応用統計学
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「臨床試験のための統計的原則」における交互作用の扱い方についての考察
寒水 孝司大森 崇吉村 功
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2001 年 30 巻 1 号 p. 1-18

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抄録
日・米・EUの三極で組織されたInternational Conference on Harmonization (ICH)での合意に基づき,厚生省は1998年に「臨床試験のための統計的原則」というガイドラインを公にした(厚生省医薬安全局審査管理課長,1998).このガイドラインは,試験治療の効果を評価する検証的臨床試験において,まず治療と施設の交互作用がないモデルで試験治療の効果を調べ,効果が認められる場合でも交互作用を吟味して,真に効果を認めて良いかどうかを判断するよう勧めている(ICH型解析方法).これは交互作用が大きい場合,平均的には試験治療の効果が認められても,その結果の一般性には疑問が残るので,試験治療の効果を認めにくくするという方針に基づいている。
この方針は,はじめに交互作用の有無について予備検定を行い,その結果によってモデルに交互作用を入れるかどうかを決め,その上で治療効果すなわち治療の主効果の検定を行ない,有意なときには主効果を認める,という応用統計学の分野で伝統的に使われているやり方(従来型解析方法)と違っている.それにもかかわらず上記ガイドラインはQ&Aでこの違いについて定性的な説明をしているのみで,定量的な評価をどこにも示していない.
そこで著者らは本論文で,この2つの解析方法の差異を定量的に評価した.すなわち,いくつかの条件の下で,試験治療が対照治療に比べて効果があると判断される確率(受容率)を調べた.その結果によると,交互作用がなくて試験治療の効果があるときは,ICH型解析方法の受容率の方が低くなるが,それは約20分の1にすぎない.それに対して交互作用があるときはその受容率が従来型解析方法に比べてはるかに小さくなる。総合的にはICH型解析方法がその方針をよく反映していることが確かめられたと言える.
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