Journal of Japan Academy of Nursing Science
Online ISSN : 2185-8888
Print ISSN : 0287-5330
ISSN-L : 0287-5330
Original Articles
Experiences of Mothers Accompanying Their Children With Severe Motor and Intellectual Disabilities for First-Time Blood Collection
Mayumi Okita, Mari Matsuoka, Mayumi Murabata
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2026 Volume 46 Pages 117-124

Details
Abstract

目的:重症心身障害をもつこどもの採血に初めて付き添った母親の体験を明らかにし,言葉で意思を伝えることが難しいこどもの採血に母親が同席する意義を検討することである.

方法:A県内の2施設の小児科外来で,重症心身障害児の採血に初めて付き添った母親10名を対象に半構造化面接を実施し,テーマ分析を用いて分析した.

結果:【動揺】【親としての喜び】【よりよい採血への希求】の3つの主要テーマが抽出された.母親は,医療者の関わりがこどもの特性に合っていないことに戸惑い,こどもの苦痛に共感する一方で,こどもの頑張る姿に成長を感じ,親役割を再認識していた.また,よりよい採血環境を求め,親の参加やこどもの特性を考慮した対応の重要性を認識していた.

結論:本研究は,重症心身障害児の採血における母親の役割と心理的影響を明らかにし,医療者と親が協力することで,より適切な採血支援が可能であることを示唆した.

Translated Abstract

The purpose of this study was to clarify the experiences of mothers who accompanied their children with severe motor and intellectual disabilities for blood collection for the first time and to examine the significance of the mother’s presence during blood collection for children who have difficulty verbally communicating their intentions. Semi-structured interviews were conducted with 10 mothers at two pediatric neurology outpatient clinics. The data were analyzed using thematic analysis.

Three main themes were identified: [distress], [fulfillment as a parent], and [hope for better blood collection]. The mothers expressed frustration by the healthcare providers’ approach, which did not align with their children’s characteristics. The mothers empathized with their children’s pain, found their child’s efforts and growth, and re-recognized their parental role. Additionally, they sought a better blood collection environment and recognized the importance of considering the child’s characteristics and the participation of parents in the process.

Our findings suggest that cooperation between healthcare providers and parents improves blood collection support.

Ⅰ. 緒言

重症心身障害児は,重度の肢体不自由と重度の知的障害とが重複した状態にあるこどもであり,筋緊張亢進やてんかん,側弯・拘縮,呼吸障害,摂食・嚥下障害など様々な障害や合併症を呈するため,姿勢,痙攣などによる痛みを生じやすい(大北,2022).痛みは主観的なものであり,言葉で伝えることが難しい重度の神経障害や認知機能障害をもつこどもの痛みは長い間理解されず,疼痛管理も不十分であったこと(Oberlander & Symons, 2006)や,小児領域の中でも彼らに対する疼痛緩和ケアが最も難しいこと(Warlow & Hain, 2018)が言われている.こどもの繰り返される痛み体験は,精神的および身体的健康に短期的および長期的な影響を及ぼし,心的外傷後ストレス反応の継続(Heden et al., 2016),トラウマ(Kao et al., 2017;Holley et al., 2016)や痛みへの過剰な反応(Martin et al., 2007)をもたらすことが指摘されている.

入院中に多くのこどもが経験する最も激しい痛みは,針関連の処置であった(Palomaa et al., 2023).特に幼児期前期のこどもは,採血の経過をイメージすることができないため不安や緊張が強く,親から離されたことで採血前から泣き出すことが多かった(武田,1998)ことから,認知機能障害をもつ重症心身障害児も同様であることが考えられる.

近年,こどもの処置に親が同席する機会が増え,乳幼児の採血場面では,こどもを安心させ,医療従事者にこどもの気持ちを代弁するなど,母親の主体的な働きかけがこどもの対処行動を引き出す上で重要であったことが明らかになっている(三上ら,2021;吉田,2022).一方,重症心身障害児の採血に関する先行研究は,採血場面でのこどもの行動反応に関する看護師の認識を質的に調査した研究(野口,2008)のみであり,穿刺前から環境の変化等で筋緊張の亢進が生じて穿刺が困難になること,穿刺時には驚いたように反発力が生じること,穿刺後も筋緊張の亢進が持続することが明らかにされたが,親がこどもの痛みをどのように認識して,どのような働きかけをしたのかは明らかにされていない.重症心身障害児は抗てんかん薬の定期的な血中濃度測定など,健康なこどもと比較して採血の機会が多い.ことばで表現することが難しい重症心身障害のこどもだからこそ,母親の採血場面でのかかわりは重要となる.

