本研究は攻撃行動により地域生活を送ることが困難となり児童思春期精神科病棟に入院となった神経発達障害群患者に対する看護を明らかにすることを目的とし,児童思春期精神科病棟に3年以上勤務する看護師8名に半構造化インタビューを行った.分析の結果,【看護師や入院生活への安心安全感を与える】【攻撃行動時の状況や気持ちについて振り返りを促す】【攻撃行動の不適切さや不利益さを理解することで行動変容の動機づけを促す】【動機づけ後に行動変容に向けて具体的な行動目標を自ら考えられるように促す】【行動変容の目標を達成できるように適切な行動の定着を促す】の5つのカテゴリーが見出された.まず看護師は患児にとって信頼できる大人という存在になるように心掛けていた.このケアを基盤に特性に合わせた言語化の促しや行動変容の動機づけを行っていた.その上で,日常生活場面を通し実践的に支援し適応行動を児が獲得しやすいように支援していた.これらの看護ケアが神経発達障害群患者の攻撃行動の低減に繋がると考えられた.
In this study, we aimed to elucidate the nursing practice provided to such patients. We conducted semi-structured interviews of nurses who had worked for more than 3 years at a child and adolescent psychiatric unit. By utilizing qualitative descriptive research, we inductively classified, obstructed, and categorized the interview data verbatim. We interviewed 8 individual nurses in the child and adolescent psychiatric unit. We extracted the following 5 categories based on the interview: “give a sense of reassurance and safety to nurses and hospitalization,” “induce to rethink the situations and emotions following the aggressive behavior,” “induce patients’ motivation for behavior modification by helping them notice the unsuitability and disadvantages of aggressive behavior,” “induce patients to think about their behavior and the purpose of behavior modification,” and “induce patients to help them acquire proper behavior.” These nursing practices were performed in a timely manner when aggressive behavior occurred in the patients’ daily life and interpersonal situations. Environmental adjustments that promote verbalization and motivation for behavior correction by considering behavioral characteristics need to be the basis for modifying offensive behavior. In addition, it is important to establish adaptive behavior in daily life situations to increase adaptive behavior. It is necessary to select and provide necessary nursing care according to individual differences, such as the characteristics and severity of the disease-causing aggressive behavior, the factors affecting the behavior and the effects of such behavior.
児童思春期精神科において攻撃行動は入院患者の最も一般的な症状であり,攻撃行動が学業成績の低下,雇用の減少,社会的孤立・暴力・犯罪・自殺等の一因となる可能性が指摘されている(Barnett et al., 2002).また,攻撃行動の要因として,神経発達障害群(以下,NDD)の診断が挙げられ,落ち着きのなさ・逃げる・隠れるといった行動との関連性も指摘されている(Faay, Valenkamp, & Nijman, 2017).
NDDは,DSM-5で定義された自閉スペクトラム症や注意欠如多動症といった疾患を中核とした脳・中枢神経の成長発達に関する不全のカテゴリー群であり,成長の過程で次第に明らかとなる行動やコミュニケーションの障害である.特性を背景とした衝動性から思い通りにならない際に攻撃行動を起こしてしまうことがある.家庭や学校で対応が難しく,地域生活を送ることが困難となり,入院が必要となるケースもあり,児童思春期精神科における入院外来患者の診断として最も多い(全国児童青年精神科医療施設協議会,2020).加えて,国内の通級による指導を受けている児童生徒のうち発達障害は増加傾向である(文部科学省,2022).
