JARI Research Journal
Online ISSN : 2759-4602
研究活動紹介
自動運転の周辺車両への振る舞いと信頼
安部 原也佐藤 健治伊藤 誠
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2024 年 2024 巻 2 号 論文ID: JRJ20240207

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Abstract

本研究では,運転シミュレータ上に自動運転の周辺を走行する車両が蛇行する場面等を設定し,自動運転の当該車両への振る舞い方による自動運転に対するドライバの信頼への影響を高齢ドライバと非高齢ドライバとで比較した.その結果,高齢ドライバと比較して非高齢ドライバは,自動運転の振る舞い方の違いによる信頼の低下度合が大きいことがわかった.また.蛇行する車両に遭遇した際に運転交代を要請する(RtI)条件下において,高齢ドライバと比較して非高齢ドライバはより迅速に運転交代する可能性があることがわかった.

1. はじめに

近年,日米欧を中心に,自動車の自動運転に関する技術開発が活発に進められている.実際,自車の速度が50 km/h以下であるような限定された走行場面において,ドライバに代わって機械による自動での走行が実現されている1).ここでの自動運転では,ドライバは自動車の運転に必要なペダルおよびハンドルの操作に加えて,周辺の交通状況の常時監視からも解放されることになる.そのことによって,ドライバにとっては,渋滞中に自身による手動での運転に対する負担の軽減が期待される.一方で,今後,自動運転をさらに市場に普及させるための課題の一つとして,ある限定された状況であれ,ドライバが実際に機械に運転操作を任せることができるか否かが重要な因子であると考えられる.

航空機やプラント制御において,人が自動化されたシステムを使用するか否かを判断する上で,人の自動化システムに対する信頼(trust)が重要なファクターであるとされている2) - 4).人は,自動化システムを信頼できる時にシステムを使用し,信頼できない時には使用しない可能性がある5)

本研究では,ある交通状況を対象として,自動運転の周辺車両への振る舞い方の違いによるドライバの自動運転に対するtrustへの影響について考える.ここでは,具体例として,自動運転の直前を走行する先行車や自動運転の隣接車線上を走行する車両が蛇行する場合を取り上げる.自車の周辺を走行する車両が蛇行するなどの不安全な挙動を示した場合,ドライバ自身による運転であっても,当該車との事故を回避するためにどのように振る舞うかは,ドライバによって異なる可能性がある.したがって,自動運転の振る舞い方によっては,システムに対するtrustが低下する可能性があり,実際にどのような差異が生じるかを調べることが重要である.本研究では,このような走行場面における自動運転の振る舞い方として,3つのケースを想定する.すなわち,自動運転が速度等を調整することによって蛇行する車両との距離を広げる,蛇行する車両の存在によらず自動運転の走行方法を変えない,さらには,自動運転システムとしてドライバに運転の交代を要請する(RtI: Request to Intervene)ケースを想定する.

機械に対するtrustは4つの次元をもつ概念であるとされている6).すなわち,基礎:自然界の法則や社会の秩序に合していること,能力:終始一貫して,安定的で望ましい行動や性能が期待できること,方法:システムの行動を規定するアルゴリズムやルールが理解できること,目的:システムの意図・動機が納得できることである.特に,自動運転の振る舞い方は,これら4つの次元の内の目的の次元に作用する可能性がある.つまり,自動運転による周辺車両への振る舞いの意図がドライバにとって納得できるか否かによって,trustの程度に影響が生じる可能性がある.また,自動運転の振る舞い方に納得できない場合には,ドライバは自動運転そのものを負担に感じる可能性がある.例えば,自車周辺の車両が蛇行しているような場面に遭遇した際に,当該車両との事故を避けるために,自車との距離を広げたいと考えるドライバにとって,自動運転が何も対応しようとせずに走行し続けた場合には,自動運転に対して精神的な負担を感じるとともに自動運転に対するtrustの低下を誘発する可能性がある.

自動運転に対するtrustの変動の仕方はドライバ属性によっても異なる可能性がある.例えば,高齢ドライバは,若年ドライバと比較して高度な自動運転の使用に対して積極的である7) とされており,高齢ドライバと若年ドライバとでは,自動運転に対するtrustの程度にも差異が生じる可能性がある.このことから,ある交通状況に対する自動運転の振る舞い方の違いによるtrustへの影響を考える際には,ドライバ属性の一つとして,年齢の違いに着目することの必要性が示唆される.ここでは,ドライバ属性の違いの一つとして高齢ドライバと非高齢ドライバとの比較を行う.

