Journal of Japan Academy of Nursing Science
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Emotional Labour and Self-efficacy of Female Care and Nursing Staff Working at Long-term Care Health Facilities in Nagano Prefecture and Associations with Intention to Continue Working
Hiroko PeterseAkemi OgataNobuko Aida
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2022 Volume 42 Pages 140-149

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Abstract

目的:継続的な就業を維持・促進するための人的マネジメントのあり方への示唆を得るために,長野県内の介護老人保健施設で働く女性の介護・看護職員の感情労働と自己効力感および職務継続意向の関係を明らかにした.

方法:郵送自記式質問紙法で実施した.分析対象は554名(介護職333名,看護職221名)で,共分散構造分析を行った.

結果:介護職では,『感情労働尺度日本語版』の「強度」と「感情への敏感さ」が職務継続意向と関係していた(GFI = .883, AGFI = .414).しかし看護職では,感情労働,自己効力感ともに職務継続意向との関係性は確認できず,両職種間で相違がみられた.

結論:結果をもとに人的マネジメントのあり方を検討した結果,介護職に対しては,若い職員が周囲に相談しやすい人的環境と教育システムを整備すること,看護職に対しては,ケア・就労環境や介護・看護職との協働体制の整備・強化の必要性が示唆された.

Translated Abstract

Purpose: The purpose of the study was to clarify the associations between emotional labour and self-efficacy in female care and nursing staff working at long-term care health facilities in Nagano prefecture and intention to continue working in order to determine the ideal approach to personnel management for sustaining and encouraging continuous employment.

Methods: Anonymous, self-administered questionnaires were sent by mail. Returned questionnaires from 554 female staff (333 care workers, 221 nurses) were processed by a covariance structure analysis for the causal model study.

Results: Among care staff, the subscales of intensity and sensitivity in the Emotional Labour Scales Japanese version (ELS-J) were associated with intention to continue working (GFI = 0.883, AGFI = 0.414). However, no associations were observed between intention to continue working and either emotional labor or self-efficacy in nursing staff, revealing a difference between the two types of professionals.

Conclusion: Consideration of the ideal approach to personnel management based on the results of this study suggests that care staff need development of a constructive work environment that allows young staff to easily seek advice and a training system, and that nursing staff need development and improvement of the caring work environment and a system for cooperation between nursing and care staff.

Ⅰ. 緒言

我が国の高齢化率が上昇の一途をたどる中(内閣府,2021),高齢者の約2割が要介護状態と推計され(厚生労働省,2021a),中間施設としての役割を担う介護老人保健施設(以下,老健)は,前年度比2施設増加と年々増加傾向にある(厚生労働省,2019a).介護保険施設全体に占める老健の割合は約32%(4,337施設)で,地域包括ケアシステム推進のために(厚生労働省,2021b),自立支援・重度化防止に資する老健への役割は高まっているといえる.

老健で働く介護・看護職員は,施設利用者数約37万5千人の概況から(厚生労働省,2021c),約12.7万人と見積もることができる.しかし介護施設で働く介護職員の離職率は15.3%(介護労働安定センター,2020a)と,一般労働者の11.4%(厚生労働省,2019b)よりも高く,全国の介護老人福祉施設(以下,特養)の介護・看護職員を対象とした緒形ら(2013, 2015)の調査を参考にすると,老健の「いわゆる離職予備群」も約2割はいると推測できる.

老健は,病院と在宅を結ぶ「中間施設」として,「終の棲家」である特養とは異なり,限られた期間内で在宅復帰や自立支援等を図ることが求められる.老健の介護・看護職を対象とした調査では,両職種ともに認知症高齢者と向き合う態度得点とバーンアウト得点とに負の相関関係が(小木曽・平澤,2015),職務満足度とケア充実感とでは正の相関関係がみられたことから(Ogiso et al., 2010),認知症高齢者と適切に向き合えない心理的ストレスが,職務満足度やケア充実感の低下をまねき,離職行動につながる危険性を示唆している.また利用者・家族から職員への暴言・暴力や,職員間の関係性の問題も報告されており(吉田,2014),対利用者・対家族・対職員との人間関係において種々の感情状態を伴うストレスフルな状況が反映されているといえる.

