出した8下位尺度と比較検討した.基準関連妥当性の検討では,相関分析を用いて,PCCパートナーシップ尺度と協同作業認識尺度の下位尺度である「協同効用因子」の相関係数を算出して検討した.さらに,内的整合性の確認のため,尺度全体と各因子のCronbach’s αを算出した.モデルの適合度は,探索的因子分析で最終的に採択したPCCパートナーシップ尺度の因子を潜在変数として,共分散構造分析を用いた確認的因子分析を行った.豊田(2007)の適合度指標を基に適合度指標(GFI),自由度修正済み適合度指標(AGFI),比較適合度指標(CFI),および平均二乗誤差平方根(RMSEA)の値で確認し,尺度のモデル適合度およびパス係数の有意性を判断した.
6. 倫理的配慮調査において研究趣旨,研究協力は任意であり同意しない場合も不利益は受けないこと,匿名性の保持,データの厳重保管,公表後に適切な処分をすることを明記し,文書と口頭で説明した.調査票は無記名であり,回答者が個別に返信する方法で回収した.調査票の回答と返信をもって研究協力の同意とみなした.本研究は聖路加国際大学研究倫理審査委員会の承認を得た(承認番号17-A047).
研究対象条件を満たし責任者が研究同意した31団体へ配布した調査票655部に対して,回答は340部(回収率51.9%)であり,そのうち有効回答は329部(50.2%)であった.協力対象団体数は,28団体であった.
2. 対象者の特性(表1)対象者329名の内訳は,一般市民237名(72.0%),専門職92名(28.0%),男性20.1%,女性79.9%であった.年齢は50歳代22.2%と最も多く,ボランティアの立場で活動に参加していたものが71.7%であった.平均活動期間7年6ヶ月,保健医療福祉職の平均経験年数は,22年であった.
内容 | 平均(範囲) | ||
---|---|---|---|
活動年数 | 7年6か月(1カ月~43年) | ||
経験年数 | 22年(1カ月~52年) | ||
n | % | ||
立場 | 市民 | 237 | 72.0 |
専門職 | 92 | 28.0 | |
性別 | 男性 | 66 | 20.1 |
女性 | 263 | 79.9 | |
年齢(年代) | 20歳代未満 | 2 | 0.6 |
20歳代 | 41 | 12.5 | |
30歳代 | 29 | 8.8 | |
40歳代 | 50 | 15.2 | |
50歳代 | 73 | 22.2 | |
60歳代 | 50 | 15.2 | |
70歳代 | 63 | 19.1 | |
80歳代 | 21 | 6.4 | |
ボランティア | はい | 236 | 71.7 |
いいえ | 93 | 28.3 |
記述統計量から天井効果・床効果を確認し,原版37項目のうち天井効果のあった5項目を削除した.次に,I–T相関は.16~.69の範囲で.2未満の相関係数を示した2項目を削除した.質問項目間の相関係数が.7以上の1項目を削除した.
4. 主成分分析および信頼性分析による項目の抽出(表2)PCCパートナーシップ尺度は文献検討および専門家の検討により,PCC活動に重要な市民と専門職のパートナーシップとしての8構成要素が抽出された経緯がある(Kamei et al., 2017;高橋ら,2017).8構成要素と37の質問項目の内容妥当性は検討されている.したがって,8構成要素を変更せずに評価尺度の妥当性を確認する方法を選択した.尺度に含める設問の適切性の検証は主成分分析を使用するため(柳井ら,2011),奥ら(2010)の分析手順を参考に,下位尺度ごとに主成分分析を用いて成分付加量および寄与率を算出した.
