日本精神保健看護学会誌
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資料
糖尿病を合併している統合失調症患者の糖尿病自己管理の実施に向けた個別的な支援の検討
高田 昭大川 貴子
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2022 年 31 巻 2 号 p. 58-64

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Ⅰ  はじめに

厚生労働統計協会(2020)によると,糖尿病が強く疑われるもの,糖尿病の可能性が否定できないもの合わせて2000万人と推定されている.精神科病院においても精神疾患に糖尿病を合併した患者は多くみられる.統合失調症の治療の中核となる第2世代(非定型)抗精神病薬は糖尿病のリスクを高めるものもあり,糖尿病合併の一因とされている(長峰,2010佐藤・兼子,2009).糖尿病の治療には,糖尿病をコントロールするためのセルフケア能力の習得が必要とされており(黒田,2001),糖尿病治療ガイド2020–2021(日本糖尿病学会,2020)においても,患者自身が糖尿病の病態を充分理解し,適切な食事療法と運動療法を行うよう指導することが治療方針の一つとして挙げられている.しかし糖尿病を合併している統合失調症患者の場合,教育指導自体が大きなストレスとなり,精神症状の悪化や糖尿病治療の意欲低下を招いてしまうことがある(棚田・藤原,2009).そのため,統合失調症患者一人ひとりの精神症状や生活状況などに合わせた個別的な自己管理支援について検討する必要があるといえる.

そこで,糖尿病を合併している統合失調症患者(以下,「糖尿病合併患者」)が実行可能な糖尿病自己管理方法について退院前に患者と話し合い,退院後にそれを実施した際に生じる変化を明らかにし,その結果から,糖尿病合併患者が地域生活の中で血糖を安定維持し,糖尿病を悪化させることなく生活していく支援のあり方を検討することを目的に,事例研究を行った.

Ⅱ  研究方法

1. 研究対象者の選定方法

本研究では,研究者が精神科病床を有する病院の管理者及び対象となる病棟師長に文書及び口頭で研究の主旨を説明し,研究協力の承諾を得たうえで,対象となる入院患者の推薦を依頼した.対象となる入院患者の選定については,以下に示す1)~6)の条件を満たす入院患者を対象とした.

1)統合失調症の診断がついている患者

2)パーソナリティ障害の診断がついていない患者(援助者との関係性により行動が変化することで,今回の研究結果に一貫性が保てない可能性があるため)

3)日本糖尿病学会の糖尿病診断基準にて2型糖尿病と診断がついている患者

4)精神科病棟に入院中で,今回の入院期間が1年未満であり,研究開始時点から1ヶ月前後での退院予定がある患者

5)今回の入院時点で既に糖尿病を合併していた患者

6)入院前に血糖コントロールが不良と指摘を受けた経験を持つ患者

上記条件を満たし推薦のあった4名のうち同意を得られた3名を研究対象者とした.なお,3名とも研究者とは初対面であり利害関係はない.

2. データ収集及び分析方法

1) 入院中の面接

対象者に,入院前の生活について振り返り形式の面接を行った.面接は,入院前の運動状況,食事状況,糖尿病治療状況など地域生活で困難なことや工夫していたことについてデータ収集した.面接の回数は,患者に状況に合わせて2~6回行った.面談で得られた情報で研究者が情報共有の必要があると感じた内容については,本人の同意を得たうえで精神科医や内科医,受け持ち看護師と情報を共有し,患者の思いや生活状況を入院治療に反映できるように連携しながら研究を行った.

2) 糖尿病自己管理方法の検討・修正

面接の情報から,地域生活で糖尿病治療が継続できない要因と,対象者が生活の中で工夫していた部分や楽しみなどを抽出した.それを基に,実施できる目標や具体的な行動を対象者と共に検討した.また検討した内容は,退院後の面接時に生活状況や精神状態,糖尿病自己管理方法の実施状況に合わせて適宜修正し‍た.

3) 退院後の面接

外来にて,退院後の生活について振り返り形式の面接を行った.面接では,退院後の運動状況,食事状況,糖尿病自己管理方法の状況や血糖値の変動などについてデータ収集した.その際,面接時の様子から精神状態についても査定した.糖尿病自己管理方法が実行できていない場合には,適宜修正し,助言を行った.面接の時期及び回数については,退院後初めての外来時,退院約1ヶ月後,退院約2ヶ月後の3回を基準とし,対象者の要望に合わせて設定した.

