2024 年 33 巻 1 号 p. 37-46
統合失調症患者の支援においてリカバリーが着目されている.統合失調症患者が地域生活を継続するには訪問看護が重要であるため,本研究は訪問看護を利用する統合失調症患者のリカバリー関連要因の構造を明らかにすることを目的とした.18施設の訪問看護を利用する統合失調症患者142名を対象に質問紙調査を行い,116名を分析対象者とした.共分散構造分析を実施した結果,居場所感に対して,社会機能の「交際」,メタ認知の「自己内省性」が影響していた.また,地域生活に対する自己効力感に対して,居場所感,社会機能の「交際」が影響し,リカバリーに対して,地域生活に対する自己効力感,居場所感が影響していた.本研究の結果から,交際の能力,自己と状況を客観的に捉える認知,地域生活に対する自己効力感,居場所感を高めることがリカバリーに影響することが示され,精神科訪問看護を利用する統合失調症患者に対するリカバリー支援への示唆を得られた.
The recovery aspect of support for schizophrenic patients has received much attention. Since home nursing is important for schizophrenic patients to continue living in the community, the purpose of this study was to clarify the structure of recovery and related factors of schizophrenic patients who used home nursing. A questionnaire was administered to 142 schizophrenic patients using home nursing at 18 facilities, and 116 were included in the analysis. Covariance structure analysis showed that “Socialization,” a factor assessed by the Life Skills, and “Self-reflectiveness,” a factor assessed by the metacognition, had an effect on the sense of place. Self-efficacy were also influenced by the sense of place and by their “Socialization” as assessed by the life skills. Recovery were influenced by the self-efficacy and by the scores on the sense of place. Our results suggest that socializing ability, objective perception of self and situation, self-efficacy, and sense of place affect recovery, with implications for the recovery aspect of support for schizophrenic patients who used home nursing.
近年,精神障害者への支援において,当事者が自分らしく生きることに主眼を置いたリカバリーの概念が注目されている(山口・松長・堀尾,2016).なかでも,統合失調症患者においては,社会からの偏見・スティグマや統合失調症を患っている自分自身に向けたスティグマにさらされること(成田・小林,2017;横山・森元・竹田,2014),強制的な治療や,失敗を恐れて過保護な環境におかれることなどにより自己決定の機会を喪失すること(佐藤・菅谷・森,2020),病状が生活に影響を及ぼすこと(成田・小林,2017)などにより,リカバリーに向かうための障壁が多いとされており,統合失調症患者に着眼したリカバリーへの支援を検討することは重要であると考えられる.
現代の精神保健医療福祉は,「入院医療中心から地域生活中心へ」という方策を推進している(厚生労働省,2004).そのなかで,精神科訪問看護は精神障害者が地域生活を継続する上で重要な役割を担っており,精神科訪問看護を実施する訪問看護ステーションは増加の一途を辿っている.そして,精神科訪問看護においても,リカバリーへの支援が重要であると指摘されており(萱間,2017),リカバリーに向けた精神科訪問看護の実践報告もなされている(小瀬古ら,2020).しかし,先行研究の数は少なく,精神科訪問看護を利用している者のリカバリーの関連要因について明らかにした研究は見受けられない.
リカバリーを促進するには様々な要因が関わってくる.自己効力感は,リカバリーにおいて重要とされている希望をもつことに強い関連があり(Landeen, 2000),リカバリーには自己効力感を回復する必要があると指摘されている(渡邊・池淵,2018).なかでも,地域生活における具体的な課題や領域の行動に影響する自己効力感が重要であると指摘されている(伊藤,2010).統合失調症患者が地域で生活をする上では,物理的・心理的両側面を含んだ居場所感が重要であり(國方・茅原,2009),リカバリーや自己効力感につながることが指摘されている(八谷・安藤,2019;神谷・藤野,2016).しかし,統合失調症患者は,社会的な地位が確立する前に発症することや,社会からの偏見・スティグマなど,様々な要因が重なり,居場所感の獲得が困難となる(内山,2018).また,統合失調症患者は,病状や薬物療法による副作用などの影響により,対人関係や就労などの日常生活における機能である社会機能に障害を起こしやすいが(功刀,2012),社会機能が高いと自己効力感も高くなることや(Cardenas et al., 2013),対人関係の開拓・保持が自己効力感を高めること(山下,2017),再入院のリスクが下がること(Parker, & Hadzi-Pavlovic, 1995),そして,社会活動の場が居場所となることが指摘されている(神谷・藤野,2016).さらに,統合失調症患者は,自己の認知を客観視する能力であるメタ認知が障害されることがあるが,メタ認知の障害により,対人関係における情動的関わりが欠如すると指摘されており(Lysaker et al., 2005),居場所感の獲得を困難にすることが考えられる.このように,リカバリーの要因は指摘されているが,これらの構造は明らかにされていない.そこで,本研究ではリカバリーと地域生活に対する自己効力感,居場所感,社会機能,メタ認知の関連の構造について,仮説モデル(図1)に基づいて検証を行った.
