日本精神保健看護学会誌
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精神疾患をもつ人と関わる看護師のストレングス志向性と経験および教育による比較
杉山 由香里田中 いずみ遠田 大輔浜多 美奈子
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2022 年 31 巻 2 号 p. 65-70

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Ⅰ  はじめに

近年の精神医療保健分野において,精神障がいをもつ人への「リカバリー」の概念の浸透が進み,Charles A. Rappら(Rapp, & Goscha, 2011/2014)によって提唱された,当事者の「ストレングス」に焦点を当てたケアが求められるようになった.看護において,ストレングスにもとづくケアとは,最善の部分,機能している部分,可能性を持っている部分を肯定的にとらえ,当事者の問題や課題に対処する際にストレングスに焦点をあて,適切なバランスを見出すということである(Laurie, 2013/2020).医学中央雑誌にて「ストレングス」をキーワードとして原著論文を検索すると292件検索され,そのうち,精神疾患患者に関連する研究は122件である.2004年ごろから散見され,2016年ころより20件/年程度の研究報告がされている.入院期間の減少(Rapp, & Goscha, 1985)や当事者の意欲の向上(田端ら,2019),対象者の肯定的変化(徳永,2016)につながるなどと報告されており,日ごろのケアの中にストレングスを取り入れ,効果も報告されている.しかし,ストレングスが注目されてきている一方で,松井・片岡(2019)は現在臨床現場で働いている看護師の多くは,問題解決思考の教育を受けているため,問題解決型が基本であり,患者のストレングスに焦点をあてることは容易ではないと述べており,ストレングスにもとづくケアの質の向上には,看護師へのストレングスに関する教育や何らかのアプローチが必要である.また,ストレングスにもとづくケアの向上にはいかに専門職がストレングス志向で精神疾患をもつ人と関わるかが重要である(片岡・谷岡,2019)とも言われており,看護師自身がストレングスを志向していくことは重要であると考える.ストレングスの志向性に関する研究は,多職種アウトリーチ支援を行っているスタッフを対象としたもの(種田ら,2020)や,訪問看護師を対象とした調査(池田・日下,2019)はあるが,精神科病棟に勤務している看護師も対象とした調査は職種間でのストレングス志向性を調査したもののみであった.その中でも,訪問看護師を対象とした調査では,地域移行会議への参加経験のない看護師は参加経験のある看護師よりもストレングス志向性が低い可能性がある(池田・日下,2019)と報告されている.

以上より,看護師の退院支援に関わった経験や教育の背景によってストレングス志向性に違いがあると考えられた.そこで,今後のストレングスの志向性を高める方策を検討する資料を得るため,本研究は,現在精神科病院において精神疾患をもつ人と関わっている看護師のストレングス志向性の実態について教育や経験の違いを比較することを目的とした.

Ⅱ  研究目的

本研究の目的は,精神疾患をもつ人と関わる看護師の経験や教育によるストレングス志向性の実態を明らかにすることである.

Ⅲ  用語の定義

ストレングス志向性とは「医療者は精神疾患患者の強みや長所を理解しただしく評価することに向けた考えや気持ちをもち,支援に反映させようとする態度のこと」である(片岡・谷岡,2019).

Ⅳ  研究方法

1. 研究対象

本研究は,A県内にある公的病院および総合病院で現在精神疾患をもつ人への看護実践を行っている看護師(准看護師は除外)を対象とした.

2. 調査期間

2020年11月~同年12月

3. 調査方法

A県のホームページに記載のある精神科医療機関の中から公的病院または総合病院で精神科病床を有する8施設の中から8施設に調査の依頼をした.依頼した施設の看護部長に研究の趣旨を説明し,研究協力の同意が得られた施設において精神疾患をもつ人への看護実践を行っている看護師の人数を調査した.その後,各施設に依頼文と無記名自記式の調査票を郵送し,対象者への配布を依頼した.回収は,郵送法とした.

4. 質問紙の構成

1) 基本属性

性別,年齢,看護師経験年数,配属先,精神科勤務経験年数,退院支援経験の有無,看護師資格取得機関,ストレングスに関する教育の有無(看護師資格取得機関・院内・院外)とした.