このような労働実態から,介護施設での労働を「感情労働(emotional labor)」と位置づけ,我が国でもサービスの質やバーンアウトなどとの関係が明らかにされてきた(二木,2010関谷・湯川,2014武井,2001田中,2005吉田,2014).感情労働は,従来の「肉体労働」や「頭脳労働」の職業分類には当てはまらない職業としてHochschild(1983/2000)が提唱した概念で,前述の介護の職場で派生する種々の課題から,本研究の主要概念の1つとした.

さらに,介護施設の介護・看護職の継続的就業を維持・促進するための方策を検討したいとの問題意識から,「感情」とは異なる特性を有する働き手の仕事に対する「認識」との関係にも着目した.これは老健の介護職の「(施設介護の仕事は)全然勉強していない,資格もない人ができるわけで,『専門性』があるなんていえない」などの語りから(吉岡,2011),現在の仕事に対する「認識」が如何に重要であるかを示唆していると考えたためである.

そして仕事に対する認識のなかでも,本研究では「自己効力感」に焦点を当てた.自己効力感(self-efficacy)はBanduraが提唱した用語で,「ある結果を生み出すために必要な行動をどの程度うまく行うことができるかという個人の確信」(坂野・東條,1986坂野,1989)と定義されている.先行調査では「過去のパフォーマンス」や「結果予期」よりも,これからとる行動が予測因子として検証されており(Bandura, 1977Bandura & Adams, 1977),我々が帰結として注目している「職務の継続・離職」との関係性において示唆が得られると考えた.

自己効力感の影響要因として,ストレス,職場環境,役割行動,自律性,ワーク・エンゲイジメント,問題対処行動などが明らかにされているが(古市ら,2018児玉ら,2017境・冨樫,2017須藤・石井,2017矢田ら,2017),感情労働との関係は報告されていない.そこで,継続的な就業を維持・促進するための人的マネジメントのあり方への示唆を得ることを目的に,老健で働く介護・看護職員の感情労働と自己効力感および職務継続意向の関係を明らかにした.

介護・看護職員の比較をするのは,介護施設スタッフのバーンアウトの影響要因として,看護職は施設の勤務年数と,介護職はその人らしいケアの実践の有無と関係がみられたこと(小木曽・平澤,2015)から,本研究でも,両職種での類似・相違点を確認する必要があると考えたためである.なお介護職員の約7割,看護職員の約9割が女性であることから(介護労働安定センター,2020b日本看護協会出版会,2020a, 2020b),今回は女性を対象とした.また介護サービス事業者の指導監督は,都道府県単位の行政で行われることから,研究組織の大学が所在する長野県を便宜的に対象地域として,長野県で働く介護・看護職員とした.

Ⅱ. 用語の操作的定義

自己効力感:先行論文(成田ら,1995a坂野・東條,1986坂野,1989)を参考として,「老健で働く介護職員と看護職員が,ある状況において必要な行動を効果的に遂行できる可能性の認知で,ある結果を生み出すために必要な行動をどの程度うまく行うことができるかという個人の確信」と定義した.

感情労働:関谷・湯川(2014)荻野ら(2004)の尺度開発論文で説明されている定義を参考として,「老健における日々の仕事において,介護職員と看護職員が組織的に望ましい感情になるように自らを調節する心理過程」と定義した.

職務継続意向:緒形ら(2013, 2015)の調査項目を参考として,「現在従事している老健で仕事を継続すること(職場継続意思)と,現在の自分の職種である介護職もしくは看護職を継続すること(職業継続意思)に対する個人の考えや思惑,心の向かう所」と定義した.

Ⅲ. 方法

1. 対象

調査対象は,2018年6月時点で長野県に所在するすべての老健98施設で常勤職員として従事している女性の介護職員860名と看護職員(看護師・准看護師)740名の計1,600名であった.分析対象は,回収数584名(回収率36.5%)のうち,有効回答(有効回答率94.9%)が得られた計554名(うち介護職員333名)とした.

