2025 Volume 45 Pages 189-199
COVID-19の感染拡大は,個人から社会全体に至るまで多岐にわたり深刻な影響をもたらした.日本看護科学学会COVID-19看護研究等対策委員会は,COVID-19拡大により生活が一変した社会において,学会として講じるべき対策を検討し,実践することを目的とした時限的な活動を行う委員会として設置された.主な活動は次の3つである:①新型コロナウイルス感染症による日本看護科学学会会員の研究活動への影響と学会に求める支援に関する調査;②取得済み調査データの二次分析・論文執筆を行う学会主導型分担研究プロジェクトの企画・支援;③調査で取得した匿名化個票データの二次利用可能化.本稿では,当委員会が行った活動とその成果を次世代に継承するべく,これらの一連の活動の概要を報告する.また,COVID-19を乗り越えた社会における看護学の研究・学術推進に向けた示唆についても言及したい.
The spread of COVID-19 has had profound and wide-ranging impacts, affecting individuals and society as a whole. In response to these unprecedented challenges, the Japan Academy of Nursing Science (JANS) established the COVID-19 Nursing Research Countermeasures Committee as a temporary body. The committee’s mission was to identify and implement measures that the Academy should take in a society transformed by the pandemic. The committee’s primary activities included the following three initiatives: 1) conducting surveys on the impact of COVID-19 on the research activities of JANS members and the support they require from the Academy; 2) implementing an Academy-led collaborative research project aimed at performing secondary analyses of the collected survey data and producing academic papers; and 3) enabling the secondary use of anonymized individual-level data obtained through the surveys for broader use. In order to preserve the activities conducted by the committee and their findings for future generations, this paper provides an overview of the committee’s activities mentioned above. Furthermore, it discusses insights into promoting nursing research and science in a post-COVID-19 society.
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,2020年に入り世界的に大流行し,個人から社会全体へと多岐にわたり深刻な影響をもたらした.本邦の科学研究者コミュニティにおいても,緊急事態宣言の発令を含むCOVID-19拡大の影響により,徹底した行動制限,外出自粛・休業要請に伴う在宅勤務,遠隔授業,研究活動停止への対処などを余儀なくされた.2020年3月にResearchGateが世界の科学研究者コミュニティ(3,000名)を対象に行った調査(ResearchGate, 2020)によると,COVID-19拡大以前と比較して,「文献の検索および閲覧に費やす時間が増えた」と回答した人が46%,「論文の執筆・投稿に費やす時間が増えた」と回答した人が46%,「教育に費やす時間が減った」と回答した人が61%,といった研究遂行上のポジティブな変化が報告された一方で,「実験や調査にかける時間が減った」と回答した人が52%にのぼり,コミュニティ全体として「知の創出」にかける実質的なエフォートが縮小していた.
しかしながら,COVID-19拡大による影響は同じ科学研究者コミュニティの中でも領域によって異なることが想定された.看護系大学教員の場合,他領域と比較して臨地実習等の教育エフォートが大きいことや,女性の割合が高くライフイベントにより研究活動が阻害されやすいことが従来から指摘されてきた(日本看護科学学会,2013).これらの研究活動上の阻害要因は,COVID-19拡大の影響によりさらに深刻になっていることが考えられた.そのため,看護学研究者コミュニティが経験したCOVID-19拡大による研究活動への影響を明らかにするとともに,必要とする研究活動等の支援策を構築することが喫緊の課題であった.
公益社団法人日本看護科学学会(Japan Academy of Nursing Science[JANS])の定款第2条では「看護学の発展を図り,広く知識の交流に努め,もって人々の健康と福祉に貢献する」ことが目的と定められている.COVID-19看護研究等対策委員会は,COVID-19拡大によって生活が一変した社会において,前述の目的のために学会としてできる対策を検討・実践するために,時限的な活動をする委員会として理事会承認により設置された.
本稿では,COVID-19看護研究等対策委員会が行った一連の活動とその成果を次世代に継承するために,各活動の概要をまとめるとともに,委員会が行った会員対象の調査およびその二次分析から明らかになったCOVID-19拡大下における看護学研究者の活動への短期的・長期的影響と学会に求められた支援を概括する.これらの活動に基づく成果を踏まえながら,COVID-19を乗り越えた社会における看護学の研究・学術推進に向けた示唆についても言及する.
COVID-19看護研究等対策委員会が行った主な活動や調査報告書等については,日本看護科学学会ホームページ内のCOVID-19看護研究等対策委員会WEBページに掲載されている(日本看護科学学会,2020).ここでは,1)新型コロナウイルス感染症による日本看護科学学会(JANS)会員の研究活動への影響と学会に求める支援に関する調査,2)取得済み調査データの二次分析・論文執筆を行う学会主導型分担研究プロジェクト,3)調査で取得した匿名化個票データ(自由記述回答データを除く)の二次利用可能化について紹介する.また,これらの一連の活動については,4)第44回日本看護科学学会学術集会での交流集会において報告と討論を行った.
1. 新型コロナウイルス感染症による日本看護科学学会(JANS)会員の研究活動への影響と学会に求める支援に関する調査 1) 調査の概要本調査は,本邦最大規模の看護学研究者コミュニティである日本看護科学学会の正会員を対象にオンラインの縦断アンケート調査を行い,COVID-19拡大による研究活動への短期的・長期的影響および学会に求める支援の内容を明らかにすることを目的とした.