2) ストレングス志向性を測定する尺度

Strengths-Oriented Attitude Inventory(以下,SOAIとする)(Kataoka et al., 2015片岡・谷岡,2019)を使用した.22項目4件法で構成され,「とてもそう思う(4点)」~「まったくそう思わない(1点)」としている.「社会面を重視したアセスメントに基づく実践(因子1)」「全人的なアセスメントに基づく実践(因子2)」「地域をベースに展開されるその人らしい生活への支援(因子3)」「個人のもっている力の重視(因子4)」の4因子で構成している.併存的妥当性は未確立だが,信頼性については,Kataoka et al.(2015)においてCronbachのα係数が,「社会面を重視したアセスメントに基づく実践」α = .87,「全人的なアセスメントに基づく実践」α = .88,「地域をベースに展開されるその人らしい生活への支援」α = .83,「個人のもっている力の重視」α = .79であり,十分な内的整合性が示されている.

5. 分析方法

対象者の属性およびSOAIの得点について記述統計を行った.SOAIの総合得点および各下位因子と属性との比較については,Mann-Whitney U検定およびKruskal-Wallis検定を行った.有意水準は全て5%とし,統計処理には,統計解析ソフトSPSS Ver. 27を使用し‍た.

6. 倫理的配慮

協力施設の看護部長へ,口頭・書面にて研究の趣旨,協力への自由意思の尊重,プライバシー保護等について説明した.対象者へは,研究の趣旨,協力への自由意思の尊重,プライバシー保護等について書面にて説明し,調査票の回収をもって研究の同意が得られたものとした.

なお,本研究は,富山県立大学「人を対象とする研究」倫理審査部会の承認を得た後,協力施設の倫理規定に従い実施した(承認番号 看護R2-7).

Ⅴ  結果

質問紙255部配布し,回収数148部(回収率58.0%)であった.SOAIの回答において欠損項目があったものをすべて無効回答として分析対象から除外した.分析対象は133部(有効回答率89.8%)であった.

1. 対象者の概要

性別は女性71名(53.4%),男性62名(46.6%),年代は20代26名(19.5%),30代27名(20.3%),40代28名(21.1%),50代以上32名で(24.1%)であった.看護師経験年数は10年未満が26名(19.5%),10年から20年未満が40名(30.1%),20年以上が47名(35.3%)であった.精神科勤務経験年数は5年未満が78名(59.0%),5年から10年未満が24名(18.0%),10年以上が31名(23.3%)であった.配属先は病棟126名(94.7%),外来7名(5.3%)であった.退院支援経験をしている人は116名(87.2%),経験のない人は12名(9.0%)であった.看護資格取得機関は看護師養成所が105名(78.9%)と最も多く,高等学校専攻科9名(6.8%),短期大学(6.0%),大学(8.3%)であった.

2. ストレングス志向性について

SOAI総合点の平均値(SD)は68.2(6.6)点であった.項目別では,最も得点が高かった項目は「精神障害者が望む回復を実現するためには,専門家や家族,地域の協力を得て,個人が持っている力を引き出す支援を行わなければならない」(3.5(0.5)点)であった.2番目に得点が高かった項目は「支援過程においては,患者との関係が基本である」(3.4(0.5)点)であった.一番得点が低かった項目は「職業(学業も含む)面を重視してアセスメントを実践している」(2.7(0.6)点)であった.(表1