本研究では,自動運転の周辺を走行車両が蛇行する場面を運転シミュレータ上に設定し,高齢ドライバと非高齢ドライバを対象とした,自動運転の他車への振る舞い方の違いによるドライバの自動運転に対する負担とtrustへの影響を明らかにする.また,自動運転の振る舞い方の一つとして,ドライバに対してRtIを呈示した場面を対象として,高齢ドライバと非高齢ドライバ間での運転行動の違いとtrustとの関係を明らかにする.なお,本研究における運転シミュレータによる実験は,実験内容および安全性について事前に一般財団法人日本自動車研究所(JARI)の定める倫理審査委員会にて審議し,承認(承認番号:19 - 026)を得ている.

2. 方法

2. 1 実験参加者

本実験には,普通免許を有する非高齢ドライバ16名(男性8名,女性8名,年齢域21歳 − 49歳,平均 = 34.6歳),65歳以上の高齢ドライバ16名(男性8名,女性8名,年齢域65歳 − 75歳,平均 = 69.4歳),合計32名が参加した.個々のドライバについて,実験者による書面での実験内容の説明をあらかじめ行った上で本実験への参加に対する同意書を得た.

2. 2 実験装置

本実験では,JARIで所有する6自由度の動揺装置および回転テーブルを有する運転シミュレータ(普通乗用車相当)を使用した.本シミュレータには,水平方向の画角360度,垂直方向の画角65度のスクリーンが装備されている.実験に際しては,高性能画像生成装置により作成した片側2車線の高速道路の直線コースを使用した.片側2車線の道路における一車線あたりの車線の幅員は3.7 mとした.

2. 3 本実験における自動運転の方法

本実験における自動運転は,車両のハンドルに設置されたスイッチを操作する(レバースイッチを手前側に引く)ことによって始動する設定とした.ドライバによるレバーの操作が実行された時点で,聴覚によるビープ音(ピーピーピー)1秒間とともに,メータパネル内に図1に示す情報を呈示した.自動運転始動後,自動運転車は速度0 km/hから速度40 km/hまで加速し,その後は周囲の交通状況に応じてハンドルおよびブレーキ・アクセルペダルを自動で調整して走行する.自動運転中,ドライバはハンドルおよびアクセル・ブレーキペダルから手と足を離した状態で走行するように教示した.また,自動運転中,ドライバには自動運転の状態や周辺の交通状況を常時監視する必要がないことを教示した.ただし,実験条件によっては,ドライバに対してRtIが発生する可能性があることを伝えた上で,その場合には運転を交代するように教示した.

図1 自動運転中にドライバに呈示される情報

ドライバに対して運転交代を要請する際には,ビープ音ともにメータパネル内に「自動運転解除」の表示を点滅させることによってドライバに運転交代の必要性を伝えた.「自動運転解除」が点滅状態になった後,ドライバが (1) ハンドルトルクが5 Nm以上となる操作を実行する,(2) ブレーキペダル移動量が5 %以上(初期移動量0 %)となる操作を実行する,(3) アクセル開度が5 %以上(初期開度0 %)となる操作を実行する,の中から1つ以上の条件が満たされた時点で,自動運転は解除され,ドライバ自身による手動運転の状態に移行する設定とした.手動運転時において,メータパネルには特定の表示を呈示しないようにした.なお,「自動運転解除」表示の点滅開始後,10秒以上ドライバによる上記条件を満たす運転操作の介入がなかった場合には「自動運転解除」の点滅を終了した上で実際に自動運転が解除される設定とした.

2. 4 走行場面と自動運転の振る舞い

本実験では,主としてドライバの自動運転に対するtrustおよびRtI時における運転行動を調べるために,2つの走行場面に対してそれぞれ3種類の自動運転の振る舞いの仕方を設定した.ここで対象とした走行場面は,自動運転が周辺の他車に対する配慮の仕方の違いに着目している.以下では,個々の走行場面と自動運転の振る舞い方について述べる.

(1) 先行車蛇行場面

ここでは,実験開始後,渋滞中(渋滞の車群の速度40 km/h,周辺他車との車間時間(車間距離を車群の速度で除した値)1.5秒)の場面において,自動運転が左側車線の中央を速度40 km/h,先行車との車間時間1.5秒の条件下で走行中,自動運転の直前を走行する先行車が速度40 km/hを維持した状態で蛇行をしながら走行する場面に遭遇する(図2).なおここでの蛇行の仕方として,車両の重心位置が振幅2 m,周期10秒を有する正弦波にそって繰り返し横移動する設定した.本実験では,当該場面における自動運転の振る舞い方として以下3つのシナリオを設定した.