リカバリーと関連要因の仮説モデル
本研究は,訪問看護を利用する統合失調症患者のリカバリー関連要因の構造を明らかにすることを目的とした.
質問紙による横断調査研究である.
2. 調査対象者訪問看護を利用する20歳以上の統合失調症患者を対象とした.なお,全般的機能評価尺度(Global Assessment of Functioning;以下GAF)の得点が40点未満の者,違法薬物乱用の既往がある者,知的障害,認知症の診断がある者は除外した.
3. 調査対象施設機縁法にて紹介を受けた精神科訪問看護を提供している訪問看護ステーション21施設のうち,研究協力の得られた18施設を研究対象とした.
4. 調査期間2021年6月から12月であった.
5. 調査内容 1) 対象者背景性別,年齢,同居者・配偶者・子どもの有無,社会資源の利用状況,罹病期間について回答を得た.GAF得点と就労状況について,訪問看護スタッフより回答を得た.
2) リカバリーリカバリーは,尾形(2021)によって開発された,統合失調症者のリカバリー尺度により測定した.尺度は「将来に向かう」,「周囲とつながる」,「病気とともに生きる」,「自分らしさを大切にする」,「自分の力を生かす」の5下位尺度で構成されており,各項目について1~4点で得点化する.合計17項目,総得点は17~68点の範囲であり,得点が高いほどリカバリーのレベルが高いことを示す.本尺度はCronbachのα係数にて信頼性が検証されている他,構成概念妥当性,基準関連妥当性も検証されている(尾形,2021).
3) 地域生活に対する自己効力感地域生活に対する自己効力感は,大川ら(2001)により開発された,精神障害者の地域生活に対する自己効力感尺度(Self-Efficacy for Community Life Scale;以下SECL)により測定した.SECLは,統合失調症患者の地域生活に対する自己効力感を測定する尺度であり,「日常生活」,「治療に関する行動」,「症状対処行動」,「社会生活」,「対人関係」の5下位尺度で構成され,各項目について0~10点で得点化する.総得点は0~180点の範囲であり,得点が高いほど地域生活に対する自己効力感が高いことを示す.本尺度の信頼性・妥当性は検証されている(大川ら,2001).
4) 居場所感居場所感の評価には,國方・茅原(2009)により作成された,統合失調症者の居場所感尺度により測定した.統合失調症者の居場所感尺度は,「他者と深い関わりを感じる場」,「ありのままの自分でいられる場」,「自己を作る場」の3下位尺度で構成されており,各項目について1~4点で得点化する.総得点は8~32点の範囲であり,得点が高いほど居場所感が高いことを示す.本尺度の信頼性・妥当性は検証されている(國方・茅原,2009).
5) 社会機能社会機能は,Rosen, Pavlovic, & Parker(1989)によって開発され,長谷川ら(1997)により日本語版が開発された,Life Skills Profile日本語版(以下LSP)により測定した.LSPは,地域で生活する統合失調症患者の生活技能を測定する尺度であり,「身辺整理」,「規則順守」,「交際」,「会話」,「責任」の5下位尺度で構成されており,各項目について1~4点で得点化する.総得点は39~156点の範囲であり,得点が高いほど,社会機能が高いことを示す.本尺度の信頼性・妥当性は検証されている(長谷川ら,1997).
