石油技術協会誌
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石油根源岩に関する反応速度論的研究(第5報)
石油根源岩の反応速度論的評価
秋久 国男
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1979 年 44 巻 2 号 p. 86-93

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抄録

本報において,著者は石油状成分生成反応の速度論的パラメーターおよび温度履歴を用いて,油田地域に分布する根源岩の速度論的評価を行なう手順とその実施例について述べてきた。そして,本方法により地質時間の関数として計算された石油状分解生成物の量の中で,現在までの総生成量については各評価地点において通常有機物分析の結果と比較検討することができた。その結果,いくつかの大胆な作業仮説を設けたにもかかわらず,試料採取地点をはじめ周辺のいくつかの地点における計算値と分析値とは比較的よく一致する傾向がみられた。同時に,いくつかの地点については,特に(3)の作業仮説を満足し得ないと思われるものもあった。結論としては,作業仮説をゆるがす特殊な地質条件もさることながら,これらの計算は仮定を多く含む試算であり,その割にはシミュレーションの結果は第1次近似として妥当なものと考えてよかろう。一般に,秋田県北西部の場合には計算値の方が分析値よりも低目に評価され,一方,新潟県北蒲原郡の場合には計算値の方が分析値より高く評価されるというようなばらつきがみられた。これは,各地域の地質学的特異性のみでなく,これら2つの地域の試料に対して実験室での加熱条件(特にCorg/VRC)が異なっていることなどとも関係しているのであろう。
各石油状成分について作られた生成量の地質時間的復元図は現時点における石油状成分の量に関してのみでなく,根源岩の堆積時から現時点までの任意の期間に形成された石油状成分の量に関する情報も与えてくれる点に大きな意味を有する。しかし,現実問題として,地質時代を通じて各時代における分解生成物の量を実測することはできないので,復元図の妥当性を検証することはできない。もしもそれに類したことができるとすれば,一連の地質時代を通じて岩相および含有される有機物の起源が同じとみなし得る地層が厚く発達しているようなフィールドがあり,かつそこに掘らされた坑井からの資料を得られる場合であろう。
また,今回は資料不足の故に大きな作業仮説を設けることになった地温勾配については,今後古地温に関する資料などの充実に応じて,地質時間の関数としてあるいは各地質時代ごとに設定してゆく必要があろう。
石油根源岩の反応速度論的評価はその必要性が叫ばれているにもかかわらず,そのための研究は一部の者によって着手されているみである。このため,本研究には未だ解明されていない多くの問題点が残されていることも事実ではあるが,著者はこれまでに以上なような結論を得たのでここに報告する次第である。

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