日本精神保健看護学会誌
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教育講演
伴走型支援と問題解決型支援;看護はハイブリッドモデルで
萓間 真美
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2021 年 29 巻 Supplement 号 p. 6-13

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はじめに

第30回学術集会のオンライン開催は,白石学会長はじめ関係の皆様の大変なご尽力で可能となりました.まずは御礼を申し上げたいと思います.座長として,過分なご紹介をいただきました,中山洋子先生にも心から感謝申し上げます.

演者は,問題解決型の支援と伴走型支援という2つの全く異なるモデルをハイブリットにすることを提案します.なぜ必要なのかと言うと,精神科看護が展開される場が大きく変わってきているからです.

Ⅰ  精神科看護が展開される場の変化

日本では社会的入院の解消を目指して,地域移行が進んでいます.平成14年から平成29年の間,厚生労働省の調査(厚生労働省障害保健福祉部)では入院患者数は34万5,000人から30万2,000人に減っています.平均在日数で見ると,変化がわかりやすいと思います.平成元年には,平均在日数が496日でしたが,平成29年には268日と減っています.

図1は,精神科訪問看護基本療養費並びに訪問看護基本療養費を使って訪問看護ステーションから精神疾患の患者さんのところに伺っている訪問看護のレセプトの数を示しています.

図1

精神科訪問看護実施件数の推移

平成31年のデータでは,(2年ごとの,3分の1抽出調査を3倍にした推計値)10万件以上です.平成13年のころにはわずか6,728件でしたので,増加の勢いが大きいことがわかっていただけると思います.

Ⅱ  精神科看護のモデルチェンジ

このような時代に精神科看護をどのように提供するか.私たちは,長期に入院している精神障害者,精神疾患を持った患者さんに傾聴と共感をしましょうということを学んで,育ちました.患者さんが求めるときには,いつでもケアを提供できるようにということを言われて育ったのです.地域でケアをするときには,私どもは精神訪問看護をやっておりますけれども,「あなたは来週まで大丈夫ですよ.じゃあ,さようなら」というふうに,さようならを言って帰ってくるというモデルに変わっていきます.

以前,中山先生が学会長をされた福島での国際学会に,イギリスのフィル・バーカー先生をお呼びしたことがあります.1990年代,フィル・バーカー先生は,タイダルモデルを提唱していました.当時,イギリスではメンタルヘルスアクトということで,地域で精神疾患の方たちと共存し,必要があったら医療を受けるという動きが進みました.バーカー先生は,「ケアにおける役割というのはいつも寄せて返す波のように変化し,その人がリカバリーしていくにつれてその比重が変わっていく.敬意を持って当事者から学び,当事者が行く方向を決める」とおっしゃっていました.

私は1998年に英国に留学する機会がありまして,スコットランドで地域ケアを経験しました.看護師は話を聞く,患者さんは聞いてもらうというようなことではなく,互いに動いていて,その時々で関係性をつくることが腑に落ちたモデルでした.

Ⅲ  多職種との協働に求められるモデル

今,私たち自身がニーズが変わっているということを察知して動かなければならない時期に来ています.他職種から看護にどういう視線が注がれているのかということにも,気づいていかなければいけないと思います.

例えば,精神科アウトリーチ推進事業が,平成23年度から25年度まで行われました.私は効果検証班の責任者として関わる機会がありました.そのときの研究班は,ACT(Assertive Care Treatment)を始めとした地域でのケアモデルの先駆者で構成されていました.

この研究班で,私は責任者をしていましたが,学ぶことがたくさんありました.この事業は,都道府県に国から10分の10費用を出すモデル事業で,研修事業もセットになっていました.いろんな都道府県に伺って,いろんな職種の方々と一緒に研修を組ませていただきました.そういう場で,常に,看護職はアウトリーチには向いてない,地域の場にあまり来てほしくないというようなことを,面と向かって言われました.それは,私としては,非常に心外なことでした.