表1 SOAIの得点 N = 133
項目 平均値(SD
SOAI総合得点 68.2(6.6
因子1:社会面を重視したアセスメントに基づく実践 17.6(2.7
対人関係を重視してアセスメントを実践している. 3.1(0.5
精神障害者に必要な資源を重視してアセスメントし実践している. 3.1(0.5
精神障害者の希望を重視してアセスメントし実践している. 3.0(0.5
経済(保険も含む)面を重視してアセスメントし実践している. 2.9(0.6
住居を重視してアセスメントし実践している. 2.8(0.7
職業(学業も含む)面を重視してアセスメントし実践している. 2.7(0.6
因子2:全人的なアセスメントに基づく実践 12.5(1.6
精神面の健康状態を重視してアセスメントし実践している. 3.2(0.4
日常生活能力を重視してアセスメントし実践している. 3.2(0.5
身体面の健康状態を重視してアセスメントし実践している. 3.1(0.5
社会生活能力を重視してアセスメントし実践している. 3.0(0.6
因子3:地域をベースに展開されるその人らしい生活への支援 27.9(3.2
医療者が患者の内面をより理解することで,“その人らしい”生活を維持・向上するための介入が可能となる. 3.3(0.5
個人の行動は,その人自身の歴史,現在の社会関係,成し遂げたいと思う目標によって影響を受けている. 3.2(0.5
医療者の役割は,ひとりひとりの人間の健康な生活の維持である. 3.2(0.5
医療者は,精神障害者が自らケアや自己管理できるようにセルフケア能力を改善する必要がある. 3.2(0.5
ピアサポート力(当事者間力)が重要である. 3.1(0.5
精神障害者の支援の重要な場所は地域である. 3.1(0.6
脱施設化に向けて,精神科病院の機能の変化が求められている. 3.1(0.7
支援過程においては,患者が決定者である. 2.9(0.6
精神障害者の支援に対する認識には職種間で相違があり,その違いがチーム医療を行う上で重要である. 2.9(0.7
因子4:地域をベースに展開されるその人らしい生活への支援 10.1(1.2
精神障害者が望む回復を実現するためには,専門家や家族,地域の協力を得て,個人が持っている力を引き出す支援を行わなければならない. 3.5(0.5
支援過程においては,患者との関係が基本である. 3.4(0.5
精神障害者個人に元来備わっている力(能力や才能,長所)を発揮できるよう援助することが重要である. 3.3(0.6

3. ストレングスに関する教育について

ストレングスに関する講義の受講の有無については,「ある」と答えた人は看護師資格取得機関では16名(12.0%),院内では12名(9.0%),院外は9名(6.3%)であった.このうち,看護師資格取得機関,院内,院外で1回以上講義を受けたことがある人は27名であっ‍た.

4. ストレングス志向性と属性よる比較

SOAI総合得点および因子1~4と各属性の項目の分析を行った.その結果,年齢を20代・30代・40代・50代以上の4つに区分し分析したところ,SOAI総合得点と因子3との間に有意な差を認めた(p = .04, p = .02).SOAI総合得点では20代の得点が71.6点(SD8.3)と最も高く,年代が高くなるにつれて,得点が低くなっていた.因子3においても同様に年代が高くなるにつれて,得点が低くなっていた.退院支援経験の有無では,因子1との間に有意な差を認めた(p = .02),退院支援の経験がある人のほうがない人と比較し得点が高かった.ストレングスに関する講義の受講について看護師資格取得機関(学校)での受講の有無において,因子1と因子4の間に有意差を認めた(p = .03, p = .03),また,院外での受講の有無において,SOAI総合得点とすべての下位因子において有意な差を認めた(p = .01, p = .01, p = .02, p = .02, p = .03).(表2