4) 分析方法

対象者ごとに,面接回数と面接時の状況,研究者の関わりは異なるが,面接開始から終了までの期間でプロセスに類似性がみられた.そのため,対象者ごとに,「時期」「対象者の状況」「研究者の関わり」の視点で整理し,個別的な支援が糖尿病の評価指標にどのように影響していたのかについて質的に分析した.糖尿病の評価指標としては,入院中および外来時に実施されているBMI,HbA1cとした.血糖値については,条件が統一できなかったため,評価指標としては用いなかっ‍た.

3. 研究実施期間

2013年2月~2013年11月

4. 倫理的配慮

本研究は福島県立医科大学倫理委員会の審査を受け,承認を得た上で実施した.対象者には本研究の研究目的,研究方法,倫理的配慮について文書及び口頭にて説明し,文書にて同意を得た.研究の参加意思は自由であり,協力しなくても通常の診療や看護ケア,医療サービス等に影響を及ぼすことなく,何の不利益も被らないこと,得られた研究結果は施設名や個人が特定されないようにしたうえで公表することについても説明を行った.面接の際には精神状態を観察し,医療チームと情報交換を密にしながら,介入による精神状態への影響に留意した.

Ⅲ  結果

本研究は,3名を対象者とした(表1参照).面接開始から終了までの期間でプロセスに類似性がみられため,対象者ごとに,「時期」「対象者の状況」「研究者の関わり」の視点で整理した(表2参照).各対象者との関りと評価指標の推移(図1参照)について述べる.

表1 事例の概要
対象者 年代 性別 入院期間 入院中面接回数 退院後の面接回数
A氏 40代 女性 約1ヶ月 5回 7回
B氏 50代 男性 約2ヶ月 2回 4回
C氏 50代 女性 約6ヶ月 6回 5回
表2 各時期の対象者の状況と研究者の関わり
時期(期間) 対象者の状況 研究者の関わり
A氏 現状表出時期
(面接開始~退院2週間前)
できている自分を前面に示す 本人がありのまま話せる関係を作る
退院準備時期
(~退院日)
自分の生活や考えを素直に話す 本人が自分で生活を組み立てられるように促す
自宅生活開始時期
(~退院1ヶ月後)
家での生活をありのまま話し,自分の頑張りを示す 本人が意欲を保ちながら生活できるように頑張りを認める
試行錯誤時期
(~退院1ヶ月半後)
精神状態の変化に対して自分で対処を試みる 本人が持ちこたえられるように支え,自分自身で判断し対処できたことを認める
生活安定時期
(~退院3ヶ月後)
自分自身で生活を組み立てる 思いや考えを傾聴し,できているところは肯定的なフィードバックをする
B氏 現状表出時期
(面接開始~退院1週間前)
今までしてきた努力と自分の有する知識を示す 本人がありのまま話せる関係を作る
退院準備時期
(~退院日)
予想される地域生活での問題を認める 本人の努力や工夫を認め,退院後の生活で予測される問題への対処方法を話し合う
自宅生活開始時期
(~退院1週間後)
自分の理想と実際の生活を擦り合わせて試す 試した結果に関わらず生活を意識的に変化させていることを認め,フィードバックする
試行錯誤時期
(~退院1ヶ月半後)
自分の生活に合うものは取り入れ,合わない部分は工夫する 生活の改善が必要な部分を認識してもらい対応を話し合う
生活安定時期
(~退院2ヶ月後)
自分の生活に糖尿病自己管理方法を無理なく取り込み維持できる 現状が維持できるように頑張りを認め,継続の必要性を伝える
C氏 現状表出時期
(面接開始~退院1日前)
退院後の生活を考えて自分ではできない部分を表現する 精神状態を観察しながら不安の軽減を図り,本人がありのまま話せる関係を作る
退院準備時期
(~退院日)
夫のサポートを受けながら試してみようと考える 夫と共に,生活を改善できるように体制を組み立てる
自宅生活開始時期
(~退院2週間後)
夫と一緒に自宅生活を変化させる 本人と夫の頑張りを認め,変化できている部分をフィードバックする
試行錯誤時期
(~退院1ヶ月後)
サポートを受けながら糖尿病自己管理方法を試す 関心が高い部分を活用しながら,糖尿病に対する理解が深まるように頑張りを認める
生活安定時期
(~退院3ヶ月後)
自分で考えながら糖尿病を意識した行動を始める 本人の努力を認め糖尿病治療継続の必要性を説明する
図1

各対象者のBMIとHbA1cの推移

1. 糖尿病の知識を補い,行動変容への意欲が高まったA氏

今回の入院は,グループホームにて生活していたが,幻聴が活発になり,本人が入院治療を強く希望し入院となった.糖尿病を1年前に発症し,ピオグリタゾン塩酸塩250 mgにて治療を開始し,現在はシタグリプチンリン酸塩水和物50 mgを内服している.HbA1cは7.0~8.0%前後となっていた.