今ある精神科訪問看護基本療養費の前身は,病棟で働いていた看護師がボランティアで病棟費などを使って,患者さんの外泊に付き添ったりとか,ご家族のケアをしてきたことがルーツです.それが非常に重要ということで,家族会が実態調査をされ,そのデータを基に診療報酬の制度が作られたという歴史を持っています.その訪問看護に,今や他職種である精神保健福祉士や,作業療法士というような方々とご一緒しています.

看護は地域に向いてないなどと言われるのが最初は理解できず,反発を感じました.研究メンバーからもそういう指摘は常にありました.その意味がわからない私は,感情的に反応した時期がありました.でも,みんな同じことを言っているので,これはしっかり聞いてみないとだめだと思いました.

なぜ看護師はアウトリーチ,地域でのケアに向いてないと思うのかと聞いてみたところ,看護師は問題探しをすると.カンファレンスで,ほかの職種はストレングスモデルを前提にして,この人がやりたいことに向けた強みは何か,それを伸ばしていったらどうかと話をしているのに,看護師が手を挙げて,この人はまだこんな問題もあるし,こんな問題の可能性もあるし.だから,まだまだそんなことさせられませんと新しいことをさせない.問題探しをしてくるのは困ると言われたのですね.確かに心当たりもありました.

Ⅳ  求められる伴走型モデル

私は,長い間,精神訪問看護に従事するスタッフの現任教育をやってきました.事例検討をよく行いますが,最後の発表のときに,泣く人がたくさんいた.なぜ泣くのかといえば,私たちがやっている看護過程は,問題解決モデルで問題を挙げ,解決したら外していくやり方ですが,全然問題がなくならないと.年もとっていかれるし,いろんな合併症もあって,どんどん問題が増えていって,私たちはいったい何をしているんだろう.私たちがやっていることは何の役にも立たないんじゃないだろうか,事例検討するほどに,自分の無力さを思い知らされる経験をしてつらいということでした.ケアを提供している人も苦しく,ともに働く相手からも評価されず,問題探しと言われる.一体これは何なんだろうと.

地域でケアするには,モデルを変えないと,ミスマッチが起こる.誰も楽になる人がいない形になってしまうのかと思いました.

福祉領域,PSWの方たちは,ストレングスモデルを基礎教育で基本としています.そういう人たちから見ると,看護師は,当事者のできないところばっかりに視線が行って管理的だと言われる.そうは言っても,看護師は,急性期のほんとに行動のコントロールが難しいときに,問題解決モデルでその人たちを守ってきた.必ずしも自分の意思とか自分のやりたいことを言葉にできないようなレベルの人を守ってきたっていう矜持が,誇りがある.それが悪いと言っているわけじゃない.急性期はそれが必要だけれども,でも,回復期になってきたら問題解決モデルではもう手に負えないような時期があるんだということは私たちはわかっていたと思います.ただ,その時期には何を使うかを具体的に考えられてはいなかった.多職種と協働していく中で,時期によってストレングスモデルに転換していくことが必要なのではないかと思いました.研究班での3年間,多くの個性的な,専門性の高い先生方との協働の中で,看護師そのものが否定されているのではなく,関わり方を変えないとやっていけないと言われているのだと感じました.

Ⅴ  看護におけるハイブリッドモデルの必要性

当初,転換と言っていましたが,後にハイブリッドという言葉に修正しました.人から言われたから自分たちを否定するというのではなく,ハイブリッドモデルで両方のモデルを使っていくんだと言っていこうと思いました.

ラップ・ゴスチャによるストレングスモデルという本,現在は,第3版まで出ています.第2版に掲載されている,ジョンという事例(ラップ・ゴスチャ,2006,p. 199)では,その人が何をしたいのかとを聞くところからストレングスモデルは始まります.アパートに住み続けたい,車が欲しい,いつか自分の家が欲しいっていう,この3つをジョンさんが言ったら,そのまま,それを書くんですね.