表2 対象者の属性とストレングス志向性 N = 133
項目(n) SOAI合計 p 因子1 p 因子2 p 因子3 p 因子4 p
Mean(SD Mean(SD Mean(SD Mean(SD Mean(SD
女性(71) 67.3(6.5 .87 17.5(2.2 .37 12.4(1.3 .62 27.8(3.2 .48 10.0(1.2 .72
男性(62) 69.9(7.7 17.5(3.5 12.9(1.9 29.0(3.4 10.5(1.2
年代 20代(26) 71.6(8.3 .04 18.4(3.2 .13 13.0(2.0 .31 29.7(3.5 .02 10.6(1.2 .10
30代(27) 69.0(5.3 17.9(1.8 12.7(1.4 28.2(3.0 10.3(1.1
40代(48) 67.0(6.6 17.0(2.9 12.4(1.5 27.6(3.0 10.0(1.2
50代以上(32) 66.4(4.9 17.6(2.1 12.3(1.7 26.8(2.7 9.8(1.3
配属 病棟(126) 68.6(7.3 .24 17.5(3.0 .28 12.7(1.7 .53 28.3(3.3 .20 10.2(1.2 .37
病棟外(7) 70.6(5.0 18.2(0.8 12.2(1.1 29.6(3.6 10.6(1.1
看護師経験年数 10年未満(46) 68.4(5.8 .07 17.4(2.0 .14 12.7(1.6 .17 28.1(3.1 .40 10.3(1.4 .14
10年~20年未満(40) 69.7(7.7 18.2(3.0 12.8(2.0 28.4(3.4 10.3(1.2
20年以上(47) 66.6(6.1 17.2(2.8 12.2(1.4 27.4(3.0 9.9(1.1
精神科経験年数 5年未満(78) 67.5(5.8 .47 17.5(2.0 .88 12.6(1.6 .78 27.5(3.0 .07 10.0(1.2 .10
5年~10年未満(24) 69.6(8.8 17.4(4.1 12.8(2.1 29.0(3.2 10.4(1.5
10年以上(31) 68.7(6.5 17.7(2.7 12.3(1.4 28.2(3.4 10.4(1.1
退院支援経験 あり(116) 69.0(7.2 .05 17.7(2.8 .02 12.7(1.7 .27 28.3(3.4 .74 10.3(1.2 .09
なし(12) 66.5(6.4 15.8(3.0 12.2(0.8 28.8(3.2 9.7(1.4
看護師資格取得機関 高等学校専攻科(9) 71.7(7.3 .37 19.2(2.6 .20 13.0(1.5 .53 28.3(3.5 .52 11.2(0.8 .70
看護師養成所(105) 68.6(7.4 17.5(3.0 12.7(1.7 28.4(3.4 10.1(1.3
短期大学(8) 64.7(1.9 16.2(1.0 11.8(0.5 26.5(1.1 10.2(1.0
大学(11) 73.0(5.7 18.0(1.0 13.0(1.7 31.3(3.8 10.7(1.2
ストレングスに関する教育 看護師資格取得機関 あり(16) 73.0(7.5 .06 19.0(2.1 .03 13.4(1.7 .16 30.6(3.6 .21 10.7(1.3 .03
なし(77) 67.9(6.8 17.2(3.0 12.5(1.6 28.1(3.2 10.1(1.2
病院内 あり(12) 69.8(8.7 .92 17.5(3.8 .96 12.4(2.1 .44 29.4(3.9 .75 10.6(1.4 .49
なし(97) 68.6(7.0 17.5(2.8 12.7(1.6 28.2(3.3 10.1(1.2
病院外 あり(9) 76.1(11.0 .01 19.7(3.4 .01 14.1(2.1 .02 31.3(4.5 .02 11.0(1.3 .03
なし(106) 68.0(6.4 17.3(2.8 12.5(1.6 28.1(3.1 10.1(1.2

2群間の比較はMann-Whitney U検定

3および4群間の比較はKruskal-Wallis検定

因子1:社会面を重視したアセスメントに基づく実践

因子2:全人的なアセスメントに基づく実践

因子3:地域をベースに展開されるその人らしい生活への支援

因子4:個人のもっている力の重視

Ⅵ  考察

病院内において精神疾患をもつ人と関わっている看護師133名を対象に,ストレングス志向性について教育および経験による比較をした.ストレングス志向性は年代でみると,ストレングス志向性の総合得点と下位尺度の個人の力を重視する志向性(因子3)において年代の低い人のほうが高い人より高かった.この結果から,年齢を重ねるだけではストレングス志向性は高まらない可能性があることが示唆された.また,本調査では,ストレングス志向性は看護師経験年数や精神科の看護の経験年数により影響を受けると仮説を立てていたが,有意差は認めなかった.これは,本調査の対象者が,精神科以外の診療科を有している病院に勤務していることが影響している可能性が考えられる.精神科の患者への看護は日常生活への援助が中心となり,内科や外科等の看護では処置や検査等に関する看護も多く,ストレングスを意識して援助する機会が少ないと推察される.そのため,看護経験の積み重ね方が異なると考えられる.また,数年で他の診療科へ異動や望まない配属等もあり,精神疾患をもつ人への看護に対する意欲や態度も看護師個人で差があると推察される.今後,経験年数だけでなく,精神疾患を持つ人への看護に対する関心度や経験の積み重ね方も考慮し,調査をしていく必要があると考えられる.