第1回調査を2020年7月1日から8月10日にかけて,第2回調査を2022年3月1日から3月31日にかけて実施した.本調査は宮崎大学医学部医の倫理委員会の承認のもと実施し(審査番号:O-0733-6),オンライン調査は日本看護科学学会の会員管理システムを用いたメール配信ならびに学会ホームページ上で周知し,調査フォーム内に設けられた同意の意思表示を確認する項目への押下により,参加者の自由意思による同意が得られたものとした.第1回調査では正会員9,524名のうち1,532名(回収率:16.1%)から,第2回調査では10,041名のうち899名(回収率:9.0%)から同意を取得した.以下に結果の概要と考察を述べる(各調査の詳細な報告書:日本看護科学学会,2023a, 2023b).
2) 調査結果の概要:COVID-19が研究活動に及ぼした影響COVID-19拡大前と比較した調査時点での各活動に費やす時間の変化をみると(図1),第1回調査(2020年)では69.8%が「教育」に費やす時間が増えた/とても増えたと回答し,在宅でも実施可能な「文献検索」「論文執筆」に費やす時間も減った/とても減ったと回答した者が多かったことは,科学研究者コミュニティを対象としたResearchGate(2020)の調査と真逆の結果であった.また,「調査・実験」に費やす時間は73.4%が減った/とても減ったと回答しており,ResearchGate(2020)の調査結果(52.0%)よりも深刻な状況であった.第2回調査(2022年)では若干の改善を認めたものの,COVID-19拡大前と比較して,「調査・実験」に費やす時間は63.7%が減った/とても減ったと回答しており,同様の傾向が継続していた(図1).
注:日本看護科学学会調査では,COVID-19拡大前(2020年2月以前)と比較した調査時点直近3ヶ月(第1回調査:2020年4月~6月,第2回調査:2021年12月~2022年2月)の状況を尋ねた.
第1回・第2回調査の回答傾向を比較したところ,「全体の研究活動に費やす時間がやや減った/とても減った」と回答した者の割合は65.2%から54.4%へと,「全体の研究活動がやや阻害された/とても阻害された」と回答した者の割合は81.9%から69.3%へと減少傾向が見られたものの,半数以上で研究活動への悪影響が続いていた.第2回調査において研究活動の阻害要因として回答割合が高かったものは,「研究対象者との対面接触の困難(67.6%)」であり,次いで「国内の移動手段の確保や出張の困難(68.2%)」「調査対象施設への出入りの困難(66.9%)」であった.阻害要因の中で,これら臨床現場での研究実施や研究者同士のコミュニケーションの困難さが突出していた結果は,第1回調査でも同様であった.
第1回・第2回調査ともに8割の回答者が研究活動に不安を抱えていた.自由記述の回答結果からは,研究活動様式の変容の難しさや,感染流行の長期化・再感染拡大リスク下での活動に対する精神的負担の増大などが影響していたことが伺えた.
その一方で,回答者の中にはこのような困難な状況下において,看護の対象や社会情勢のニーズに対応すべく,新たな研究テーマの設定,方法論の選択,研究チーム編成といった様々な創意工夫を試みながら活動を展開している者もいた.自由記述回答では,情報通信技術(Information and Communication Technology: ICT)を効果的に活用し,データ収集や介入を行った,研究者連携を図ったなどの記述が多く見られた.このような体験は,研究者自身が活動を継続し,新規展開していくための糧となると考えられる.本調査結果で共有された工夫や知恵は,新興感染症感染拡大を含めた非常事態下において研究活動に不安を抱えている看護学研究者に対し,課題解決に向けたヒントを与え,活動を動機づけるものと考えられる.
3) 調査結果の概要:パンデミック初期・ウィズコロナ時期に学会に求められた研究活動支援第2回調査において,日本看護科学学会の各委員会が実施していた会員向けの研究活動支援(11の支援)への関心を尋ねたところ,特に会員の関心が高かったのは「オンラインJANSセミナー(79.0%)」であり,次いで「和文誌迅速査読制度(62.0%)」「英文誌迅速査読制度(56.0%)」であった.前述のように,第2回調査において研究活動に不安を抱える研究者が大半であったことから,ウィズコロナ時代において研究に関する学びや新しい研究アイディアの着想を得たり,研究活動の実際を共有したりしやすい環境整備,研究成果の普及,実績の積み重ねによる研究者キャリアアップに資する支援が求められていたと考えられる.
一方,関心が低かったのは,若手研究者(キャリア初期の研究者)を対象とした取り組みである「若手研究者助成(海外留学のための助成)(29.1%)」「若手研究者助成(国際学会への出席のための助成)(34.7%)」「若手メーリングリスト(26.1%)」などであった.この背景には,海外渡航が難しい状況があるものの,本調査対象者に占める45歳以下/未満の研究者の割合が低かったことや,このような取り組みに対する会員の認知度や関心が低かったことが考えられる.そのため,日本看護科学学会が取り組む若手研究者対象の支援については,若手研究者のみならず,彼らを支援するシニア研究者への啓発も図り,活用を促進する必要がある.さらには,会員向けの11の研究活動支援のうち,「とても関心がある/やや関心がある」の回答割合が4割を超えたのは6つであった.今後は各委員会が実施している研究活動支援の周知を図るとともに,各研究活動支援における好事例(ロールモデルを含む)や成果を公開し,会員が取り組みに対して魅力を感じ,関心を高めるような働きかけを行い,さらなる取り組みの充実に繋げる必要がある.