6) メタ認知メタ認知は,Beck et al.(2004)によって開発され,Uchida et al.(2009)によって日本語版が開発された,ベック認知的洞察尺度日本語版(the Japanese version of the Beck Cognitive Insight Scale;以下BCIS-J)により測定した.自己と状況の客観的な認知傾向を示す「自己内省性」因子と,自己の判断や信念の確信の強さを示す「自己確信性」因子の2因子で構成されており,各項目について0~3点で得点化する.「自己内省性」の総得点は0~27点の範囲であり,得点が高いほど自己と状況の客観的な認知が高いことを示しており,「自己確信性」の総得点は0~18点の範囲であり,得点が高いほど自己の判断や信念への確信が強いことを示す.また,「自己内省性」得点から「自己確信性」得点を差し引いた得点で総合指標「適切な認知傾向」を算出し,得点が高いほど適切な認知傾向であることを示している.本尺度の信頼性・妥当性は検証されている(Uchida et al., 2009).
6. 調査方法選定基準者に対して,本研究は自由参加であり,不参加であっても不利益を受けないことを文書にて説明し,同意を得た.同意が得られた研究対象者に対し,研究者または研究協力者が,無記名自記式質問紙を渡し,対象者背景,リカバリー,地域生活に対する自己効力感,居場所感,メタ認知について回答してもらった.また,社会機能については訪問看護スタッフに回答してもらった.回答された調査用紙は,研究者または研究協力者が回収,もしくは郵送法にて回収した.
7. 分析方法対象者背景について記述統計を算出した.使用した尺度の内的整合性を確認するため,Cronbachのα係数を算出し,使用した尺度の平均値,標準偏差,中央値,四分位範囲を算出した.対象者背景による統合失調症者のリカバリー尺度の得点を比較するため,Mann-WhitneyのU検定を行った.リカバリーと関連要因の関係をみるため,統合失調症者のリカバリー尺度と各尺度の相関を,Spearmanの順位相関係数で算出した.各尺度の関連の構造を明らかにするため,共分散構造分析を用いてパスモデルを作成し検定した.適合度は,GFI≧.90以上,AGFI≧.90,CFI≧.95,RMSEA≦.05を基準として検証した(平井,2017).統計学的分析にはSPSS Ver. 27,SPSS Amos 27を使用し,統計的有意水準は5%とした.相関係数は,0≦|rs| < 0.3を相関なし,0.3≦|rs| < 0.4を弱い相関,0.4≦|rs| < 0.7を中程度の相関,0.7≦|rs|≦1.0を強い相関があると判断した.
8. 倫理的配慮本研究は,研究対象者の人権擁護を図るため,筑波大学医学医療系医の倫理委員会での承認(通知番号第1653-1)を受けた後,研究実施の可否について,研究対象施設の承諾を受けた上で実施した.調査開始後でも,研究対象者が希望した場合や,研究者が必要と判断した場合には休息が取れるようにした.また,同意後でも同意撤回は可能である旨を説明した.
対象者は299名であり,このうち142名(回収率47.5%)から研究への参加同意が得られた.アンケートの回答を中断した者や,尺度に欠損がある者を除いた116名(有効回答率81.7%)を分析対象者とした.
1. 対象者背景分析対象者は,男性57名(49.1%),同居者有39名(33.6%),配偶者有14名(12.1%),子ども有22名(19.0%),デイケア利用中20名(17.2%),就労継続支援A・B型利用中27名(23.3%),就労移行支援利用中8名(6.9%),企業での就労中9名(7.8%)であった.平均年齢は52.5 ± 12.5歳,GAFの平均は65.0 ± 12.4,罹病期間の平均は22.1 ± 12.3年間であった.
2. 各尺度の信頼性各尺度のCronbachのα係数,平均値,標準偏差,中央値,四分位範囲を表1に示した.