A氏との関わりを時期毎にまとめると(表2参照),A氏は現状表出時期にはお腹がすいたら昆布やわかめを食べ,甘いものは食べないといったきちんとできている自分を前面にだし,できていない部分は話さなかった.研究者は,本人がありのまま話せる関係性を構築できるように,本人のできていた部分を具体的に挙げて,自己肯定感を高めていった.その関わりを続けていくことで,A氏は徐々にできていない部分を話せるようになった.退院準備時期になるとA氏は,間食は昆布が良いといったように具体的な行動を示されると,間食は昆布にしなければならないと,示されたことに縛られてしまう傾向が見られ,このことが負担となり,糖尿病の自己管理が難しくなっていると考えられた.そのため,退院後の糖尿病自己管理方法は,食事の内容を単位数毎に組み立てることや,活動内容を具体的に決めるというものでなく,食事摂取量の維持や活動量をあげるといった方向性を確認していくことに留めた.また,糖尿病自己管理方法は心がけるといった努力目標にし,A氏の負担にならないようにした.

退院後の糖尿病自己管理方法の実施状況としては,自宅生活開始時期には,間食の量を減らし,間食する際にはカロリーが低いものを選ぶなど,自分が努力してできた部分を研究者に示すようになっていた.研究者は,本人の行ってきた努力を認めること,また糖尿病自己管理方法でできなかった部分に対しては,それまでに至る過程を確認し,本人なりに考えられていたことを認めることで,糖尿病自己管理の意欲が維持できるように関わった.試行錯誤時期には,幻聴が活発になり精神状態が悪化するも,低血糖予防のために食欲がない時でも何かは必ず食べること,精神状態が安定するまでは,無理のない生活を送るという状況に合わせた対処行動を試行錯誤しながら行っていた.研究者はA氏が精神状態を悪化した時期に,自分自身で判断し対処できたことを認めフィードバックした.生活安定時期には,精神状態が落ち着き前向きに自分で生活を変化させていこうと考えるようになり,デイケア以外にも散歩や自転車で出かけたり,食事も一日の摂取量を意識した選び取りを行えるようになった.また,体重をグラフ化したものや,作った料理を撮影したものを研究者に見せるなど,A氏が糖尿病自己管理を自分なりに工夫して行うようになった.A氏のHbA1cの値は退院3ケ月後に6.7%と減少し,BMIについても退院3ヶ月後には適正値となった(図1参照).

2. 本人の試行錯誤を見守ったことで,生活を意識的に変化させ始めたB氏

今回の入院は,自宅に人が出入りする機会が増えたことで,精神状態が不安定になり,休養と生活の立て直しを目的に入院となった.入院時は,食事が不安定で体重が2ヶ月前より9.6 kg減少しBMIは3.3(kg/m2)の低下がみられていた.糖尿病は6年前に診断され,近隣の内科クリニックで月1回の外来治療を受け,エパルレスタット50 mg,ボグリボース0.6 mgを内服している.以前は血糖値が不良と指摘を受けていたが,入院前1年間はHbA1cの値が5.2~5.7%で安定してい‍た.

B氏との関わりを時期毎にまとめると(表2参照),現状表出時期では,B氏はプライドが高く,自分自身の生活を否定されたり,指導されることに抵抗が見られた.研究者は,B氏がプライドを保ちながら,食事のバランスがとれていないことと,活動量が低いことに気づき対処できるように,本人が行っていた工夫を聞き,できていることをフィードバックし,さらに工夫できることや大切なことをアドバイスという形で伝えた.退院準備時期では,退院後の生活で予測される問題への対処方法を話し合い,食事のバランスと活動量を上げることを目標とした糖尿病自己管理方法を一緒に作成した.