そこで,本研究の目的は,重症心身障害をもつこどもの採血に初めて付き添った母親の体験を明らかにし,言葉で意思を伝えることが難しいこどもの採血場面に母親が同席することの意義を検討することとした.

Ⅱ. 用語の操作的定義

本研究における体験とは,障害をもつこどもの採血に初めて付き添った母親の感情や考え,認識に影響を与える出来事とした.

Ⅲ. 方法

1. 研究デザイン

質的記述的研究

2. 研究の設定と参加者

本研究は,A県にある小児神経専門外来をもつ2施設の小児科外来で実施した.これらの施設は,普段から親の希望があれば採血時の付き添いが可能であった.参加者の選択基準は,①幼児期から学童期の重症心身障害をもつこどもの採血に付き添った母親,②こどもの障害の程度は,大島分類1~4とした.中途障害や,医療的ケアの有無は問わず,緊急採血の場合は除外した.外来医長または担当医から条件に合致したこどもの母親を紹介してもらい,研究者から研究説明書を用いて研究主題,目的,方法,参加者基準,倫理的配慮等を説明し,同意を得られた方を対象とした.データ収集と分析を並行して進めていたところ,参加者はこどもの採血に「初めて付き添った母親」と「いつも付き添っていた母親」が混在していることに気づいた.両者では体験が異なることを考慮し,本論文では研究参加者15名のうち「初めて付き添った母親」のみを分析対象とした.新たなテーマを生み出す内容が得られなくなったと判断し,10名でリクルートを終了した.

3. データの収集方法

調査期間は2023年3月から7月であった.第一に,基本情報として,こどもの年齢や医療的ケアの有無と種類,在宅療養期間,きょうだいの有無,母親の年代や就業の有無,採血時の付き添い状況に関する回答を得た.次に,インタビューガイドを用いた半構造化面接を実施した.ガイドの内容は,採血前・中・後において,①お子さんはどのような様子だったのか,②その時に母親がどのような感情を抱いたり,気づいたりしたのか,③それに伴って母親は何か行動をとったのか,④母親が行動したことで,こどもに何か変化があったのかであった.参加者には,ガイドに従って自由に語ってもらった.面接は採血直後に実施した.許可を得て録音し,音声データから逐語録を作成した.

4. 分析方法

Braun & Clarke(2006)の6段階のテーマ分析の手法に基づいて行った.テーマ分析は,データ内のパターン(テーマ)を特定しながら分析し,報告する方法である.本研究では,障害をもつこどもの採血に初めて付き添った母親が抱いた特定の認識や行動のパターンを報告するとともに,それらがどのように影響し合っているのかを検討した.その手法は以下の通りである.

①逐語録を作成して読み込み,最初のアイデアを書き留める.

②さらにデータを精読し,興味深いデータの特徴を特定し,初期コードを生成する.

③コードを潜在的なテーマに分類し,特定されたテーマに関連したコードをすべて照合しながらテーマを検索する.

④テーママップを作製し,候補テーマがコード化されたデータの全体の輪郭を適切に捉えることができるまでテーマを検討する.

⑤テーマを定義づけ,命名する.各テーマの詳細と全体的なストーリーを洗練するために継続的に分析することで,各テーマの明確な定義とネーミングが生成される.

⑥レポートを作成することで分析を完成させる.

まず1例を3名の研究者それぞれでコード化し,相違が少ないことを確認してから主研究者が残りの分析を行った.各段階の分析ごとに,複数の研究者で検討を繰り返し,厳密性の確保に努めた.

5. 倫理的配慮

本研究は,三重大学医学部附属病院医学系研究倫理審査委員会(承認番号U2025-019)および調査施設の倫理審査委員会の承認を得て実施した.研究参加者に対し,研究目的,方法,倫理的配慮等について書面および口頭で説明した.研究への参加は自由意思であり,参加しなくても不利益はないこと,同意後の撤回,個人情報の保護を保証し,文書で同意を得た.

Ⅳ. 結果

1. 研究参加者の概要

研究参加者の概要を表1に示した.参加者は10名であり,こどもの年齢は1~11歳で,障害の程度は大島分類1のこどもが9名,分類4のこどもが1名であった.人工呼吸器管理などの医療的ケアを必要とするこどもが9名であった.こどもにきょうだいがいると回答した母親は5名であった.