4) COVID-19看護研究等対策委員会委員による二次分析論文上記の調査で得られたデータを用いて,COVID-19看護研究等対策委員会委員による二次分析が行われ,2編の査読つき論文として公表された(Yoshinaga et al., 2022;Kazawa et al., 2025).表1に各論文の概要をまとめている.
著者 | 目的 | 分析対象 | 分析方法 | 主な結果 |
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Yoshinaga et al. (2022) | COVID-19拡大前と比較して,第一波(2020年4月~6月)における看護系大学教員の研究活動に費やす時間がどのように変化したかと,研究活動時間の減少に関連する個人的・職業的要因を明らかにする. | 第1回調査に協力した看護系大学の常勤教員(1,023名[全回答者の66.8%]). | 全体の研究活動に費やす時間の変化,各活動に費やす時間の変化,エフォート配分状況について記述統計量を算出した.さらに,全体の研究活動に費やす時間の減少(減った/とても減った)に関連する個人的・職業的要因を検討するために,ロジスティック回帰分析を行った. | 71.1%が「全体の研究活動に費やす時間」を減った/とても減ったと回答した.各活動内容をみると,特に費やす時間が減った/とても減ったと回答した者の割合が高かったのは「学会・会合参加(79.6%)」「調査・実験(77.4%)」であった.対照的に,「教育」に費やす時間は81.2%が増えた/とても増えたと回答した.COVID-19第一波におけるエフォート配分をみても,最も多くのエフォートを占めていたのは「教育」であった.ロジスティック回帰分析の結果,「私立大学に勤務」「教授・准教授・講師」「科研費を獲得している」といった要因が,全体の研究活動に費やす時間の減少に関連していた. |
Kazawa et al. (2025) | COVID-19パンデミックの約2年間における,看護研究者の研究活動を阻害する要因の変化を明らかにする.また研究活動の状況に応じた心理的苦痛について検討する. | 第1回,第2回調査に協力し,かつ調査時に大学に所属していた321名[全回答者の78.5%]). | まず対象者を2年間の活動状況の変化から,4群に分類した.その後,4群間の第1回調査時の属性,阻害要因の影響度合い,第2回調査時のK6得点を比較するために,χ2検定,Kruskal-Wallis検定を行った.さらに,群内の第1,2回調査時の阻害要因の影響度合いの違いを明らかにするために,Wilcoxonの符号付き順位検定を行った. | 対象者は,研究活動が[良い状態維持群(9.0%)],[改善群(18.4%)],[悪化群(6.9%)],[困難継続群(65.7%)]に分類された.第1回調査時の阻害要因の影響度合いを4群間で比較すると,[良い状態維持群]は全ての要因において他の群より影響度合いが少ない傾向にあった.また[改善群]では,第1・2回調査の比較で,阻害要因の1つである「ICTの習熟の必要性・周囲への支援」の影響度合いが統計的有意に改善していた.「家族の役割遂行時間の増大や遂行に関する葛藤」の影響度合いでは,[良い状態維持群]と[改善群]が改善傾向を示したものの,他の2群はほぼ変化がみられなかった. |
第1回調査において,回答者が日本看護科学学会に求める支援として「JANSが行う会員向け調査データのオープンソース化(82.8%)」が多く挙げられていたことからヒントを得て,「新型コロナウイルス感染症による日本看護科学学会(JANS)会員の研究活動への影響と学会に求める支援に関する調査」で得られたデータについて,二次分析および論文執筆を行う会員を募集した.第1回・第2回調査で得られたデータは,当初オープンソース化することを前提として取得したものではなかったため,分担研究としての枠組みで実施した.第1期の募集では第1回調査データを二次分析する指定課題型2件と自由課題型4件を,第2期では第2回調査データを含めた二次分析を行う自由課題型4件を採択した(表2).なお第2期では,次項で述べる「調査で取得した匿名化個票データ(自由記述回答データ除く)の二次利用可能化」を計画していたことから,自由記述回答の分析を中心に行うこととした.
第1期プロジェクトメンバー | |
指定課題型①(「会員の研究活動の阻害要因」に着目した分析) | 代表者:加澤佳奈(広島大学) 共同研究者:新福洋子(広島大学) |
指定課題型②(「会員がJANSに求める支援」に着目した分析) | 代表者:田中浩二(金沢大学) 共同研究者:浅田優也(金沢大学),長田恭子(金沢大学),高橋裕太朗(金沢大学) |
自由課題型① | 代表者:井上円(Curtin University・女子栄養大学・Royal Perth Hospital) 共同研究者:東平日出夫(Curtin University・The University of Western Australia),松原まなみ(関西国際大学) |
自由課題型② | 代表者:竹内文乃(慶應義塾大学) 共同研究者:横田慎一郎(東京大学),友滝愛(国立看護大学校) |
自由課題型③ | 代表者:天野薫(名古屋市立大学) 共同研究者:森本浩史(名古屋市立大学),渡邉梨央(名古屋市立大学),佐藤浩二(刈谷豊田総合病院) |
自由課題型④ | 代表者:李錦純(関西医科大学) 共同研究者:酒井ひろ子(関西医科大学),川嵜有紀(関西医科大学),髙橋芙沙子(関西医科大学) |
第2期プロジェクトメンバー | |
自由課題型① | 代表者:三苫美和(兵庫医科大学) |
自由課題型② | 代表者:大橋渉(愛知医科大学) 共同研究者:谷口千枝(愛知医科大学),佐藤優子(四日市看護医療大学) |
自由課題型③ | 代表者:原あずみ(日本赤十字看護大学) |
自由課題型④ | 代表者:永井智子(目白大学) 共同研究者:佐々木綾花(目白大学),安斎ひとみ(目白大学) |
注:所属は採択時のもの
採択された研究者は,「新型コロナウイルス感染症による日本看護科学学会(JANS)会員の研究活動への影響と学会に求める支援に関する調査」の実施にあたり宮崎大学医学部医の倫理委員会に提出していた研究計画書に分担研究者として含め,主機関および各所属機関での承認および実施許可を得た上で,日本看護科学学会事務所から個人が匿名化されたデータを共有し,分析を行った.
