シミュレーション&ゲーミング
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査読論文
合意形成ゲーム「市民プロフィール」の開発:ドイツ・ノイス市の都市政策の社会調査事例から
杉浦 淳吉 大沼 進広瀬 幸雄
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2021 年 31 巻 1 号 p. 27-37

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抄録

本研究では,論争のある社会問題について当事者の選好を参照しながら意思決定を行うことを通じて政策決定とその評価の熟慮のプロセスについて学ぶゲーミング・シミュレーションを開発した.ドイツのノイス市における路面電車に関する問題について取り上げた.ノイス市では,中心地の狭い通りを走る路面電車の路線について,市民の利便性の点から存続させるか,安全性などの点から撤去するかの論争があった.開発したゲームの実践において,参加者は,最初に路面電車の問題の背景について講義を受けた後,2~5名からなるグループごとに,2009年にノイス市で実施された社会調査をもとに作成された市民のプロフィールカード3名分を参照しながら6つある論点について優先順位をつけ,3つの選択肢(存続,単線化,撤去)から1つを選んだ.特定の価値だけでなく,市民全体の価値の意見分布に関する熟考を促すために,個々のプレーヤーの優先順位づけした論点がグループで選んだ選択肢と合致するほど得点は高くなるようにした.ゲーム後のディブリーフィングでは,各グループの選択と得点結果を実際のノイス市での政策決定と比較しながら議論した.振り返りの結果から,各自の優先順位と市民プロフィールをもとに議論し,市民全体の意見分布も加味して多様な価値をバランスよく取り入れることで利害対立を避けることができていたプレーヤーほど得点は高くなっていた.最後に,実際の当事者の意見を参照しながら意思決定を行う本ゲーミングの応用可能性について議論した.

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© 2021 特定非営利活動法人日本シミュレーション&ゲーミング学会
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