表1 研究参加者の概要

年齢 こどもの医療的ケアの種類 在宅療養期間
A 30代 人工呼吸器管理,気管切開管理,吸引,胃ろう 3~5年
B 30代 なし 3~5年
C 40代 人工呼吸器管理,気管切開管理,吸引,胃ろう 3~5年
D 30代 人工呼吸器管理,気管切開管理,吸引,胃ろう 1~3年
E 30代 人工呼吸器管理,気管切開管理,吸引,経鼻胃管,導尿 10年以上
F 30代 人工呼吸器管理,気管切開管理,吸引,経鼻胃管 1~3年
G 30代 人工呼吸器管理,気管切開管理,吸引,経鼻胃管 5~7年
H 30代 人工呼吸器管理,気管切開管理,吸引,胃ろう 1年未満
I 30代 人工呼吸器管理,気管切開管理,吸引,胃ろう 3~5年
J 30代 人工呼吸器管理,吸引,胃ろう,腸瘻 7~9年

2. 重症心身障害をもつこどもの採血に初めて付き添った母親の体験

重症心身障害をもつこどもの採血に初めて付き添った母親の体験に関する分析結果を表2に示した.278コードが抽出され,最終的に10のサブテーマをもつ3つの主要テーマが特定された.以下,テーマごとに,サブテーマを〈 〉,研究参加者の語りを斜体で示して説明する.

表2 重症心身障害をもつこどもの採血に初めて付き添った母親の体験

テーマ サブテーマ コード数 人数
動揺 こどもが苦痛を感じている姿を見て辛い気持ちになる 53 10
こどもの特性に合っていない関わりを目の当たりにする 26 9
無力感・自責の念を抱く 15 6
障害のないこどもとの接し方の違いを感じる 10 5
親としての喜び 親役割を実感する 43 9
医療者の心のこもった関わりを嬉しく思う 21 8
こどもの頑張る姿を見て成長を感じる 17 5
よりよい採血への希求 こどもがリラックスして採血に挑めるようにしてほしい 47 10
親の参加を望む 27 8
採血の痛みを最小限にしてほしい 19 8

テーマ1:動揺

重症心身障害をもつこどもの母親は,採血室で,こどもの障害特性に合っていない採血の実際を見たことで,戸惑いや無力感,自責の念などの心の動きを体験した.

〈こどもが苦痛を感じている姿を見て辛い気持ちになる〉

母親はこどもが全身を使って表出する痛みのサインを捉えて,こどもの痛み体験を母親も同じように感じていたことを説明した.

針が刺さった時,こどもに力が入って,心拍が上がって,涙も流していたから,とても痛かったんだと思う(E氏).

こどもが採血されているのをそばでみていると,やっぱり母親としてつらく感じる(H氏).

血管を探すようにぐりぐりされているのを見た時,こどもの痛みを想像して,何とも言えない気持ちになった(D氏)

〈こどもの特性に合っていない関わりを目の当たりにする〉

母親は,採血の穿刺痛だけでなく,自分のこどもの特性を知らない医療者の介入によって,こどもが過度に緊張したり,苦痛を感じたりする場面があったことを説明した.

(こどもの腕は)緊張でぎゅって力が入っていても,時間をかければ自然に伸びるんです.でも,採血しようと(医療者が)こどもの腕を無理やり伸ばそうとするから,余計に力が入ってしまってうまくいかなかった(F氏).

気管切開部にかかるテンションの加減を調整してバギーに乗っているから,処置用ベッドに移乗すると,呼吸が苦しくなって採血どころではなかった(C氏).

〈無力感・自責の念を抱く〉

母親は,こどもに障害があることで,侵襲的な処置を受ける機会が多くなることへの自責の念や,こどもの痛みをとらえても親として何もできない無力感について述べた.

痛いだろうなって思ったけど必要なことだからやらなければならないし,親は応援するしかできないから,何とも言えなかったですね.なんか,歯がゆい感じです(D氏).

採血の回数もやっぱり他の子より断然多いので,『本当にごめんやけど,頑張って!』って言うしかない.それも,自分のせいかなと思う時もある(A氏).

〈障害のないこどもとの接し方の違いを感じる〉

母親は,障害のあるわが子と,障害のないこどもでは,医療者の接し方に違いがあることを目の当たりにし,怒りや諦めの感情が生じたことを報告した.