2. 調査方法

データ収集は,2018年10月から2019年2月に郵送法による無記名自記式質問紙法で行った.各施設への依頼人数は,公開されている男女含めた長野県内の常勤の介護職員3,123名と看護職員787名をもとに(福祉医療機構,2018),比例割当によって換算した.なお看護職員については,女性割合を9割と推定して,女性看護職員全員に配付するよう依頼した.

3. 調査内容

1) 個人・組織特性

個人特性は,職種,年齢,現職場での勤務年数,現職種での経験年数,雇用形態,職位,過去の職業経験,資格,学歴,同居家族の10項目で,組織特性は,設置主体,定床数,開設年,居室形態,夜勤回数,職場の教育体制,在宅復帰・在宅療養支援機能加算の種類の7項目であった.

2) 職務継続意向

職務継続意向は,操作的定義に準じて,現在の職場で仕事を継続することに対する個人の考えを4件法で質問した(1 現在の職場で,今の職種のまま仕事を続けたい(以下,職場・職業継続意思);2 現在の職場で働きたいが,他の職種にかわりたい(以下,職場継続意思);3 今の職種のまま,他の施設で仕事を続けたい(以下,職業継続意思);4 現在の職場を辞めて,他の職業に転職したい(以下,継続意思なし).

3) 自己効力感

自己効力感は,Sherer & Maddux(Sherer et al., 1982)が考案し,成田ら(1995a, 1995b)が邦訳して信頼性・妥当性を検証した「特性的自己効力感尺度(A Japanese version of the Generalized Self-Efficacy Scale)」を使用した.

特性的自己効力感尺度は1因子構造・計23項目で,5件法で回答する(得点が高いほど特性的自己効力感が強い).本尺度では,より長期的に一般化した日常場面の行動に影響する自己効力感を測定対象としている(坂野・東條,1986成田ら,1995a, 1995bBandura, 1977).

4) 感情労働

感情労働は,関谷・湯川(2014)が作成した「感情労働尺度日本語版(Emotional Labour Scales Japanese version;以下ELS-J)」と荻野ら(2004)が作成した「感情労働尺度」を用いた.

ELS-Jは,Brotheridge & Lee(2003)の尺度を,関谷・湯川(2014)が邦訳し,様々な職業従事者233名を対象に検証したもので,感情労働を「肉体労働や頭脳労働と並んで,職務の遂行に労働者自身の感情管理が求められる労働形態」と説明している.下位概念は,1)頻度(F: frequency)3項目,2)強度(I: intensity)2項目,3)種類(V: variety)3項目,4)表層演技(SA: surface acting)3項目,5)深層演技(DA: deep acting)3項目の5因子構造・計14項目からなる.

感情労働尺度は,Zapfら(1999, 2001)の「Frankfurt Emotion Work Scale(FEWS)」を荻野ら(2004)が邦訳し,介護・看護職を対象に信頼性・妥当性を確認したものである.感情労働を「仕事の一部として,組織的に望ましい感情になるように自らを調節する心理過程」(荻野ら,2004)としている.質問数は21項目・4因子構造で,1)患者へのネガティブな感情表出(negative emotions display;以下NED)6項目,2)患者への共感・ポジティブ感情表出(positive emotions display;以下PED)6項目,3)感情の不協和(emotional dissonance;以下ED)5項目,4)感情への敏感さ(sensitivity requirements;以下SR)4項目である.

両尺度とも,選択肢は5件法で,得点が高いほど普段の平均的な仕事中における感情労働の経験度合いが多いことを意味する.

4. 分析方法

個人・組織特性の職種間比較はFisherの正確確率検定で,職務継続意向はピアソンのχ2検定を,自己効力感と感情労働の得点比較はt検定で行った.その後,次の手順で職種別における共分散構造分析を行った.