自宅生活開始時期には,退院時に作成した糖尿病自己管理方法を試し,自分の理想と実際の生活をすり合わせながら地域生活を組み立てるようになり,食事や活動量の変化が見られた.試行錯誤時期のB氏は,退院時に作成した糖尿病自己管理方法を自分の生活に合うものは取り入れ,合わないものについては工夫を試みていた.B氏は,「一つ一つの事をやっているとまだよいのですが,いろいろな事をやろうと思ったり考えたりすると,頭の中がまとまらなくなって中途半端になるんです.でも自暴自棄にならないように頑張ります」と自分の精神状態に合わせ負担にならないように糖尿病自己管理を行っていった.B氏は精神状態が不安定になると食欲が低下することがあったが,低血糖を予防するために全く食べない期間を作らないように生活を組み立てていた.研究者は,B氏の精神状態を支えながら,生活を意識的に変化させていることを認めフィードバックした.生活安定時期には「少しずつ食事や運動が自分の生活になってきています.無理しないで出来る範囲でやってきます」と生活に糖尿病自己管理方法を無理なく取り込み,維持できるようになった.B氏のHbA1c値は地域生活でも5.2%~5.5%と安定しており,BMIも適正値内で経過していた(図1参照).入院6ヶ月前から入院月までのHbA1c値については,採血をしていないためデータをとることができなかった.

3. 家族を巻き込んだ知識提供により,糖尿病悪化を防ぐ行動に取り組んだC氏

今回の入院は,不安,焦燥感が高まり,食事摂取が困難となったため入院となった.入院後は,臥床傾向で同肢位のため,左踵部に2 cm × 2 cmの褥瘡ができた.糖尿病は4年前に診断され,月に1回の精神科受診時にグリメピリド1 mgの処方をうけ,内服している.HbA1cの値は,入院前は7.7~8.0%と高値であった.家族は要介護の父親と夫との3人暮らしである.

C氏との関わりを時期毎にまとめると(表2参照),現状表出時期のC氏は「夫に聞かないと何していいんだかわかんない.」と退院後の自宅生活に対しての不安が強くみられた.研究者は,C氏の不安を傾聴し,不安への対処方法について話し合った.退院準備時期のC氏は,退院後の生活を考えて,自分ではできない部分を具体的に表現するようになった.しかし精神状態が不安定な状況であるC氏が,退院後に一人で糖尿自己管理を行っていくことは困難であると考え,C氏の夫も協力できる糖尿病自己管理方法を検討することとした.糖尿病自己管理方法の内容は,食事,運動の必要性について説明し具体的な行動内容を提示することとした.

自宅生活開始時期のC氏は,全面的に夫のサポートを受けながら自宅生活を行っていたが,「一生懸命やろうと思うけどなかなか時間がかかる」と,自分自身で自宅生活を変化させようとする意欲もみられ始めていた.試行錯誤時期のC氏は精神状態が不安定になることもあるが,精神状態が不安定な状態でも夫のサポートを受けながら食事療法を行うようになった.研究者はC氏の精神状態を支えながら,自宅での行動と頑張りを認め,夫に対してもC氏へのサポートをねぎらった.試行錯誤時期に生活を組み立てられるようになってきたことで,C氏は生活安定時期になると,自分で考えながら糖尿病を意識した行動を始めるようになり,研究者はC氏が自分で行動した努力を認め,糖尿病治療を継続していく必要性を説明した.C氏のHbA1cの値は,地域生活でも一定の維持ができており,BMIも適正範囲内で経過することができた(図1参照).入院月に体重測定をしなかったため,入院月のBMIは入院後1ヶ月の値を参考にした.

Ⅳ  考察

糖尿病合併患者が自分で血糖値をコントロールできるように,セルフケアを高めるためには,患者自身が生活を組み立てていくことが必要である.今回の3名については,現状表出時期と試行錯誤時期の個別支援が特にセルフケアを高めることに影響していたと考えられたため,その時期を中心に考察していく.

1. 患者がありのままの自分を表出できるように,安心できる関係性を作る

現状表出時期にはどの患者にも不安と緊張がみられ,入院前の生活についてできていた部分は話すが,できていない部分を話すことには抵抗があるようだった.餘目(2012)は,2型糖尿病患者は,食事療法を頑張ろうと思いながらも,食事療法に伴う重圧感を抱いており,食事療法に対する相反する気持ちが混在していると述べている.そのため現状表出時期には,患者の個別性を踏まえながら,患者が今まで行ってきた努力を認める支援が必要であった.この支援を行うことで,患者と信頼関係が構築でき,間食は制限したいが我慢できないといった,患者の相反する素直な思いを引き出すことにつながった.この時期に患者の現状を把握するで,退院準備期には,患者自身の欲求を踏まえた個人性のある支援を見つけていけることに繋がると考えられた.

2. 精神状態が不安定な時には,無理のない範囲で試行錯誤できるように支援する.