各プロジェクトチームの二次分析結果を学会発表あるいは論文投稿するにあたっては,重複出版・サラミ出版とならないよう,COVID-19看護研究等対策委員会ならびにチームメンバー全体で分析計画立案段階から十分な議論を行うとともに,医学雑誌編集者国際委員会(International Committee of Medical Journal Editors: ICMJE)の推奨に従うなど,細心の注意を払った.また,ICMJEが提唱する著者資格・基準を遵守し,COVID-19看護研究等対策委員会の委員のうち実質的な貢献を行った者のみが発表論文の共著者に含まれている.
2) 学会主導型分担研究プロジェクトによる二次分析論文第1回・第2回調査データを用いて,「取得済み調査データの二次分析・論文執筆を行う学会主導型分担研究プロジェクト」として様々な観点からの分析を行い,2025年2月末日時点で計9編の査読つき論文として公表されている(天野ら,2021;Kazawa et al., 2022;Inoue et al., 2022;Inoue et al., 2023;Takeuchi et al., 2022;Nagata et al., 2022;Lee et al., 2023;Mitoma et al., 2024;原ら,2024).第1期および第2期プロジェクトメンバーによる各論文の概要を,それぞれ表3と表4に示す.その他,第2期プロジェクトにおいて2チームが論文を作成・投稿中である.
著者 | 目的 | 分析対象 | 分析方法 | 主な結果 |
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天野ら(2021) | COVID-19拡大下(2020年4月~6月)における看護研究活動の阻害要因と促進要因を明らかにする. | 第1回調査に協力した回答者のうち,自由記載項目に1項目以上回答した者(554名[全回答者の36.2%]). | 研究活動が阻害された要因,研究活動への不安,研究活動が阻害されなかった理由,肯定的変化,研究活動に有効と考える方法,科学研究費補助事業の申請への影響に関する自由記述回答を分析対象とし,研究プロセス(①構想段階・②計画段階・③実証段階・④分析段階・⑤普及段階)を分析枠組みとして,看護研究活動の阻害要因と促進要因の内容分析を行った. | 各研究プロセスの阻害要因として12カテゴリーが導かれた:【研究の基盤構築に欠かせない知見獲得の機会縮小】【COVID-19への対応が優先される社会情勢への困惑】【研究スケジュールの遅延を招く研究環境の悪化】【研究への従来の取り組み方が通用しないことによる心理的負担】【研究計画の実行可能性に対する不確かさ】【制約による調査実施の限界】【研究者と研究参加者双方に生じる負担への懸念】【調査にかける時間の欠如】【分析に活用できる資源の不足】【分析の妥当性の限界】【研究成果公表の機会と資源の確保困難】【研究成果公表への志向のゆらぎ】.各研究プロセスの促進要因として7カテゴリーが導かれた:【見識の深化を可能にする機会と資源の活用】【新たな研究課題を開拓する契機という認知】【今できることを意識した時間配分】【既存の価値観に囚われない発想の転換】【負担軽減と成果を両立した調査方法】【分析に意識を向けられるゆとり】【研究成果公表に向けた選択と集中】 |
Kazawa et al. (2022) | COVID-19拡大下(2020年4月~6月)における若手看護研究者(45歳以下)における研究活動阻害のパターンと決定要因を明らかにする.さらに,若手研究者の特徴を理解するために,シニア看護研究者と阻害状況を比較する. | 第1回調査に協力した回答者のうち,回答欠損を除く1,201名[全回答者の78.4%]). | 研究活動への影響と個人・職業属性との関連をクロス集計で分析した.その後,目的変数を「COVID-19拡大下において研究活動が阻害されたか否か」,説明変数を個人・職業属性としたCHAID(Chi-squared Automatic Interaction Detection)を用い,活動の阻害要因の抽出と母集団分類を行った. | COVID-19拡大が若手看護研究者の研究活動を阻害する要因として,「研究マネジメントの困難さ」「学生教育や組織マネジメントの負担の増加」「職位」の影響度合いが大きいことがわかった.また,若手看護研究者とシニア看護研究者の特徴を比較すると,両方において研究活動を阻害する最も大きな要因は「研究マネジメントの困難さ」であった.しかし,職位は若手看護研究者のみで抽出された. |
Inoue et al. (2022) | COVID-19拡大下(2020年4月~6月)における研究活動の阻害要因と相談相手について,研究・教育機関と臨床機関に勤務する者でどのような違いがあるかを比較検討すること. | 第1回調査に協力した回答者のうち,研究・教育機関または臨床機関のいずれかに勤務し,かつ,COVID-19拡大下で全体の研究活動がとても阻害された/やや阻害されたと回答した者(1,138名[全回答者の74.2%]) | ロジスティック回帰モデルから算出された傾向スコアに基づき,研究・教育現場勤務者と臨床現場勤務者で1:1の比率でマッチングした.さらに,COVID-19拡大下における研究活動の阻害要因と相談相手を独立変数とし,カイ二乗検定またはフィッシャーの正確確立検定により比較した. | 臨床現場勤務者と比較して,研究・教育現場勤務者では,①授業形態の変更に伴う時間,②新たなICTの知識や技術習得のための時間,③ICT関連で困っている同僚のサポート時間が,COVID-19拡大下における研究活動を阻害していた.相談相手がいないと回答した者の割合は,研究・教育現場勤務者で16.8%,臨床現場勤務者が19.6%であった. |