経験の中でも退院支援経験のある人は経験のない人より,社会面を重視する志向性(因子1)が高かった.これは,退院支援において対象者がどのような生活を望んでいるかを確認しながら,住居や経済面,仕事,社会資源の活用などをアセスメントしていることが影響していること考えられる.また,看護師が対象者のストレングスに気づくきっかけとして,多職種の発言から対象者の新たな一面を知る機会となり,対象者に対する捉え方が変化し,対象者のストレングスの気づきにつながっていたとの報告もされている(松井・片岡,2019).退院支援においては多職種との関わりも多くなるため,より看護師が対象者のストレングスに気づき,意識しやすい状況となる.つまり,日ごろのケアの中で,対象者のストレングスを認識できる環境や状況を意図的につくることでストレングス志向性を高めることができるのではないかと考えられる.ストレングス志向性と教育の有無に関する比較においては,社会面を重視する志向性(因子1),全人的な視点を重視する志向性(因子2),個人の力を重視する志向性(因子3),地域生活の支援を重視する志向性(因子4)のすべての下位因子において,院外でストレングスに関する教育を受講した経験がある人のほうがない人よりストレングス志向性が高かった.これは,院外で研修を受けるという行動は能動的な行動であり,自らストレングスについて学ぶことを意識して学んでいることが影響しているのではないかと考えらえる.そのため,ストレングスの特定の側面ではなく,ストレングスを幅広くとらえた視点に志向していたのではないかと考えられる.また,看護師資格取得機関(学校)でのストレングスに関する教育を受講した経験のある人はない人より,社会面を重視する志向性(因子1)と地域生活の支援を重視する志向性(因子4)においてストレングス志向性が高かった.これは,看護基礎教育の中で,精神障がい者も当たり前に地域でケアされるように,地域生活の場で発揮される看護実践能力の育成が強く要請されており(林ら,2020),入院治療中心から地域生活支援の重要性が教育されていることが影響していると考えらえる.しかし,今回の調査では,教育によりストレングス志向性を高める可能性があることは示唆されたが,受講動機や教育内容についてまでは調査をしておらずどのような教育がストレングス志向性に影響があるのかについて,今後継続して検討する必要がある.

Ⅶ  本研究の限界と今後の課題

精神疾患をもつ人との関わりは,民間病院や訪問看護ステーション,社会復帰施設など様々なところでされている.本研究では,A県内の総合病院および公的病院に勤務している看護師のみを対象としており,この結果を一般化することはできない.また,使用尺度についても信頼性は確認されているが,妥当性については検討されておらず,ストレングス志向性を測定する尺度についても検討が必要であると考えらえる.

Ⅷ  結論

本研究において,精神疾患をもつ人と関わる看護師のストレングス志向性と教育および経験を比較した結果,以下の結論を得た.

1.経験では,退院支援の経験の有無において社会面を重視する志向性との間に有意差を認めた.

2.教育では,院外でのストレングスに関する教育の受講経験の有無において,社会面を重視する志向性,全人的な視点を重視する志向性,個人の力を重視する志向性,地域生活の支援を重視する志向性との間に有意な差を認めた.また,看護師資格取得機関における教育の有無において,社会面を重視する志向性,地域生活の支援を重視する志向性との間に有意な差を認めた.

謝辞

本調査にあたり,お忙しい中ご協力いただきました看護師の皆様に感謝申し上げます.

著者資格

SYは,研究の着想,デザイン,データ分析,論文の作成までのすべてのプロセス全体に関わった.TI,TD,HMはデータ分析,論文の作成における助言を行った.すべての著者が最終原稿を読み承認した.

文献
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