応用統計学
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原著論文
多変量極値分布の大規模アンサンブルデータへの適用
—2流域の極端洪水の同時生起確率推定—
田中 智大北野 利一
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2021 年 50 巻 2-3 号 p. 75-101

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抄録

気候変動による極端気象の生起頻度への影響を評価するため,d4PDFと呼ばれる大規模アンサンブル気候予測データが開発され,3,000年分のサンプルサイズをもつ現在気候の再現データが提供されている.これにより洪水リスクへの影響評価は進展し,一河川だけでなく複数の河川流域の同時氾濫リスクも議論されはじめている.ただし,洪水解析への多変量極値分布の適用は少なく,大規模なアンサンブルデータへの適用事例は皆無である.本研究では,関東地方(利根川,荒川)および九州地方(球磨川,緑川)の2組の流域群に対して2変量極値分布を適用し,各流域でd4PDFから計算した年最大流量データ(以下,d4PDF極値流量データ)を用いて極値流量の従属性を分析した.成分最大値分布として従属関数の異なる9種類のモデルを適用した.累積確率分布や従属関数によるモデル選択は容易でないため,成分最大値の元時系列における閾値超過分布(横断分布)に対する適合度を2標本Kolmogorov-Smirnov検定で評価する方策を試みた.d4PDF極値流量データは元時系列を含まないが,30年や60年最大値(それぞれサンプルサイズ100,50)を抽出し,それらに対応する閾値超過標本が3,000個の年最大値で近似できると仮定した.その結果,横断分布に対する適合度の高いモデル間で従属性を表す生起率の相関係数χを安定して推定することができた.各流域群でχは0.2程度および0.3〜0.4程度と推定され,九州地方の流域群の方がより従属性が高いことが示唆された.利根川・荒川水系の計画規模は200年,球磨川・緑川水系の計画規模は150年のため,計画規模の同時に超過する洪水の再現期間はそれぞれ1000年および約375年〜500年と推定された.

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