患者の精神状態に共通するところは,生活に変化が起きると精神状態が不安定になり,食事量が不安定になる傾向がみられた.昼田(2007)は,統合失調症の人たちは状況の変化に脆く,状況が変化する場面でしばしば破綻すると述べている.実際に退院後1週間~1ヶ月半前後の試行錯誤時期では,3名とも精神状態が不安定になり,A氏とB氏は食事がとれない状況が見られた.そのため研究者は面接時に患者の精神状態を査定し,食事がとれない患者に対しては,最低限の栄養摂取と低血糖予防の必要性を再度説明し,低血糖の予防に努めることと,精神状態が安定するまでは活動量をあげようと頑張らずに無理のない生活を送り,精神状態の安定を優先させることを伝えた.また,不安については面接時に話し合い,状況によっては糖尿病指導を行わず不安の軽減を優先させた.向谷地(2009)は,病院生活での苦痛が除かれ,悩み自体を消し去られている状況から,地域で生活を送る中で不安や悩みと出会いながら生きるという状況へ戻ること,そして悩む力を取り戻すことの大切さを述べている.今回患者の精神状態と生活状況を査定したうえで,患者が試行錯誤できる状況を作れるような支援を行ったことが,この悩む力を取り戻すことにつながったと考える.この時期を乗り越えることで,患者は糖尿病自己管理に自信がつき,自分で血糖値をコントロールしていくという意思が強化され,セルフケアを高めることにつながったのではないかと考えられる.

3. 看護への示唆

本研究では,看護師の個別的な支援が糖尿病合併患者の行動変容に大きく影響を及ぼしていることが見出された.看護師は,患者の個別性を踏まえながら,患者が今まで行ってきた努力を認め,信頼関係を築くことで患者のありのままの現状を表出してもらうことができる.それにより,患者の糖尿病に関する理解力や知識の程度,欲求や統合失調症特有のこだわりが充分に査定でき,状態に合わせながら糖尿病自己管理方法の作成,修正をすることができた.また,患者自身が血糖値をコントロールできるようにセルフケアを上げるためには,患者が試行錯誤しながら生活を組み立てていくことが必要である.その際看護師は,患者の精神状態を踏まえた声掛けを行い,結果にのみ注目するのではなく生活を意識的に変化させていることを認め,その上で改善が必要な部分を確認し合い,患者が安心して試行錯誤できる環境をつくる支援が必要であると示唆された.

Ⅴ  本研究の限界と今後の課題

今回は,退院2ヶ月後の評価指標の値が確認できるところまでの関わりであり,それ以降の血糖コントロールの状態については把握できていない.さらに長期間フォローアップし,変化の状況を把握する必要がある.また,今回は,3名の対象者それぞれ評価指標が適正値に向かう結果となったが,糖尿病合併患者の糖尿病自己管理支援のあり方は個別性が高いと考えられ,支援の在り方を検討していくには,今後も事例を積み重ねていく必要性があると考える.

著者資格:第一筆者ATは,研究計画,データ収集・分析,論文執筆を行った.共著者TOは研究計画から論文作成までの全プロセスに関わり,内容を確認,承認した.

謝辞:本研究にご協力下さいました対象者の方,精神科病院の皆様に,心より感謝を申し上げます.

なお,本論文の内容の一部は,第24回日本精神保健看護学会学術集会において発表した.また,本研究は,福島県立医科大学大学院看護学研究科に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

文献
  •  餘目 千史(2012).2型糖尿病患者の食事療法への努力と関連要因との関係.日本糖尿病教育・看護学会誌,16(2), 163–170.
  • 昼田源四郎(2007).統合失調症患者の行動特性―その支援とICF―.金剛出版.
  • 厚生労働統計協会編(2020).国民衛生の動向.厚生労働統計協会.
  •  黒田 久美子(2001).糖尿病患者へのチーム医療における看護婦の役割.Quality Nursing, 17(6), 38–43.
  • 向谷地生良(2009):統合失調症を持つ人への援助論―人とのつながりを取り戻すために―.金剛出版.
  •  長峰 敬彦(2010).糖尿病を合併している統合失調症患者への薬物療法.薬局,161, 54–59.
  • 日本糖尿病学会編(2020).糖尿病治療ガイド2020–2021(第1版),文光堂.
  •  佐藤 靖, 兼子 直(2009).抗精神病薬による肥満・高血糖の体質は?.肥満と糖尿病,18(1), 75–77.
  •  棚田 芳彦, 藤原 光志(2009).統合失調症合併糖尿病の療養指導は?.肥満と糖尿病,18(1), 78–80.
 
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