2023 Volume 43 Pages 419-428
目的:コントロール感覚の喪失を多様な階層で繰り返し知覚するALS患者が取り組む内的・外的交渉の構造を統合的に解釈すること
方法:原著論文(和文献11編,英文献2編)を対象に,Patersonらのメタ統合法を実施した.分析には知覚制御理論の枠組みを活用した.
結果:ALS患者の内的・外的交渉に関する99のシステムより3つのコントロールシステム「脅かしを確かめる」「抵抗し撤退し自己に期待する」「病に開かれた世界を進む」が特定された.
結論:多様な階層で喪失を知覚するALS患者がコントロール感覚の維持に取り組む構造に関する新たな知見と今後の研究上の課題を明らかにした.ALS患者にとって外的交渉の継続がコントロール感覚の維持において必要であることが示唆された.今後の研究は,コントロール感覚の維持を図るALS患者に関して,内的・外的交渉への統合的な解釈に焦点をあてる必要がある.
Aim: This study reviewed the relevant literature with the aim of synthesizing the structure of internal and external negotiations in terms of the ongoing multi-level loss of control for patients with amyotrophic lateral sclerosis.
Methods: This study was carried out using a method of meta-synthesis. Eleven original articles in Japanese and two original article in English were utilized. Perceptual Control Theory provided a coding framework.
Results: From 99 systems, three themes characterized the internal and external negotiations of patients with amyotrophic lateral sclerosis: “Identify the threat,” “Refuse, withdraw, expect self,” and “Travel the ALS survivor world”.
Conclusions: This review adds knowledge to our understanding of the structure of multi-level loss of control for patients with amyotrophic lateral sclerosis, suggested that it is necessary for these patients to continue external negotiations to maintain a sense of control. Future research should focus on the integrative interpretation of internal and external negotiations in amyotrophic lateral sclerosis patients who are attempting to maintain a sense of control.
急速な運動ニューロンの変性・脱落により全身の筋が脱力する筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis,以下ALS)の患者は,生命・生活を整えるために必要な活動が著しく制限される.自らの活動によって,求めるアウトカムを決定づけられないという予測は,患者にコントロール感覚の喪失(Loss of control)をもたらすことがある(Roberts & White, 1990).ALSの患者は,専門医受診に至るまでの時間の長さ(Kano et al., 2013)や,診断時に告知される情報の曖昧さ(Hogden et al., 2012),症状がないうちから呼吸や嚥下障害に対する治療方針を決断しなければならない割り切れなさ(松田ら,2011;村岡,1999),そして,介護を要する生き方を家族と共同意思決定する不安(Bastida et al., 2009;高橋,2016)から,アウトカムを決定づけられない多くの機会を経験する.急速に症状が進行するなかで周囲の他者と共に生命・生活障害の改善を図る患者は,コントロール感覚の維持という療養上の課題を常に有している(Long et al., 2019).
「交渉」とは,新たな意味づけや環境へのはたらきかけによって患者が適応を図るありようとしてGlaser & Strauss(1965/1988)が議論した概念である.ALS患者は「これをするのをやめよう,しなければイライラしない(隅田,2008)」「生かされた以上,死を怖がらないだけだ(平野・山崎,2013)」といった新たな意味づけを行う内的な交渉と,「普通」の生活をしようとおしゃれをしたり(隅田,2003),医師に不信感を抱いて別の病院を探したり(隅田,2005)する環境(自らの身体を含む)への外的な交渉によって,コントロール感覚の維持を図っている.だが,疾患の進行によって外的な交渉が制限されるALS患者は,逃れられない呼吸困難感や疼痛,浮動する他者と自らとの関係(平野・山崎,2013;橋本,1997)からコントロール感覚の喪失を繰り返す(Foley et al., 2014).実践を行う他者には,患者の生命・生活障害だけでなく,患者なりに生活障害の改善を図ろうとする多様な内的・外的な交渉や,交渉の動機となった患者のコントロール感覚がどのように変化したのかを統合的に理解することが求められる.
