Journal of Japan Academy of Nursing Science
Online ISSN : 2185-8888
Print ISSN : 0287-5330
ISSN-L : 0287-5330
Original Articles
A Qualitative Study on the Experiences of Chinese Nurses Pursued Graduate Studies Following Their Clinical Experiences in Japan
Tsubasa MoriXiaodong Cardenas
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2026 Volume 46 Pages 84-93

Details
Abstract

目的:中国で看護基礎教育を受け,大学院に進学した日本での臨床経験をもつ中国人看護師の経験を記述することを目的とした.

方法:日本で修士課程を修了した6名の中国人看護師に半構造化面接の結果をKJ法にて分析した質的記述的研究である.

結果:対象者らは【自分らしい人生への希求】と【将来への備え】を基盤に【専門職としての成長への意欲と決意】から大学院に進学した.彼らの姿を見た日本人看護師にも【逆境を越えた挑戦の連鎖】が生じたと感じ【専門職としての成長の手応え】と【広がった視野と将来への展望】は,【さらなる学習と教育への意欲】につながった.また【日本人との心の通う交流】を持てたことで,彼らにとって大学院進学は貴重な経験となった.

結論:中国人看護師の大学院進学は彼らのスキルアップに加えて日本人看護師の意欲を高めたという感覚を生んだ.相互理解と尊重に基づく彼らへの支援は,より良い異文化協働の鍵となる.

Translated Abstract

Purpose: This study aimed to describe the experiences of Chinese nurses who received their nursing education in China and subsequently pursued graduate education in Japan following employment as nurses.

Methods: A qualitative descriptive study was conducted using semi-structured interviews with six Chinese nurses who completed a master’s degree in Japan. Data were analyzed using the KJ method.

Results: Chinese nurses pursued graduate education driven by motivations such as “aspiration for a life true to oneself” and “safeguarding the future,” along with a strong “desire and determination for professional growth.” Their dedication was perceived as possibly having encouraged Japanese nurses to take on a “series of challenges that overcome adversity.” The experiences gained, such as a “sense of professional development” and “broadened perspectives and future outlook,” led to increased “motivation for continued learning and education.” Furthermore, they gained opportunities to “build heartfelt relationships with the Japanese” during graduate studies and felt that it was a valuable experience for them.

Conclusion: Graduate education for Chinese nurses in Japan contributed not only to their own professional development but also positively influenced Japanese nurses. Providing learning opportunities and support grounded in mutual understanding and respect for these nurses is essential for promoting effective intercultural collaboration in healthcare.

Ⅰ. はじめに

諸外国に例をみない速度で高齢化が進み,今後も介護・医療需要が高まる予想から一層の看護師不足が見込まれる(厚生労働省,n.d.)中,日本では2008年より経済連携協定(Economic Partnership Agreements以下EPA)に基づいたフィリピン等の国々からの外国人看護師の受け入れ(厚生労働省,2024)と同時に,民間団体によるが中国の看護系大学新卒看護師の日本の医療機関への招致も行われている.中国においても高齢化が進み,近年看護師の育成が推進され(Guo, 2018),大卒の看護師の数は増加している.彼らは漢字圏出身であるため,日本の看護師国家試験の合格率が日本人受験者と同等である(国際医療福祉人材育成機構,n.d.).そのため就労条件の格差(Williamson, 2024)などを理由に中国国外での就職を望む新卒看護師と,看護師が不足している日本の医療施設とのマッチングが行われている.

日本の医療施設に勤務している中国人看護師の正確な人数に関する公式な情報はないが,2012年から2023年の間に合計285名の中国人看護師に看護師国家試験受験支援を提供したとの報告がある(医療人材国際交流協会,n.d.).また,毎年平均97名の中国人看護師の日本の医療施設への就職を斡旋したことも報告されている(国際医療福祉人材育成機構,n.d.)今後も一定数の中国人看護師が来日することが予想され,彼らを対象とした研究も散見されるようになった.中国人看護師が日本文化や進んだ医療・看護に関心をもち,来日していることや,職場の人間関係や看護実践のためには日本人の対人行動の理解が重要であること(森,2024)が報告されている.臨床における看護実践にやりがいを感じながらも,日中間における看護師の業務内容の違いに困難感を抱いている(王・南部,2024).また,民間団体との契約期間を満了し転職した中国人看護師の,既卒看護師として高度な看護実践への期待に応じることへの課題(江ら,2024)や語学の障壁により学習機会へのアクセスが難しく,キャリアアップのニーズが満たされていないことも報告されている(Yang et al., 2023).