しかし,NDD児に対する看護実践で攻撃行動を減らす可能性のある介入や,攻撃行動に対処するための看護は明らかになっていない.そのため,攻撃行動に対処するための看護独自の支援の必要性が指摘されているが,エビデンスに基づく方法は確立されていない状況である(Hage et al., 2009).その後の研究で,感情温度スケールの使用(Andrassy, 2016),トラウマインフォームドケアに基づく6つのコア戦略の実施(Azeem et al., 2017),センソリールームの使用(Seckman et al., 2017)といった研究がなされているが,いずれもNDDに焦点を当てた研究は少ない.NDD児はその発達特性から,自らの体験を言語化できないことや社会的文脈に応じて自分の行動を調整することが困難であり,他者の感情を察して適切に反応することが苦手であるといったた言語・コミュニケーションや社会性の障害により攻撃行動の要因となり得る(辻井,2007;傳田,2017).そのため,臨床現場では看護師が試行錯誤しながら看護を行っている.従って,攻撃行動により入院となったNDD児に対しては,単に病棟での攻撃行動を管理することだけではなく,NDDの治療プロトコル(本城・野邑・岡田,2016)に即し,NDDの発達特性を踏まえた攻撃行動の衝動コントロールを行う必要がある.加えて,上述した現在明らかとなっている様々なプログラムは,一時的な介入なため,プログラム導入に至るまでに必要な看護ケアやプログラムを日常生活で応用していく看護ケアが求められる.そのため,攻撃行動により入院となったNDD児に特化した入院から退院までの看護の全体像を明らかにする必要がある.
以上のことから,本研究は,攻撃行動により地域生活を送ることが困難となり児童思春期精神科病棟に入院となったNDD児に対して攻撃行動の低減に向けてどのような看護ケアが提供されているかを明らかにすることを目的とした.これを明らかにすることで,NDD児が二次障害を予防することや,攻撃行動を低減し地域社会に適応して生活することに繋がると考えた.
本研究では先行研究(Dean et al., 2010)を参考に,攻撃行動を「相手に対して物理的や肉体的や言語的になんらかの損傷を与えようとする行動・物的損害及び自傷行為」と定義した.
本研究は,質的記述的研究である.
2. 研究対象者および対象者の選定研究対象者は,Benner(1984/2005)が意識的に立てた長期の目標や計画を踏まえて自分の看護実践をとらえることができる看護師の経験年数は2,3年であると述べていることから,児童思春期精神科病棟に3年以上従事している看護師とした.児童思春期精神科病棟の看護師長より,看護実践能力を有する看護師の推薦を得た.
3. データ収集方法半構造化インタビューを1対1で行った.インタビュー内容は,研究対象者に関する内容(年齢,性別,看護師歴,児童思春期精神科看護師歴,精神科看護師歴)と,攻撃行動により地域生活を送ることが困難となり児童思春期精神科病棟に入院となったNDD児事例に対してどのような看護を提供したかであった.看護については,行った介入を中心に,「情報収集・アセスメント・介入・介入の意図・結果」について尋ねた.説明文書にインタビューガイドを添付し事前にお渡しし,参加者に具体的にNDD受け持ち患児の事例を想起してもらった上でインタビューを行った.インタビュー内容は許可を得てボイスレコーダーにより録音した.データ収集期間は,2020年1月~2020年3月であった.
4. データ分析方法分析は,面接したデータを逐語録にありのまま詳細に記録し,記述内容を念入りに読み返して全体像を把握した.記述した文章を1行1行丹念に注意深く調べ,攻撃行動により児童思春期精神科病棟に入院となったNDD児に対する看護と考えられる部分を語られた意味内容を損なわない単位で区切りコードとして抽出した.その後,意味の類似性に基づいてコードを分類した.コード分類したものをサブカテゴリー化し,抽象度をあげカテゴリーを抽出した.全分析過程において,質的研究に精通している研究者,また精神看護学の専門家など複数のスーパーバイズを受け,真実性の確保に努めた.
5. 倫理的配慮本研究の実施にあたり,施設の看護部長・看護師長に研究の説明を行いリクルートの許可を得て,対象者を推薦していただいた.その上で研究対象となる看護師に対して,説明文書を配布した.研究の趣旨と共に,参加者の自由意思を尊重すること,インタビュー時に随時参加拒否・撤回ができること,拒否することで不利益が生じないことを書面と口頭にて説明し,同意が得られた参加者に対して同意書に署名を得た.研究協力参加への圧力がかからないよう配慮し,同意撤回書は研究者に直接送付し,看護部長・看護師長に分からず撤回できるよう自由意思を担保した.インタビューはプライバシーが保護される場所を確保した上で行った.本研究は大阪大学医学部附属病院の倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:19338).