このときに,看護師が問題解決モデルを引きずっていると,「アパートに住み続ける.いい夢ですね.現実的でとてもいい夢ですね」.でも,車が欲しい.うーんどうなんだろう.黄色信号.いつか自分の家がほしい.完全に赤信号というような思考になりがちです.本人が言ったことをそのまま書くということすらできず,「ちょっと待ってください,ジョンさん.ジョンさんは,生活保護を受けてますよね.生活保護を受けている人は車のローンとか組めないんですけど,大丈夫ですか.で,自分の家が欲しいって言ったって,生活保護受けていたら,やっぱりこれもローン組んだりできないんですけど,それは知ってますか」.車を買うためには,家を手に入れるためには,あなたはまず就労をしないといけないですね.そのためには,朝起きれないとだめですよね.そのためには,病棟で朝起きて,病棟の朝ご飯を食べるっていうところからまず始めましょう.じゃあここは,病棟で,朝ご飯までに間に合うように起きるにしましょうという持って行き方になってしまう.

リカバリー思考の場合には,本人の希望に口を差し挟むというか,これができない,あれができないということはしない.この3つがあなたの希望なんですねと,まずそのまま受け止めて,文字にして,一緒に確認します.

次に,現在の状況を聞いてみます.アパートに2年間1人で暮らし,猫も飼っていて,友達が週1回掃除に来てくれて,外食に行ったりすると話された.その次に聞くのが,過去にこの夢の実現に役立つどんなことをしましたかと聞いたら,3年間グループホームに住んで,好きな人もいて,一緒にご飯も食べたし,両親と5年暮らして庭仕事もし,犬も育てたよと話してくれたんですね.

当事者の方がどう考えているかを聞いてみると,車や家のことはほとんど言ってなくて,今はアパートに暮らしたい,暮らし続けたいということを言っています.自分の生活の大切なことを話しています.過去のところで,少し庭仕事とか,犬を育てたなど,家のイメージが出てきます.人の夢とか希望は,今すぐやりたいというわけじゃない夢もいっぱいある.いつかあるといいな,いつかこれが買えるといいなと思って,私たちがわざわざ言わなくても,まずはアパートに住み続けないといけないっていうことに焦点が当たっているということが対話の中でわかるわけです.

問題解決モデルからストレングスモデルに切りかえるというのは,私たちの行動レベルで言うと,私たちの方がよく知ってるからアドバイスをしてあげましょうというのを一旦保留にして,まず話を聞いてみようというところにつきるかもしれません.

Ⅵ  ストレングス・マッピングシートの活用

ストレングスモデルでは,本人が自分の夢を語り,この2週間での目標,短期目標で何をするかを自分自身が決めていくことが大きな要素になります.

ストレングスモデルとリカバリーという概念が,これからの患者さんの回復を助ける段階では中心概念になり,看護職も問題解決モデルとともにこれを学んで,時期に応じてハイブリッドで切り替えていく.その際には,よりどころになる記録の様式があるよいと思いました.それで開発したのが,ストレングス・マッピングシートという記録用紙(図2)(萱間,2017,p. 9)です.

図2

ストレングスマッピングシート

最初にシートの真ん中に,したいこと,夢を記入します.本人に文字で書いてもらってもいいし,言ってもらってもよいのですが,看護師がの意見などをその段階で差し挟むことをしないで,まずそのまま書くんですね.ここから始まります.

次は,これまでの出来事です.この夢に関連する,どうしてそういう夢を持つようになったのかを聞いていきます.

その次に,過去の経験,夢の実現に役立つどんな経験をしてきたか. 私は,この記録用紙を学生実習でも書いてもらっていますが,1個でもいいから,自慢話を聞き出してほしいと学生にお願いします.実はこういうことができるんですよみたいな自慢.私たちも自慢することがあると思いますが,すごいねっていう言葉はうれしいですよね.そのやりとりができたらいいねと言っています.