近年中国では,大学院教育が推奨され,各分野において研究力を急激に高めている(内閣府科学技術・イノベーション推進事務局,2025).臨床看護師においても,昇進には論文の学術雑誌での公表が求められる(路ら,2019).臨床看護師は研究を臨床看護の質保障や専門職としての責務であると認識していることが報告されている(路ら,2019).そのため,中国人看護師の大学院進学へのニーズは高いと推測される.

組織における異文化共生は,異なる視点を持つ人が集まることで問題への対応力,サービスの質を高める(Duchek et al., 2020齋木,2021)と言われている.日本の医療施設において,大学院に進学し,高度な実践力や批判的思考力をもつ中国人看護師が増えれば,日本人看護師とともに臨床看護の質向上に寄与することが期待できる.今後,中国人看護師の大学院進学への支援は,日本の臨床看護の質保障・向上において有意義なことであると考える.しかし,現在大学院に進学した中国人看護師に関する研究報告は管見の限り見当たらない.

以上より今後中国人看護師の大学院進学への支援を検討する基礎資料を得るため,本研究は,中国で基礎教育を受け,日本における臨床経験をもつ中国人看護師の日本での大学院進学の経験を記述することを目的とした.

Ⅱ. 方法

1. 研究デザイン

質的記述的研究デザインとした.

2. 研究参加者の条件とリクルート方法

研究参加者の条件は,1)中国の看護系大学を卒業して,2)日本と中国両方の看護師国家資格を取得しており,3)日本で3年以上看護師として臨床経験を持ち,4)日本の看護系大学院に進学し,5)少なくとも修士課程を修了したものとした.

リクルート方法には,機縁法およびそれらの対象者の紹介による雪だるま法を用いた.

3. 用語の定義

「日本における臨床経験をもつ中国人看護師の大学院進学の経験」は,本稿においては中国で看護基礎教育を受け来日したのち日本の看護師国家免許を取得し,日本の医療施設における臨床経験をもつ中国人看護師の,大学院進学を目指した時期から,修士課程を終えるまでの学習と生活上の経験とする.

4. データ収集方法

インタビューガイドを使用した日本語による半構造化面接法を用いた.調査実施前に日本の医療施設に勤務している中国人看護師にプレテストを行い,解釈された質問内容が意図と合致しているか,答えにくい質問はないかを確認した.

個室での対面もしくは,WeChat,LINE,Zoomといったアプリケーションによる音声通話かビデオ通話を対象者の希望で選択できるようにした.面接または通話は1時間以内を予定し,対象者の意向で切り上げまたは延長することも可能とした.対象者の許可を得て対話の内容をICレコーダーに録音した.

インタビューガイドには,年齢・性別・日本での看護師経験年数・最終学歴・現在の勤務先といった基本属性に加え,下記のような質問を設定した.

1)大学院に進学しようと思ったきっかけはなんですか.

2)大学院での学習に,どのようなことを期待していましたか.

3)大学院に進学することを迷ったことはありましたか.あればその理由はなんですか.

4)大学院に行って良かったと思うことがあれば教えてください.

5)大学院在学中に,印象に残った経験が他にあれば教えてください.

6)キャリアへの希望について教えてください.

これらの質問から対話を始め,さらに,他に思ったことを自由に語る機会を設けた.

5. 分析方法

分析にはKJ法(川喜田,1996)を用いた.本研究が日本の看護系大学院に進学した中国人看護師という,まだあまり知られておらず明確な問題がはっきりしていない対象に関する探索的な研究であり,現場をありのままうけとめてそこから問題を見出し,感性を重視した思考により未知の問題にも対処できる(川喜田,1967)この方法が適していると考えたためである.