本研究の対象者は,推薦された看護師のうち研究同意が得られた1施設の児童思春期精神科病棟に従事している看護師8名(男性3名,女性5名)であった.年齢は20歳代が1名,30歳代が2名,40歳代が3名,50歳代が2名であった.看護師歴は平均16.8年(5~28年)で児童思春期精神科の看護師としての経験年数は6.6年(4~10年)であった.インタビュー時間は,平均54分41秒(49分~1時間1分8秒)であった.
2. 分析結果分析の結果,521のコードから27のサブカテゴリーが生成され,そこから 7つのカテゴリーを抽出した(表1).以下,文中の【 】はカテゴリーを,〈 〉はサブカテゴリーを示す.また,斜体文字は参加者の語りを示し,語りの中略や補足は( )で示す.
攻撃行動により児童思春期精神科病棟に入院となった神経発達障害群患児に対する看護
カテゴリ | サブカテゴリ | 代表的なコード |
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看護師や入院生活への安心安全感を与える | 児が安心して快適に過ごせるように看護師の言動を含めた入院環境の調整をする | 看護師が一緒に遊ぶ.遊んでくれる友達がいるという環境を作る.1時間に1回看護師が来て話をすることを伝える. |
看護師は児を気にかけ理解しようとしてくれる存在であることを日常場面で認識してもらう | トークンで好きなものをくれる人になる.毎日頻回に訪室し話を聞きますよとアピールを繰り返す.しばらく児の傍に居る. | |
看護師に受容され安心感を得られるように思いを表出しやすい態勢を作る | 信用できる大人の存在を作ってあげる.日記を書いてもらい看護師と振り返る時間をとる.選択肢を与えて話してもらう. | |
安全な入院生活となるように攻撃行動をできるだけ回避する | 看護師が入る形で他児と遊んでもらう.テンションが高い時は早目に声をかける.病棟や個室への移動により刺激を減らす. | |
攻撃行動時の状況や気持ちについて振り返りを促す | 振り返りに繋げられるように攻撃行動に対する児の思いに寄り添い受容的に関わる | 不適切な行動であっても気持ちを受け止める.話したいことを全部話してもらえるように関わる. |
攻撃行動場面の状況を振り返り適切な理解を促す | 少しでも児の言葉で何があったのか場面理解について振り返る.トラブルの状況について外から見ていて思ったことを伝える. | |
攻撃行動の背景にある児の本当の思いや理由の表出を促す | どういう気持ちだったのか,どうしたかったのか,どうして欲しかったのか尋ねる.振り返りシートを作って児の思いを表出してもらう. | |
振り返りが深まるように補助し継続的に振り返りを促す | 気が散らない保護室で話を深める.できるだけ児に考えてもらう.前回との違いで肯定的な部分をフィードバックする. | |
攻撃行動の不適切さや不利益さを理解することで行動変容の動機づけを促す | 攻撃行動が不適切な行動であると認識できるように関わる | 暴力はいけないことだと説明する.イエローカード・レッドカードを作ってその場で暴言暴力が分かるようにする. |
攻撃行動による他者の気持ちや影響を考えられるように関わる | 自分の振る舞いが相手にどういう影響を与えているか気づけるようにする.攻撃行動時の相手の表情・言葉・声色はどうだったか話す. | |
攻撃行動による児にとっての不利益を認識できるように関わる | イライラして暴力するとみんなが離れていき一人になって寂しいことを話す.学校や家でも困っていないのか尋ねる.暴力したときは楽しいことはできないと伝える. | |
攻撃行動に対して行動変容のメリットから動機づけを行う | 暴言暴力後に困ったりへこんだりしているため,そこに対して他に方法があるのではないかという話をする.うまくできない不都合なことの話から動機付けに繋げる. | |
動機づけ後に行動変容に向けて具体的な行動目標を自ら考えられるように促す | 行動修正に向けた目標を主体的に決定できるように促す | 目標は本人と相談して決め,看護師が期待していることとどういう風に本人が変わっていきたいかをすり合わせる.自覚できている暴言暴力についてを目標とする. |