1) 有意変数の絞り込み

自己効力感と感情労働の関連変数の絞り込みは,t検定(2群比較)もしくは一元配置分散分析(3群以上比較)で行い,多重共線性の有無はスピアマン相関係数で確認した(絶対値0.4未満を採用).自己効力感と感情労働を従属変数,個人・組織特性を独立変数として重回帰分析(ステップワイズ法)を行い,標準偏回帰変数βが最低でも0.2以上の有意変数(p < .05)を抽出した.さらに職務継続意向と自己効力感,感情労働の関係を確認するために,職務継続意向を従属変数,自己効力感と感情労働を独立変数とする二項ロジスティック回帰分析を行った.従属変数は2項にダミー化した(1職場・職業継続意思あり,0その他).関連変数の絞り込みの基準値は,モデルχ2検定(p < .05),ホスマー・レメショウの適合度検定(予測精度p ≥ .05)および正判別率(60%以上)とした.

2) 職種別による共分散構造分析と交絡因子の検討

前述で絞り込まれた変数を用いて共分散構造分析を行った.モデル適合度の望ましい基準値はGFI 0.9以上,AGFI 0.9以上,CFI 0.9以上であるが,基準値を満たしていない場合は,基準値に近い最良値のモデルを採用した.

また,有意変数として抽出された「設置主体」の交絡因子を確認するために,『社会福祉法人』と『それ以外』の2群に分けて,個人・組織特性の各変数とFisherの正確確率検定を行った.

解析は,統計ソフトSPSS Ver. 24を,共分散構造分析はAmos Ver. 24(for Windows)を用いて実施し,有意水準は5%とした.

5. 倫理的配慮

施設責任者と対象に文書にて説明し,本人の自由意思のもと,質問紙の回答と返送をもって同意とした.尺度使用にあたっては,尺度使用者より文書による使用許諾をとった.なお研究の実施にあたっては,信州大学医学部医倫理委員会で承認を受けた(承認番号4114,2018年8月7日).

Ⅳ. 結果

分析対象の個人・組織特性は,表1に示した.

表1  分析対象554名の職種別における主な個人・組織特性の概要
職種 職種
介護職(n = 333) 看護職(n = 221) 介護職(n = 333) 看護職(n = 221)
個人特性 組織特性
年齢(p = 0.040 設置主体
19歳以下 4 1.2% 0 0.0% 社会福祉法人 92 27.6% 60 27.1%
20~29歳 77 23.1% 5 2.3% 医療法人 154 46.2% 91 41.2%
30~39歳 88 26.4% 26 11.8% 生活協同組合(生協) 24 7.2% 20 9.0%
40~49歳 98 29.4% 50 22.6% 農業協同組合(農協) 6 1.8% 12 5.4%
50~59歳 52 15.6% 101 45.7% 地方公共団体 11 3.3% 5 2.3%
6歳以上 14 4.2% 39 17.6% その他 46 13.8% 33 14.9%
現職場での勤務年数(p = 0.004 定床数
3年未満 54 16.2% 63 28.5% 30床以下 11 3.3% 9 4.1%
3年以上10年未満 154 46.2% 84 38.0% 31~50床 30 9.0% 21 9.5%
10年以上 125 37.5% 74 33.5% 51~100床 226 67.9% 140 63.3%
現職種での経験年数(p < 0.0001 101床以上 66 19.8% 51 23.1%
3年未満 30 9.0% 1 0.5% 開設年
3年以上10年未満 104 31.2% 23 10.4% 1970年代 0 0.0% 5 2.3%
10年以上 199 59.8% 197 89.1% 1980年代 15 4.5% 14 6.3%
雇用形態(p = 0.001 1990年代 142 42.6% 86 38.9%
正職員(正規で常勤) 299 89.8% 186 84.2% 2000年以降 120 36.0% 82 37.1%
非正規で常勤(契約職員など) 25 7.5% 22 10.0% 不明 56 16.8% 34 15.4%
その他 9 2.7% 13 5.9% 居室形態
役職あり者の職位 従来型(多床室と個室) 248 74.5% 179 81.0%
ユニットリーダー 36 10.8% 5 2.3% ユニット型施設 55 16.5% 21 9.5%
介護もしくは看護の責任者等 49 14.7% 35 15.8% 従来型とユニット型の併設型 30 9.0% 21 9.5%
85 25.5% 40 18.1% 夜勤回数(p = 0.001
過去の職業経験(ただし介護・看護職以外)[複数回答] なし 46 13.8% 51 23.1%
なし 133 39.9% 73 33.0% 1~2回 8 2.4% 13 5.9%
家事・主婦・育児(専業) 98 29.4% 116 52.5% 3~4回 119 35.7% 84 38.0%
営業・販売・サービス職 111 33.3% 40 18.1% 5回以上 160 48.0% 73 33.0%
事務職 68 20.4% 21 9.5% 職場の教育体制(研修会や学会などの学ぶ機会)[複数回答]
その他(製造・技術・自営業など) 91 27.3% 47 21.3% 学ぶ機会がある 307 92.2% 202 91.4%
取得している資格[複数回答] 学ぶ機会がない 21 6.3% 13 5.9%
介護福祉士 286 85.9% 10 4.5% その他 13 3.9% 13 5.9%
ホームヘルパー2級 113 33.9% 11 5.0% 在宅復帰・在宅療養支援機能加算の種類
看護師 1 0.3% 140 63.3% 在宅強化型(超強化型+強化型) 119 35.7% 82 37.1%
准看護師 2 0.6% 98 44.3% 基本型(基本型+加算型) 104 31.2% 69 31.2%
介護支援専門員 44 13.2% 39 17.6% その他型(上記以外) 3 0.9% 3 1.4%
その他 53 15.9% 16 7.2% 不明 107 32.1% 67 30.3%