① 距離延長:このシナリオでは,先行車が蛇行を開始した時点から10秒後に自動運転が蛇行する車両との事故のリスクを軽減することを目的として,自車を1.0 m/s2の減速度で減速させることによって当該車との車間時間を3.0秒に広げた上で,その後,1.0 m/s2の加速度で加速させることによって再度40 km/hにおいて走行する設定とした.

② 現状維持:このシナリオでは,先行車が蛇行をしながら走行しているにも関わらず,自動運転の速度および当該車との車間時間をそれぞれ40 km/hおよび1.5秒に維持し続ける設定とした.

③ RtI:このシナリオでは,先行車が蛇行を開始した時点から10秒後に自動運転がドライバに対してRtIを呈示する設定とした.

なお,本シナリオにおける自動運転の速度の調整開始タイミング,加減速度の値,他車との車間時間およびRtIの呈示タイミングについて,実験者による予備実験を通じて,自動運転および周辺他車の挙動として,おおむね違和感のない範囲であることを確認した上で設定した.

図2 先行車蛇行場面

(2) 前側方車の蛇行場面

ここでは,走行開始後,自動運転が渋滞中(渋滞の車群の速度40 km/h,周辺他車との車間時間1.5秒)の左側車線の中央を速度40 km/h,先行車との車間時間1.5秒の条件下で走行中に,同じく渋滞中の右側車線上を走行する1台の普通乗用車(前側方車)が40 km/hの速度を維持した状態で蛇行をしながら走行する場面に遭遇する(図3).なおここでの蛇行の仕方として,車両の重心位置が振幅1.5 m,周期10秒を有する正弦波にそって繰り返し横移動する設定とした.本実験では,当該場面における自動運転の振る舞い方として以下3つのシナリオを設定した.

① 距離延長:このシナリオでは,前側方車が蛇行を開始した時点から10秒後に自動運転が蛇行する車両との事故のリスクを軽減することを目的として,速度40 km/hを維持したまま重心位置を進行方向に対して左方向に0.8 mオフセットする設定とした.結果として,この方法により自動運転と前側方車との横距離が延長されることになる.

② 現状維持:このシナリオでは,前側方車が蛇行をしながら走行しているにも関わらず,自動運転は横移動することなく前側方車が蛇行する以前と同様な走行を継続した.

③ RtI:このシナリオでは,前側方車が蛇行を開始した時点から10秒後に自動運転がドライバに対してRtIを呈示する設定とした.

なお,本シナリオにおける自動運転の速度の調整開始タイミング,他車との距離の取り方,RtIの呈示タイミングについて,実験者による予備実験を通じて,自動運転および周辺他車の挙動として,概ね違和感のない範囲であることを確認した上で設定した.

図3 前側方車の蛇行場面

2. 5 実験計画

本実験では,ドライバ1人につき,2種類の走行場面に対してそれぞれ3種類の自動運転の振る舞い方によって区別される6つの実験条件を1回ずつ試行した(一回の試行における走行時間は概ね5分程度).実験条件の試行順序については,ドライバ間で順序による影響を相殺する手続きを取った.ただし,同一場面上における3つの自動運転の振る舞い方を必ず連続して試行することとした.

2. 6 評価指標

本実験では,以下の指標を用いてドライバの自動運転に対するtrust,精神的な負担および自動から手動への運転交代場面におけるドライバの運転行動を分析した.

(1) 自動運転に対するドライバの主観評価

① 自動運転に対するドライバの主観的なtrust:1回の試行が終了した直後に,ドライバの自動運転に対する主観的なtrustについて,11段階のスケーリングを持つ質問紙を用いて評価した.

質問:あなたはこの自動運転をどの程度信頼できますか?

0:全く信頼できない,5:どちらでもない,10:完全に信頼できる

自動化されたシステムに対する総合的なtrustの程度について,本指標と同様な質問紙を用いて評点化することにより,主観的に評価できることが知られている6), 8) - 10)

② 自動運転に対するドライバの主観的な精神的負担:1回の試行が終了した直後に,ドライバの自動運転に対する主観的な不満,ストレスに起因した精神的な負担の程度について,12 cmの視覚的なアナログスケーリング(図4)を持つ質問紙を用いて評価した11).これまでに,視覚的な評点化の方法によって,例えば,人がある課題を行った際の精神的負担の程度が適切に評価できることが知られている12), 13).本研究においても,本指標を用いることによって,ドライバの自動運転に対する精神的な負担とtrustとの関係を調べる.