他者は,ALS患者の内面の変化である内的な交渉やコントロール感覚の違いそのものを捉えることはできない.しかし,人間が移り変わる環境の刺激を知覚し,「新たな意味づけ」や「環境へのはたらきかけ」を行う営みの過程には一定の秩序があるとされている.William T. Powersらは,環境の刺激に適応する人間の営みをコントロールシステムとみなす知覚制御理論(Perceptual Control Theory,以下PCT)を提唱した(金築,2012;Mansell, 2020).PCTにおいて,人間は,物理的・化学的・生物学的・社会文化的・歴史的・政治的に多様な階層の刺激の知覚が,個々人に備わる固有の基準におさまるよう環境にはたらきかけるとされる.環境へのはたらきかけ,すなわち外的交渉は,基準を逸脱する異常の知覚が続く限り継続される.そして,人間の外的交渉は,外的交渉によって異常な知覚が消失したとき,もしくは,環境からもたらされた知覚を異常と識別する基準そのものが変更されたとき,つまり,内的交渉によって基準に新たな意味づけがなされたときに終わる.これら,外的な交渉と患者周囲の環境の変化の過程を辿ることで,他者は,内的・外的な交渉の違いやコントロール感覚の違いを,これに伴うコントロールシステムの違いとして捉えることができる.これまで,ALS患者が移り変わる環境を知覚し内的な交渉を行うありよう(米川・岡安,2013;山本・清水,2019;丸山・安田,2021)が報告されているが,システムの観点から捉えた研究は確認されていない.メタ統合法は,研究上の課題を理解する方法の一つであり,一群の質的研究の結果から,その分野における探求の力学を探り,私たちが理解していると思い込んでいる内容について問いを投げかけ,まだ検討を加えられていない部分を明確にすることを目指している(Paterson et al., 2001/2010).コントロールシステムの観点に基づく問いの投げかけは,多様な階層で繰り返される喪失のなかでALS患者がコントロール感覚の維持を図るありようを体系的に理解するために必要な研究上の課題の明確化につながると考える.よって,本研究では,コントロール感覚の喪失を多様な階層で繰り返し知覚するALS患者が取り組む内的・外的交渉の構造について統合的に解釈することを目的とする.
本研究は,Patersonらの提唱するメタ統合法(Paterson et al., 2001/2010)に依拠し,1)メタデータ分析,2)メタ方法,3)メタ理論の3つのステップにおいて実施した.まず,研究疑問は「ALS患者はどのような交渉によってコントロール感覚を知覚するのか」とした.メタデータ分析では,PCTの枠組みを活用し,一群の一次研究に記述された語りの中で4つの要素(環境から知覚した刺激・刺激を識別する基準・内的もしくは外的な交渉・環境から知覚した新たな刺激)を含む内容をコントロールシステムとして抽出し,内的もしくは外的な交渉に関わる内容の類似性や相違性において分類した上で,コントロールシステムの違いを特定し表象した.また,メタ方法では,一次研究の研究方法の性質の違いに着目し,研究結果にもたらす影響と偏りを解釈した.さらに,メタ理論では,一次研究がもつ歴史的,社会的,文化的文脈が研究結果にもたらす影響を解釈した.そして,メタ統合では一次研究が明らかにした知見と今後の研究上の課題を考察した.
2. 検索方法検索エンジンとして,和文献には医学中央雑誌Web版(Ver. 5)およびCiNii Dissertation,英文献にはPubMedおよびGlobal ETD Searchを利用した.2000年から2019年に収録された論文の中で,和文献では「筋萎縮性側索硬化症」を検索用語としていずれの検索エンジンもタイトル検索を実施した.また,英文献では“Amyotrophic Lateral Sclerosis”を検索用語としてPubMedはTitle検索,Global ETD Searchはsubject検索を実施した.原著以外の文献ならびに重複文献を除外し,和文献351編,英文献2,678編が検索された.続いてタイトルと抄録を確認し,本研究の目的に合致しない文献を除外し,さらに,先述の4要素からなるALS患者の語りが認められない文献を除外した.そして,選定した和文献9編,英文献2編にハンドサーチによる和文献2編を追加した13編を対象とした(図1).プロセス全体を通して,共同研究者間で研究方法や結果の妥当性を議論した.
一次研究の文献選定のプロセス
表1にメタ統合の対象となった一次研究の論文13編の概要をまとめた.学問的背景の内訳は,心理学が4編(2研究),社会学が2編(1研究),看護学が7編(3研究)であった.なお,Standards for Reporting Qualitative Research(SRQR)(O’Brien et al., 2014)による研究の質評価の結果,対象の論文は,研究論文としての質の保証と詳細な結果の記述(石垣・山本,2008)が認められることを確認した(表2).一群の一次研究の語りより重複を除外し,99のコントロールシステムを抽出した.なお,対象論文に含まれた全ての原著論文のコントロールシステムはいずれかの学位論文の内容との重複があり,本研究では学位論文を基準とした同じ論文コードで表記した.