使用尺度のα係数と平均値,標準偏差,中央値,四分位範囲
α | M | SD | Mdn | IQR | |
---|---|---|---|---|---|
統合失調症者のリカバリー尺度 | |||||
総得点 | .90 | 51.5 | 10.3 | 53.0 | 46–60 |
将来に向かう | .75 | 8.9 | 2.5 | 9.0 | 7–11 |
周囲とつながる | .72 | 9.7 | 2.2 | 10.0 | 8–12 |
病気とともに生きる | .73 | 12.3 | 2.8 | 13.0 | 11–15 |
自分らしさを大切にする | .75 | 12.3 | 2.9 | 13.0 | 11–15.5 |
自分の力を生かす | .85 | 8.3 | 2.6 | 9.0 | 7–11 |
SECL | |||||
総得点 | .91 | 129.4 | 31.8 | 132.0 | 111–153 |
日常生活 | .75 | 34.0 | 10.0 | 35.5 | 28.5–42.5 |
治療に関する行動 | .65 | 32.9 | 6.3 | 35.0 | 31–39 |
症状対処行動 | .83 | 29.5 | 8.8 | 30.5 | 25–31 |
社会生活 | .64 | 21.2 | 7.5 | 22.0 | 16–28 |
対人関係 | .75 | 11.9 | 6.4 | 13.0 | 7.5–18.5 |
統合失調症者の居場所感尺度 | |||||
総得点 | .89 | 22.2 | 6.3 | 22.0 | 17.5–26.5 |
他者と深い関わりを感じる場 | .89 | 10.7 | 3.7 | 11.0 | 8–14 |
ありのままの自分でいられる場 | .85 | 5.8 | 1.9 | 6.0 | 4–8 |
自己を作る場 | .83 | 5.7 | 1.9 | 6.0 | 4–8 |
LSP | |||||
総得点 | .91 | 136.3 | 12.6 | 140.0 | 131.5–148.5 |
身辺整理 | .83 | 32.8 | 4.9 | 34.0 | 30.5–37.5 |
規則順守 | .75 | 45.6 | 3.2 | 47.0 | 45.5–48.5 |
交際 | .81 | 17.1 | 4.1 | 18.0 | 15–21 |
会話 | .70 | 22.3 | 2.2 | 23.0 | 22–24 |
責任 | .73 | 18.5 | 2.2 | 20.0 | 18.5–21.5 |
BCIS-J | |||||
適切な認知傾向(SR-SC) | 6.2 | 5.3 | 6.0 | 2–10 | |
自己内省性(SR) | .72 | 12.5 | 4.9 | 12.0 | 8.5–15.5 |
自己確信性(SC) | .74 | 6.3 | 3.6 | 6.0 | 3.5–8.5 |
Note.N = 116,M:平均値,SD:標準偏差,Mdn:中央値,IQR:四分位範囲
対象者背景における統合失調症者のリカバリー尺度得点の比較を表2に示した.下位尺度「周囲とつながる」について,配偶者がいる者(Mdn = 11.0)の方が,いない者(Mdn = 9.5)に比べ,得点が高かった(p = .020).それ以外の項目では,有意な差は認められなかった.
対象者背景における統合失調症者のリカバリー尺度得点の比較
項目 | n | 統合失調症者のリカバリー尺度 | ||||||||||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
総得点 | 将来に向かう | 周囲とつながる | 病気とともに生きる | 自分らしさを大切にする | 自分の力を生かす | |||||||||||||||||||||||||
Mdn | M | SD | p | Mdn | M | SD | p | Mdn | M | SD | p | Mdn | M | SD | p | Mdn | M | SD | p | Mdn | M | SD | p | |||||||
性別 | ||||||||||||||||||||||||||||||
男性 | 57 | 54.0 | 52.5 | 9.2 | .431 | 9.0 | 8.9 | 2.5 | .909 | 10.0 | 9.8 | 1.9 | .742 | 12.0 | 12.6 | 2.4 | .728 | 13.0 | 12.6 | 2.6 | .566 | 9.0 | 8.6 | 2.5 | .183 | |||||
女性 | 59 | 52.0 | 50.5 | 11.3 | 9.0 | 8.8 | 2.5 | 10.0 | 9.5 | 2.4 | 13.0 | 12.1 | 3.2 | 13.0 | 12.1 | 3.2 | 8.0 | 7.9 | 2.7 | |||||||||||
同居者 | ||||||||||||||||||||||||||||||
いる | 39 | 51.0 | 50.5 | 10.3 | .348 | 9.0 | 8.8 | 2.4 | .689 | 10.0 | 9.7 | 2.0 | .761 | 12.0 | 11.8 | 2.8 | .116 | 12.0 | 12.1 | 3.0 | .488 | 8.0 | 8.2 | 2.7 | .641 | |||||