段階に応じて児が取り組みやすいように具体的な目標を設定する | スモールステップで目標を提示する.できることが増えたらトークンエコノミー法の項目をどんどんステップアップさせる. | |
目標達成に必要な行動を看護師が補助しながら主体的に考えるように促す | 次への課題や次起こったらどうするのか具体的な行動を考えてもらう.困ったら周りの大人に助けてもらう手段について話す. | |
行動変容の目標を達成できるように適切な行動の定着を促す | 適切な行動が習得できるように必要な知識を教育する | アンガーコントロールのワークを行う.ソーシャルスキルのワークを行う.イライラの程度を信号機を使って示す. |
感情理解の困難さに対して日常場面で感情をモニタリングし他者に表出できるように関わる | 気持ち探しのパズルを作り毎日の出来事から気持ちを探す.ピンクか灰色どちらの気持ちだったか尋ねる.日常場面で悲しいときはどんな時かや程度を数字にしてもらう. | |
日常生活場面で目標とする行動が習得できるように関わる | イライラした時は部屋に戻って対処法をするフローチャートを入れる.対処法の練習を毎日する.トラブルの度に振り返り対策を立てることを繰り返す. | |
児の主体性や自信から適切な行動の定着に繋げるために自己肯定感を得られるように関わる | できたらほめることを繰り返す.トークンエコノミー法を行う.児の大切さをワークを通して伝える. |
本研究結果より5つのカテゴリーが抽出された.看護師は,入院初期から【看護師や入院生活への安心安全感を与える】ことを行っていた.その上で攻撃行動後に【攻撃行動時の状況や気持ちについて振り返りを促す】,【攻撃行動の不適切さや不利益さを理解することで行動変容の動機づけを促す】【動機づけ後に行動変容に向けて具体的な行動目標を自ら考えられるように促す】ことを行っていた.これらの関わりを経て【行動変容の目標を達成できるように適切な行動の定着を促す】ことを行っていた.以下各カテゴリーについて説明する.
(1) 【看護師や入院生活への安心安全感を与える】これは,特性に対する周囲の理解不足により大人に対して不信感を抱くことや社会的居場所を失った患児に対し,入院初期から看護師や入院生活に安心安全感を与えることを意味する.このカテゴリーは 4つのサブカテゴリーで構成された.
〈児が安心して快適に過ごせるように看護師の言動を含めた入院環境の調整をする〉は,社会で適応できず安心できる場所がなかった児に対して,看護師による24時間体制の見守り,友達と仲よく遊ぶことができる環境の提供や保護室に入室時に保護室の必要性を伝え,安心できるように環境整備をすることである.
〈看護師は児を気にかけ理解しようとしてくれる存在であることを日常場面で認識してもらう〉は,看護師が児の好きなものや興味のあるものを理解し提供すること,児が受け入れやすい遊びを通して可能な限り児と関わることや思いを言語化できるよう児の傍で待つことや頻回に訪室を繰り返すことである.“好きなものを作ってもらえるとか,好きなものをトークンでカードを作ってもらったりとか,好きなものをくれる人になるっていう.(中略)たくさん遊びましたね,遊び相手になることも,信頼関係を作るには大事かな.この人は大丈夫な人なんだっていうのが,一番子供に入りやすいというか.”などが挙げられた.
〈看護師に受容され安心感を得られるように思いを表出しやすい態勢を作る〉は,毎日看護師とかかわる時間を保証し,日々の生活の中で遊びを通して話をすることや,クローズドクエスチョンを用いて表出を促すことや保護室の場合にはその環境を利用し,隔離に至った経緯や入院前のこれまでの生活などに対する児の思いについて時間をかけて聞くことである.“ちゃんとあなたの毎日のこと見てるし,心配してるし困ってないかなって思ってるよっていうのをあなたのための時間をここで作ってるよみたいなところも作りたかったので,(中略)ここであなたの話をちゃんと聞くよっていうのを毎日ちゃんと保証するっていうのを作りたかったので,看護師さん後で話聞いてくれるしみたいなところでの安心感を作りたかった.”などが挙げられた.