メタ統合の対象となった論文の概要
研究の目的※一部要約 | 理論的基盤,研究方法 | 研究対象者と調査内容 | 主な研究結果 | |
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論文A 【学位論文】橋本朋広(2000):コスモロジーの変容過程に関する臨床心理学的研究 ALS患者と神女(カミンチュ)の事例をもとに,大阪大学大学院人間科学研究科教育学専攻.1999年度博士論文 |
難病患者(ALS患者)における心理的危機の克服について,不治の病におかされるという苦しみのなかでどのように救いを見出すのか,その条件を明らかにし,死の自覚によって照り返される生の風景を記述すること | コスモロジー(世界と自らの成り立ち)に関する岩田(1995)の捉え方を基盤とする事例研究.データは半構成的面接(口頭または意思伝達装置)および過去に記述された日記より収集された. | 近畿地区のALS患者7名へ「病気に初めて気づいたときの思いはどの様なものか」「難病という苦難の中で自分を支えるものは何か」について聴取. | 患者の救いの経験は「自己の連続性の回復」「事物とのつながりの回復」「他者とのつながりの回復」「生命とのつながりの回復」の4条件を要する.病の受容につれて,拡大した自己意識を経験した. |
【原著論文】橋本朋広(1997):難病患者の苦悩の癒し 筋萎縮性側索硬化症患者の事例を通して.心理臨床研,15(5), 513–523. | ||||
論文B(以降,著者訳責) 【学位論文】King, S. J. (2005): Negotiating life choice Living with motor neurone disease, Deakin University, School of Nursing. 2004年度博士論文 |
ALSの人々が自ら望む人生を生きる上で行う交渉,およびALSの人々がケアを行う人々に向けた心理的ニーズの訴えを明らかにすること | シンボリック相互作用論に基づくグラウンデッドセオリーに即した面接調査.ALS患者および家族への半構造化面接(口頭または意思伝達装置)を実施した. | 豪州の都市部と郊外のALS患者25名(侵襲的人工呼吸器(以下,IPPV)装着者含む)へ「あなたがALSを告知されてからどんなことがありましたか」「ALSとともに生きることとはどんなことですか」を聴取. | ALS患者の「交渉」の対象は,進行とともに他者から自己へと変化した.大きな喪失を経験しても,彼らは「人間としての自己の統合性を尊重してくれる人々」とともに「活動」を続け肯定的に生きていた. |
【原著論文】King, S. J. (2009): Living with amyotrophic lateral sclerosis/motor neurone disease (ALS/MND): decision-making about ‘ongoing change and adaptation’. J Clin Nurs, 18, 745–754. | ||||
論文C 【学位論文】隅田好美(2006):筋萎縮性側索硬化症(ALS)とともにその人らしく生きるための支援 患者・家族・専門職における〈認識のズレ〉と〈認識の一致〉,大阪府立大学大学院人間社会システム科学研究科社会福祉学専攻.2005年度博士論文 |
ALS患者への支援における患者や家族と支援者との間に〈認識のずれ〉が生じる背景,およびそれを埋めようとする試みを明らかにし,〈真に患者が求めている支援〉を考察すること | シンボリック相互作用論に基づくグラウンデッドセオリーに準じた面接調査.ALS患者および家族,支援者への半構造化面接(口頭または意思伝達装置)を実施した. | 近畿地区のALS患者10名とその家族,支援者へ「告知前」「告知」「告知後」「人工呼吸器選択」「人工呼吸器装着直前直後」に至る価値観やアイデンティティの変遷,病いの意味づけの過程と互いの「認識のズレ」を聴取. | 患者・家族・支援者には,〈病いや障害の捉え方の違い〉〈問題把握の違い〉〈情報の捉え方の違い〉に関し〈認識のズレ〉があり,その背景には〈立場の違い〉〈知識の違い〉〈支援する時期と支援を受け入れる時期の違い〉や見通しの違いがあった. |
【原著論文】隅田好美(2008):患者・家族・専門職における〈認識のズレ〉筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者への支援,社会福祉学,49(2), 150–162. 【原著論文】隅田好美(2010):「病いとともにその人らしく生きる」ための病いのいみづけ 筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者への質的調査を通して.社会福祉学,51(1), 53–65. | ||||
論文D 【学位論文】平野優子(2007):侵襲的人工呼吸療法を行う筋萎縮性側索硬化症患者の発症から現在までの困難と対処,ならびに人生再構築の過程と要因 ライフ・ライン・メソッドを用いて,東京大学医学研究科健康科学・看護学専攻.2006年度博士論文 |
IPPV装着中のALS患者における,発症から現在までの困難と対処と人生再構築の過程と要因,ならびにALS患者の願いと影響について明らかにすること | 病みの軌跡理論に基づくライフ・ライン・メソッドを用いた質問紙調査(量的・質的調査)と面接調査.面接調査ではALS患者への半構成的面接(口頭または意思伝達装置)を実施した. | IPPV装着中のALS患者50名へ「ALSではないころ」「ALS発症」「ALS診断」「IMV装着」「現在」の5時点での心の状態の推移やHerth Hope Index,自由記述を質問紙で調査し,さらに半構造化面接で語り聴取. | 患者が病とともに肯定的に生きていくためには「病気や生存への対処に関する要因」と「生活に関する要因」の管理が重要であった.意思伝達装置の活用や在宅療養環境の整備が,患者の対処を促進することが示唆された. |