いない | 77 | 53.0 | 52.0 | 10.4 | 9.0 | 8.9 | 2.6 | 10.0 | 9.7 | 2.3 | 13.0 | 12.6 | 2.8 | 13.0 | 12.5 | 2.9 | 9.0 | 8.3 | 2.6 | |||||||||||
配偶者 | ||||||||||||||||||||||||||||||
いる | 14 | 58.5 | 55.3 | 9.2 | .131 | 9.5 | 9.7 | 1.9 | .220 | 11.0 | 10.9 | 1.3 | .020 | 12.4 | 12.5 | 2.7 | .993 | 13.0 | 13.1 | 2.6 | .289 | 9.5 | 9.1 | 2.7 | .209 | |||||
いない | 102 | 52.5 | 50.9 | 10.4 | 9.0 | 8.7 | 2.5 | 9.5 | 9.5 | 2.2 | 13.0 | 12.3 | 2.8 | 13.0 | 12.2 | 3.0 | 9.0 | 8.1 | 2.6 | |||||||||||
子ども | ||||||||||||||||||||||||||||||
いる | 22 | 54.5 | 51.9 | 11.8 | .617 | 10.0 | 9.1 | 2.6 | .491 | 10.5 | 9.4 | 3.0 | .886 | 13.5 | 12.4 | 3.3 | .660 | 13.5 | 12.8 | 3.0 | .372 | 9.0 | 8.3 | 2.7 | .972 | |||||
いない | 94 | 53.0 | 51.4 | 10.0 | 9.0 | 8.8 | 2.5 | 10.0 | 9.7 | 2.0 | 12.0 | 12.3 | 2.7 | 13.0 | 12.2 | 2.9 | 9.0 | 8.2 | 2.6 | |||||||||||
デイケア | ||||||||||||||||||||||||||||||
あり | 20 | 52.5 | 52.4 | 8.3 | .676 | 8.5 | 9.0 | 2.3 | .850 | 9.0 | 9.6 | 2.2 | .784 | 12.5 | 12.7 | 1.9 | .484 | 13.0 | 12.6 | 2.5 | .731 | 9.0 | 8.7 | 2.3 | .454 | |||||
なし | 96 | 53.0 | 51.3 | 10.7 | 9.0 | 8.8 | 2.5 | 10.0 | 9.7 | 2.2 | 13.0 | 12.3 | 3.0 | 13.0 | 12.3 | 3.0 | 9.0 | 8.2 | 2.7 | |||||||||||
就労継続支援A・B型事業 | ||||||||||||||||||||||||||||||
あり | 27 | 53.0 | 51.8 | 8.9 | .859 | 9.0 | 8.8 | 2.4 | .927 | 9.0 | 9.3 | 2.2 | .309 | 13.0 | 12.6 | 2.6 | .605 | 13.0 | 12.7 | 2.8 | .468 | 9.0 | 8.4 | 2.5 | .786 | |||||
なし | 89 | 53.0 | 51.4 | 10.8 | 9.0 | 8.9 | 2.5 | 10.0 | 9.8 | 2.2 | 12.0 | 12.3 | 2.9 | 13.0 | 12.2 | 3.0 | 9.0 | 8.2 | 2.7 | |||||||||||
就労移行支援 | ||||||||||||||||||||||||||||||
あり | 8 | 52.0 | 53.3 | 5.9 | .615 | 10.5 | 10.0 | 2.0 | .179 | 10.5 | 10.0 | 2.5 | .662 | 12.0 | 11.6 | 1.6 | .457 | 12.5 | 12.9 | 2.4 | .597 | 9.0 | 8.8 | 1.8 | .577 | |||||
なし | 108 | 53.0 | 51.3 | 10.6 | 9.0 | 8.8 | 2.5 | 10.0 | 9.7 | 2.2 | 13.0 | 12.4 | 2.9 | 13.0 | 12.3 | 3.0 | 9.0 | 8.2 | 2.7 | |||||||||||
企業での就労 | ||||||||||||||||||||||||||||||
あり | 9 | 53.0 | 50.8 | 8.5 | .836 | 8.0 | 9.2 | 2.2 | .646 | 9.0 | 9.9 | 1.4 | .758 | 11.0 | 11.0 | 2.7 | .137 | 13.0 | 12.0 | 2.6 | .714 | 9.0 | 8.7 | 1.7 | .620 | |||||
なし | 107 | 53.0 | 51.5 | 10.5 | 9.0 | 8.8 | 2.5 | 10.0 | 9.7 | 2.2 | 13.0 | 12.5 | 2.8 | 13.0 | 12.4 | 3.0 | 9.0 | 8.2 | 2.7 |
Note.N = 115-116,Mann-WhitneyのU検定,Mdn:中央値,M:平均値,SD:標準偏差,p = p値
統合失調症者のリカバリー尺度と各尺度の総得点および下位尺度間の相関係数を表3に示した.統合失調症者のリカバリー尺度との相関係数は,SECL(rs = .73),統合失調症者の居場所感尺度(rs = .66),LSP(rs = .19),BCIS-J「自己内省性」(rs = .19)「自己確信性」(rs = .29)であった.