質問:自動運転中,あなたはどのくらい不安,落胆,いらいら,ストレス,不快感に起因する負担を覚えましたか?

図4 自動運転に対する精神的負担の主観評価

(2) 自動から手動への運転交代場面における運転行動評価

ハンドル反応時間:自動運転から手動運転への運転交代場面を対象として,運転交代に対する反応としてハンドル,ブレーキあるいはアクセルの中から,最も迅速な行動として発現する可能性のある指標として,本研究では,ハンドル操作に着目し,RtIが呈示された時点からドライバがハンドルを握るまでに要した時間について,ハンドル反応時間として計測した.なお,本指標は実験走行中の映像データをもとに計測を行った.

2. 7 実験手順

本実験では,ドライバ1人につき約60分程度の時間を要した.まず始めに,運転シミュレータでの手動運転による走行に慣れるための練習を5分程度行った.その後,自動運転による走行による練習を5分程度実施した.ここでは,ハンドルおよびペダルから手および足を離した状態で走行できることを自車以外の車両を出現させることなく経験させる.また,自動運転の練習走行において,全ドライバに対して自動運転からRtIが呈示された際の自動から手動への運転交代場面を1回試行した.

3. 実験結果および考察

3. 1 ドライバの自動運転に対するtrust

図5は,自動運転に対するドライバの主観的なtrustの値について,走行場面,自動運転の振る舞い方および年齢(高齢ドライバと非高齢ドライバ)の違いごとに示したものである.なお,非高齢女性ドライバ1名の先行車の蛇行場面におけるRtI条件について,RtIを呈示する以前に手動運転に移行していたことから,当該条件のデータについて,分析の対象から除くこととした.

高齢ドライバと比較して,非高齢ドライバは,自動運転の振る舞い方によるtrustへの影響が異なっており,特に,走行場面によらず,自動運転の現状維持条件下において,高齢ドライバと比較して非高齢ドライバのtrustがより低下している.また,自動運転の振る舞い方によるtrustへの影響は,走行場面によって異なっている.具体的には,他車が蛇行する場面において自動運転システムが当該車との距離を延長する振る舞いをした場合であっても,特に非高齢者の場合に,先行車蛇行場面と比較して,前側方車蛇行場面におけるtrustの低下が大きい.

実際に,trustの値について,自動運転の振る舞い方,走行場面および年齢を要因とする分散分析の結果,年齢と自動運転の振る舞い方の交互作用が有意であった(F(2,58) = 8.28, p < 0.01).多重比較の結果,自動運転の振る舞い方の現状維持条件下における,非高齢ドライバと高齢ドライバ間でのtrustの値に有意差が見られた(p < 0.01).また,走行場面と自動運転の振る舞い方の交互作用が有意であった(F(2,58) = 3.91, p < 0.05).多重比較の結果,自動運転の振る舞い方の距離延長条件において,走行場面間の違いが有意であった(p < 0.01).

図5 自動運転の振る舞い方によるtrustへの影響

3. 2 ドライバの自動運転に対するtrustと自動運転に対する精神的負担との関係

図6および図7は,それぞれ非高齢ドライバおよび高齢ドライバについて,自動運転に対する主観的なtrustと精神的負担との関係を走行場面別に散布図として示したものである.ここでの散布図では,ある精神的負担とtrustの値としてプロットさた点に複数のデータが存在した場合には,頻度別に区別して示した.

これらの図から,非高齢ドライバについて,先行車蛇行場面および前側方車蛇行場面において,それぞれ−0.76および−0.81の負の相関が見られ,高齢ドライバについては,同様に,−0.67および−0.84の負の相関が見られた.このことから,自動運転に対する精神的負担が高いとtrustが低い関係があるといえる.

図6 非高齢ドライバのtrustと精神的負担との関係

図7 高齢ドライバのtrustと精神的負担との関係

3. 3 RtI条件下におけるハンドル反応時間

図8は,自動運転の振る舞い方として,RtIを呈示する条件を対象として,先行車蛇行場面および前側方車蛇行場面におけるRtI呈示後のハンドル反応時間をドライバの年齢ごとに示したものである.

この図から,走行場面の違いに依らず,非高齢ドライバと比較して,高齢ドライバのハンドル反応時間が長くなっている.ハンドル反応時間について,年齢と走行場面を要因とする分散分析の結果,年齢の主効果が有意であった(F(1,59) = 6.73, p < 0.05).

