2021 Volume 41 Pages 503-512
目的:看護学士課程教育の手術室実習における手術室看護師のための実習指導役割尺度を作成し,信頼性・妥当性を検証する.
方法:質的研究を元に尺度原案を作成し,手術室実習に関わる教員および手術室看護師に72項目5段階リッカート法で質問紙調査を行い,因子分析による構成概念妥当性,内的整合性による信頼性の検証を行った.
結果:有効回答は教員118名,手術室看護師168名であった.探索的因子分析を行った結果,7下位尺度34項目が抽出された.次に教員群,手術室看護師群それぞれで確認的因子分析を行った結果,教員/手術室看護師のモデル適合性は,CFI = .997/.980,RMSEA = .010/.029であった.また下位尺度のCronbachのα係数は,教員α = .768~.884,手術室看護師α = .828~.917であった.
考察:本尺度の信頼性と妥当性は統計学的に許容範囲内であることが確認された.
Objectives: To develop and validate scale for operating room nurses in providing instruction to undergraduate nursing students during practical training in the operating room, and to verify their reliability.
Methods: Draft scale was developed based on the results of a qualitative study that clarified the expected role of operating room nurses who provide guidance to students during practical training. A 72-item, 5-point Likert scale questionnaire-based survey was then distributed to teachers and operating room nurses involved in operating room practical training. Construct validity was verified through item analysis as well as exploratory and confirmatory factor analysis, and reliability was verified through internal consistency.
Results: Valid responses were received from 118 teachers and 168 operating room nurses. As a result of item analysis and exploratory factor analysis for the teacher and operating room nurse groups, 34 items in 7 subcategories of the scale was extracted. The results of the confirmatory factor analysis for the teacher and operating room nurse groups showed that the goodness of fit of the teacher/operating room nurse model was CFI = .997/.980 and RMSEA = .010/.029. The Cronbach’s alpha for the subcategories of the scale ranged from .768 to .884 for teachers and from .828 to .917 for operating room nurses.
Discussion: The reliability and validity of the scale was confirmed to be within a statistically acceptable range.
手術看護は,看護学士課程教育を含む看護基礎教育において成人看護学急性期看護の中で周術期看護として内包している教育機関が多く,成人看護学急性期・周術期看護の一環として受け持ち患者の手術に合わせて,短時間手術室に入る実習形態が多くなっている(坂本,2014).手術室実習では一般的な病棟での実習と比べ,感染管理等の理由により看護学教員(以下,教員)が不在であることが多く,手術室実習において学生を指導している手術室看護師が実習指導者とは限らず,教員との直接的な意見交換の場がない中で,看護業務と併せて実習指導を行っている(深澤,2006a)現状がある.
教員と実習指導者との連携・協働に焦点を当てた研究は,手術室実習に限らず報告されている.齋藤(2013)は,実習指導者に対して教員が期待する役割に対して実習指導者自身の役割の認識が薄く,教員との認識に差異があることを明らかにし,実習指導者の役割に関して共通理解を促すに足る役割の明確化が必要であると述べている.また,看護学士課程教育の実習指導における教員と実習指導者との協働の実態を明らかにした高畑ら(2015)は,両者が相手に抱く期待に対して伝えたくても伝えられない状況があったと考察している.これらの2件の先行研究からは,教員および実習指導者それぞれが相手に期待する役割があるにも関わらず,その期待を相手に十分に伝えられていないことから,自身の役割の認識と期待される役割に差異が生じていることが伺える.そのため看護学実習においては,教員と実習指導者との連携・協働の強化に焦点を当てた研究も多く行われている.しかし手術室実習における教員と実習指導者の連携・協働に関する論文を概観すると,結果や考察において手術室看護師と教員との連携が必要であることは述べられているが,研究目的として調査された論文は見当たらなかった.
手術室実習における手術室看護師の実習指導に充てられる時間は,一般的な病棟での実習指導とは異なり,患者の手術時間や学生の実習終了時間により手術室実習時間が変動する.このような状況で行われる手術室実習では効果的な実習指導役割について,教育側が実習指導を行う手術室看護師へ明確に示すことが必要になると考える.加えてこの実習指導役割が教育側と臨床側双方に共通性がある項目から構成され,評価可能なツールとして開発されることで,教育と臨床との乖離をなくし,学生の看護実践能力の向上につなげることが可能になると考える.