括弧内のp値は,Fisherの正確確率検定で有意差がみられた結果のみ示した.

1. 職務継続意向

職務継続意向で最も多いのは,表2の通り,両職種とも「職場・職業継続意思」(約6割)で,次に多いのが介護職は「継続意思なし」13.8%,看護職は「職業継続意思」22.6%だった(p = .001).期待度数と有意差があったのは「職業継続意思」と「継続意思なし」だった.

表2 

分析対象554名の職種別における職務継続意向の概要と職種間の比較

(%)

2. 自己効力感と感情労働の職種間比較と関係

職種間の得点比較は表3に示す.有意差が確認されたのは,特性的自己効力感尺度(p = 0.14),ELS-Jの頻度(p = .001),種類(p = .006),表層演技(p = .017),深層演技(p = .026),感情労働尺度のNED(p = .026),ED(p = .029)で,特性的自己効力感尺度以外の変数で看護職よりも介護職のほうが有意に高かった.

表3  介護職と看護職の特性的自己効力感と感情労働の1項目当たりの得点比較(平均値±標準偏差)
全体(n = 554) 職種 p
介護職(n = 333) 看護職(n = 221)
特性的自己効力感尺度(成田ら,1995a, 1995b
全項目[23項目] 3.1 ± 0.5 3.1 ± 0.5 3.2 ± 0.5 .014
ELS-J(関谷ら,2014)
頻度(F)[3項目] 3.0 ± 0.8 3.1 ± 0.7 2.9 ± 0.8 .001
強度(I)[2項目] 2.3 ± 0.7 2.4 ± 0.7 2.3 ± 0.7 .089
種類(V)[4項目] 2.8 ± 0.8 2.8 ± 0.7 2.7 ± 0.9 .006
表層演技(SA)[3項目] 3.2 ± 0.7 3.3 ± 0.8 3.1 ± 0.7 .017
深層演技(DA)[3項目] 2.8 ± 0.7 2.8 ± 0.8 2.7 ± 0.7 .026
感情労働尺度(荻野ら,2004
ネガティブ感情表出(NED)[6項目] 2.2 ± 0.6 2.3 ± 0.6 2.2 ± 0.6 .026
ポジティブ感情表出(PED)[6項目] 3.8 ± 0.7 3.9 ± 0.7 3.8 ± 0.6 .094
感情の不協和(ED)[5項目] 3.4 ± 0.8 3.5 ± 0.8 3.4 ± 0.8 .029
感情への敏感さ(SR)[4項目] 3.1 ± 0.8 3.1 ± 0.8 3.0 ± 0.8 .163