項目分析で削除した8項目を除外した29項目で,下位尺度ごとに主成分分析を行った結果,成分負荷量は.73~.90の範囲を取り,寄与率は52.5%以上であった.同時に下位尺度ごとにCronbach’s αを算出し,除外した方がCronbach’s αが高い項目を検討した.8下位尺度の保有を前提に,成分負荷量,α係数の変化を確認しながら項目の削除と保持を繰り返し,13項目を削除した.尺度の開発過程では,実用的かつ簡便である尺度の試用を想定し,項目を最小まで削減するため,項目分析と主成分分析および信頼性分析で厳密に検討し,削除項目を採択した.その結果,すべての項目で.88以上の成分負荷量,各下位尺度で.71以上のCronbach’s α,77.5%以上の寄与率が確認された.Kaiser-Meyer-Olkinの標本妥当性の測度は.895で,Bartlettの球面性検定はp < .001で有意に単位行列とは異なり,主成分分析を適用させることの妥当性が保証された.尺度16項目としてのCronbach’s αは.92であった.最終的にPCCパートナーシップ尺度は16項目に集約された.それを表2に示す.
原版第1因子【互いを理解する】2項目Cronbach’s α = .83 | 成分負荷量 | |
---|---|---|
PCC1 | 私はメンバーの活動への考え方を理解している | .926 |
PCC2 | 私はメンバーの活動への気持ちを理解している | .926 |
寄与率 | 85.7% | |
原版第2因子【互いを信頼する】2項目Cronbach’s α = .71 | 成分負荷量 | |
PCC3 | 私はメンバーのことを信じて活動している | .880 |
PCC4 | 私はメンバーを活動のパートナーとして認めている | .880 |
寄与率 | 77.5% | |
原版第3因子【互いを尊敬する】2項目Cronbach’s α = .88 | 成分負荷量 | |
PCC5 | 私はメンバーの意見を尊重している | .944 |
PCC6 | 私はメンバーの気持ちを尊重している | .944 |
寄与率 | 89.1% | |
原版第4因子【互いの持ち味を生かす】2項目Cronbach’s α = .71 | 成分負荷量 | |
PCC7 | 私はメンバーの活動における長所を認めている | .883 |
PCC8 | 私はメンバーの意見を活動に反映させている | .883 |
寄与率 | 78.0% | |
原版第5因子【互いに役割を担う】2項目Cronbach’s α = .78 | 成分負荷量 | |
PCC9 | 私はメンバーと決めた活動内での役割を実行している | .907 |
PCC10 | 私とメンバーは活動内での自分の役割に対する責任をもっている | .907 |
寄与率 | 82.2% | |
原版第6因子【課題を共に乗り越える】2項目Cronbach’s α = .90 | 成分負荷量 | |
PCC11 | 私はメンバーと活動について共に考えている | .952 |
PCC12 | 私はメンバーと活動に共に取り組んでいる | .952 |
寄与率 | 90.6% | |
原版第7因子【意思決定を共有する】2項目Cronbach’s α = .83 | 成分負荷量 | |
PCC13 | 私はメンバーへ活動に必要と思った自己の体験や知識を伝えている | .924 |
PCC14 | 私はメンバーから伝えられた体験や知識をみんなで共有している | .924 |
寄与率 | 85.5% | |
原版第8因子【共に学ぶ】2項目Cronbach’s α = .81 | 成分負荷量 | |
PCC15 | 私とメンバーは共に活動から学んでいる | .919 |
PCC16 | 私はメンバーから活動に役立つ知識・情報を得ている | .919 |
寄与率 | 84.4% |
* 尺度全体のCronbach’s α = .92(16項目)
PCCパートナーシップ尺度16項目の総得点と協同作業認識尺度の下位尺度「協同効用因子」との関連をPearsonの相関係数を算出して検討した.その結果,PCCパートナーシップ尺度総得点と協同作業認識尺度の下位尺度「協同効用因子」得点とはr = .66(p < .001)で正の相関が有意に認められた.