やっぱり,言葉を話せる子だったら,もうちょっと医療者の方もコミュニケーションすると思うんですよ.だけど,喋れないから.同じように扱ってほしいじゃないけど,喋れなくても,動きとか,表情とかで伝えようとしているから,ほかの子たちと同じように接してほしい(G氏).

やっぱり耳も聞こえず,目も見えないこどもへの対応は難しいから,淡々黙々と接する看護師がいるのは仕方がない(E氏).

テーマ2:親としての喜び

母親は,痛みを伴う処置というネガティブな体験の中でも,こどもが頑張る姿を目の当たりにしたり,親がそばにいたことでこどもが落ち着くのを感じたりしたことで,親としての喜びを得る体験をした.

〈親役割を実感する〉

母親は,こどものことをよく知る親が関わったからこそ,こどもがリラックスして採血を受けることができたり,医療者がこどもの特性を理解することにつながったりしたことを説明した.

こどもがひとりで採血室に入るより,私がいたことで安心しただろうし,結構がんばれたんじゃないかと思う(D氏).

今日は私がいたから,(医療者も)こどものサインに気づくことができていた(C氏).

採血の間,こどもに声をかけたり,手を握ったりして,採血にこどもの気持ちが向くのをそらせるように努めた(B氏).

採血前にこどもの足がピーンってなっていて,身体に力が入って辛そうだったので,足をほぐして曲げてあげるとリラックスできる子なので,(医療者に)「足を曲げてあげてもいいですか?」と聞いてからそうしてあげた(F氏).

〈医療者の心のこもった関わりを嬉しく思う〉

母親は,こどもが医療者との相互作用を通して愛情を感じたり頑張れたと感じたりすることで,こどもにとって嫌な採血でもこどもが成長する機会となることを説明した.

看護師が,こどもにずっと優しく声をかけながら撫でてくれていたので,こどもも嬉しかっただろうと思うし,私も見ていてありがたく感じた(J氏).

採血後に,看護師や医師がたくさん褒めてくださったので,こどもも頑張れたと感じたのではないかと思う(I氏).

〈こどもの頑張る姿を見て成長を感じる〉

母親は,こどもが痛みを伴う処置を乗り越えた後に,誇らしい表情をしていたことを報告した.

『ちょっと泣いたけど,頑張ったよね』みたいに看護師さんが言ってくれた時に,こどもも『私,頑張ったよ』みたいな感じの顔をしていた(B氏).

『頑張ったよ』っていうのを褒めてほしそうな姿を見ると,何か,かわいそうだけじゃないよね,嫌なことばっかりじゃないよねっていうのはすごく思う(H氏).

テーマ3:よりよい採血への希求

よりよい採血への希求は,医療者に対して母親が採血への親の参加を求め,こどもの障害特性を理解して関わってもらうことでこどもの苦痛が軽減することを望む体験であった.

〈こどもがリラックスして採血に挑めるようにしてほしい〉

母親は,筋緊張を来たさずに採血を受けることがこどもにとって安楽につながることを説明した.

こどもがリラックスするには,体を動かしてもらった方がいいので,身体中を触ってあげて欲しい.その方が多分,緊張がゆるむと思う(I氏).

医師や看護師の言っていることが分からない子でも,刺す場所をトントンとして,合図の感覚が分かれば,それなりに心構えができると思うから,そうしてほしい(B氏).

〈親の参加を望む〉

母親は,医療者がこどもの特性を理解した上で採血するために親に尋ねてほしいという思いや,採血のたびにこどもから離されたくないという思いについて語った.

こどものことが大事だからこそ,こどもがどのように採血を受けているのかなど,こどものことを知っていたい気持ちがあるから,採血に一緒に入りたい(J氏).

こどもの嫌なことや好きなこと,どういう風に採血してほしいかなどを,事前に伝えられたらいい(B氏).

それぞれのこどもに合ったやり方があるから,看護師は親に聞いてほしい(G氏).

〈採血の痛みを最小限にしてほしい〉

母親は,こどもの採血の痛みが最小限になることを求めていた.

採血はなるべく1回でとって欲しいから,採血が得意な医師や看護師がいてくれたらいいのに(I氏).

血圧計みたいに,針を刺さなくても,ナトリウムでもなんでも全部分かる機械があったらいいのに(B氏).

3. テーママップ

障害をもつこどもの採血に初めて付き添った母親の体験を,図1に示した.

