2002 年 41 巻 3 号 p. 171-184
バイカル湖の湖底から得られた5.1Maをカバーする全長200mコア(BDP96-1)のうち,第四紀に相当する上部の深度80m以浅についての花粉分析を行い,植生変遷について考察した.産出した化石花粉・胞子のうち51種類を同定したが,マツ科針葉樹が70~80%を占め,その産出状況に特色がみられた.すなわち,大量の化石花粉・胞子の産出する多産層(間氷期,湿潤期)と,草本花粉・胞子がごくわずかに産出するだけの稀産層(氷期,乾燥期)が交互に現れている.上部80mの2Maに32回のサイクルが認められ,δ18O曲線とほぼ調和的な環境変動を記録している.また,マツ科のツガ属と落葉広葉樹のクマシデ属,コナラ亜属,クリ属,ニレ科,ハシバミ属,カエデ属は第四紀前半に絶滅してしまい,後半以降のバイカル湖周辺のタイガはマツ科針葉樹とカバノキ属を中心とした比較的単純な植生からなる森林が継続した.