国外における看護学生に対する手術看護教育に関する文献は,手術看護を専門に学ぶ学生を対象とした研究がほとんどであった(水谷・城丸,2014).その理由として,アメリカをはじめとする各国の看護基礎教育カリキュラムでは手術室実習が含まれていない(Wade, 2012)ため,専門領域が決定していない看護基礎教育にある学生を対象とした手術室実習に焦点を当てた研究が行われていない現状が伺えた.日本における実習指導に関する看護師の尺度は,「学習ニードアセスメントツール―実習指導者用」(中山・舟島,2014)や「病棟看護師の実習指導役割自己評価尺度」(伊勢根,2019)が開発されているが,手術室実習は病棟で行う実習とは環境が大きく異なることから,既存の尺度を適応することは難しいと言える.また手術室実習に焦点を当てた尺度は,見当たらなかった.
以上より本研究は,看護学士課程教育の手術室実習において,教育と臨床との乖離をなくし,学生の看護実践能力の向上につなげることを目指した,手術室看護師のための実習指導役割尺度を開発し,信頼性・妥当性の検証を行うことを目的とする.
手術室実習:本研究では,看護学士課程教育における成人看護学急性期・周術期看護の科目において手術室で実施される看護学実習とし,学生が手術室に入室し,退室する時間が4時間以上となる実習とする.理由として,手術室実習は患者の手術時間により実習時間が変動し,その実習時間の長短により,教育側の実習目標や臨床側の指導方針が異なる可能性がある(水谷・城丸,2011)ためである.
実習指導を行う手術室看護師:本研究では,看護系大学の実習施設となっている病院の手術室に手術室看護師として籍を置き,学生の指導に関わるすべての手術室看護師である.なお管理者の任命により実習指導の役割についている実習指導者を含む.
看護学士課程教育の手術室実習において学生を実習指導する手術室看護師に対して教育および臨床が期待する役割について明らかにするため,周術期実習に関する研究実績のある手術室看護師4名と教員7名に半構造化面接を実施し,質的帰納的に分析した(水谷・城丸,2021).分析の結果,3カテゴリ,15サブカテゴリが生成され,【手術室実習環境の準備と調整】【学生への直接的な手術室実習指導】【手術室実習に関わる周囲との連携】を役割として期待していることが明らかになった.この質的帰納的分析から得られた3カテゴリ,15サブカテゴリを網羅し反映するように,コードおよび先行研究(深澤,2006b;金子ら,2008;板東ら,2009;山田・太田,2010;Yamada & Ota, 2012;足立・堀井,2013)の活用,研究者間での検討により,各サブカテゴリ4~6項目から構成される質問項目を作成した.その結果,【手術室実習環境の準備と調整】の4サブカテゴリからは18項目,【学生への直接的な手術室実習指導】の9サブカテゴリからは46項目,【手術室実習に関わる周囲との連携】の2サブカテゴリからは10項目となり,総項目数74項目の手術室実習指導役割項目原案を作成した(表1).この原案に対し,上記協力者11名に内容妥当性指数(content validity index:以下,CVI)による内容的妥当性の検証を行った.検証では原案における各項目について「1=妥当性に欠ける」から「4=妥当である」までの4段階に点数化し,妥当であると思う回答の得点が高くなるように設定した.各項目,および項目全体において,「3=ほぼ妥当である」,「4=妥当である」と評定される比率(以下,CVI得点)が.80以上となる場合,適切な内容的妥当性を示している(Polit & Beck, 2004/2010)とした.その結果,CVI得点が.80未満となった2項目を除く72項目を尺度原案とした.