〈安全な入院生活となるように攻撃行動をできるだけ回避する〉は,入院前の情報から攻撃行動に対する応急的なルールを提示した上で看護師が遊びの場に入り見守りを行うことや,粗暴行為に至る前に看護師が早めに声をかけ,タイムアウトを促すタイミングや誘い方を工夫することである.
(2) 【攻撃行動時の状況や気持ちについて振り返りを促す】これは,特性上うまく攻撃行動時の状況や自分自身の気持ちを理解し言語化することが難しい患児に対して,攻撃行動の振り返りができるように関わることを意味する.このカテゴリーは4つのサブカテゴリーで構成されていた.
〈振り返りに繋げられるように攻撃行動に対する児の思いに寄り添い受容的に関わる〉は,強めの指導や攻撃行動に対する看護師の介入を受け入れやすくするため,振り返りの最初に,児の大変さを理解し認めた上で,言い分や気持ちを吐き出してもらうことで,不適切な行動であっても気持ちを否定せずに受容的に関わることである.
〈攻撃行動場面の状況を振り返り適切な理解を促す〉は,何があったのか状況をどう認識しているかを看護師が補助しながら状況を振り返り理解することである.“そういう風に捉えてたんだねっていうところを.そこ(攻撃行動時の状況)が出てこなければ外から見てて私はこう思ったけどどうだったとか,こんな場面あったんだけど覚えてる?って聞いてみたり.” 等が挙げられた.
〈攻撃行動の背景にある児の本当の思いや理由の表出を促す〉は,何が嫌だったのか何に怒っていたのかという攻撃行動に至った理由について振り返り,攻撃行動の裏側にある気持ちを児が気づけるように関わることである.“(振り返りでは)それ(暴力)に乗ってる気持ちは否定しないように,やった理由は絶対あるよねっていうところは,ただだめとか言うんじゃなくて,やるには理由があるじゃん,そこまでに動く理由があるじゃんっていうところは大事にしようって思っています.”等が挙げられた.
〈振り返りが深まるように補助し継続的に振り返りを促す〉は,焦点を絞って簡潔に主体的に振り返り,前回と比べてできていることを褒めて,励ますことや保護室等の気が散らない環境で話を深めることである.
(3) 【攻撃行動の不適切さや不利益さを理解することで行動変容の動機づけを促す】これは,攻撃行動による影響について困り感を抱いていない児に対し,攻撃行動の不適切さや自身の不利益を理解し行動変容の動機づけに繋げる関わりを意味する.このカテゴリーは4つのサブカテゴリーで構成された.
〈攻撃行動が不適切な行動であることを認識できるように関わる〉は,振り返りで,攻撃行動が社会的に認められないことであることを繰り返し伝えることやカードによる視覚化,行動制限により攻撃行動の不適切さに気づいてもらうことである.
〈攻撃行動による他者の気持ちや影響を考えられるように関わる〉は,攻撃行動による相手に与える影響や相手の言葉や声色・表情について振り返り,周りの子がどのような感情を抱いていたか気づきを促す関わりである.
〈攻撃行動による児にとっての不利益を認識できるように関わる〉は,今まで攻撃行動により経験した辛いことや困ったことについて振り返り,自分も周囲の人も傷つけることや児にとってのデメリットについて理解を促すことである,“負のループができているよというのを図を描いて提示した.イライラした怒った,暴力する,みんなが離れていく,一人になって寂しい,また一人になって寂しいからそこでイライラして暴力する,そしたらみんなまた離れていくっていう.”等が挙げられた.
〈攻撃行動に対して行動変容のメリットから動機づけに繋げる〉は,学校や対人関係等で困っていることや不都合に感じていることから,児の希望を叶えるために今できることを考えてもらうことで攻撃行動を修正する動機付けに繋げられることである,“学校の先生はこういうこと困ってるよとか,周りの子も困っちゃってたよってそういう風になりたいのかなっていう話をすると,やだ,友達とも仲良くしたいし,先生にもわかってほしいってなれば,じゃあそうやってなるためにはここ目標として頑張ってどうしたらいいか考えようねって持っていくようにします.”などが挙げられた.