論文E 【学位論文】森朋子(2011):筋萎縮性側索硬化症患者の心理に関する研究 生と死をめぐって,東京国際大学臨床心理学研究科臨床心理学専攻,2010年度博士論文 |
ALSに罹った人の心理的体験を明らかにし,臨床心理士がなしうる心理的援助について考察すること | Berelson(1952/1957)の内容分析の手法に基づく質問紙調査(量的・質的調査)ならびに半構造化面接(口頭)を実施した. | 面接に同意したALS患者23名へ「告知を受けた内容やその時の感情/告知を受けなかった場合には病名を知った経緯とその時の感情」「病名の予感」「医師への信頼感」「人工呼吸器の意思決定の有無とその理由」について聴取. | 患者は,病名が判明しない「宙づりの状態」や段階的告知を行う医師への不信感を経験しながら「迷惑をかけたくない」「死・苦痛への恐怖」「死生観」「呼吸器への抵抗感」「生きがい」を背景としてIPPVを選択していた. |
【原著論文】森朋子(2004):人工呼吸器の選択についての意思決定 14名の筋萎縮性側索硬化症患者の面接から.日保健医療行動会報,19, 177–193. 【原著論文】森朋子(2005):ALS告知の重さ 告知はどう受け止められたか 18名の患者の面接から.医療,59(7), 358–363. |
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論文F 【学位論文】日高友郎(2016):神経難病者のコミュニケーション支援のマイクロ・エスノグラフィー文化心理学的アプローチに基づく検討,立命館大学大学院文学研究科人文学専攻.2015年度博士論文 |
神経難病患者(ALS患者)へのコミュニケーション支援によってもたらされるもの,一対多のリアルタイムコミュニケーションの可能性,自らの経験を語る場を構築するために必要な方策と知見について明らかにし,ALS患者とのコミュニケーション拡大の可能性を考察すること | 文化心理学的アプローチを基盤としたマイクロ・エスノグラフィーおよび複線径路等至性アプローチにおいて,ALS患者1名の自宅および公の場における活動の参与観察.分析は会話分析およびディスコース分析. | 近畿地区にて数年にわたりIPPVを装着して療養する1名の患者や家族,患者と関わる患者会の人々を中心に,患者の自宅や公の場における会話とフィールドノーツからデータを収集. | 患者が語るためには,「自分の身体に対する自信をもつ」という了解を伴うコミュニケーションデバイスの開発や,「時間をかけてもよい」という了解を伴う沈黙を待つ試み,研究者自身の認識の変容を記述する試みが必要であった. |
【原著論文】日高友朗(2012):神経難病患者の生を捉えるライフ・エスノグラフィ 在宅療養の場の厚い記述から.質的心理研,11(1), 96–114. |
注記.【学位論文】と,学術誌に発表された【原著論文】には,抽出されたコントロールシステムに重複があったため同じ論文コード(論文A,論文B,…)と表記した.
Standards for Reporting Qualitative Research(SRQR)による研究の質評価(●は記載あり,―は記載なし)
S1 | S2 | S3 | S4 | S5 | S6 | S7 | S8 | S9 | S10 | S11 | S12 | S13 | S14 | S15 | S16 | S17 | S18 | S19 | S20 | S21 | |
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論文A | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ― |
論文B | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● |
論文C | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ― |
論文D | ● | ● | ● | ● | ● | ― | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● |
論文E | ● | ● | ● | ● | ― | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ― | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ― |
論文F | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ― |
タイトルと抄録(S1:タイトル S2:抄録),緒言(S3:問題の明確化 S4:研究目的),方法(S5:質的アプローチとパラダイム S6:研究者の特性と相互反映性 S7:文脈 S8:サンプリング方法 S9:人を対象とすることの倫理的問題 S10:データ収集方法 S11:データ収集手段 S12:研究対象者の単位 S13:データ処理方法 S14:データ分析 S15:信用性を高める方法),結果(S16:統合と解釈 S17:実証データとのリンク),考察(S18:先行研究との統合,臨床への示唆,転用可能性,学問分野への貢献 S19:限界),その他(S20:利益相反 S21:助成金)
分析の結果,コントロール感覚の喪失を繰り返し知覚するALS患者のコントロールシステムとして「脅(おびや)かしを確かめる」「抵抗し撤退し自己に期待する」「病に開かれた世界を進む」の3つが特定された(表3).表3に記載した語りの例示を用い,ALS患者が交渉によってコントロール感覚を知覚する3つのコントロールシステムを以下に説明した.