手術室看護師のための実習指導役割尺度項目原案
対象者は,看護学士課程教育に関わる教員および手術室看護師とした.教員の対象者は,日本看護系大学協議会の2016年度会員校であり完成年度を過ぎた看護系大学(216校)に所属し,成人看護学急性期・周術期実習を担当している常勤の教員であった.手術室看護師の対象者は,看護系大学が手術室実習を実施していると想定される大学附属病院(140施設),公立の看護系大学が所在する市町村の公立病院(40施設),私立看護系大学のうちWeb上のシラバスに掲載されている病院(56施設)に所属する手術室看護師であった.加えて手術室看護師は,以下の①または②のいずれかに該当する看護師を対象とした.①部署において実習指導者として役割を担っている者,②「手術室看護師の臨床実践能力の習熟度段階」(日本手術看護学会,2013)においてレベルIII(熟達者),レベルIV(エキスパート),または同等のレベルで実習指導の経験がある者.なお②の手術室看護師を対象とした理由として,クリニカルラダーのレベルIIIは,カテゴリ「教育/学生」において,「実習目的や目標に沿って学生や研修生の指導ができる」という自己および他者評価を得ており,学生へ実習指導を行う機会も多く,実習指導の現状と課題を認識していると想定されたためである.
3) 対象者の募集方法看護系大学に対しては対象となる看護系大学の成人看護学領域の責任者宛,病院に対しては対象となる施設の看護部長宛に,郵送で研究協力依頼書を送付し,研究の必要性・目的・方法・対象者について説明した.研究協力受諾を得た成人看護学領域の責任者および看護部長宛,または推薦された候補者宛に研究協力依頼書を郵送し,候補者に研究参加の意思がある場合には,調査用紙に回答後,返信用封筒での返送を依頼した.
4) 調査期間・調査内容調査期間は,2019年9月~11月であった.教員および手術室看護師共に下記について質問紙調査を行った.
(1) 手術室実習指導役割尺度原案手術室実習指導項目案における各項目は,4時間以上の実習指導を行う手術室看護師による実習指導役割項目として「1=まったく当てはまらない」から「5=とても当てはまる」までの5段階のリッカート法で回答を求めた.
(2) 研究参加者の基本的属性役職,現職の経験年数,手術室実習における指導の経験年数について回答を求めた.
5) データ分析方法統計的分析には統計解析ソフトIBM SPSS Statistics 26および Amos 26を使用し,以下の分析を行った.
(1) 項目分析項目分析は以下の①~④の基準から削除候補を抽出し,削除の適否について検討を行った.①天井効果(平均値+標準偏差≧5.0),②床効果(平均値-標準偏差≦1.0),③Item-Item相関(I-I相関;r > .700)④Item-Total相関(I-T相関;r < .300).
(2) 探索的因子分析項目分析により抽出された項目を用いて,看護師,教員共に共通性のある尺度項目を検討するため,看護師群,教員群の結果を合わせて探索的因子分析を行った.KMOの標本妥当性の測度とBartlettの球面性検定を行い,因子分析に適合しているか確認した上で,因子分析(主因子法,プロマックス回転)を行い,パターン行列をもとに因子負荷量.400以上を基準として因子の検討を行った.
(3) 確認的因子分析探索的因子分析で得られた因子構造を用い,看護師群,教員群それぞれで確認的因子分析を行い,適合度(GFI,AGFI,CFI,RMSEA)を用いて構成概念妥当性を確認した.
(4) 信頼性の検証信頼性は項目全体と下位尺度ごとに,全データおよび教員群,看護師群それぞれにCronbachのα係数で内的整合性を確認した.
対象者へ研究の目的・方法・必要性,研究参加の自由意思,プライバシーへの配慮,データの管理方法,研究成果の公表に関して書面で説明し,調査用紙の返送をもって同意を得た.また本調査は札幌医科大学倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号30-2-63).
教員に関して,研究協力の得られた看護系大学63校の対象者171名のうち,120名(回収率70.2%)から回答を得られ,有効回答は118名(有効回答率98.3%)であった.対象者の教員としての経験年数は平均10.73 ± 7.24年,手術室実習に関わる教育経験年数は平均9.17 ± 6.80年であり,職位は教授21名(17.8%),准教授25名(21.2%),講師27名(22.9%),助教34名(28.8%)であった.また手術室看護師に関して,研究協力の得られた病院74施設の対象者315名のうち,170名(回収率54.0%)から回答を得られ,有効回答は168名(有効回答率98.8%)であった.対象者の手術室看護師としての経験年数は平均11.19 ± 5.84年,実習指導者としての経験年数は平均3.20 ± 3.67年であり,職位(複数回答可)は管理者51名(30.4%),スタッフ107名(63.7%),手術看護認定看護師18名(10.7%)であった.