3つの尺度とも1項目あたりの点数の範囲は1~5点.t検定

ELS-J(感情労働尺度日本語版),ネガティブ感情表出(利用者へのネガティブな感情表出),ポジティブ感情表出(利用者への共感・ポジティブな感情表出)

3. 職種別による概念間の関係

表4に示すごとく,変数の絞り込み解析で,有意変数としてダミー化してコーディングした9変数が抽出された.

表4  本研究のパス解析で用いた個人・組織特性のダミー変数のコーディングの概要
変数 コーディング
1 0
個人・組織特性
1 年齢 40歳以上 n = 354) 40歳未満 n = 200)
2 現在の職場での勤務年数 10年以上 n = 199) 10年未満(その他含) n = 355)
3 雇用形態 正職員(正規で常勤) n = 485) それ以外 n = 69)
4 職位 役職あり(正副責任者,ユニットリーダー等) n = 125) 役職なし n = 429)
5 過去の職業経験 (介護・看護職以外に従事した経験の有無)有り n = 348) 無し n = 206)
6 設置主体 社会福祉法人 n = 152) それ以外 n = 402)
7 定床数 51床以上 n = 483) 50床未満(その他含) n = 71)
8 居室形態 ユニット型(併設型含) n = 127) 従来型(その他含) n = 427)
9 夜勤回数 1回/月以上 n = 457) 無し n = 97)
職務継続意向
職場・職業継続意思(現在の職場で,今の職種のまま仕事を続けたい) n = 348) それ以外 n = 206)

単変量解析で抽出された有意な9変数についてスピアマンの相関係数で多重共線性を確認した結果,相関係数の絶対値|r|はすべて0.4未満であった.

図1のとおり,職務継続意向との関係性は介護職のみに確認された.介護職のモデル適合指数はGFI = .883,AGFI = .414,CFI = .684で,職務継続意向と関係があった変数はELS-JのI(強度)(標準化推定値–.276)とSR(感情への敏感さ)(同–.323)であった.特性的自己効力感と感情労働の影響要因として,年齢と特性的自己効力感尺度(同.396),I(同–.309),SR(同–.269)が確認された.また特性的自己効力感尺度とIおよびSRの潜在変数間には,弱い負の相関関係が認められた(r = –.298~–.217).

図1 

職種別による構成概念間の関係:共分散構造分析によるパス解析の結果

ダミー変数のコーディングは,年齢(1;40歳以上,0;40歳未満),設置主体(1;社会福祉法人,0;それ以外),職務継続意向(1;職場・職業継続意思;現在の職場で,今の職種のまま仕事を続けたい,0;それ以外)とした.なお係数は標準化推定値であり,5%水準で有意であった.

ELS-J(感情労働尺度日本語版),df(自由度),GFI(goodness of fit index),AGFI(adjusted GFI),CFI(Comparative Fit Index)

看護職のモデル適合指数はGFI = .991,AGFI = .967,CFI = .987で,特性的自己効力感と感情労働の影響要因は,年齢と設置主体のみだった.特性的自己効力感尺度は年齢(標準化推定値.151)と設置主体(同.158)では正の関係性が,感情労働尺度のNED(ネガティブ感情表出)は年齢と負の関係性が(同–.358),そして,PED(ポジティブ感情表出)は設置主体と正の関係性(同.207)が認められた.また,特性的自己効力感尺度とNEDおよびPEDの潜在変数間に弱い相関関係が確認された(r = –.155~.310).

なお看護職における設置主体(「社会福祉法人」と「それ以外」の2群比較)の交絡因子を確認した結果,有意変数として「開設年」と「受持ち制度」が確認された.開設年では「社会福祉法人」が「それ以外」よりも2000年以降に開設された割合が多く(社会福祉法人63.3%,それ以外27.3%,p < .0001),受持ち制度では,「社会福祉法人」が「それ以外」よりも受持ち制度を採用している割合が有意に多かった(社会福祉法人66.7%,それ以外58.4%,p = 0.024).