特定された3つのコントロールシステムおよびそれらを表象する語りの例示
1)「脅かしを確かめる」 | |
事例1 | (論文B)“I suffer ... I feel hurt ... humiliated ... because [I] can’t dress [myself], do dressing, drying after the shower. [I] can’t explain things, not doing very simple every day things ... and that [I] felt humiliated ... and hurt.”(私は傷ついている.とても屈辱的なのだ.服を着たり,シャワーのあとに身体を乾かすことができない.どんなことばでこれを説明できるだろう.毎日の簡単なことができない.屈辱的なのだ.:筆者訳責) |
事例2 | (論文E)その頃自分でALSが症状として一番近いと見当をつけていた.今はインターネットで何でも調べられるからね.次の大学病院で,自分から「ALSでしょう」と切り出したら,「その可能性が高い」と言われた.心配が確定的なものになったのはショックだったが,初めの病院のはっきりしない態度よりはよかった. |
事例3 | (論文D)保健所の誘いで難病患者の集いに参加し多くの患者さんと知り合い交流するようになりました.健康な人にはわかってもらえないことも病人同士で何でもしゃべれて話すとわかってもらえる.この会に参加するようになり1人で閉じこもる生活から抜け出し気持ちが前向きになりました. |
2)「抵抗し撤退し自己に期待する」 | |
事例4 | (論文B)“Where here [home] when the nurses come they give me a great shower because it’s under my shower. I turn it up nice and hot because I like it hot, where the hospital is really cold. I can understand that ... so for me I bear it. It would drive me nuts because it’s a job for them whereas my wife, she loves me and she’ll go that little extra minute there or even five minutes making sure I’m comfortable. Even putting me in my chair, it’s just the little things that [she] does that wouldn’t take the nurse any longer but they just don’t learn that.”(訪問看護師や妻は,私のシャワーの時間を素晴らしいものにしてくれる.私は熱いのが好きなのです.でも,病院ではとても冷たいのです.私は耐えています.たった座り方を工夫するだけのことさえ,看護師は学ぼうとはしません.だから私は耐えるのです.:筆者訳責) |
事例5 | (論文D)生きがいって何かしらと深く考えこむ.心身の苦痛,つらさ,悲しみ,孤独さは,常に複雑な心の葛藤を続ける.たくさんの潜んでいる好奇心をもちながら,日々言いたいことも言えずただベッドでなされるがままに,ただ年月の流れを通過することに「これではあかん何とかしなければ」.大きな疑問と私自身の今の課題でもあります.確かに「介護地獄」と言われているように大変である.それだけに常にその顔色をうかがいつつ,自分の出したい目も隠しつつ息を殺して必死にそれでもしがみついて懸命に生きようとしている.もう5年も6年も外の季節の風も街の風にもあわずして世間知らず. |
事例6 | (論文E)最初の告知で予後まで聞いてよかった.自分の病気なのだから.告知後,夫が屋上に連れていってくれた.夫は,「子どもたちには僕から言う.これからは家族で助け合っていかなければ」 と言った.そこで初めて涙が出た.夫は「今はいくらでも泣いていい.感じてることを全部ぶつけなさい.でも,子どもの前で泣いてはいけない」と言った.夫の胸を借りて,1時間くらい思いきりただひたすら泣いた.夫は何も言わず,頭や背中をなでてくれた.夫と2人きりになって,初めて感情が出た.不安,恐怖,成人していない2人の子どものこと. |
3)「病に開かれた世界を進む」 | |
事例7 | (論文A)何か活動的なことをしたいと思い(中略)しかし,なかなか思うように進展しない自分の活動の苛立ち(中略)それを癒したのが,散歩や絵画の作成で出会う生命の存在であった.過酷な自然の中で生きる生命に気づき,『木も虫も置かれた環境のなかで精一杯生きる努力をしているに違いない.』と,自己の可能性を生きるしかないという生命の原理を認識することで,自らの限界を受け入れ,可能性を着実に生きる覚悟をした(のちに絵画展を開き,画集も出版された). |