Inoue et al. (2023) | COVID-19拡大下(2020年4月~6月)における研究活動の阻害理由に関する自由記述回答から潜在的なトピックを導き出し,研究・教育機関と臨床機関に勤務する者でのトピックの類似点と相違点を検討すること. | 第1回調査に協力した回答者のうち,COVID-19拡大下における研究活動の阻害要因についての自由記述に回答した者(201名[全回答者の13.1%]) | 回答者を研究・教育現場勤務者と臨床現場勤務者に分類した後,潜在的ディリクレ配分法(LDA)トピックモデリングにより,自由記述回答から潜在的なトピックを統計的に抽出した.さらに,主成分分析(PCA)により類似のトピックを整理した後,キーワード・テキストをもとにトピックに関連したテーマを導き出し,グループ間の類似点と相違点を検討した. | 潜在的ディリクレ配分法(LDA)により,研究・教育現場勤務者では8つの潜在的トピックが特定され,これらは主成分分析(PCA)により4つのテーマに再グループ化された(【研究支援環境の停滞】【見通しが立たない自分の将来】【 制限の影響】【研究実施上の障壁】).臨床現場勤務者では,3つの潜在的トピックが特定されたが,回答数が少なかったため主成分分析(PCA)は実施されず,3つがテーマとなった(【研究実施上の障壁】【臨床業務の負担増加】【学習/教育機会の障壁】.研究・教育現場勤務者と臨床現場勤務者で共通していたテーマは【研究実施上の障壁】であった. |
Takeuchi et al. (2022) | COVID-19拡大下(2020年4月~6月)において,看護学研究者の個人的要因(性別,パートナー・配偶者との同居,育児,介護などの状況)が研究活動に与えた影響を検討する. | 第1回調査に協力した回答者のうち,性別に関する回答があり,かつ,2020年3月から6月に就職・転職・退職していない者(1,273名[全回答者の83.1%]) | コロナ禍の研究活動に影響したネガティブな要因に関する33項目,ポジティブな要因に関する17項目について,因子分析を用いて,各対象者をタイプ分けした.さらに,「コロナ禍以降,研究活動の阻害の有無」に関連する要因を探索するため,研究に影響したネガティブな要因タイプ・ポジティブな要因タイプ,その他対象者の属性変数を説明変数としたロジスティック回帰を用いて分析した. | 因子分析の結果,各対象者は,それぞれ次のポジティブタイプ・ネガティブタイプに分類された:ポジティブタイプ(タイプ1:研究時間の創出,タイプ2:情報通信技術(ICT)による機会創出・コミュニケーション増加,タイプ3:新しいアイディア),ネガティブタイプ(タイプ1:研究・教育時間に関する物理的要因,タイプ2:研究・コミュニケーションにおける移動制限,タイプ3:家族の問題・精神的健康状態).ロジスティック回帰分析の結果,COVID-19拡大下で,研究意欲の低下,利用可能な時間の減少時間が,日本の看護研究者の研究活動を阻害していた.また対象者のタイプ別では,例えば,ネガティブタイプ1の集団(研究・教育時間に関する物理的要因)は,ネガティブタイプ3の集団(家族の問題・精神的健康状態)よりも,研究活動が阻害されていると感じていた.一方で,配偶者やパートナーとの同居,子育てや介護の有無は,統計的に有意ではなかった. |
Nagata et al. (2022) | COVID-19拡大下(2020年4月~6月)において,看護学研究者が学会に求める研究活動支援および関連する人口統計学的特徴を明らかにすること. | 第1回調査に協力した回答者のうち,学会に求める支援に関する質問項目の欠損値がない者(1,215名[79.3%]) | COVID-19拡大下におけて学会に求める研究活動支援(19項目)について記述統計量を算出した.つぎに,求める研究活動支援の項目数と人口統計学的特徴の関連を検討するために,共分散分析を行った.さらに,人口統計学的特徴(求める研究活動支援の項目数と関連があったもの)と学会求める各研究活動支援の関連をロジスティック回帰分析に検討した.最後に,学会に求める研究活動支援に関する自由記述回答について,質的帰納的内容分析によりカテゴリーを抽出した. | COVID-19拡大下におけて学会に求める研究活動支援19項目のうち,50%以上の回答者の必要/とても必要と回答したのは9項目であった(「オンラインで参加できるセミナーや研修機会の充実(80.9%)」「コロナ禍における効果的な教育方法の研修(71.0%)」「JANSが行う会員向け調査データのオープンソース化(57.8%)」「会員の所属組織に向けた教員のICT習熟を促進するための提言(57.2%)」「コロナ禍を含む非常時に活用可能な研究方法についての研修(54.5%)」「コロナ禍を含む深刻な健康課題が発生した状況において研究と教育・実践・政策の連動を促進するネットワークの構築(51.9%)」).また,45歳以下の研究者や介護に携わる研究者は,そうでない者と比較して,学会に求める研究活動支援の項目数が多く,また,これらの特性の違いにより必要とする支援も異なっていた.自由記述回答の分析結果からは,5つのカテゴリーが導き出された(【業務体制および雇用形態に関する提言】【研究実施に関する規制の改正を求める働きかけ】【社会的役割と家庭の両立支援】【研究および教育活動推進の支援】【他機関との連携および情報共有の支援】). |
