抄録
【背景・目的】
昨年3月11日の東日本大震災は、公共交通機関や電力を必要とする施設に混乱をもたらし、多くの帰宅困難者や被災者を発生させた。これまで、視覚障害者の移動支援装置として、聴覚や触覚へ環境情報を提示するものが屋内外に設置されてきた。しかし、これらの装置も、災害に伴って状況が変化した緊急時では、時に利用するのが難しい。
また、弱視・全盲など障害状況の違いによって、必要とする情報や支援の内容が異なる。しかし、災害時などの緊急時においては、取得するべき情報が時々刻々と変化しうる。さらに、緊急時においても情報取得・判断を効果的に支援できる機器やインタフェースについて、現状では詳しく分かっていない。よって、視覚障害の状況ごとに、平常時と緊急時において、必要な情報が何であるかについて明らかにし、実用的な情報支援インタフェースを提案・創出する必要がある。
そこで本研究では、視覚障害者が特に緊急時において必要とする情報を明らかにし、メンタルモデルやインタフェース設計指針の提案を最終目的とする。このための基盤として、視覚障害者が平常時/緊急時の移動の際に必要とする情報、情報取得の方法に関して、インタビューを通じて検討した。
【結果の要約】
平常時と緊急時に関するインタビューの結果を比較したところ、特に弱視者において、リアルタイム情報に対する意識や、利用するアクセシビリティ機能に違いがあることが分かった。
平常時においては、全盲者に比べて、弱視者のリアルタイムな情報取得に対する意識は低かったが、緊急時では障害状況の差は見られなかった。情報源はテレビやラジオ、インターネットを通じたものであった。
アクセシビリティ機能に関しては、弱視者は平常時には視覚的な支援機能を利用する人が多かった。一方で、緊急時では暗い場所が発生するためか、弱視者でも音声を主として利用するという人が見受けられた。