それから,病気によって起こっていること,受けている治療,体の状態.この3つは私のオリジナルです.ストレングスモデルは,基本的には反精神医学モデルのスタンスです.,病気とか,治療とかそんなことは言わない文化があるのです.しかし,看護師として支援するのは,患者さんが持ってらっしゃる夢と,障害・病気と,今目の前にある生活の3つが重なるところを支援するので,どんなお薬を飲んでいて,どんな治療していて,どんな病気があって,体がどうかっていうことを知らないで,そういうことを無視して支援することはあり得ないと思います.

病気の情報,受けている治療の情報や体の治療の情報は,患者さんが認識していらっしゃることを書きます.よく,受けている治療の薬のところがカルテと違うんですけど,どうしたらいいですかっていうようなことを聞かれることがあります.それは気にしなくてよく,この説明については理解されているんだな,この説明については聞かなかったと捉えてるんだなということを理解します.

最後に聞くのが,夢の実現に役立つ現在の強み.今のその人について伺います.そして,2週間での目標.この2週間で何をしましょうかを相談して記入します.

実は,マッピングシートは,ぱっと見て,その人の全体を見るという意味があります.私は,オーストラリアで認知症患者さんのアウトリーチさせていただいた経験があります.オーストラリアでは,ナーシングホームのようなところに患者さんは入っています.そこに,医師が往診に行ったり,コンサルのチームが来たりする形を採っています.いろんな人の情報を統合していく.本人も書くし,往診に来た人も書くし,普段ケアをしている人が書く.いろんな人が使えるように開発されています.

Ⅶ  当事者のリカバリーの旅に伴走する

この図は,私たちが患者さんを障害者の方,当事者の方を支援していくときのルートです(図3)(萱間,2017,p. 9).

図3

リカバリの旅と支援プロセス

日常では,いいときもあれば,落ち込むときもあれば,小さいでこぼこがあります.時に大きな危機に見舞われることがあります.病気,大切な人を失う,大切な物を失う.あるいは,私たちの今の体験に重ねて言うならば,今,世界中でCOVID-19の流行という感染症災害下に私たちはあります.もう免疫なんか一生できないんじゃないか.そしたら,ワクチンも使えないし,効く薬もないし,このウイルスのこと何にもわからないし,このまま私たちは食事のときに人と近づくなって言われて,今まで大切にしてたものを,全部否定していかなくてはいけないのだろう.自分も感染してこのまま死んでしまうんじゃないか,自分に全く力がなく,コントロールできない,無力感に陥ることがあります.

けれども,人間にはレジリエンス=回復力が備わっています.この回復力は,人によって発動が遅いとか,早いとかの違いはありますが,ある程度のものが与えられていて,回復に向かっていくと言われています.もしかしたらやっていけるかもしれない.今をしのげば,こういう展望があるのかもしれない,と少しずつ上向いてくると,それでいいんですよ,大丈夫ですよと肯定されて,エンパワーメントされていくと,少しずつ未来に向けて,今は保留にしないといけないかもしれないけど,こういうことできるんじゃないか.あるいは,今だからこそ,こういうことが考えられるのではないかということが見つかったりします.リカバリーは,固定したゴールじゃない.いろんな状況下で自分も変わるし,状況も変わり,夢も変わる.それに向けて絶えず更新していく.大きな危機に見舞われ,パワーが全くない,時期が入院治療を受ける時期だと思うのです.私たちは寄り添って,環境を守って.回復して,少しずつ自分の夢に目が向くようになったら,今度はストレングスモデルを使って,それでリカバリーに向かって支援をしていくと思います.

1つのモデルが有効だから,ずっとそれを使うというのではなく,回復の時期に応じてモデルをハイブリッド,組み合わせていってはどうかというのが,私の提案です.問題解決モデルを使った看護過程が展開されている中で,今やっている問題解決モデルのアセスメントと,ストレングスモデルのアセスメントはどのように統合できるのかという疑問は誰しも持たれると思います.