Lee et al. (2023) | COVID-19拡大下(2020年4月~6月)において,看護学研究者の研究活動に影響を与える人口統計学的特徴等を探索する予測モデルを構築し評価すること. | 第1回調査に協力した回答者のうち,「研究活動への意欲」と「研究活動に費やした時間」に関する質問項目に回答した看護系大学の常勤教員(1,089名[全回答者の71.1%]). | 回答者をトレーニングデータセットとテストデータセットに分けた.トレーニングデータセットでは人工知能予測分析ツールを使用して,「研究活動への意欲」と「研究活動に費やす時間」に関する予測モデルを構築し,予測因子には人口統計学的特徴を含めた.モデルの適合度は順序ロジスティック回帰分析により評価し,外部妥当性はテストデータセットを使用して評価した. | 各予測モデルの精度と適合度は良好であった.予測寄与分析では,「研究意欲の向上なし」と「研究時間に費やす時間の増加なし」は,相互に強く影響していた.「研究意欲の向上なし」への予測寄与度が高かったその他の因子は「特別警戒地域外に在住」「講師」であり,「研究時間に費やす時間の増加なし」への予測寄与度が高かったその他の因子は「配偶者」「パートナーと同居」「准教授」であった. |
著者 | 目的 | 分析対象 | 分析方法 | 主な結果 |
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Mitoma et al. (2024) | COVID-19拡大下における看護学研究者の研究活動に対する不安が,2020年4月~6月時点(第1回調査)と2021年12月~2022年2月時点(第2回調査)でどのように変化しているか検討すること. | 第1回・第2回調査に協力した者(1,532名と899名[全回答者]) | 第1回・第2回調査における「研究活動についての不安」の回答結果について記述統計量を算出した.さらに,「研究活動についての不安」に関する自由記述回答については,テキストマイニングとして単語出現頻度解析,構文解析,単語間の共起ネットワーク分析を行った. | 研究活動への不安を抱いていた回答者割合は,第1回調査では89%,第2回調査では80%であった.第1回・第2回調査ともに不安があると回答した者の割合が多かった項目は「研究データ収集の難しさ」と「研究の内容や質」であった.また,第1回調査と比較して,第2回調査で不安があると回答した者の割合が特に増加していたのは「コロナ禍における労務管理の不十分さによる精神的・身体的疲弊(2.9%増加)」「研究データ収集の難しさ(1.6%増加)」「教育・研究職への就職1.4%増加」であった.テキストマイニング分析の結果,看護学研究者は第1回調査ではCOVID-19拡大下で研究を進める上での環境変化や制限を不安に感じており,第2回調査では学位取得や就職・キャリアアップ,研究成果への不安といった将来への不安へと移行していたことが明らかとなった. |
原ら(2024) | COVID-19拡大から約2年が経過した時点で(2020年4月~6月:第2回調査)において,看護系大学教員が肯定的変化と関連要因をどのように認識しているかを明らかにすること. | 第1回・第2回調査に協力した回答者のうち,「肯定的な変化」等の自由記述項目に回答した看護系大学の常勤教員(355名[全回答者の39.5%]) | 「肯定的な変化」「研究活動が阻害されなかった理由」「研究活動を円滑に進めるための工夫」「研究者と実践家の協働」等の自由記述回答を分析対象とした.これらの自由記述回答から,研究活動上の肯定的変化と関連要因が記述されている箇所をまとまりとして抜き出し,質的内容分析を行った. | COVID-19拡大下で看護系大学教員が認識する研究活動上の肯定的変化として5つのカテゴリーが同定された(【オンライン/デジタル化による研究活動の効率化】【研究活動にかかる経費の削減】【研究活動上の選択肢の拡大】【研究関係者間のコミュニケーションの促進】【仕事や研究活動に関する価値の捉え直し】).また,これらの肯定的変化の関連要因として,5つの個人要因(【研究実施を目指した柔軟な思考・行動】【オンライン技術の活用による研究活動円滑化のための工夫】【研究活動のための資源の確保】【研究関係者とのつながりの維持】【研究実施に伴う感染リスクへの配慮】)と,2つの環境要因(【職場の上司や周りの人たちの支援】【COVID-19を契機とする働き方や生活環境の変化】)が明らかとなった. |
「新型コロナウイルス感染症による日本看護科学学会(JANS)会員の研究活動への影響と学会に求める支援に関する調査」で取得したデータの社会的意義や公益的な側面を考慮し,日本看護科学学会の理事会の承認を得た上で,自由記述回答結果を除き,匿名化処理した個票データを東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センターに寄託した(Social Science Japan Data Archive, 2023a, 2023b).データ寄託にあたっては,「新型コロナウイルス感染症による日本看護科学学会(JANS)会員の研究活動への影響と学会に求める支援に関する調査」の実施にあたり宮崎大学医学部医の倫理委員会に提出していた研究計画書の「目的外使用(情報の二次利用)」について修正・承認を受けた後,日本看護科学学会のホームページならびに会員管理システムを用いたメール配信を通して,1)調査データの利用に関する研究計画が変更されたこと,2)寄託される情報の内容,3)データの提供を拒否できることについて,事前に調査協力者(会員)に広く周知・公表するとともに,可能な限り拒否の機会を保障するオプトアウトの手続きを経た.