2. 尺度原案の信頼性・妥当性の検討 1) 項目分析天井効果は,3.89~5.38の範囲を示し,5.0以上の26項目が削除の対象となった.床効果は1.62~3.96の範囲を示し,削除対象となる項目は認められなかった.またI-I相関は.051~.693の範囲を,I-T相関は.384~.665の範囲を示し,削除対象となる項目は認められなかった.
2) 探索的因子分析項目分析により抽出された46項目を用いて探索的因子分析を行った.KMOの標本妥当性の測度では.917を示し,Bartlettの球面性検定ではp < .001と有意な差を認め,因子分析適応の妥当性が保証された.主因子法・プロマックス回転による因子分析を行い,固有値1以上の因子を抽出したところ,因子負荷量が.400未満であった12項目が削除となり,7因子34項目が抽出された(表2).因子間相関は.194~.598であった.
Cronbachのα係数 | 探索的因子分析結果 | 天井効果 | 床効果 | I-I相関 | I-T相関 | |||||||||
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全体(教員/看護師) | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | |||||||
I 周術期看護の継続性の理解促進に向けた支援 | .901(.884/.917) | |||||||||||||
44 | 術前の患者情報を踏まえて起こりうる合併症(看護問題)とそれを予防するための術中の看護が関連づけられるように助言する | .858 | .030 | –.014 | .093 | –.048 | .055 | –.073 | 4.95 | 3.35 | .205~.693 | .653 | ||
45 | 術中の患者の状態や手術侵襲から術後予測される合併症(看護問題)を関連づけられるように助言する | .841 | –.075 | .052 | –.091 | .022 | –.043 | .180 | 4.98 | 3.34 | .074~.691 | .605 | ||
43 | 学生が病棟で実践する術後看護に生かせるような助言をする | .732 | .076 | –.141 | .127 | –.035 | .001 | .154 | 4.99 | 3.13 | .188~.693 | .624 | ||
46 | 患者の手術侵襲および麻酔の影響の程度を理解できるように助言する | .682 | .076 | .067 | –.090 | .041 | .037 | .020 | 4.99 | 3.45 | .095~.659 | .612 | ||
47 | 手術室看護師と病棟看護師の引き継ぎを通して継続看護を意識づける | .528 | .016 | .065 | –.010 | .250 | –.037 | .087 | 4.99 | 3.39 | .186~.638 | .651 | ||
II 看護への学習意欲の向上に向けた支援 | .861(.868/.857) | |||||||||||||
61 | 学生が周術期分野の看護師を目指し,将来の看護に活かせるように導く | .114 | .701 | –.060 | .034 | –.099 | –.037 | .050 | 4.57 | 2.53 | .080~.598 | .527 | ||
60 | 学生に看護援助時の実施内容を看護観を含めながら伝える | –.004 | .613 | –.047 | .052 | .038 | –.031 | .272 | 4.80 | 2.88 | .149~.616 | .626 | ||
62 | 学生が看護援助の効果や看護の素晴らしさを実感できるように導く | –.003 | .612 | .057 | –.013 | .073 | –.012 | .160 | 4.94 | 3.00 | .117~.616 | .640 | ||
56 | 学生の思考を刺激するような発問をし考えを導く | .037 | .605 | –.038 | .111 | .036 | .100 | –.028 | 4.80 | 2.86 | .201~.577 | .628 | ||
55 | 学生の学習意欲に関わらず学生の学びの機会をできるだけ確保する | .051 | .603 | .004 | .041 | .106 | .030 | –.330 | 4.80 | 2.90 | .103~.410 | .462 | ||
58 | 学生が主体的に実習できるように学生の考えを尊重した関わりをする | –.137 | .588 | .094 | –.066 | .100 | .181 | –.050 | 4.82 | 2.96 | .120~.577 | .558 | ||
59 | 看護援助時にはその背景にある根拠を場面毎に説明する | .118 | .500 | .094 | –.085 | .158 | –.084 | .108 | 4.86 | 3.03 | .091~.583 | .606 | ||
III 実習目標と事前課題に応じた指導内容の調整 | .856(.835/.860) | |||||||||||||
