2012 年 22 巻 1 号 p. 109-121
簡略版仮想世界ゲームは,仮想世界ゲームをコンパクトに実施できる簡略版である.そのねらいは仮想世界ゲームと同様に,演習とディブリーフィング(ふりかえり)を通じて「異なる世界認識の存在」に気づき,「多元的現実の理解」を促すことにあるといえよう.しかし,簡略版については演習もディブリーフィングもほとんど知られていない.そこで本論文では,簡略版の演習について報告し,さらに仮想世界ゲームのディブリーフィング法として提案されている「視点切替レポート法」を用いて,簡略版のディブリーフィングを検討することにした.計8回実施した演習について地域数の違いを考慮して分析を進めた.まず,基本指標の傾向から簡略版仮想世界ゲームの概要を把握した.次に,演習中・演習直後・演習一週間後に実施した世論調査の結果をまとめた.そして最後に,簡略版におけるディブリーフィング法としての「視点切替レポート法」について検討した.世論調査の結果から,貧しい地域と豊かな地域の認識の差がディブリーフィングを経た一週間後に解消される項日か2つ確認された.1つは「間題発生の責任は豊かな地域にある」とする項目,もう1つは「豊かな地域は食料を提供する義務がある」とする項目である.ただし,地域数の違いによって認識の差の解消の過程に違いが見られた.間接的ではあるが,「視点切替レポート法」に一定の成果を期待できることが示唆された.