抄録
天草諸島のうちで特に下島の古第三紀層の続成変質の程度を,再整理した既存資料および新たに得られた資料に基づいて有機,無機の両面から検討し,合わせて堆積機構との関連性を考察した。
本地域では上部白亜紀層堆積後,古第三紀層堆積前に著しい造構造運動があり,この運動によって形成された凹地が古第三紀層堆積盆地へと発展して行ったことが従来の研究で明らかにされている(MIKI, 1975)。しかもこの時期に生じた構造要素はその後古第三紀層の堆積中から堆積後にかけて断続的に活動したとみなされる(三木•鈴川,1980)。
古第三紀層の岩石物性,有機熟成度,自生鉱物の続成度はいずれも,下島地域が地表に火成岩が露出していない地区においてさえ,きわめて著しい続成作用を蒙ったことを示しており,このような高続成変質は一義的には,下島地域が周辺地域に比べて埋没深度が大きかったことに起因するものと考えられる。既述のように,古第三紀層堆積中に断層運動があったと考えると,天草下島という一定範囲の地域がそのためにより深部へ埋没したということも容易に推察できる。
下島北部への火成岩の貫入,北方への傾動に伴う南部地域での被覆層の薄化なども,続成変質度の上昇やその地域的変化に対して少なからぬ影響を与えたであろう。