この二次利用可能データは,学術研究・教育目的の利用であり,かつ,大学または公的研究機関の研究者,教員の指導を受けた大学院生・学生であれば,日本看護科学学会の会員以外でも申請に基づき利用できる.2025年2月末日時点で,20件の利用申請(延長利用含む)があった.この二次利用可能データを用いた成果物(論文等)は,各申請者による東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センターへの報告が義務付けられているため,情報を入手次第,日本看護科学学会のホームページでも随時公開していく.
4. 第44回日本看護科学学会学術集会における交流集会での報告・総合討論第44回日本看護科学学会学術集会(2024年12月7日)において,「COVID-19看護研究等対策委員会の活動に基づく研究成果から考える研究・学術推進」と題した交流集会を,COVID-19看護研究等対策委員会と研究・学術推進委員会の合同企画として開催した(日本看護科学学会,2020).本交流集会では,COVID-19看護研究等対策委員会の活動趣旨を前委員長の須釜淳子が説明し,つぎに具体的な活動内容と調査結果の概要を現委員長の吉永尚紀が紹介した.その後,具体的な研究成果として,委員の加澤佳奈から第1回・第2回調査の縦断データの二次分析結果(Kazawa et al., 2025)について,第2期学会主導型分担研究プロジェクトに参加した原あずみから第2回調査の自由記述回答を二次分析した結果(原ら,2024)が紹介された.総合討論では,研究・学術推進委員会のグライナー智恵子委員と落合亮太委員がコメンテーターとして登壇し,COVID-19拡大下において日本看護科学学会の各委員会が取り組んだ会員への研究活動支援の効果や,COVID-19拡大下において看護学研究者(特に看護系大学教員)が直面した困難について意見交換を行った.以下に,総合討論の内容を概括する.
日本看護科学学会は2020年以降,第1回調査結果などから得られた会員のニーズや社会情勢の変化に応じた形で,オンラインでのJANSセミナーの開催,学会誌迅速査読制度の設置・周知,研究費獲得支援,研究者のネットワーク構築支援などを行ってきた.長期化したCOVID-19の影響下において,調査・介入を前提としない既存のデータや文献を活用する研究が世界的に活発になった.実際に2020年以降のJANSセミナーでは,既存データやオープンデータの利活用,看護実践のデジタルトランスフォーメーション,既存のエビデンスの統合による診療ガイドライン作成といった,トレンドの変化に対応したテーマを扱ってきたといえる.また,第1回・第2回調査ともに,回答者のうち大学院生が占める割合と,COVID-19拡大下において「自身の学位取得の遅れ」について不安があると回答した者の割合が,ともに20%前後であったことを踏まえると,本学会の和文誌迅速査読制度・英文誌迅速査読制度も有効であったと考える.これらの支援策は,前述の通り第2回調査において回答者からの関心が高かったトップ3であり,次世代の看護学研究者の育成・輩出に資するものだろう.アフターコロナ時代においても,会員のニーズや社会情勢の変化を把握しながら,学会としてできるタイムリーな研究活動の支援策を講じていく必要がある.
また,COVID-19看護研究等対策委員会が会員対象に行った調査データについて,二次的な分析・論文執筆を行う学会主導型分担研究の枠組みの構築と,匿名化個票データをオープンソース化した取り組みは画期的だったとの意見が複数挙がった.今回の会員向けオンライン調査は,当学会の研究・学術情報委員会(現:研究・学術推進委員会)が2013年に行った「若手看護学研究者の研究実施状況に関する調査(日本看護科学学会研究・学術情報委員会,2013)」の実施プロセスを参考にしており,また,同調査の報告書において「学会主導型の研究プロジェクトの実施」が提言されていたことから着想を得て,学会主導型分担研究プロジェクトの実施に至った.一方で,COVID-19看護研究等対策委員会が行った調査で用いたアンケート項目は,COVID-19第一波の最中で委員会メンバーが作成したものであり,COVID-19による会員への影響と支援ニーズを即座に把握することを優先したため,十分な準備期間がなかったことは課題である.今後の学会主導型分担研究プロジェクトや学会主導の調査で取得したデータのオープンソース化の拡充に向けては,会員を対象とした調査テーマを計画段階から公募し,特に公益性の高いテーマをいくつか選定した上で調査を実施し,主導研究者の主解析結果が論文として公開された直後に,個票データをオープンソース化するといった方法が考えられるだろう.