事例8 | (論文F)入院中はスイッチに慣れ,長時間打てるようにと思い,病院で先生に身体の状態を書き始めました.2~3行の文章を打つのにも時間がかかり疲れましたが,声を完全に失うとコミュニケーションが取れなくなると大変だと思い必死に打ち続けました. |
事例9 | (論文D)機械が動いている限り死なない.死を恐れていた.呼吸器を着けたことで呼吸が楽になり,死の恐怖から逃れたことですごく精神的に楽になりました.それがきっかけで気持ちが開き直り前向きになれました.死の恐怖と闘うのは大変なエネルギーを使います.24時問神経を張りつめて闘わないと少しでも気を抜くと死んでしまう.そんな状況を私は半年間闘いました.呼吸器をつけたときは張りつめていた気力が抜け全身の力が抜けて楽になりました. |
事例10 | (論文C)相手の状態がわかっているから,この言葉は通じるという,いわゆる踏み込めてる.踏み込めていってるというのは,お互いの距離が近くなってきている.中にはそこから(告知後ショックを受けている状態から)抜け出していきたいという人が居てるしね.そんなに元気ないしやね,(他のメンバーが)なんでそんな元気があるのって感じている人が居てるもん.その人達へはメーリングリストやなしに,直にメールすんねん.でもやっばり反応が遅い.そういう風なことをずっと続けていくことによって,また,同じようなところまで復帰してくれると思うねん.何でって言ったら7年間も10年間も外を見たことがない人に,何らかのきっかけで外に出てみようと変化するんやもん.1年ぐらいの中で,この人はだめやなっていうの,われわれが振り落とすんと違うもん.一緒に共有しようっていうんやから,山もあって谷もあって当然やから,辛抱強く,じっと待っているのも大切やね.それは患者同士は出来るけど,医者はやってくれへん.その変化をようつかめへん. |
あたりまえにできた生活動作がALSによって奪われたこと(事例1),患った疾患は心配していたALSであったこと(事例2),そして,ALSを患った苦しみは一人で背負うしかないこと(事例3)が,日々,様々なかたちで患者に受け入れがたい衝撃を与え続けた.患者は,「シャワーを一人で浴びることができる」「以前の日常は取り戻せる」「他者から共感が得られる」という基準において,納得できない受け入れられない刺激に繰り返しさらされた.そして,自らが受け止めるべき説明を探す,インターネットで病名を調べながら自らが脅かしとして知覚するものの実態を自問自答する,他者との交流からもたらされた刺激によって脅かしが小さくなることを確かめる,といった内的な交渉を駆使し,患者は外的にもたらされる刺激を基準に収めていた.しかし,それと同時に,患者は,医師の説明を疑い,動きにくくなる自分の体を屈辱的に思い,そして保健師に誘われた患者会への参加に期待をもって外的な交渉を続けた.やがて,疑う,という外的な交渉を続けた患者は,ALSが良くも悪くも様々な影響をもたらしていることを知り,ALSとともに生きていける確からしさを知覚できるようになった(新たな刺激の知覚).患者は,ALSの診断や,治らない疾患を同じように抱えている他者との交流が,脅かしを小さく限られたものに識別させることに気づいた.このようなコントロールシステムによって,患者の交渉は,自問自答を繰り返す閉じられた一人の世界から開かれた共同体の世界へと確からしさを求められるようになっていた.
2) 「抵抗し撤退し自己に期待する」患者の意思を読み取ろうとしない看護師の姿(事例4)や,ベッドでなされるがままに横たわる自分の身体(事例5),なすすべなく聞き届けるしかできない自分の病気(事例6)は,ALS患者に,妥協する生き方を繰り返し迫っていた.患者は,「看護師は患者の意をくむべき存在である」「日々の生活には生きがいがあって然るべきである」「私たち家族のこれまでの暮らしは当たり前に続く」という基準において,日常の生命・生活活動を維持するために歪められる自己の無力さを繰り返し知覚した.そして,意思を貫けず撤退しなければならないだけの理由を探し,撤退してもなお保持し続けたい自らの生き方を探すといった内的な交渉を駆使し,患者は外的にもたらされる刺激を基準に収めていた.しかし,それと同時に,患者は,次第に日常の生活や生命維持がままならなくなる恐怖にじっと耐えながら,平静さを保てるよう感情を押し殺し,なされるがままの他者との関係性に抵抗して,外的な交渉を続けた.やがて,抵抗する,という外的な交渉を続けた患者は,自らの意思はこれまでに築き上げた他者との関係性のなかで残り続ける,という期待を知覚できるようになった(新たな刺激の知覚).患者は,自分のために暖かいシャワーを用意してくれる家族や訪問看護師がいたことや,外には自分の好奇心を満たしてくれる世界があったこと,ともに悲嘆できる家族がいたことを振り返り,病いの克服を目指し生き続けてきた自らの生き方を支持する他者がいることを確かめた.このようなコントロールシステムによって,患者の交渉は,他者との関係性のなかで生じる知覚を喪失から期待へと変化させられるようになっていた.