統合失調症者のリカバリー尺度と各尺度間の相関
統合失調症者のリカバリー尺度 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
総得点 | 将来に向かう | 周囲と つながる |
病気とともに 生きる |
自分らしさを 大切にする |
自分の力を 生かす |
|
SECL | ||||||
総得点 | .73** | .47** | .60** | .49** | .72** | .60** |
日常生活 | .57** | .32** | .49** | .31** | .64** | .50** |
治療に関する行動 | .60** | .48** | .45** | .47** | .57** | .41** |
症状対処行動 | .68** | .51** | .50** | .51** | .67** | .51** |
社会生活 | .48** | .34** | .43** | .33** | .45** | .45** |
対人関係 | .61** | .36** | .57** | .38** | .57** | .55** |
統合失調症者の居場所感尺度 | ||||||
総得点 | .66** | .45** | .54** | .40** | .61** | .61** |
他者と深い関わりを感じる場 | .57** | .37** | .52** | .29** | .52** | .54** |
ありのままの自分でいられる場 | .58** | .44** | .40** | .38** | .60** | .51** |
自己を作る場 | .53** | .37** | .39** | .39** | .42** | .47** |
LSP | ||||||
総得点 | .19* | .17 | .21* | .12 | .18* | .15 |
身辺整理 | .19* | .20* | .19* | .12 | .18 | .15 |
規則順守 | –.07 | –.15 | –.11 | .04 | –.03 | –.04 |
交際 | .43** | .38** | .48** | .18 | .38** | .40** |
会話 | –.12 | –.11 | –.06 | –.12 | –.07 | –.10 |
責任 | –.09 | –.05 | –.10 | .03 | –.08 | –.12 |
BCIS-J | ||||||
自己内省性 | .19* | .20* | .16 | .17 | .16 | .12 |
自己確信性 | .29** | .16 | .13 | .19* | .29** | .37** |
適切な認知傾向 | .04 | .12 | .12 | .04 | .00 | –.05 |
Note.N = 116,Spearmanの相関係数,* p < .05 ** p < .01
リカバリーと地域生活に対する自己効力感,居場所感,社会機能,メタ認知の関連の構造の仮説モデル(図1)について,各尺度の総得点を用いてパスモデルを作成して検証した結果,BCIS-J「適切な認知傾向」から統合失調症者の居場所感尺度「総得点」へは有意なパスを引くことができなかった(p = .867).そこで,各尺度の下位尺度も含めて検証した結果,適合度指標がχ2 = 2.465,df = 4,p = .651,GFI = .991,AGFI = .967,CFI = 1.000,RMSEA < .001と,十分に適合する結果を得ることができた(図2).なお,各関係の影響の強さは「標準化係数(以下,推定値)」で示した.