22 | 実習時間内に学生の実習目標の達成状況を確認し,指導内容を調整する | .050 | .045 | .886 | –.050 | –.012 | –.076 | –.084 | 4.81 | 2.90 | .050~.674 | .531 | ||
21 | 学生の実習目標に合わせて見学および援助の優先度を判断する | –.016 | –.022 | .819 | –.028 | .026 | .023 | –.058 | 4.83 | 3.03 | .065~.674 | .518 | ||
20 | 学生の能力や事前学習に応じた指導を行う | –.140 | .067 | .745 | .055 | –.140 | –.003 | .218 | 4.64 | 2.62 | .051~.599 | .492 | ||
19 | 実習前に学生が立案した実習目標と事前課題を確認し,行動計画を調整する | –.005 | –.228 | .605 | .087 | .184 | –.005 | .157 | 4.99 | 3.08 | .118~.545 | .511 | ||
23 | 患者の術式・麻酔方法の事前学習状況について確認し,内容を補足する | .199 | .188 | .575 | .012 | –.166 | .008 | –.087 | 4.95 | 3.09 | .083~.633 | .522 | ||
IV 大学および学生に即した実習指導への準備 | .825(.824/.827) | |||||||||||||
6 | 学生の所属する大学における学生全般の特徴を把握しておく | –.092 | .116 | –.026 | .850 | –.163 | –.001 | –.015 | 4.22 | 2.09 | .074~.534 | .384 | ||
5 | 看護学生全般の今日的な特徴を把握しておく | .061 | .058 | –.060 | .700 | –.077 | –.089 | .186 | 4.74 | 2.70 | .053~.543 | .453 | ||
7 | 大学側から提供された学生の申し送りを把握しておく | .030 | –.016 | –.153 | .646 | .150 | .040 | –.096 | 4.66 | 2.40 | .050~.532 | .390 | ||
8 | 学生が履修した科目を確認しておく | –.072 | .176 | .125 | .584 | –.003 | –.102 | –.028 | 3.89 | 1.62 | .098~.490 | .442 | ||
4 | 指導方針について実習指導者と打ち合わせをする | .118 | –.347 | .020 | .570 | .209 | .152 | .031 | 4.81 | 2.71 | .080~.486 | .462 | ||
2 | 学生が実施および見学する技術項目を実習指導案で確認しておく | .048 | –.026 | .280 | .533 | .020 | –.039 | –.156 | 4.88 | 2.72 | .080~.486 | .439 | ||
V 手術チーム・実習指導者・教員との連携 | .871(.861/.872) | |||||||||||||
68 | 実習指導を交代する際は,学生の学習状況や指導状況を伝達する | .134 | –.074 | .047 | –.037 | .826 | –.104 | –.001 | 4.99 | 3.17 | .183~.636 | .611 | ||
67 | 手術チームの他職種に学生が実習していることを伝える | .067 | .071 | –.112 | –.072 | .816 | –.094 | –.083 | 4.92 | 2.86 | .051~.636 | .495 | ||
66 | 学生の学習状況や指導状況を実習指導者と共有する | –.007 | .083 | –.039 | .049 | .679 | .071 | .053 | 4.83 | 2.81 | .217~.669 | .665 | ||
70 | 学生の学習状況を実習指導者を通して教員と共有する | –.052 | .118 | .000 | .128 | .676 | .049 | –.099 | 4.84 | 2.64 | .224~.669 | .637 | ||
65 | 学生の実習目的・目標について手術室スタッフ・手術チーム内での認識を促す | –.183 | .189 | .036 | .010 | .589 | .107 | .106 | 4.79 | 2.73 | .220~.669 | .631 | ||
VI 学生が行う手術看護の実践に向けた支援 | .807(.768/.828) | |||||||||||||
36 | 学生が行う看護援助の意義を学生が考えられるように支援する | –.081 | –.098 | .127 | .008 | .046 | .763 | .124 | 4.86 | 2.98 | .182~.557 | .592 | ||
37 | 学生と一緒に患者に直接触れ,身体観察をする | .126 | .046 | –.070 | –.093 | –.014 | .732 | –.095 | 4.99 | 3.00 | .053~.521 | .471 | ||