図8 走行場面および年齢によるハンドル反応時間への影響

4. 総合的な考察

本研究では,自動運転の直前を走行する車両が蛇行する場面および自動運転の隣接する車線上の前側方を走行する車両が蛇行する場面を対象として,当該車に対する自動運転の振る舞い方によるドライバの自動運転に対する主観的なtrustおよび精神的負担への影響について,ドライバの属性の違いの一つとしてドライバの年齢による比較検討を行った.

自動運転が蛇行する他車に遭遇した際の自動運転の振る舞い方によるtrustへの影響を見ると,高齢ドライバと非高齢ドライバとで差異が生じていることが分かった.具体的には,高齢ドライバと比較して非高齢ドライバは,他車が蛇行した状況において,自動運転の振る舞いが蛇行する以前と同じ走行方法であった場合に,自動運転に対するtrustが大きく低下することがわかった.他車の動きに応じて自動運転がどのように振る舞うかは,システムの設計によるものの,その振る舞い方の違いによってtrustに影響が生じる可能性があることに留意すべきである.特に,非高齢ドライバは高齢ドライバよりも振る舞い方の違いによる影響が顕著であることにも留意したい.

また,走行場面の違いによって,自動運転の振る舞い方が同様であっても,trustへの影響が異なっていた.自動運転の周辺車両が蛇行する場面に対して,自動運転が当該車に対して距離を広げる振る舞いをした場合であっても,先行車蛇行場面と比較して前側方車蛇行場面において,trustが比較的低下していることがわかった.この結果について,前側方車が蛇行している場面に対して,本実験で設定したような,自動運転が当該車との横距離を長く広げることでは,自動運転に対するtrustの確保にはつながらない可能性がある.そこで,例えば,自動運転の前側方を走行する車両の動き方によっては,自動運転としては,当該車との横距離だけでなく,進行方向距離を長く空けるなどの振る舞いをすることによって,自動運転に対するtrustの低下を抑制できる可能性がある.

自動運転に対する精神的負担が高いと,自動運転に対するtrustが低い可能性があることがわかった.これらの結果から,ある走行場面に対する自動運転の振る舞い方をデザインする上で,ドライバに対して精神的負担を掛けないような方法を検討することが,自動運転に対するtrustの確保に必要であると推察される.特に,非高齢ドライバについて,高齢ドライバと比較して,自動運転の振る舞い方の違いによる精神的負担やtrustへの影響が大きく,ある交通状況に対する自動運転の振る舞い方の違いに対してより敏感である可能性があるため,システムのデザインに対してより慎重な配慮が必要であると考えられる.

自動運転中に他車が蛇行する場面に際して自動運転がドライバに対してRtIを呈示する条件下では,高齢ドライバと比較して非高齢ドライバは,より迅速な運転行動を示す可能性があることがわかった.この結果は,自動運転中の周辺車両の挙動の変化に起因した自動運転から運転交代の要請に対して,非高齢ドライバは,高齢ドライバと比較して,自らで運転しようとする意識が高い可能性を示唆している.言い換えれば,非高齢ドライバは,自動運転の周辺で蛇行する車両が存在した場合に,何らかの対応が必要であると感じている可能性があり,このことは,蛇行する車両に対して現状を維持した場合に,高齢ドライバと比較して,非高齢ドライバの自動運転に対するtrustがより低下したことと矛盾しない.

5. 結論

本実験において得られた知見は以下の通りである.

  •    自動運転中に先行車が蛇行する場面や前側方車が蛇行する場面に遭遇した際,高齢ドライバと比較して非高齢ドライバは,自動運転の振る舞い方の違いによる自動運転に対するtrustへの影響が大きい.
  •    自動運転に対する精神的負担が大きいと自動運転に対するtrustが低い関係が見られる.
  •    自動運転中に先行車が蛇行する場面や前側方車が蛇行する場面に遭遇した際に,自動運転がRtIを呈示する条件下において,高齢ドライバと比較して非高齢ドライバはより迅速な運転行動を示す.

本研究では,高速道路上で自動運転の周辺の他車が蛇行する場面を対象として,高齢ドライバと非高齢ドライバとで,自動運転の蛇行する車両への振る舞い方による自動運転に対するtrustへの影響の違いを調べた.一方で,自動運転に対する経験や知識の違いによってもドライバの運転行動に異なる影響があることから14),同様にtrustへも異なる影響を与える可能性があると考えられる.そこで,自動運転の使用の経験を通じて自動運転の振る舞い方への慣れや自動運転に対する知識の有無によって,今回得られた結論にどのような影響が生じるかについて,さらに検討が必要であると考えられる.

謝辞

本研究は,日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(A) JP26242029の援助を受けた.記して謝意を表する.

References
 
© 一般財団法人日本自動車研究所
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