図1  テーママップ:重症心身障害をもつこどもの採血に初めて付き添った母親の体験

初めて採血場面を見た母親の「動揺」は,こどもが穿刺だけではない苦痛を感じても何もしてあげられない無力さや自責の念といった心理的混乱や苦悩を示し,それは「よりよい採血への希求」という改善への願いを生む原動力となっていた.一方,「親としての喜び」は,母親がこどもの頑張る姿や医療者の配慮に触れる中で感じた肯定的な感情を示しており,「動揺」の中でもポジティブな意味づけを見出す視点となり,この肯定的体験がもとになって「よりよい採血への希求」といった改善への意欲につながっていた.

Ⅴ. 考察

1. 重症心身障害をもつこどもの採血に初めて付き添った母親の体験

障害をもつこどもの採血に初めて付き添った母親の体験は,わが子の障害特性を理解していない医療者の対応によって,こどもが穿刺だけではない苦痛を感じている姿を見て戸惑い,その場にいても何もしてあげられないという無力さを感じていた.一方で,自分が同席したことでこどもが安心して採血を受けることができたという親役割の実感や,実際に頑張っているこどもの姿や心のこもった医療者の対応を見ることができて安心感や喜びにつながっていた.これらの体験は,採血室の外で待たされていた過去の体験では得られなかったものであり,親が採血に参加し,医療者と協働することでこどもがリラックスして採血を受けることができ,採血の痛みも最小限であってほしいと願う,こどもがよりよい採血を受けることへの希求につながっていた.

こどものことをよく知る母親の採血室での行動が,こどもを緊張から解放し,リラックスして安全に採血を受けることにつながっていたことは,親子の相互作用を実感し,親役割を担える喜びにもつながる体験であった.このことは,健康な乳幼児の採血に付き添った母親の体験(平田ら,2015)と同様の結果であり,産褥期の母親がわが子の合図の読み取りと要求への応答の経験を通して,育児に関する一般的な知識や技術を,自分とこどもに合ったやり方を確立していくことで母親役割の自信を獲得していくプロセス(前原,2005)と類似していた.

一方,障害をもつこどもの母親は,こどもの特性をよく理解しているからこそ,穿刺痛だけではなく,筋緊張が入ってしまってうまく立ち回れないこどもの姿と,医療者の不慣れな対応を見て戸惑ったり,無力感を感じたりしていた.重度の神経障害をもつこどもの40%は,日常的に痛みを感じており,その多くは筋緊張亢進や筋肉のけいれんなどの筋骨格系の痛みを抱えている(Bogetz & Lemmon, 2021).そのため,親はこどもが緊張しないように細心の注意を払ってこどもに接している.医療的ケアを必要とする重症心身障害児の母親は,自分のこどもに対する専門家として扱われることを望んでおり(Jonas et al., 2022),わが子の命を守る日々を送る中で試行錯誤しながら獲得した独自の方法でケアを行うことを支援者にも求めている(増田ら,2020).こどもの特性に合わせたケアをずっと担ってきた母親にとって,採血室でのできごとは,こどものケアの主体を医療者に奪われるような体験であったことが考えられる.こどもの処置場面において,親はこどもの痛みのアセスメントに積極的に関与したかったと感じていたことを報告したPalomaa et al.(2023)の調査と同様に,採血の場という空間を共有していただけで,親はこどものケアに参加・協働できなかったと感じていたのかもしれない.

本研究対象者の母親はよりよい採血を希求しており,こどもをよく知る母親が考える採血時の関わりや姿勢,採血前の準備など,こどもの最も近くにある母親の意見や判断を尊重し,一緒に採血場面に取り組むことが重要であると考える.また,医療者が愛情をもってこどもに接することは,こどもの基本的信頼を育む.障害をもつこどもが家族や周囲の人から一人の人間として受け止められ,大切にされることは,母親自身の自尊心に影響し,母親の内面的支えとなることを明らかにした田中ら(2017)の報告にもある通り,その子を尊重した取り組みは,こどもの痛みだけでなく,母親の精神的苦痛も緩和する.それは,まさにFamily-Centered Careの看護実践に他ならないと考える.

2. 障害をもつこどもの採血に母親が同席することの意義と看護への示唆

幼児期後期のこどもを対象にした調査(吉田・鈴木,2009)では,こどもが納得して検査や処置を終えるためには,母親がこどもに付き添って,こどもの気持ちを共有し,代弁する役割を担うことが重要であったことが報告されている.特に本研究対象者のこどものように言葉で意思を伝えることが難しいこどもの場合,その子の特性をよく知る親がこどもの代弁者となって,こどもにとってよりよい採血方法を看護師とともに取り組むことで,こどもの苦痛を最小限にすることができると考える.