Ⅷ  伴走型支援の特徴

伴走型支援という言葉は,このごろよく使われるようになりました.その特性は,対話によって当事者の希望を知るところから始める.そして,その希望に向けた試行錯誤をともにしながら,実際にいろいろやってみる.そのプロセスで,こういうことはすごくできるんだなとか,力を発揮するんだという当事者の強みを知って,あなたはこういうのがすごくできるんですね,できてますよとフィードバックする.ここがすごく大事なんです.本当は強みだと思っていないのに,表面的に言い換えて,無理矢理,この人にはこういう強みがあると言わなければいけない というモデルだと思っている人が時々います.一緒に何かやってみることが大事で,大きなことじゃなくていいのですが,一緒に何か行動をしてみる中で,その人の強みを心からすごいと思って本人に伝えるのがストレングスモデルで,嘘を言うことではないと思います.

Ⅸ  対話の技術「外在化」

ゴールは本人が決めるものであって,専門家が過度な方向づけをしない.パターナリスティックな,専門家にしか知識がないという考え方は持たないようにします.本人がゴールを決めます.当事者のことは,本人とともに決めて勝手に決めない.これは結構難しいですよね.今までの看護過程のやり方だと,私たちが決めていました.よく考えてみれば,私たちもわからないのに,ちょっと無理がありました.本人と一緒に決めるのは,私たちにとっても良いことだと思います.

本人とともに決める,勝手に決めないっていうことをやるっていうのは,さらにいくつかの技術が必要だと思います.

ここからは,本人と対話をする,希望を聞くときに,私たちが何をしなくてはならないかを考えてみたいと思います.私たちは,これまで,いろんなことを因果関係で考え,類推してきました.状況の責任はその人の内側にあって,その人が作ったという内在化をしてきたように思います.

最近では,外在化という考え方のほうが,当事者との協働には適していると指摘されるようになりました.長い歴史の中で状況や出来事が起こっている.それは私たちがともに直面している現実だという捉え方をするということですね.問題を外在化するというのは,本人や関係者から切り離して外に取り出し,問題にニックネーム,あだ名を付けて,それを擬人化して扱うことです.それによって,当事者とともに取り組む協働体制がとりやすくなります.

卑近な例で恐縮ですが,私には3人の子どもがいます.もう大人です.3人が思春期だったころ,特に一番上の子どもが思春期になったとき,私は思春期のことはあんまり知らず,いつから始まるかもわからず,こんなにひどいことを言われることも聞いてないという状態でした.こんなことも言われた,あんなことも言われたと,中山先生と共通のアメリカ人の年長の友人に泣きながら訴えたことを今でも覚えています.そしたら,その友だちが自分もそうだったよ.こういうこと言われたよって.同じだよって地下鉄の駅でずっと話を聞いてくれました.2人目,3人目になったとき,その状態に「ぶりぶり病」と名前をつけました.ぶりぶり病になってる,ぶりぶり病が今日は来てる.だから,今日は近寄らないようにしようという感じで,本人がひどいことを言う,私を傷つけるっていうふうにしないようにしました.ぶりぶり病がひどいことを言わせる.2人目,3人目は,それでずいぶん楽になりました.上の子が変わってしまったわけではなく,思春期にはぶりぶり病が来るんだという考え方が1つの例です.

外在化の言い方と内在化の言い方は,ずいぶん異なります.オープンダイアログの考え方の中で,斎藤環先生が整理された表があります(表1)(斎藤,2019,p. 24).

表1

外在化のための言い回し例

アルコールの患者さんに私たちがよく言う「なぜ,お酒をやめられないの」という言い方.それを言うとものすごく陰険な,険悪な感じになります.その言い方をやめて,どんな場合に飲酒現象が起こりにくくなるのか検討してみましょうかっていうふうに言う.飲酒現象っていうのは外にあって,それを客観的に分析してみましょうっていう対象にする.