リカバリーと関連要因の構造
パスモデルの構造は,統合失調症者の居場所感尺度の総得点は,BCIS-Jの「自己内省性(推定値.28)」とLSPの下位尺度「交際(推定値.43)」から影響を受けており,自己と状況の客観的認知が高く,地域生活における交際能力が高いことが,居場所感を高めることに影響することが示された.また,SECLの総得点は,LSPの下位尺度「交際(推定値.27)」と統合失調症者の居場所感尺度の総得点(推定値.55)から影響を受けており,地域生活における交際能力と居場所感が高いことが,地域生活に対する自己効力感を高めることに影響することが示された.そして,統合失調症者のリカバリー尺度の総得点は,統合失調症者の居場所感尺度の総得点(推定値.31)とSECLの総得点(推定値.52)から影響を受けており,居場所感と地域生活に対する自己効力感が高いことが,リカバリーレベルを高めることに影響すると示された.
訪問看護を利用する統合失調症患者を対象に,統合失調症者のリカバリー尺度を用いて調査をしたところ,本研究ではリカバリー関連要因の構造を明らかにすることができた.
1. リカバリーと対象者背景配偶者がいない者より,いる者の方が,統合失調症者のリカバリー尺度の下位尺度「周囲とつながる」の得点が有意に高かった.精神障害者の結婚の動機について,孤独の回避や,結婚相手が共に生きていきたい存在であることが指摘されている(松村ら,2005).また,夫婦関係では,配偶者と支えあっており,良好な関係の中で幸せを感じていることも指摘されている(松村ら,2005).訪問看護を利用する統合失調症患者においても同様に,配偶者がいる者は,配偶者との支えあいの中で充実感を抱いており,「周囲とつながる」の得点が高かったと考えられた.
2. 各尺度の信頼性各尺度のα係数より,内的整合性は保たれていると判断した.
3. リカバリーの特徴統合失調症者のリカバリー尺度作成時の平均値は,総得点がM = 50.28,下位尺度「将来に向かう」がM = 8.96,「周囲とつながる」がM = 9.17,「病気とともに生きる」がM = 11.88,「自分らしさを大切にする」がM = 11.96,「自分の力を生かす」がM = 8.31であった(尾形,2021).本研究の統合失調症者のリカバリー尺度の得点は,尺度作成時と同様であり,統合失調症患者のリカバリーの特徴を捉えていると考えられた.
4. リカバリーと関連要因本研究において,各概念の関連について仮説を立てたが,社会機能とメタ認知に関しては,下位尺度を用いたモデルが成立した.そのため,リカバリーに関しては,社会機能全般,メタ認知全般ではなく,社会機能の「交際」やメタ認知の「自己内省性」が関連していると考えられた.
パスモデルにおいて社会機能の「交際」は,地域生活に対する自己効力感と居場所感に影響することで,リカバリーへの間接効果が認められた.通所施設での地域交流活動に多く参加している者は,地域生活に対する自己効力感が高いなど(伊藤,2010),地域生活を送る統合失調症患者の交際の能力と自己効力感の関連が指摘されている(Chino et al., 2009;後藤・岡村,2018).さらに,通所施設を利用する統合失調症患者にとって,社会活動の場が人間関係を構築していくことのできる場となり,安心できる居場所になると指摘されている(神谷・藤野,2016).地域生活を送る統合失調症患者の中でも,本研究の対象である訪問看護を利用する統合失調症患者は社会機能が低い傾向にあるが(定村ら,2011),先行研究と同様に,交際の能力を高めることが,地域生活に対する自己効力感や居場所感を高め,リカバリーへ間接的に影響すると考えられた.
パスモデルにおいてメタ認知の「自己内省性」は,居場所感に影響することで,リカバリーへの間接効果が認められた.居場所感を獲得する背景には,書物などから得た知識や信頼する人との関わりから生き方のヒントを学ぼうとすること,日々の出来事や思いの振り返りを行う姿勢があるなど,物事を素直に受け入れる力があると指摘されている(濱田・堤,2010).このことから,自己の判断や信念の確信の強さ,他者の意見への抵抗感を測定した因子「自己確信性」を含む,メタ認知の総合指標「適切な認知傾向」はパスモデルに適合せず,他者の意見への親和性や,適切でない認知の修正を測定した因子「自己内省性」が居場所感に影響していたため,パスモデルが適合したと考えられた.