Ⅴ. 考察

1. 対象の概要

本研究では両職種ともに正規の常勤がおおよそ9割で,介護職は,年齢構成,職位,卒業教育機関などの割合は,全国データ(介護労働安定センター,2020b)とほぼ類似していた.看護職は「40歳以上」と「看護系の専門学校・短大・大学修了者」が全国データよりも約2割多かった.長野県内の母集団に関する詳細な登録データがないため,本対象との厳密な比較はできないが,ほぼ母集団の特徴を反映していると考えられた.

2. 職務継続意向の関連要因と人材マネジメントへの示唆

本節では,長野県内の老健で働く女性の介護・看護職員を対象として得られた結果をもとに,老健で継続的な就業を維持・促進するための人的マネジメントのあり方を職種別に検討する.

1) 介護職員

職務継続意向と関連がみられたのは介護職のみで,感情労働のI(強度)とSR(感情への敏感さ)得点が低い者ほど,職場・職業の継続意思が高かった.また介護職は看護職よりも職務継続意向の「職場・職業継続の意思なし」の割合が有意に多く,特性的自己効力感得点は有意に低かった.特性的自己効力感と感情労働との間に弱い負の相関関係がみられたことから,職務継続意向の背景には,特性的自己効力感が潜在している可能性が示唆された.

年齢と自己効力感の関係は,成田ら(1995a, 1995b)の女性の年齢別平均値と類似する結果を示しており,課題遂行などの自己効力感は,いずれも職業を含めた人生経験によって獲得されていくことを示唆している.年齢と感情労働の負の関係については,先行調査(荻野ら,2004関谷・湯川,2014)では確認できなかった.そのため本対象に特有の傾向なのか,介護職全般の傾向なのかは言及できない.

職務継続意向の要因となった感情労働のI(強度)は「激しい感情を示す」などの2つの質問から,SR(感情への敏感さ)は「利用者(患者)の気持ちの変化に特に敏感になることがある」などの4つの質問からなる.要介護高齢者と最も身近にケアを行う介護職は,高齢者との接触頻度が高く,様々なニーズに対応していくことが期待されることから,高いストレス状態となり(佐藤ら,2003高尾ら,2015),I(強度)やSR(感情への敏感さ)に反映されたと考える.尺度考案者の調査でも,I(強度)とSR(感情への敏感さ)は,燃え尽き症候群尺度の「情緒的消耗感」と「脱人格化」で正の相関関係(r = 0.27~r = 0.40)が確認されており(荻野ら,2004関谷・湯川,2014),年齢が若い本調査の介護職員ほど感情労働のI(強度)とSR(感情への敏感さ)を防衛反応的にとっている可能性が考えられた.

以上のことから,介護職が職務継続していけるようにするには,仕事において「自分にもできる」という感覚や自信をもてるよう支援していくことの重要性が改めて確認できたといえる.また本対象の介護職のうち,前職が「営業・販売・サービス職」であった者は約3割で,過去に介護以外の職業経験「なし」に次いで2番目に多かった.このことからも,介護職には,職場の文化や価値観,職務内容などが全く異なる職業から転職してきた者が一定数いることを前提として,前職で培われた知識・技能を強みとして,介護業務でも生かせるような対応や,経験の浅いスタッフに対する心理的支援(メンタリング機能)などの教育体制の整備の重要性が示唆された.

2) 看護職員

本対象の看護職では,職務継続意向との関連は確認できなかった.これは,本対象の看護職の約9割が40歳以上である等,老健で働くに至る背景には,介護職とは異なる動機・経緯があるのではないかと考えられた.