日本学術会議(2023)は,今後20~30年まで先を見据えた学術振興の複数の「グランドビジョン」と,その実現の観点から必要となる「学術の中長期研究戦略」から成る「未来の学術振興構想(2023年版)」を策定し,提言としてまとめた.特に看護学との関連が深い「グランドビジョン⑤:生命現象の包括的理解による真のWell-beingの創出」では,オープンサイエンスがキーワードの一つに挙げられている.また,グランドビジョン⑤の具体的な研究構想の一つである「No 34.相互支援による地域共生社会の成熟・深化に向けたケアサイエンス研究ネットワーク拠点」では,全ての市民がケアを共創する統合的ケアサイエンスの理論とネットワークを構築することの重要性が述べられている(日本学術会議,2023).加えて,同年には日本学術会議健康・生活科学委員会看護学分科会(2023)は,COVID-19拡大によって本邦の医療システムの脆弱性や,社会的弱者と呼ばれる人々への医療提供の公平性の課題が顕在化したことを踏まえ,「持続可能な社会に貢献する看護デジタルトランスフォーメーション」を報告としてまとめている.COVID-19を乗り越えた社会において,これらの「オープンサイエンス」「共創/患者・市民参画」「デジタルトランスフォーメーション」といったキーワードも念頭に置きながら,日本看護科学学会として看護学の研究・学術推進を図っていく必要があるだろう.これを実現するためには,看護学領域に限らない他の関連学会や団体とのコラボレーションや共同研究プロジェクトなども重要となるだろう.
また日本看護科学学会は,次世代の看護学研究者の育成に力を入れており,「若手研究者活動推進委員会」として独立した委員会を有する.2014年に日本学術会議健康・生活科学委員会看護学分科会(2014)が発表した提言「ケアの時代を先導する若手看護学研究者の育成」では,ケアの重要性が高まるこの時代において,健康課題の解決に果敢にチャレンジできる次世代の看護学研究者の人材育成が不可欠としており,そのために必要な環境・体制として「異分野融合研究・教育環境の醸成」「国際教育研究連携強化」「大学院における研究遂行力の強化」「研究環境の整備拡充」を挙げている.日本看護科学学会の各委員会が実施している次世代看護学研究者に特化した支援策としては,若手研究者活動推進委員会が行っているJANS若手の会,JANSセミナー,学術集会における交流集会のほか,学術集会における若手優秀演題口頭発表賞(表彰論文選考委員会),若手研究者助成(若手研究者助成選考委員会),和文誌・英文誌における迅速査読制度(和文誌編集委員会・英文誌編集委員会),JANS国際メンターシッププログラム(国際活動推進委員会)など多岐にわたる.これらに加え,前述の「学会主導型の研究プロジェクトの実施」については今後の取り組みが期待され,若手研究者活動推進委員会および関連委員会が連携しながら,次世代看護学研究者を積極的に採択し,新たな研究ネットワークの構築や研究推進にあたっての支援を学会が行う必要があるだろう.
冒頭で述べた通り,COVID-19看護研究等対策委員会は,COVID-19拡大によって生活が一変した社会において,学会としてできる対策を検討・実践するために時限的(2~3年)な活動をする委員会として設置された.2023年5月5日には,世界保健機関(WHO)がCOVID-19に関する「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の宣言を終了することを発表した.COVID-19看護研究等対策委員会は,2025年度から研究・学術推進委員会に統合され,その活動を引き継ぐ.COVID-19看護研究等対策委員会の一連の活動およびその研究成果を継承・発展させながら学会として看護学の研究・学術推進を図るとともに,今後起こりうる感染症や災害の発生といった非常時においては,継続的な看護学の知の創出に向けた歩みをとめないことを,看護学研究者・会員各々が意識していく必要がある.
付記:本稿の内容の一部は,第41回日本看護科学学会学術集会および第44回日本看護科学学会学術集会において発表した.
謝辞:日本看護科学学会COVID-19看護研究等対策委員会が実施した調査において,COVID-19感染拡大下での臨床,教育,研究,運営業務などでご多忙の中ご協力いただきました日本看護科学学会会員の皆様に心より感謝申し上げます.日本看護科学学会理事会(2019~2020年度・2021~2022年度・2023~2024年度)の皆様には,当委員会の活動にあたって多大なご支援を賜りました.日本看護科学学会事務所の有田孝行事務所長と吉川めぐむ様には,オンライン調査フォームの構築ならびに調査実施にあたっての支援を頂きました.また,「取得済み調査データの二次分析・論文執筆を行う学会主導型分担研究プロジェクト」に参画してくださった先生方に感謝申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:吉永尚紀,須釜淳子,加澤佳奈,池田真理,新福洋子,田中マキ子,友滝愛,仲上豪二朗,深堀浩樹,横田慎一郎は,日本看護科学学会COVID-19看護研究等対策委員会として会員を対象とした調査の実施・分析・報告書作成,取得済み調査データの二次分析・論文執筆を行う学会主導型分担研究プロジェクトの企画・支援,取得した匿名化個票データのオープンソース化に関わり,また本稿の執筆に貢献した.すべての著者が最終原稿を確認し,承認した.