リカバリーと居場所感の間には,パスモデルにおいて,居場所感からリカバリーへの直接効果を認めるとともに,地域生活に対する自己効力感に影響することで,リカバリーへの間接効果が認められた.通所施設を利用する統合失調症患者は,居場所において人と交流し,自分を理解してくれる人の存在をもつことがリカバリーに影響すると指摘されている(春日・清水,2018).また,居場所は将来に向けて様々なことを学べる場であり(神谷・藤野,2016),自分を受け入れ,地域で充実した生活を送るためには,居場所感を持つことが重要であると指摘されている(國方ら,2006).さらに,通所施設を利用する精神障害者は,居場所を感じる場において対人関係の拡大や社会生活を学ぶこと,ストレス解消や疾患と向き合うことを自覚していると指摘されている(神谷・藤野,2016).これらより,本研究の対象においても同様に,居場所感を高めることが地域生活に対する自己効力感を高め,リカバリーを促進するには重要であると考えられた.
リカバリーと地域生活に対する自己効力感の間には,パスモデルにおいて,地域生活に対する自己効力感からリカバリーへの直接効果が認められた.リカバリーに向けた見通しを立てるには,日常の中においての自己効力感を持っていることが必要である(春日・清水,2018).また,リカバリーを促進するには地域生活に対する自己効力感を高めることが重要であると指摘されており(渡邊・池淵,2018),本研究の対象においても同様に,地域生活に対する自己効力感を高めることがリカバリーには重要であると考えられた.
5. リカバリー支援への示唆リカバリーには,「交際」と「自己内省性」の間接効果,地域生活に対する自己効力感と居場所感の直接効果があると示された.交際の能力を高めることを意図して活動性や余暇の使い方,対人関係の維持・向上に向けた援助を提供すること(瀬戸屋ら,2008),構造的なメタ認知トレーニングや,看護師との関わりにより物事の考え方や見方を広げることが(橋本ら,2016),間接的にリカバリーレベルを高めると示唆された.また,訪問看護において,社会活動を行えるように働きかけることや(後藤・岡村,2018),服薬・通院行動,精神症状への対処方法を評価・支持する関わりを通し(瀬戸屋ら,2008),自己効力感を高められるようなケアを提供することが,リカバリーレベルを高めるためには重要であると示唆された.さらに,地域生活の中において,対象者の意思で行動することが居場所感の向上につながると指摘されていることから(高妻,2019),対象者の意思を汲み取り,尊重した関わりが,リカバリーレベルを高めるために求められると考えられた.
6. 本研究の限界と課題本研究の対象者は,GAFの得点が40点以上の者,かつ対象施設の責任者および訪問看護スタッフにより本研究への参加が可能な病状であると判断された者であることや,分析対象者が116名と少なかったこと,さらに,COVID-19まん延防止のため,緊急事態宣言が出されていた時期に調査をした影響から,機縁法によるサンプリングとせざるを得なったことから,結果を一般化するには限界がある.今後は,対象となり得る者の範囲を拡大できる調査を検討し,対象者を増やした調査をすることで,訪問看護を利用する統合失調症患者を全般的に反映できるよう工夫する必要があると考えられた.また,本研究では仮説モデルを修正する形になっており,モデルの解釈については注意が必要であると考えられた.
訪問看護を利用する統合失調症患者のリカバリー関連要因の構造について調査を実施し,116名から有効な回答が得られた.パスモデルより,リカバリーには,社会機能の交際とメタ認知の自己内省性の間接効果,地域生活に対する自己効力感と居場所感の直接効果があると示され,精神科訪問看護を利用する統合失調症患者に対するリカバリー支援への示唆を得られた.
本研究に快くご協力いただきました対象者の皆様に,深く御礼申し上げます.また,本研究にご快諾いただき,ご協力いただきました研究対象施設の責任者をはじめ,職員の皆様,関係者の皆様に,深く感謝申し上げます.
本研究は,笹川保健財団研究助成を受けて実施した.
なお,本研究は筑波大学大学院人間総合科学学術院に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものであり,第32回日本精神保健看護学会学術集会および第42回日本看護科学学会学術集会にてその一部を発表した.
MNは研究の着想およびデザイン,データ収集と分析,論文作成を行った.TSは研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者が最終原稿を読み承認した.
本研究における利益相反は存在しない.