分析は以下の手順で行なった.まず,ICレコーダーに録音した音声データより逐語録を作成し,繰り返し精読した.その中から「中国人看護師の日本における大学院進学の経験」に関連すると捉えた内容を,文脈と対象者の意図を損なわないように単位化し,印刷したカード大の紙片「ラベル」168枚を作成した.それら全体を広げて見渡しラベルの「志」と呼ばれる主体者の姿勢や意味づけに基づいて「多段ピックアップ」を行い51枚のラベルを精選した.精選したラベルを独断の枠組みに分類しないように気をつけ,互いに関連し,親近性のあるもの同士をセットにした.それらのセットの志を統合した概念として「表札」を作成した.他のラベルとセットにならなかったラベルは「一匹狼」と呼ばれる.この手順を研究者間で合意が得られるまで繰り返し,グループ編成をした.このグループを「島」(9つ)として島が訴えかける意味内容を「シンボルマーク」として記した.それぞれの島同士の関連を記号で示した配置図を作成し全体の構造を表した.

6. 分析の信頼性と妥当性の確保

著者らのうち1名は,KJ法の教育を行う霧芯館において川喜田晶子氏による研修を受講することで研究方法を学習した.対象者数は川喜田晶子氏の助言及び,4名から7名を対象とした先行研究(馬場,2022齋藤,2020安井,2021)を参考に,6名とした.多段ピックアップおよびラベル作成の際には,複数の研究者で合意が得られるまで作業を繰り返した.語りの意味するものの解釈が正しいかの確認が必要な場合には研究対象者によるメンバーチェッキングを受けた.

7. 倫理的配慮

「人を対象とする医学研究に関する倫理指針」を遵守し,対象者の人権擁護に努めた.精神的な負担に配慮し,研究参加については自由意思を尊重し,面接の中断や参加意思の撤回の権利,匿名性について口頭および文書で説明した上で同意を得た.答えたくない質問には答える必要がないことを説明した.これらを踏まえた研究計画に,医療法人同仁会(社団)京都九条病院倫理委員会の承認(承認番号:R70502-1)を得ている.

Ⅲ. 結果

1. インタビューの結果

調査実施期間は2025年5月から6月であった.日本の看護系大学院で修士号以上の学位を取得した中国人看護師6名が参加した(表1).日本における臨床経験年数は4年から10年であった.1名は博士後期課程の修了後に帰国しているが,他の5名は現在も日本で生活している.

表1 対象者の特徴

対象者 年齢 性別 日本での
看護師経験年数
現在の居住地 現在の主な所属学籍/
就労の有無
最終学歴 家族構成
A 30歳代 女性 4年 日本・大阪府 大学院博士課程/就労なし 修士 夫・子2人
B 20歳代 女性 5年 日本・群馬県 学籍なし/大学教員 修士 独身
C 30歳代 女性 5年 日本・東京都 大学院博士課程/就労あり 修士 独身
D 30歳代 女性 10年 中国・遼寧省 学籍なし/大学研究員 博士 夫・子2人
E 30歳代 女性 8年 日本・香川県 大学院博士課程/就労なし 修士 夫・子1人
F 30歳代 女性 7年 日本・兵庫県 大学院博士課程/就労あり 修士 独身

2. 中国人看護師の日本における大学院進学の経験とその構造

構造化した結果について,本文中では島のシンボルマーク【 】,段階を丸数字で付した表札[ ],ラベルからの引用を〈 〉を用い記述する.中国人看護師の日本における大学院進学の経験の構造(図1)は以下のようであった.

図1  中国人看護師の日本における大学院進学の経験の構造

1) 中国人看護師の日本における大学院進学の経験

(1) 【自分らしい人生への希求】

中国人看護師らは,看護師として日本において臨床経験を重ねる中,多忙な業務,親世代との育児や結婚に関する価値観の違いによる生じる葛藤など,公私とも多くの課題に直面し,[忙しい日常に追われて辟易し自分が空っぽになるような感覚から生活を一新したいと思った].日中両国の看護師国家免許を取得した対象者らにとって,公私とも充実した生活を送りたい欲求があった.進学の費用や育児との両立といった[家庭の事情といった課題はあったが進学することに迷いはなかった]など,この島は,課題はあるが看護師として自分が望んだ人生を送りたいという欲求から成っている.