(4) 【動機づけ後に行動変容に向けて具体的な行動目標を自ら考えられるように促す】これは,行動変容の動機づけができた上で,児に行動変容に向けた目標やそのための具体的な行動を主体的に考えてもらう関わりを意味する.このカテゴリーは3つのサブカテゴリーで構成された.
〈行動修正に向けた目標を主体的に決定できるように促す〉は,攻撃行動を修正する必要性にいつでも立ち戻れるように,本人と一緒に相談して目標を決めることである.“(目標は)本人と相談.僕があなたに期待しているところと,あなたがどういう風に変わっていきたいとかどういうにしていきたいかをすり合わせるみたいな.”等が挙げられた.
〈段階に応じて児が取り組みやすいように具体的な目標を設定する〉は,一歩ずつ着実に達成することで成功体験を積めるように,スモールステップで児が困り感として自覚できているものから目標を設定することである.“躓きやすく目標(設定が)高いので,達成できないところもあっちゃったので,まずはスモールステップじゃないですけど,まずは(中略)外泊頑張ってみようよっていうところかな.”等が挙げられた.
〈目標達成に必要な行動を看護師が補助しながら主体的に考えるように促す〉は,児が選択した対処法を導入しつつ,児の理解が不十分な事柄について看護師が補い今後の対策を具体的に児に考えてもらうことである.
(5) 【行動変容の目標を達成できるように適切な行動の定着を促す】これは,児が決めた目標を達成できるように,必要な知識を教育しながら,想像力の困難さから知識をうまく応用することができない特性に対し,具体的な日常生活で困った場面を通してリアルタイムに関わり,適切な行動の定着に繋げることを意味する.
このカテゴリーは4つのサブカテゴリーで構成されていた.
〈適切な行動が習得できるように必要な知識を教育する〉はソーシャルスキルトレーニングやアンガーマネジメントを用いて怒りの感情や感情の変化に伴う身体の変化や,感情をモニタリングする方法を教育することである.
〈感情理解の困難さに対して日常場面で感情をモニタリングし他者に表出できるように関わる〉は,日記や会話を通して日常場面の出来事で気持ちや体の感覚を尋ねることで感情と体の感覚をつなげて理解し表出の練習をすることである,“(毎日)その日にあった出来事をそのまま話してもらって,一緒にその時の気持ちってどうだった?ピンク色?灰色だった?とかって言うのをちょっと身近なことで結び付けてあげて,こういう時ってこういう気持ちなんだっていうのを入れていった.”等が挙げられた.
〈日常生活場面で目標とする行動が習得できるように関わる〉は,児の行動を明確に評価し,指導と褒めることにメリハリを出すこと,対処法をフローチャートとして視覚化することや,病棟での実際の対人場面を振り返り教育した知識と実際の場面を結びつけることで適切な行動を理解し実践できるように促すことである.“(トラブルが)起こった度に振り返りをするようにしていました.いくつかまとめてはできないので,その都度で対策を立てて,次やってみるみたいな感じで.”等が挙げられた.
〈児の主体性や自信から適切な行動の定着に繋げるために自己肯定感を得られるように関わる〉は,繰り返しまたは些細なことを大げさに褒めることやトークンエコノミー法を用いることである.
本研究により攻撃行動により児童思春期精神科病棟に入院となったNDD児に対する看護ケアに関して入院から退院までの全体像や既存のプログラム導入前に重要となる看護ケアが明らかとなった.看護師は,入院初期から【看護師や入院生活への安心安全感を与える】ことを実施していた.児が安心安全感を得られるようになった後に,【攻撃行動時の状況や気持ちについて振り返りを促す】ことを行っていた.その上で【攻撃行動の不適切さや不利益さを理解することで行動変容の動機づけを促す】,【行動変容に向けた目標や具体的な行動を考えられるように促す】ことで,児が主体的に行動変容できるよう支援していた.最後に【行動変容の目標を達成できるように適切な行動の定着を促す】看護ケアを行い,入院生活だけではなく退院後も児が適切な行動を継続できるように支援していた.看護師はNDDの特性に配慮し入院から退院まで段階的に攻撃行動に対してケアを行っていた.これにより児が主体的に攻撃行動を低減させることができ,児の社会適応に繋がっている可能性がある.以下3点について詳細に考察をする.