34 | 学生が患者の不安を緩和する援助を実施できるように支援する | –.047 | .078 | –.134 | .023 | –.091 | .728 | .076 | 4.90 | 3.04 | .080~.551 | .427 | ||
38 | 学生が持つ患者情報を活かし,術中および術後看護へつなげる | .095 | .105 | .150 | .002 | –.065 | .557 | –.008 | 4.95 | 3.05 | .156~.557 | .598 | ||
VII 手術患者の心理的・社会的影響の理解促進に向けた支援 | .834(.807/.855) | |||||||||||||
51 | 学生が患者・家族の心理状況を理解できるように支援する | .224 | .144 | .040 | –.015 | .012 | .045 | .548 | 4.83 | 2.91 | .116~.656 | .624 | ||
50 | 学生が患者の人生における手術の意義と手術看護の重要性を関連づけられるように助言する | .308 | .142 | .007 | –.046 | –.076 | .064 | .508 | 4.88 | 2.89 | .088~.656 | .565 | ||
因子間相関 | 第1因子 | ― | ||||||||||||
第2因子 | .578 | ― | ||||||||||||
第3因子 | .475 | .506 | ― | |||||||||||
第4因子 | .339 | .306 | .383 | ― | ||||||||||
第5因子 | .528 | .539 | .387 | .542 | ― | |||||||||
第6因子 | .420 | .568 | .486 | .343 | .598 | ― | ||||||||
第7因子 | .375 | .455 | .368 | .194 | .388 | .399 | ― |
因子抽出法:主因子法 回転法:Kaiserの正規化を伴うプロマックス法
7因子に関しては,尺度原案作成時の質的帰納的分析結果を参考にし,命名した.第1因子は,「術前の患者情報を踏まえて起こりうる合併症(看護問題)とそれを予防するための術中の看護が関連づけられるように助言する」など5項目から構成され,手術室実習を通して術中看護だけではなく術前・術後看護との継続性について理解を促す項目であり,【周術期看護の継続性の理解促進に向けた支援】と命名した.第2因子は,「学生が周術期分野の看護師を目指し,将来の看護に活かせるように導く」など7項目から構成され,学生が手術室実習を通して看護に対する学習意欲を高める支援に関した項目であり,【看護への学習意欲の向上に向けた支援】と命名した.第3因子は,「実習時間内に学生の実習目標の達成状況を確認し,指導内容を調整する」など5項目から構成され,大学の実習目標と学生の事前課題から手術室実習において優先すべき実習内容や指導内容を調整する項目であり,【実習目標と事前課題に応じた指導内容の調整】と命名した.第4因子は,「学生の所属する大学における学生全般の特徴を把握しておく」など6項目から構成され,手術室実習をする学生の特徴と実習指導方針を事前に確認し準備する項目であり,【大学および学生に即した実習指導への準備】と命名した.第5因子は,「実習指導を交代する際は,学生の学習状況や指導状況を伝達する」など5項目から構成され,実習指導者や教員に加え,学生が見学する手術に関わる手術チームとの連携に関した項目であり,【手術チーム・実習指導者・教員との連携】と命名した.第6因子は,「学生が行う看護援助の意義を学生が考えられるように支援する」など4項目から構成され,学生が手術室実習において実践する手術看護技術に対する支援の項目であり,【学生が行う手術看護の実践に向けた支援】と命名した.第7因子は,「学生が患者・家族の心理状況を理解できるように支援する」など2項目から構成され,手術療法が患者や家族に与える心理的・社会的影響の理解を促す項目であり,【手術患者の心理的・社会的影響の理解促進に向けた支援】と命名した.
3) 確認的因子分析教員群(n = 118),手術室看護師群(n = 168)におけるKMO標本妥当性の測度では教員.853,手術室看護師.889を示し,Bartlettの球面性検定では教員・手術室看護師共にp < .001と有意な差を認め,因子分析適応の妥当性が保証された.探索的因子分析で得られた7因子34項目の因子構造について,教員群,手術室看護師群それぞれで確認的因子分析を行い,モデルの適合性から構成概念妥当性を検証した.確認的因子分析の結果,教員のモデル適合性は,GFI = .833,AGFI = .775,CFI = .997,RMSEA = .010であった.手術室看護師のモデル適合性は,GFI = .869,AGFI = .822,CFI = .980,RMSEA = .029であった.
4) 信頼性の検証下位尺度のCronbachのα係数は,第1因子より順に,α = .901,α = .861,α = .856,α = .825,α = .871,α = .807,α = .834であった.また教員のみのデータではα = .884,α = .868,α = .835,α = .824,α = .861,α = .768,α = .807であり,手術室看護師のみのデータでは,α = .917,α = .857,α = .860,α = .827,α = .872,α = .828,α = .855であった.