3) 「病に開かれた世界を進む」思い通りに動かない身体(事例7,8)や,生き続けるための気の抜けない症状管理(事例9),張りつめた他者との関係性(事例10)によって,患者は,自らを取り巻く環境を変えられない停滞を知覚していた.患者は,「限りある時間を無為に過ごしてはならない」「私の言葉でコミュニケーションをとり続けたい」「24時間呼吸を見張り続けなければならない」「絶望している同病者を救いたい」という自分の基準において,強い焦燥感にかられていた.そして,頼らなければ生き続けられない環境でも生ききるよう自らに覚悟させる,試行錯誤が自らを焦燥感から解放させることを自覚させる,生ききろうとする価値を信じようと自らに言い聞かせるといった内的な交渉を講じ,患者は外的にもたらされる刺激を基準に収めていた.しかし,それと同時に,患者は,状況を打開できる可能性のなかでもがき,新たな生き方を試し,そして,試行錯誤した経験を伝えようと他者を待ち,外的な交渉を続けた.やがて,試す,という外的な交渉を続けた患者は,他者や事物がそれぞれの可能性のなかで精一杯生ききろうとしており,ALSに罹患した者もまた同じように歩みを進めていること,自分にじっくり付き合ってくれている他者や事物がいることを知覚できるようになった(新たな刺激の知覚).患者は,ALSという病によって開かれた可能性があり,その可能性を生ききろうとしたからこそ踏み込める支え方や生き方があることを知った.このようなコントロールシステムによって,患者の交渉は,進行し続ける症状や他者との関係性の緊張をあたりまえのものとし,新たな脅かしにさらされる日常に戻る決心を固められるようになっていた.
3. メタ方法の分析の結果研究対象者は,罹患期間や人工呼吸器の装着の有無において多様性がみられた.しかし,表2に示した論文Dが明らかにしたように,病とともに生きるALS患者の意味づけは重症度や治療内容,生活支援内容,さらに,セルフケアの質に影響を受けており,面接調査を中心とする本研究の結果は,調査に協力できるだけの身体状況と療養環境が整ったALS患者の知見であることが分析された.
収集されたシステムには,家族や専門職に対するALS患者の外的な交渉や,表面化しなかった内的な交渉のありようが含まれた.ALS患者は,発話や書字,電子媒体への入力といったコミュニケーションが困難になるため,データ収集時の問い方・聞き方や,調査者がデータとして受け取れる能力の違いによって収集される語りに差が生じていたことが考えられた.論文Cで隅田が報告したように,日頃から関係性を構築している家族や専門職でさえ,患者との間には認識のズレが生じやすい.また,論文Fの日高が報告したように,患者の声を「待つ」調査者がいなければ収集できないデータもある.一次研究で収集されたデータには,面接調査での語りや質問紙調査の自由記載内容,参加観察中のフィールドノーツ,日記が含まれる.面接によって収集された事例3と,患者の日記から収集された事例5では,データ収集時の調査者の参与の程度に違いがある.ALS患者からの回答の聴取は相互作用の産物であることをふまえるとき,回答ごとの調査者の参与の違いに注目した論文は論文Fのみであった.すなわち,本研究の結果は,ALS患者への調査者のはたらきかけや調査時の環境の違いを考慮していない可能性がある.
4. メタ理論の分析の結果対象となった論文には,人々の主観的理論を再構成することで相互作用を説明する立場であるシンボリック相互作用論と,人々の社会的営みにみられる秩序から相互行為を捉える立場であるエスノメソドロジー(Flick,2007/2011)という異なる理論的基盤をもつ一次研究が含まれた.3つのコントロールシステムには,次第に他者との相互行為が見えづらくなるALS患者にも多様な社会的営みは続いており,それらが主観的理論の中で秩序づけられていることが明らかにされている(事例7,10).異なる理論的基盤を統合した本研究の結果は,他者との相互作用の中で主観的理論を再構成するALS患者が,疾患が進行し外的な交渉が困難になるなかでも秩序をもった社会的営みを続けていることを示した可能性がある.
1990年代に「新しいALS観(林,2000)」が提唱され,ALS患者の療養に関する和文献・英文献が増加し,ALSガイドラインが策定された(Andersen et al., 2012;Miller et al., 2009;日本神経学会,2013).また,豪州では2002年のRespecting Choice®(Hammes & Briggs, 2011)の輸入や2017年の安楽死に関する条例の可決に伴い,意思決定に関する国民の関心が高まっていた.メタ統合の対象となった論文は,延命治療の選択を迫られるALS患者のありようの探求が学際的に展開された上記の時期にいずれも発表されていた.また,4編の学位論文は特定の患者団体をゲートキーパーとした合目的的サンプリングを行っていた.すなわち,本研究の結果は,患者団体や学術団体がALS患者への公的支援の拡充と均てん化を主張していた豪州や日本における歴史的・政治的影響を反映している可能性がある.