第一に.看護師は行動変容に向けて言語化を促す発達支援を行っていた.入院初期から【看護師や入院生活への安心安全感を与える】ことを行っていた.被虐待児において,看護師は子どもがスタッフから大切にされていると感じられるように関わることや子どもが安心できる枠組みを提供することが明らかとなっている(大橋・船越,2021).本研究において,NDD児においても同様の結果が得られた.加えて,NDD児の場合には,自らの発達特性によるふるまいや行動を,周囲から理解されずにわがままと思われることや,叱責の対象となっていることも少なくない(石﨑,2017).これにより児は自信や意欲の低下,さらに,不信感などの状態を引き起こし(伊藤ら,2022),社会生活での居場所を失っている可能性がある.児が安心して快適に過ごせるように看護師の言動を含めた入院環境の調整をすることや看護師が児を気にかけ理解しようとしてくれる存在であることを日常場面で認識してもらうといったケアを行うことで安心安全な環境調整と信頼できる大人となり,NDD児の言語化を促す基盤を作ることが重要であると考えられる.
第二に,看護師は攻撃行動を綿密に振り返り行動変容の動機づけを促していた.看護師はまず【攻撃行動時の状況や気持ちについて振り返りを促す】ことを実施していた.暴言暴力発生後に看護師が行うケアとして,行動の振り返りを行う理由や,子どもが自分の行動について,何が悪かったのか,どうすればよかったのかを考え,暴言を言われた側など他の子どもの気持ちを推察し,看護師に言語化することを行っている(船越・田中・服部,2010;船越ら,2013).本研究でも同様の結果が得られ,更にNDD児の攻撃行動に対して必要な振り返りのケアについて詳細が明らかとなった.看護師はまず,振り返りに繋げられるよう児の攻撃行動に対し思いに寄り添い受容的に関わっていた.患者を受容する関わりにより暴力の減少に繋がる(福山・川中,2009)ことが示唆されており,本研究結果からも,この関わり自体が攻撃行動の低減の一助となっていると考えられる.他方で,攻撃行動を振り返る際に看護師は,攻撃行動場面の状況に対し適切な理解を促し,攻撃行動が不適切な行動であることや攻撃行動による他者の気持ちや影響を考えられるように関わることで発達特性に配慮してケアを行っていた.加えて,状況や思いといった詳細な事柄を一緒に振り返り継続的に行っていた.発達障害児は言葉の多寡にかかわらず,自分の内面を的確に言語化できないことが多く(石﨑,2017),自らの体験を言語化する能力が獲得できていないことが問題行動につながる要因となっている(辻井,2007).また,その場で生じた状況や感情を正確に言語化できることにより,適切なスキルが発揮することができる(岡村・渡部,2014)とされている.従って看護師は,信頼できる大人という存在になった上で,児が理解しやすいように詳細かつ継続的に振り返りを行い,特性に合わせ攻撃行動に至った状況や気持ちの言語化ができることがNDD児に対するケアとして重要である.
加えて,看護師は【攻撃行動の不適切さや不利益さを理解することで行動変容の動機づけを促す】ことを行っていた.傳田(2017)は,自閉スペクトラム症においては,社会的文脈に応じて自分の行動を調整することが困難で,他者の感情を察して適切に反応することが苦手であるといった社会性の障害があることを指摘している.患児は,思いをうまく表出することができず攻撃行動として表出しており,特性上攻撃行動の社会的不適切さや他者への影響をうまく理解できずに,児自身には攻撃行動による困り感がない状態で入院となっていることが考えられる.従って,看護師は丁寧な攻撃行動の振り返りを行った上で,攻撃行動による児にとっての不利益を認識できるように関わることや攻撃行動に対して行動変容のメリットから動機づけに繋げる点からアプローチをすることで,特性に合わせて理解しやすい行動変容の動機づけ支援を行うことが必要である.
