2016 年 2016 巻 2 号 p. 2-12
近年の中小企業にかかる会計基準の設定は,大企業を対象とした企業会計制度とは異なり,企業を規模別に大別し,その企業群に適合した会計基準を用いるべきか否か,あるいは企業規模に応じた会計基準を模索する動きであるといえる。果たして中小企業会計とはいかにあるべきか。本稿は,これまでの歴史的経緯と中小企業庁の担当者に対して行ったインタビュー調査をもとに,中小企業経営に資する財務会計制度あるいは管理会計システムとはいかなるものか,施策者である中小企業庁がどのように中小企業向けの会計を捉えているのかについて論じるものである。
現在の中小企業政策は,やる気や能力のある中小企業者を支援するとの方向性で動いている。こうした中で,近年中小会計指針あるいは中小会計要領が設定され,中小企業向けの財務会計制度は整えられてきた。しかし,中小企業庁が行った調査によれば,中小会計要領の認知度について中小企業経営者とその支援を行う税理士・税理士法人との間には大きな認知ギャップがあることが明らかになっている。
また,インタビュー調査によれば,経営環境の変化に対応するために中小企業経営のブラックボックス化を防ぐ必要があること,そのために会計制度を整え,その浸透を図ることで経営の透明化・可視化を図る必要があるとのコメントが得られた。
以上から,経営の透明化に耐えうる中小企業の育成には,中小企業の経営の実情を映し出す会計制度が求められるとともに,企業経営の可視化に対する経営者の意識の涵養が必要である。そして,財務会計制度のみならず,高度成長期に中小企業庁を中心に進められた帳簿記録,財務管理,原価管理に関する実務指針に類する財務管理や原価計算制度の設定をも含めて検討すべき時期に差し掛かっているとわれわれは考えている。