しかし,日本では,依然として親と離して採血することもめずらしくない.親と離されるだけでこどもにとって恐怖体験となり泣き出すことも多い(武田,1998).本研究結果においても,親が採血に参加することは,こどもにとっても親にとっても安心感につながっていた.同席できずにこどもの体験がわからないことへの不安が強い母親はこどもの行動からの情報をネガティブに受け取る傾向があり(平田ら,2015),こどもを家族から引き離さず,処置への家族の付き添い希望を尋ねることが重要であったという相澤ら(2021)の報告からも,母親の採血に同席する希望を尊重することは,親役割を遂行する親としての責任感を満たし,こどもにとっても安心感につながっていたと考える.母親がこどものサインをよみとりながら,こどもにあったやり方で採血でき,その結果,採血時の痛みや恐怖が緩和され,それを見た母親は親としての役割に自信を深めていくのではないかと推察する.加えて,こどもの障害特性に適した採血方法を実践するためには親の参加と協働が必要不可欠であり,親が介入することで,こどもの痛みや恐怖が緩和されれば,親役割の充足感につながる.さらに,親はこどもの頑張った姿を見ることで,こどもの成長を実感する機会となるため,看護師は採血が親子の相互作用を促進する場となるように意識して取り組む必要がある.

医療処置に携わり,処置前または処置中にこどもをサポートするすべての医療者は,最善の介入を選択する際に,こどもと親の好み,価値観,ニーズを考慮することが重要であり(Segers et al., 2022),それらについてコミュニケーションをとることで,こども固有のニーズと境界線が尊重され,侵襲的な処置中のこどもと親の信頼とコントロールが強化される(Segers et al., 2023).本研究対象者は,採血に親が同席し,こどもがリラックスして採血に挑め,採血の痛みは最小限であってほしいと願っていた.そのようなこどもと親の好みやニーズを把握するための方法のひとつとして,事前問診がある.前回の採血時のこどもの体験を聴取し,環境(音,光,温度など)や姿勢,親の付き添いの希望,痛みを緩和する方法,リラックスする方法について,こどもの希望を確認する.意思を表明できないこどもの場合は,親が代弁者となり,希望を伝える役割を担う(Jonas et al., 2022).こどもがどうして欲しいのか,どうすればその子らしくいられるのか,こども自身の見方・捉え方・感じ方に着目したかかわりを意識しながら(松岡,2020),それぞれのこどもに適した採血方法を親とともに検討する必要がある.

Ⅵ. 結論

本研究では,重症心身障害をもつこどもの採血に初めて付き添った母親の体験を明らかにし,母親が障害をもつこどもの採血に同席する意義を検討した.その結果,母親はこどもの特性に合わない採血方法への戸惑いや無力感を抱きながらも,こどもの頑張る姿に成長を感じ,親としての役割を再確認する経験をしていた.また,こどもがリラックスして採血を受けられる環境の整備や,採血の痛みが最小限となることを望んでいることが明らかとなった.

これらの結果から,母親の同席は,こどもの安心感の向上や医療者との橋渡しの役割を果たし,こどもの苦痛軽減に寄与する可能性が示唆された.今後は,母親のサポート体制の強化や,医療者と家族が協力してこどもの苦痛を最小限にするための具体的な方策の検討が求められる.

Ⅶ. 本研究の限界と課題

本研究は,1県にある2施設で実施した調査であり,重症心身障害児の中でも医療依存度の高いこどもをもつ母親が多かったため,すべての重症心身障害をもつこどもの母親の体験に当てはまるとは言えない.また,いつも採血に付き添っている母親の体験が明らかになっていないことで比較することができなかったため,対象を拡大して調査し,重症心身障害児に適したよりよい採血方法を検討することが今後の課題である.

付記:本研究の一部を,第44回日本看護科学学会学術集会で発表した.

謝辞:本研究の実施にあたり,ご協力いただきました参加者の皆様に深く感謝申し上げます.本研究はJSPS科研費22K11059の助成を受けて実施した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:MOは研究の着想およびデザイン,データ収集,分析,解釈,原稿の作成までの研究プロセス全体に貢献した.MMとMMは,研究のデザイン,分析,解釈,原稿への示唆および研究プロセス全体への助言に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
 
© 2026 Japan Academy of Nursing Science
feedback
Top