(2) 【将来への備え】

大学院進学は【自分らしい人生への希求】を実現させることのみならず,[万一の帰国への備えや大学教員などキャリアの選択肢を増やすためにより高い学位を取得したかった]という思いにも後押しされていた.中国に帰国する可能性を考え[学歴が重視される中国で就職する場合の備えとしてより高い学歴を得たいと思った].また,[臨床以外に教員といったキャリアの選択肢ができるという期待があった]と,現在の働き方を継続できない事情,またはしないという選択に備えておく考えもあった.

(3) 【専門職としての成長への意欲と決意】

この島は,【自分らしい人生への希求】と【将来への備え】を基盤に,中国で看護基礎教育を受けた対象者が日本で臨床経験を重ねる中,日本の看護をさらに学びたいという意欲が高まり,進学を決意したことから成っている.[臨床で日本の看護についての知識不足を感じ,日本独自の看護教育や研究を深く知りたいと思った]対象者らは,〈仕事を続ける中で,先輩にも答えられないさまざまな疑問が生まれ,自分で答えを見つけるために研究しようと思った〉と,明確な課題をもち,[日本で勉強ができる場所として大学院があるとわかり機会を得たいと考えた]と大学院進学を目指した.

(4) 【研鑽の機会の制限】

[日本人でないことによって病院で看護研究を行う機会がなかった]ことから感じた【研鑽の機会の制限】と【専門職としての成長への意欲と決意】が相まって,大学院進学を決意した.

(5) 【逆境を超えた挑戦の連鎖】

自身の【専門職としての成長への意欲と決意】から進学した中国人看護師は,言語の壁,家庭と仕事の両立,といった多重の課題を抱えながら学習に打ち込み,その中で〈進学を希望しながらも生活との両立に不安を持つ日本人看護師の相談に乗り経験に基づいて助言をした〉.自分の言動は,周囲の日本人看護師の大学院進学を後押したと感じ,【逆境を越えた挑戦の連鎖】を経験した.

(6) 【専門職としての成長の手応え】

対象者らが大学院に進学し,〈看護理論を学んだことで現場で行われていることの背景が理解できた〉体験を通して,[中国では学ばないさまざまな看護理論を学んだことで,理論と実践が結びつきスキルアップにもつながった]ことを感じた.また,〈研究成果の公表や外部資金の獲得などに喜びを感じた〉,〈看護理論を学んだことで,職場のカンファレンスで意見を言えるようになった〉,〈個別性を尊重した看護のために,看護問題の抽出からケアの提供に至る看護過程を知った〉ことを通して,学んだ理論と臨床実践が統合でき,[やり遂げたこととその評価に達成感と喜びを感じ(た)],[患者との信頼関係に基づき個別のケアを創出する看護過程を知ることができた].さらに,〈質的研究から理論を構築できる点に魅力を感じている〉ことから[中国での基礎教育では学ばなかった質的研究を学び魅力を感じた].これらに加え,論文執筆の過程で語学の上達も実感したこともあり【専門職としての成長の手応え】を感じた.

(7) 【広がった視野と将来への展望】

日本の看護を学ぶため大学院に進学した対象者らが大学院での学習を通して,[臨床以外にも看護に寄与できるとわかり,視野が広がった],[他者の意見を尊重しながら物事を多面的捉え,客観的・批判的に考える思考様式を身につけた]思考と専門職としての視座の両面で成長した.これらの経験がさまざまな場で専門性を発揮する【広がった視野と将来への展望】につながった.

(8) 【さらなる学習と教育への意欲】

この島は,修士の学位を取得した彼らの更なるキャリアアップへの意欲から成っている.〈中国では新しい小理論の開発やハイレベルの雑誌への投稿が流行っているが,日本で学んだ典型的な理論を基盤に教育に取り組みたい〉と,日本の大学院で学んだ看護を基盤に研鑽を積み,後進を育成したいという意欲を高めていた.[教員として日本で学んだ看護を自分の基盤として大学院生を育成したい]と【さらなる学修と教育への意欲】が高まった.