6. モデル適合度の検定(図1)探索的因子分析で得られた仮設モデルの適合度を確認的因子分析で検討した.8因子を潜在変数とした場合の適合度指標は,GFIが.96,AGFIが.926であり,GFI > AGFIの基準を満たしていた.CFIは.985であった.RMSEAは.042であり.05未満の最善の基準を満たしていた.潜在変数–観測変数間には全質問項目において.69以上の妥当なパス係数が得られた.
確認的因子分析(N = 329)
活動メンバーのうち市民と専門職の2群間において,PCCP総合点(t = 2.2, p < .05),下位尺度の信頼(t = 2.1, p < .05),尊敬(t = 3.3, p < .01),共に学ぶ(t = 2.2, p < .05)の有意差が確認された.
尺度の信頼性は内部一貫性で検討した.PCCパートナーシップ尺度16項目全体のCronbach’s αが.92,各下位尺度で.71~.90の範囲であり,.7の基準を超えていた.パートナーシップ尺度の内部一貫性は高く,本尺度は内的整合性があると判断し,信頼性は確保されたといえる.しかし,本研究では信頼性の確認のうち,検討は内部一貫性のみで,再テスト法は実施していないため,尺度の安定性は確認されていない.
尺度の妥当性は表面妥当性,基準関連妥当性,構成概念妥当性から検討した.内容妥当性は既にKamei et al.(2017),高橋ら(2017)が検討し,吟味されていたため,次のステップとして,PCC開発事業に携わるメンバーである専門職3名と市民3名が表面妥当性を検討した.
本尺度の内容妥当性や表面妥当性について,PCCパートナーシップ尺度で測定する対象者の専門家と市民,両方の意見を取り入れたことが,PCCの目指す理念にも合致していると考えられた.
次に,尺度の構成概念妥当性確認のために,主成分分析および共分散構造分析を用いた確認的因子分析を行った.結果として成分負荷量および寄与率は十分な値を示したと考える.確認的因子分析で作成されたモデルは,GFIおよびCFIの値は.9以上の基準値を満たしており,最もモデル適合の指標となるRMSEAも.05以下の基準値を満たしていた.小塩(2014)によると,GFIとCFIは.9以上,RMSEAは.05以下であればそのモデルが真のモデルに適合していると判断できるとされている.さらに,豊田(2007)によると,特にCFIは.95以上であるとよりモデル適合が良いとされる.したがって,本尺度は容認できる適合度であり,モデル適合が良いと判断された.PCCパートナーシップ尺度は下位尺度の【互いを理解する】【互いを信頼する】【互いを尊敬する】【互いの持ち味を生かす】【互いに役割を担う】【課題を共に乗り越える】【意思決定を共有する】【共に学ぶ】で説明できるという仮説が検証できた.尺度の構成および下位概念間の関連は一定の支持が得られたといえる.以上より,主成分分析および確認的因子分析により,構成概念妥当性が検証された.
さらに,基準関連妥当性はPCCパートナーシップ尺度総得点と協同作業認識尺度の下位尺度である「協同効用因子」との有意な相関が認められ,特に「協同効用因子」とは中程度の正の相関が認められていた.この結果より,一定程度の基準関連妥当性が確認され,妥当な結果であると考えられる.
したがって,8因子16項目からなる質問項目は,PCCパートナーシップ尺度として,市民と専門職者のPCC活動におけるPCCパートナーシップを測定するために妥当であると考えられた.PCCパートナーシップ尺度は一定の信頼性と妥当性を備えた尺度であり,確認的因子分析でモデル適合度が一定の基準を満たしている.よって,市民と専門職が協同活動するPCCの活動現場で,簡便性を持ち合わせた実用的な活用が可能と判断できる.