内容的妥当性に関しては,項目検討時に周術期実習に関する研究実績のある手術室看護師4名と看護学教員7名によってCVIによる検定を行い,尺度項目が.80以上であったため確保できたといえる.
項目分析において26項目が天井効果となった.小塩(2014)は,「あまりに極端な回答が得られた質問項目は,分析から除外した方がよいだろう」とする一方で,「すぐに分析から除外するのも望ましくない」としている.その背景には,尺度となる質問項目で測定しようとしている特徴を分ける弁別力があるかを検討した上で,項目の除外を判断することを求めている.本調査における天井効果のある26項目を概観すると,実習指導を行う手術室看護師としての前提条件となる項目であると考えた.そのため,これら26項目を尺度に含めると,本尺度によって手術室看護師の実習指導役割を測定することが困難になると判断し,削除することとした.しかし,これら26項目は,教員および手術室看護師が実習指導を行う手術室看護師の実習指導役割として,当然行われるべきであるとした項目であるため,尺度には含めないが,実習指導役割の前提条件として活用が可能であると考える.またI-I相関は.051~.693であり,r > .700を示していることから,項目間の類似性はないと判断した.さらにI-T相関は.361~.710であり,r < .300以上を示していることから,関連性の低い項目はなく,尺度項目として同じ方向性をもつ項目であることが確認された.
構成概念妥当性に関しては,探索的因子分析により共通性のある尺度構造を確認し,確認的因子分析により教員および手術室看護師それぞれのモデル適合度を確認した結果,34項目からなる7因子構造であることが検証された.因子分析を行う際のサンプルサイズに関して,清水(2018)は最低数が100で,できるだけ多くと結論づけている.本調査では教員の対象者がn = 118と因子分析を行う最低数に近いが,KMO標本妥当性の測度およびBartlettの球面性検定において因子分析適応の妥当性が保証されており,因子分析に必要な最低数は満たしていると考える.
確認的因子分析における適合度では教員,手術室看護師共にGFI,AGFIが望ましいとされる.900以上の値を確保することができなかった.豊田(2015)は,30以上の観測変数が多いモデルはそれだけでフィットが悪くなる傾向があるとしており,観測変数の数を多くする必然性がある場合には,GFIの値が0.9を下回っていても,そのことだけでモデルを捨て去る必要はないと述べている.本尺度はGFIが.833~.869,AGFが.775~.822であるが,豊田を参考にした場合34項目から構成されていることと,教員および手術室看護師モデル共にCFIが.950以上,RMSEAが.050以下(豊田,2015)を示していることから,一定の構成概念妥当性が確保されたと考える.
内的整合性に関して,下位尺度のCronbachのα係数は全体α = .807~.901,教員α = .768~.884,手術室看護師データα = .828~.917であった.教員における第5因子が.768とやや低めであるが,他の下位尺度は望ましいとされている.800を上回っており,一定の信頼性を保持していることが示された.
以上から本尺度の信頼性および内容的妥当性,構成概念妥当性は統計学的に許容範囲内であることが確認された.
2. 尺度の因子構造本研究では,手術室実習指導役割の尺度構造として7因子が抽出された.
本尺度で示した4因子は,伊勢根(2019)が明らかにした病棟看護師における実習指導役割の8種類のうち4種類に類似していると考える.本尺度の第3因子【実習目標と事前課題に応じた指導内容の調整】は,病棟看護師の実習指導役割である〈学生の学習活動を評価し,その結果に基づき指導する〉に類似し,第4因子【大学および学生に即した実習指導への準備】は〈教育機関の方針を確認しながら指導する〉,第5因子【手術チーム・実習指導者・教員との連携】は〈実習を滞りなく進めるため教員や看護師と連携する〉,第6因子【学生が行う手術看護の実践に向けた支援】は〈患者と学生の双方の安全を確保する〉にそれぞれ類似することが示唆された.これよりこの4因子は,教育側と臨床側が連携し,教育側から提示される方針や実習目標,事前課題を踏まえた上で,患者と学生の安全を確保した上で学生の看護実践を支援するという実習指導役割であり,手術室・病棟を問わず実習指導者としての基本となる役割が抽出されたと考える.