(9) 【日本人との心の通う交流】

この島は,大学院における学生生活が,日本人との人間関係に与えた影響から成っている.〈臨床では噂話などに煩わしさを感じていたが,大学院の友人とでは会話の質が異なり有意義であった〉と,共に学ぶ日本人の学友との間に,職場での付き合いとは異なる〈思いやりと励ましに溢れた人間関係ネットワークができた〉貴重な経験を得た.〈指導教員は私が送る2,3行の簡素なメールを大目に見てくれていたが,他の目上の人にメールを書くときには文書のマナーを厳しく教えてくれた〉と,文化の違いに理解を示しながらも,自分が日本社会に適応できるよう,厳しくルールを教えた教員に感謝していた.

2) 中国人看護師の日本における大学院進学の経験の構造の空間配置図

それぞれの島の関係を探索して空間配置し,ラベルと記号,添え言葉を付して図解化したものが図1である.それぞれの関係を【 】で表すシンボルマークを用いて以下に述べる.

中国人看護師らは,忙しさに追われる日々の中でも,仕事と家庭を両立させ,日本の看護を学び,スキルアップにより充実した【自分らしい人生への希求】を抱いていた.それと同時に万一帰国となった際の有利な状況,また日本で教員というキャリア形成を選択できるような【将来への備え】をしたい,という思いもあった.これらが基盤となり,日本人でないため【研鑽の機会の制限】があることも相俟って,【専門職としての成長への意欲と決意】をもって大学院進学に踏み切った.言葉の壁や育児といった不利な条件を乗り越えて学習する姿に勇気づけられた日本人看護師にその意欲が波及し【逆境を越えた挑戦の連鎖】が生まれたと感じた.学んだことが実践に生きたことで【専門職としての成長の手応え】を感じた中国人看護師が,大学院で得たものは学習の成果だけではなかった.思考様式の変容と,臨床以外に看護に寄与できる場があることを知ったことで新たに【広がった視野と将来への展望】を持ち,後進を育成したいといった【さらなる学習と教育への意欲】が高まった.また,大学院進学したことで共に学んだ友人とは【日本人との心の通う交流】を持つことができ,彼らにとって大学院進学は日本での貴重な経験となった.

Ⅳ. 考察

1. 中国人看護師の日本における大学院進学の経験

医学の進歩に伴って,看護師にもより高度な実践能力が期待されるようになった.International Council of Nurses(ICN, 2022)は看護師の能力を涵養するために,大学院教育を推奨している.修士号を取得した看護師の臨床実践や教育の質向上についての報告は多数あり(Cragg & Andrusyszyn, 2004Massimi et al., 2017Relster et al., 2023Veronese et al., 2025),日本看護協会(2025)も高度実践看護師の養成に加え助産師・保健師の基礎教育の大学院化を目指すと提言するなど,日本国内においても大学院教育の重要性に対する認識は高まっている.

外国人看護師では言語の壁があるために任される業務が限定され,能力を十分に発揮できない(Higginbottom, 2011Kurniati et al., 2017)という報告は散見される.その背景には言語の問題のみではなく看護基礎教育と,患者を取り巻く看護師や家族の役割の文化的な違い(Giger, 2017)があることが推察される.中国では近年まで看護学教育は医師が主導してきた(Li, 2017Xu et al., 2000).医学的観点を重視した教育から,来日当初の中国人看護師は療養上の世話業務や患者との会話を大切にする日本の看護師の業務を,サービス過剰と感じた(Mori & Tobita, 2024文・中谷,2023).日本では多職種連携による意思決定支援や在宅療養支援が重要視されており,患者の望む生活を叶えるために対話を繰り返すことも看護実践の一部である.それは医療行為を中心とした中国の看護実践とは異なっており,暗黙のうちに共有されている日本の看護の視点は,彼らにとって理解が難しい部分もあったと考えられる.こうした看護の違いを受け止めて大学院で日本の看護を学習するという意欲につなげることができた背景には,異文化環境で働く意志を持ち来日した中国人看護師の高いストレス対処能力と自己実現への意欲(Mori & Cardenas, 2024)があると推察される.