第三に,看護師はNDD児の適切行動の獲得に向けて支援を行っていた.看護師はまず患児の行動変容の動機づけをした上で【動機づけ後に行動変容に向けて具体的な行動目標を自ら考えられるように促す】といった児の主体的な行動変容に向けた取り組みに繋げていた.子どもの主体性は,周囲の大人の働きかけが影響し,子どもの健康的な自我・発達や子どもの前向きな情意,子どもの自身が対処・周囲に適応する力に繋がっており(田畑,2016),必要な支援と言える.また,発達特性のある児らは,アンガーマネジメントやソーシャルスキルトレーニングプログラム(Hage et al., 2009;Masters et al., 2002)を利用しながら行動訓練をしていく必要があり,必要な対処行動を身に着けていくためにも,児の主体性に対して看護ケアを行うことが重要である.
加えて,看護師は【行動変容の目標を達成できるように適切な行動の定着を促す】ことを行っていた.それらを行った上で,日常生活場面で感情表出や適切な行動を獲得できるよう看護師は支援していた.原田(2019)は,自閉スペクトラム症では想像力の困難や感覚の過敏さなど生まれ持った脳機能の特性があると述べている.また異儀田(2016)は,患者に身近であり患者の日常生活に密接している看護師だからこそ行える支援があると指摘している.つまり,日常生活場面で目標とする行動が習得できるように関わることで,日常生活での実際の攻撃行動の場面で最も身近な存在である看護師が,実践的にタイムリーに支援することで,想像力が乏しい児にとって理解しやすく,適切な行動の習得しやすさに繋がると考えられ,NDD児にとって重要な支援となっていると考えられる.また,自己肯定感の向上が問題行動の減少に繋がること(中村,2005)が報告されており,本研究でも同様に児が自己肯定感を得られるような看護ケアが行われていた.
本研究では攻撃行動により児童思春期精神科病棟に入院となったNDD児に対する看護に関して質的研究を行うことで,量的研究では導き出せない,詳細なデータが得られた.しかし本研究はサンプルサイズが小さいため,研究結果に偏りが生じている可能性があり,一般化や適用性には限界がある.今後は,対象者数を増やす,参与観察を行うこと,得られた結果の妥当性について検証していくなど更なる追求が求められる.
本研究では,看護師8名に半構成的面接を行い,質的記述的に分析した結果,攻撃行動により児童思春期精神科病棟に入院となったNDD児の発達特性に即した看護ケアが具体的に明らかとなった.【看護師や入院生活への安心安全感を与える】【攻撃行動時の状況や気持ちについて振り返りを促す】【攻撃行動の不適切さや不利益さを理解することで行動変容の動機づけを促す】【動機づけ後に行動変容に向けて具体的な行動目標を自ら考えられるように促す】【行動変容の目標を達成できるように適切な行動の定着を促す】の5つのカテゴリーが見出された.看護師は児が安心安全感を得られ,思いを言語化しやすいように攻撃行動を振り返ることで行動変容に対する動機づけを促す支援を行っていた.同時に,児が主体的に目標設定を行い,日常生活場面を通し実践的に児の行動に対してケアを行うことで,適応行動を獲得しやすい体制を整えていることが攻撃行動の低減に繋がる可能性がある.
本研究にご協力いただきました対象者の皆様,医療機関の皆様,ご指導いただきました先生に深くお礼申し上げます.なお,本研究は,大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻に提出した修士論文を加筆修正したものである.また,一部をthe 25th East Asia Forum of Nursing Scholars (EAFONS) Conferenceにて発表した.
本研究における利益相反は存在しない.
YKは研究の着想およびデザイン,データ収集,分析,論文の作成,TK,AY,RK,TK,YEは研究プロセス全体への指導を行った.すべての著者が最終原稿を読み,承認した.