一方,上記で示した4因子以外の3因子に関しては病棟看護師の実習指導役割と相違が生じた因子となる.日本手術医学会(2013)は,手術医療の実践ガイドライン改訂版において,医学生,看護学生やその他の医療職養成の実習では,施設の特徴,実情に応じて,手術部の専門的業務に関する知識と技能,そしてその意義が教育されなければならないとしており,長期的観点から臨地実習プログラムの整備を求めている.その教育すべき8項目の中には,「手術患者の疾患に関する病態,術式,周術期管理の知識」があり,これは本研究結果で示した第1因子【周術期看護の継続性の理解促進に向けた支援】と関連することが示唆される.また手術室では看護の対象となる患者が麻酔下にあるため,手術室看護師が患者の代弁者としての役割(佐藤ら,2000)を担っている.手術室看護師により第7因子にある【手術患者の心理的・社会的影響の理解促進に向けた支援】を受けることにより,学生は患者の生命に直結するライフイベントとなる手術の意義について理解を深めることが可能になると考える.一方,第2因子【看護への学習意欲の向上に向けた支援】は,伊勢根(2019)による病棟看護師の実習指導役割には抽出されなかった因子であった.これは一般的に病棟では学生を指導する看護師が意識しないでも日常的に実践されていると推察するが,手術室実習では病棟に比べ実習時間や指導時間が短時間であるゆえに看護そのものへの学習意欲の向上を意図的に支援することを求めていると考える.このように手術室実習特有の3因子は,学生が手術看護を学ぶことに加え,その看護を術前・術後にもつなげていく支援を,教育側も臨床側も実習指導役割として期待し,抽出されたと示唆される.
以上より,手術室実習における手術室看護師の実習指導役割として,病棟看護師と共通する4因子と手術室実習特有の3因子が適切に抽出できたと考える.
3. 尺度の意義と活用可能性教育側と臨床側双方に共通性がある項目から構成され,検討された本尺度を活用することにより,教育と臨床との乖離をなくし,学生の看護実践能力の向上につなげることが可能になると考える.また手術室看護師が患者の安全を守りつつも学生が実習で多くの学びを得ることのできる最も効果的な実習指導役割を実践することが可能となり,かつ実習指導役割の評価に活用できると考える.さらに手術室実習前に教員と手術室看護師が実習目標だけではなく,具体的な実習指導項目を共有することにより,各看護系大学や実習病院の特色を踏まえた手術室実習内容を検討することができ,効果的な協働・連携を可能にすると考える.一方で,天井効果が認めた26項目に関しては,実習指導を行う手術室看護師の前提条件であることが示唆され,初めて実習指導を行う手術室看護師に対してチェックリストの項目として活用できると考える.
4. 研究の限界と今後の課題天井効果が認めた26項目に関しては,実習指導を行う手術室看護師の前提条件項目としての示唆を得ることができた.今後はデルファイ法等を用いた,さらなる研究が必要であると考える.そのため本尺度が手術室看護師にとって必要なすべての実習指導役割を明記した尺度としては限界がある.また本尺度は4時間以上の手術室実習に限定した尺度のため,4時間未満の手術室実習における尺度についても今後検討が必要となる.一方,手術室は一般的な病棟とは大きく環境が異なることから既存の尺度を用いた基準関連妥当性を検証することはできなかった.また本尺度はGFIおよびAGFIの適合度がやや低い状況であった.今後は尺度の精緻化に向けて,再テスト法による信頼性の検証および予測的妥当性を用いた基準関連妥当性の検証をしていくことが課題となる.
看護学士課程教育の手術室実習における手術室看護師のための実習指導役割尺度を作成し,信頼性・妥当性の検証を行った.その結果,本尺度は7下位尺度34項目で構成され,信頼性および内容的妥当性,構成概念妥当性が統計学的に許容範囲内であることが確認された.
付記:本研究は札幌医科大学大学院に提出した博士論文に加筆・修正を加えたものである.
謝辞:本研究にご協力いただきました看護学教員および手術室看護師の皆様に厚く御礼申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:SMは研究の着想から原稿作成のプロセス全体;MSは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言;TAは研究のデザイン,分析解釈への助言に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.