【自分らしい人生への希求】を望んだ対象者らは,自分らしく生きるため【専門職としての成長への意欲と決意】を固めた.自身の成長への欲求である自己実現は,能力の向上や発揮,対人関係の深化,自己尊重の高まりをもたらすことに加えて協調性や社会貢献意識の向上にもつながり,組織の成長にも寄与する(Maslow, 1970/1987).したがって,中国人看護師が日本での成長を希求し,自分らしく充実した人生を送ることは,彼らの日本への定着を促し,能力向上や患者に提供されるケアの質向上にも資すると推察できる.

彼らが学びの場に大学院を選択したのは,【将来への備え】として学位を取得し,帰国した際に中国での就職活動を有利に運ぶため,または臨床の看護師の他に教育や研究といった選択肢を得るためという思いもあった.路ら(2019)によれば,中国では看護師の雇用や労働条件,昇進にも学位や研究業績が直結するため,看護学部生も在学中から大学院進学を考えている(Wang et al., 2024).そうした環境で看護基礎教育を受けた中国人看護師が日本の看護を学びたいと考えたときに,大学院を視野に入れることは自然なことと解釈できる.

日本でのさらなる学習に意欲的な中国人看護師が帰国の可能性を考慮している理由には中国の歴史的・政治的な背景もあると推察できる.中国では儒教の教えにより古来から親孝行は名誉とされていること(Giger, 2017)と,人口増加抑制のために1979年から2015年まで行われた「ひとりっ子政策」と呼ばれる産児制限政策である.協力できる兄弟はなく親孝行が重視される中,親の意向と異なる【自分らしい人生への希求】に葛藤を感じていた可能性もある.

このような家族観を持つ中国人看護師らは,言語の壁もある上で学業と仕事,育児といった多重の課題に取り組んでいた.従来,言語などの文化差のため外国出身の看護師は支援の対象と捉えられてきた(平野,2021森,2024).しかし本研究では逆境に負けないその意欲がロールモデルとなり日本人看護師に波及した可能性が示唆された.日本では子どもを持つ女性は離職しやすい傾向であるが,中国では,就業率が高い(Ng & Chen, 2018).Bandura(1977)は,身近さや類似性のある他者が成功することで,自分にも同様の成功が可能であるという感覚が高まると報告している.大学院進学による生活への影響などに不安を持つ(松下ら,2009)日本人看護師は彼らの姿から自身の可能性を見出し,進学に踏み切ることが期待できる.

[大学院での課程を通じて日本の看護実践や研究への理解が深まり,専門職としてのスキルアップを実感した]ことで【専門職としての成長の手応え】を感じた中国人看護師が大学院での経験で得たものは,看護に関連する知識に留まらなかった.医師の指示による処置を中心とした中国の看護の役割(Xu et al., 2000)とは異なる臨床判断と,臨床に留まらない看護の活躍の場への展望が広がったことである.それらが,彼らを【さらなる学習と教育への意欲】へと導いた.社会的背景の違いなどの理由から,オレムのセルフケア理論といった欧米の典型的な看護理論は中国では定着しなかった(Li, 2017).これも,中国人看護師が看護理論を知りたいと考えた理由であったと推察できる.対象者は〈中国では新しい小理論の開発やハイレベルの雑誌への投稿が流行っているが,日本で学んだ典型的な理論を基盤に教育に取り組みたい〉と,欧米のスタンダードとなっている理論を中国でも定着させたいと考えていた.中国人看護師の日本の大学院での学習は,中国の看護学教育にも影響を与える可能性がある.また,大学院進学により日本で看護学部教員としてのキャリア選択をした対象者もいることから,彼らの学習が日本の看護学教育において,国際的な視野を持った看護師の育成につながることも考えられる.