患者は,病の告知,症状の進行によって基準を逸脱する異常な刺激を繰り返し知覚していた.力が失われていく身体,離れていく関係性,停滞する活動は,ALS患者にとって,今後の生き方を不透明にする脅かしであった.患者は,異常を識別する基準に新たな意味づけを試みる内的な交渉を続けるが,同時に,病状説明や,書籍やインターネットの活字といった環境への「疑う」という外的な交渉も続け,なおも,以前の基準の保持に努めようとしていた.Paterson(2001)は,社会的存在としての慢性病者が病の罹患によって「病の側面」と「健康な側面」を絶え間なく入れ替えアイデンティティを探すありようからShifting Perspective Modelを提唱した.内的・外的な交渉を続ける患者は,ALSの罹患や進行によって不透明になった自己の意味づけを再び特定していた.このように,ALS患者が内的・外的な交渉を駆使してコントロール感覚の維持に努めるプロセスには,Shifting Perspective Modelにおけるアイデンティティを探すありようが包含されていると考えられた.
不可逆に全身の筋が脱力し続けるALS患者にとって,外的な交渉を維持できるという「効力予期」や,外的交渉によってコントロール感覚を維持できるという「結果予期」(Bandura, 1995/1997)は得難い.患者は,移り変わる環境からの基準を逸脱する刺激を知覚し,現状変更を試みるが達成できず,意思を貫けず撤退しなければならない理由を探し,保持し続けたかった自らの生き方を探すという内的な交渉を繰り返していた.しかし,外的な交渉を行うその姿は,他者に身を委ねるありようとは異なり,事例1のように,置かれた環境でじっと耐えるありようであった.コントロール感覚の体系的なレビューを行ったSkinnerらは,効力予期や結果予期のように手段を必要とするコントロール感覚の維持の在り方とは別に,現状維持は通用するという「統制信念」の概念を提唱した(Skinner, 1996;梅本・中西,2010).ALS患者にとっての外的交渉とは,現状変更に限られない.「じっと耐える」という抵抗の外的な交渉は,コントロール感覚を失いやすい環境を生きる中で現状維持が通用することを実践している時間であり,コントロール感覚を維持する方法であると考えられた.
ALSの好発年齢とされる50~70歳代において「停滞」は発達危機につながる重要な課題の一つである.限りある存在としての自己に向き合い,納得できる新たなありようを再獲得することが求められる(岡本ら,2005).ALS患者は,基準を逸脱し続ける刺激の中で生ききろうと試行錯誤する外的な交渉が,限りある時間を無為に過ごしてしまう焦燥感を減じることに気づいた.Newman(1994/1995)は,ALSを患った自身の母親とともに「運動の制限は人を空間-時間を超えた領域へと押しやる.これまでの生き方や関係はもはやうまくいかない.(中略)空間-時間を超えて変容する場合の新しい規則を学ぶことである」という考えに至った.このように,ALS患者の外的な交渉は,納得できる新たな生き方を再獲得するための重要な契機をもたらしていると考えられた.
症状が進行し続けるALS患者の外的な交渉には,コミュニケーションを可能にする症状管理や療養環境,そして,かすかに発せられる患者の指先や眼瞼の動きを捉えられる他者が必要である.しかし,Foleyら(2014)が指摘したように,症状が急速に進行するALS患者の療養において,症状管理や環境調整を代償する他者が患者の外的交渉を捉える実践と両立するには工夫が必要である.今後の研究において,患者の身体機能の維持・改善と共に外的交渉や適応プロセスの促進を目的にした看護実践がもたらす影響が明らかになれば,コントロール感覚の維持を図り続けるALS患者を支援する他者として看護師が機能するための重要な示唆をもたらすと考える.
2. 今後の研究上の課題調査への回答にも他者の介入を必要とするALS患者の語りからコントロールシステムを捉えるためには,調査者のはたらきかけや調査時の環境特性が語りに与える影響を考慮することが今後の研究上の課題である.今後は,コミュニケーション困難なALS患者の交渉を支える症状管理や環境調整,呼吸機能を整えて外的交渉を「待つ」実践から相互作用を捉える看護学の視座の必要性が示唆された.
PCTの枠組みを活用したメタ統合により,喪失を多様な階層で繰り返し知覚するALS患者のコントロールシステムとして「脅かしを確かめる」「抵抗し撤退し自己に期待する」「病に開かれた世界を進む」が特定された.ALS患者のコントロールシステムにおいて,外的交渉とは,新しい生き方を学び始める契機をもたらすものであり,コントロール感覚を維持するための方法であり,そして,社会的存在としてのアイデンティティを探すプロセスであった.移り変わる環境の中でコントロール感覚の維持に取り組むALS患者の内的・外的交渉の統合的な解釈には,患者の交渉のプロセスを他者や環境との相互作用から捉える看護学の視座が必要であった.
付記:本論文の内容の一部は,第41回日本看護科学学会学術集会において発表した.
謝辞:本研究は,JSPS科研費JP20K11134の助成を受けたものである.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:KWは本研究の着想,デザイン,文献の収集,分析,解釈,論文作成のプロセス全てを主導し執筆した.SHおよびHSは,研究プロセスへの助言,分析と考察に関与し,全ての著者が最終原稿を確認し承認した.