本調査では「どうして老健で働いているのか」の質問はしなかったが,介護労働安定センター(2020b)によれば,看護職が医療機関退職後に老健に再就職する理由として,「資格・技能が活かせる」45.7%,「やりたい職種・仕事内容」42.2%,「通勤が便利」40.8%などがあがっている.一方,介護職は,前職の介護職を辞めた理由(介護労働安定センター,2020b)として,「自分の将来の見込みが立たなかったため」17.8%,「職場の人間関係に問題があったため」17.7%,「収入が少なかったため」14.1%など,職場環境や給与・待遇,キャリアアップなどが上位を占めている.その意味で,看護職は介護職よりも現在の職場・職業に対する期待値が低く,なおかつ看護職としての就労経験や感情管理の学習経験などによって,職務継続意向と特性的自己効力感,感情労働とに関係がなかったと考えられた.

また,NED(ネガティブ感情表出)と年齢とに負の関係があったことについて,荻野ら(2004)の調査でも,年齢とNEDとに同様の関係が確認されており,年齢が高い者ほどネガティブ感情表出が弱い結果であった.NEDの質問は「利用者(患者)に怒りの感情を示さなくてはならないことがある」などの計6項目からなる.NED得点が低い看護職は,いわば特定の状況に適合するよう自身の感情をコントロールして感情管理をしている者といえる.3年課程の看護師等学校養成所を卒業した者の約8割以上が病院に就職しているデータ(日本看護協会出版会,2021)から,老健の看護職のほとんどが医療機関を経験していることになる.また本看護職の約9割が40歳以上の経験豊かな看護職であることなどから,看護職の職業規範として,ケアの場においてネガティブ感情を表出しない暗黙のルールである「感情規則(feeling rule)」(Hochschild, 1983/2000)が機能されているとも考えられた.

さらに看護職のみの結果として,設置主体が「社会福祉法人」である対象ほどPED(ポジティブ感情表出)が高かった.また,設置主体の交絡要因として「開設年」と「受持ち制度」が抽出され,社会福祉法人は介護保険法が施行された2000年以降に開設され,受持ち制度を採用している割合が多かった.PEDの質問は「利用者(患者)に温かい対応をしなくてはならないことがある」などの計6項目からなる.PEDは自分の感情とは異なる感情を表出して,利用者に共感しようと心配りをしたり,利用者に安心感を与えたりなど,ケアの質に関わる感情規則ともいえる.介護保険制度が施行された2000年以降は,従来の老人福祉法による「措置」から「契約」へ,行政指導による画一的支援から人間らしい生活を送るための「ユニットケア」へとサービス提供のあり方が大きく変換した(厚生労働省,2018).こうした社会的変化が,ケアサービスの質向上への意識やケアのあり方に影響している可能性から,設置主体がPEDの要因となった今回の結果の背景にあると考えられた.

これらのことは,ユニットケアや受持ち体制などのケア環境により,ポジティブ感情が表出されやすい可能性を示唆していることから,老健で働く看護職の離職を予防していくためには,施設が追求している理念を共有したり,気持ちよく働けるよう就労環境を整えたり,介護職と看護職の協働体制強化等によって,利用者中心のケアを追求したケア環境の整備が必要と考えられた.

3. 本研究の限界

本対象は長野県内の女性介護・看護職員を対象としているため,全国の介護・看護職の特性として一般化できない.またあくまでも,現在,感じている「職務継続意向」を質問したため,実際の離職行為との関連性を予測するものでない.全国の介護施設で働く男性介護職の割合は約2割であり,全国の老健で働く男性看護職は約1割であるが(介護労働安定センター,2020b日本看護協会出版会,2020a, 2020b),感情調整をするモチベーションや感情管理のタイプにおける男女の相違等,感情労働研究において性差は1つのトピックスとして注目されていることから(Timmers et al., 1998),今後は介護施設で働く職員の性差について明らかにしていく必要がある.

付記:本研究は,信州大学大学院医学系研究科に提出した修士論文の一部に加筆・修正を加えたものである.

謝辞:本研究にご理解・ご協力いただきました介護職・看護職の皆様に深く感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:HPとNAは研究の着想およびデザイン,データ収集,分析,解釈,草稿の作成に貢献;AOは調査項目への助言,原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
 
© 2022 Japan Academy of Nursing Science
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