さらに,日本人は,軋轢を避けて調和を保つため,本音と建前を使い分け,職場の人間関係を表面的なものにとどめる傾向があり(Takei & Alston, 2018),職場の人と家族ぐるみで付き合う中国人看護師はそれを寂しく思った(Mori & Tobita, 2024).しかし,対象者らは大学院に進学したことで,【日本人との心の通う交流】を持つことができたと感じていた.大学院の学習過程で交わした日本人との深い交流は,彼らの日本への定着を促進するかもしれない.

2. 中国人看護師の学習支援への示唆

大学院へ進学することが推奨される中国の教育背景を持つ看護師が,来日して一定の臨床経験を積んだのち,進学を希望するケースは今後増えていくことが予想される.しかし,本研究において中国人看護師は【研鑽の機会の制限】を感じていた.日本の大学等との接点が少ない中国人看護師は日本での学習機会へのアクセスが難しい場合もあると考えられる.そのため,彼らに学習の場についての情報提供をすることは,彼らの学習ニーズの充足と臨床看護の質向上をもたらす重要な支援であると考えられる.

また本研究は,理論に基づいた日本の看護実践が中国人看護師の学習意欲を高め,中国人看護師の学習する姿勢が日本人看護師の学習意欲を刺激するという円環的な関係を示唆した.互いに成長を促し合うこのような関係は,高度な知識と実践能力を習得した看護師の増加につながり,ケアの質向上をもたらす可能性がある.さらに,日中の看護師の関係が深化することで,中国人看護師の職場への定着を促進できれば,より良い共生にとっても大変有益であると考えられる.また,仕事と家庭を両立しながら,大学院で学び日本の看護師としてのスキルアップも叶えたいという【自分らしい人生への希求】を抱く彼らにとって,在学中の休職制度を設けるなどの支援も,有益であると考えられる.

Ⅴ. 結論

中国人看護師の日本での大学院進学の経験は【自分らしい人生への希求】と【将来への備え】という基盤から【専門職としての成長への意欲と決意】したことから始まった.彼らの姿は日本人看護師の意欲を刺激し【逆境を越えた挑戦の連鎖】を生んだ.【専門職としての成長の手応え】を感じ【広がった視野と将来への展望】を持った対象者の,【さらなる学習と教育への意欲】が高まった.大学院では【日本人との心の通う交流】を持つこともでき,それらも貴重な経験となった.

本研究によって明らかになったことは,日中の看護の視点の違いは中国人看護師にとって障壁ではなく学習意欲を高めるものであったこと,学歴を重んじる中国の風潮から,学習の場として大学院を選択しやすい傾向にあること,その意欲と実際の行動が日本人看護師の挑戦につながった可能性を感じたことである.彼らの学んだことは看護実践に活かされ臨床看護の質向上に資する.また,大学院生活での日本人との交流は,親密な友好関係を望む中国人看護師にとっての喜びでもあった.このように,中国人看護師の学びと挑戦は日本人看護師にも刺激を与え,看護の質の向上を促す可能性がある.相互理解と尊重のもとに彼らを応援することは,看護におけるより良い異文化協働を模索する一助となると期待できる.

Ⅵ. 研究の限界

本研究では,対象者が女性に偏ったことから大学院に進学した日本における臨床経験をもつ中国人看護師の経験の網羅的な検討には限界がある.今後,家庭内の役割などが異なる可能性のある男性を含め,より多様な対象者を検討することも課題となる.

謝辞:本研究にご協力いただいた中国人看護師/大学院生の皆さまに心より感謝申し上げます.皆さまは研究対象者であると同時に,志を共にする友人として多くの気づきと学びを与えてくださいました.文化の違いを超え,ともに看護に向き合うことは貴重な経験でした.改めて深く感謝いたします.また,本論文の査読にあたり,あたたかく貴重なご助言をくださった匿名の査読者の皆様にも心より感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:森つばさは研究の着想およびデザイン,データ収集,分析,原稿作成までのプロセス全体;カルデナス暁東は分析方法に関する研修の受講と分析,解釈,原稿への助言を行なった.すべての著者は最終原稿を確認した.

文献
 
© 2026 Japan Academy of Nursing Science
feedback
Top