また,これもよく言う,「親が死んだらどうするの」という,直面化するようなきつい言い方.就労現象ってどう思う,あなたの考えはどうですかみたいな聞き方をするといいといわれています.幻聴についても,幻聴さんはどんなときに来るんだろうね,どんなときに問題になるんだろうね,一緒に考えてみようかとしてみる.お互いに楽になるっていう言い方になるテクニックは,対話にとても役に立つ言い方です.

Ⅹ  不確実性に共に耐える

対話には,いくつか我慢しなきゃいけないことも出てきます.それは,私たちが今までやってきた問題解決モデルの中で,すぱすぱっとやってきたことを,ある程度諦めて我慢するということも必要になります.

例えば,聞いてる途中で口を挟んで,だってこれはこうなんじゃないのって結論を先に言ってしまうようなことや,何か不確実であることも専門家なんだから全部見通せないといけないと勝手に思って,これはこうなりますよ,ほかの人もこうなってますからなどと無理矢理当てはめようとしてしまう.ほかの人のことはわからないはずなのに,こう思ってるでしょうと決めつけて,知ったかぶりするっていうようなこと.あるいは,相手の言っていることがよくわからないと内心で思っていながら,自分の有能さを見せつけないといけないと思って,こういうことでいいでしょうとまとめてしまうようなことをやめて,不確実性に耐えることが求められます.支援する私たちだけが耐えるわけではありません.支援されている側も支援している側も同じく不確実で,誰も断言できない状況を,今わからないね,困りましたねとかいうふうに一緒に耐えていくことが強調されます.

オープンダイアログには対話実践ガイドラインが出されていまして,その中に全部で7項目,全体に関わる要素が挙げられています.本人のことは本人のいないところで決めないことと,答えのない不確かな状況に耐えることが大切だと言われています.

問題解決モデルで私たちが切り捨ててきたことの中に,どんなふうに頑張ってもみんなができるだけやっても解決しないっていう問題があること.それは,支援者に能力がないとか力がないということではなく,その状況に一緒に耐えなきゃいけないときがあるのだという考え方が必要だと思います.

私たちは,必要時伴走型支援のモデルに転換していくのですが,一番鍵になるのは対話をすることだと思います.能率性を優先すると,対話しながら不確実性に耐えることは能率が悪そうな感じに見えます.しかし,慢性疾患,障がいと生涯関わっていくことは,わからないこと,不確実なことの連続です.

Ⅺ  看護職も共にリカバリーの道を歩む

私たちの今置かれている感染症災害の状況も,不確実なことしかないような状態にいて,その中で自分たちがどうやっていきたいかってわからずにいます.でも,人と話していると,こういう中でも自分はこういうことしたいんだとか,こういうことを大事にしたいんだっていうようなことがぽろっと出てくるのです.人と話してると出てくることがあるのです.主観的データとか,客観的データの区別ではなく,話をする中で見つかる.あるいは,見つからないかもしれないけど,話ができた.じゃあまた1週間後に,さよならと言って帰って,それでまた会える.そこに希望を紡いでいく.それが,長い期間,不確実性の中で障がいや疾病と付き合っていく方の支援には対話が不可欠です.

今日お話ししたリカバリーのプロセスは,当事者や障がいを持った人にだけ起こるものではなく,私たち自身も粉々になったり,また取り戻したりっていうのを繰り返しながら,そのプロセスにあります.そのプロセスのどこかで,当事者に出会う.一方的に助けるだけじゃなくて,当事者から励まされ,助けられ,自分のリカバリーが促されることをお互いに繰り返しながら,お互いにリカバリーしていく.そういう関係性にあると思います.一緒に走っていると.私たちが支援できるところは私たちが伴走者として支援するときもあるし,当事者の方に伴走者としてご支援いただくこともある中で,互いが互いの形を取り戻していく支援ができれば,それはとても互いの力になると思っています.

以上で,私の今日のお話は終わりにしたいと思います.ご清聴ありがとうございました.

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