2. PCCパートナーシップ尺度の活用可能性人々が抱える健康課題の改善に向けて,従来型の専門職の一方的なアプローチではなく,また単に専門職が,当事者・市民の求めに応えるケアでもなく,市民が主体的に取り組めるよう専門職が市民のよきパートナーとして共に役割を担い,互いの持ち味を生かして取り組むための支援を考えるということにシフトチェンジする際に,本尺度は,この理念による市民と専門職とのパートナーシップの状況を,8つの下位尺度ごとに可視化することができる.そのことで,PCCを基盤に取り組むさまざまな団体・組織が,定期的な活動メンバー内のパートナーシップを評価・確認でき具体的な課題も明確化することができる.その結果が活動メンバーである市民と専門職とのパートナーシップの再認識の強化,そして活動責任者の役割の明確化につながる.また,本尺度を定期的に用いて自己評価することで,PCC活動としてのパートナーシップのとり方を振り返ることができ,責任者とメンバー,また市民と専門職が対等な関係性を維持しているのかを確認し,改善するなど,PCCの実践の発展に向けて活用可能となる.さらに,本尺度を用いることで,更なるPCC活動に向けた教育や教材開発の評価を数値化することが可能になると考える.
3. 本研究の限界と今後の課題本尺度は,同じ健康課題の改善・解決の目標を持ち,コミュニティをベースにした活動団体で共に取り組むメンバー内の市民と専門職とのパートナーシップの度合いを可視化し,確認する目的で開発した尺度である.医療機関での適用,ケアを提供する専門職とケアを受ける市民・当事者との関係にあるパートナーシップを評価する尺度への応用については,今後さらに検討していく必要がある.また,再テスト法を用いた確認を十分に行うことも必要である.さらに,市民と専門職が捉えるパートナーシップの認識には一部差異がある可能性が示唆されたが,両者が持つ背景や立場が異なることでの結果と解釈した.本研究の対象となったPCCの活動団体は,専門職が先導して市民との協同を理念として立ち上げた団体もあれば,市民が先導して専門職と協同する団体もあり,活動の立ち上げ時期なども多様であった.しかし,どちらが先導したかに関わらず長期的に活動を継続した場合,市民と専門職が捉えるパートナーシップの認識の差異が変化するかなど,PCCの普及および実装とともにPCCパートナーシップ尺度の精緻性を高めると同時に用途に関する研究が必要と考える.今後はPCCパートナーシップ(PCCP)-16尺度を用いて,さらに地域,および活動団体の内容を拡大して,評価を行い,PCCパートナーシップ認識の関連要因を探索することと,および英語版尺度を作成することで,国際的なPCC活動の推進に役立てる必要があると考える.
PCCパートナーシップ尺度の開発を行い,信頼性・妥当性を評価した.主成分分析および確認的因子分析により,8因子構造の構成概念妥当性が検証された.また5段階評価の尺度として基準関連妥当性および内的整合性を確認した.本尺度はPCC活動に携わる市民と医療従事者のパートナーシップの評価に活用でき,PCC活動の取り組みが進展することが期待される.今後はPCCパートナーシップの関連要因を探索すること,また英語版を開発する必要がある.
付記:本論文の内容の一部は,第23回聖路加看護学会学術集会において発表した.
謝辞:本研究のためにご協力いただいた事業責任者,および調査紙回答者の皆様に深謝します.本研究は科学研究助成事業(基盤研究B:課題番号15H05108)の助成を受け実施した.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:すべての著者は,研究デザインの検討,尺度作成・検討,データ収集,データ分析,解釈にかかわっている.その中でも,特に貢献した部分について以下に記す.KTは,本研究を総括し,尺度作成・検討,データ収集・分析,解釈,論文執筆,論文の推敲に貢献した.KAは,特に研究デザイン,尺度作成・検討,データ分析,解釈,論文執筆,論文の推敲に貢献した.NAは,特に,研究デザイン,尺度作成・検討,データ分析,解釈,論文の推敲に貢献した.TKとKAとJOとYSは,特に研究デザイン,尺度作成・検討,データの解釈,論文の推敲に貢献した.MHとJTは特に,尺度作成・検討,データ解釈,論文の推敲に貢献した.すべての著者は原稿を読み承諾した.